天使のお迎え〜転生BLに憧れる僕の、美しい義兄弟から愛される生活〜

星寝むぎ

文字の大きさ
57 / 67
【6】真相は紐解かれる

57

しおりを挟む
 話もひと段落がついたところで、お茶を淹れると言って彗が立ち上がった。

「親父と律子さんはなにがいい? コーヒーと紅茶もあるけど」
「さっきからいい香りがするなと思っていたんだ。コーヒーを頂こうかな」
「彗くん、私がやりますので座っててください」
「律子さんはもう、家政婦さんじゃないでしょ。気にしないで」
「まあ……ふふ、ありがとう。じゃあ私も、コーヒーをお願いします」
「彗くん、僕もやるよ」
「マジ? さんきゅ」

 彗の後を追って、杏樹もキッチンへと入る。宇京と律子のコーヒーを彗が淹れて、杏樹は自分たちの分の紅茶を準備する。コーヒーは朝食で飲んだばかりだからと、彗の提案だ。

 そうこうしている間に、壱星と銀河もカウンターの向かいにやってきた。銀河の手には宇京から受け取ったらしい土産のチョコレートがあり、壱星がその様子を眺めている。

「ん? なんだよこれ、ビニールがぴちぴちで開かない……」
「そこの引き出しにハサミが入ってるぞ」
「いや、いい。絶対手で開けてみせる……んん! よし、開いた」
「はは、銀河は力があるな」
「面倒くさがりの間違いだろ、兄貴は銀河に甘いんだよ」
「スイ兄聞こえてんぞー」
「聞こえるように言ってる」
「ふふ」

 三人の会話に杏樹はつい笑ってしまいながら、トレイにカップを乗せる。彗ももうひとつのトレイにコーヒーを乗せた。

「お待たせ」
「ありがとう。彗が淹れてくれたコーヒーを飲むなんて、初めてだな」
「俺もお待たせ! はい、チョコ! まあ箱開けただけだけど!」

 彗がコーヒーをテーブルに並べ、銀河がチョコレートを中央に置く。その後に続いて、杏樹も紅茶を並べた。元の場所に座ろうかと思ったが、

「杏樹くん、こっちにおいで」

 と壱星に誘われ、兄弟たちが座っていたほうのソファに腰を下ろした。銀河と一緒に、壱星と彗に挟まれるかたちだ。

「杏樹くんが淹れてくれた紅茶、今日も美味しいよ」
「本当ですか? よかったです」
「なあ杏樹、これ、このチョコが特に美味いから食ってみて」
「え、僕が食べていいの? それちょっとしか入ってないみたいだから、銀河くんが食べたら?」
「いいんだよ、杏樹に食ってほしいの。ほら」
「あ、あー……ん、ほんとだ、美味しい……」
「へへ、だろ?」
「鈴原、口の端にチョコついてる」
「え、どこ?」
「そっちじゃなくて、反対。ほら、ティッシュ」
「ありがとう」

 母と話せた安堵もあって、兄弟たちとの会話に杏樹はいつも以上にリラックスしてしまう。すると、ついこぼれ出たというような笑みが聞こえてきた。誘われるように顔を上げると、律子と宇京がやわらかくほほ笑んで杏樹たちを眺めていた。

「あなたたち、もうすっかり仲良しなのね」
「まるで四人で本当の兄弟みたいだな」
「えっと……」

 まさか、ずっと見られていたのだろうか。やましいことは正直あるが、今それに勘づかれるような行動を取ったつもりはないけれど――ドキッと跳ねた胸と共に、杏樹は思わず背筋を伸ばした。けれどそんな杏樹の心中を知ってか知らずか、銀河がぎゅっと横から抱きついてきた。

「わっ、銀河くん!?」
「うん、仲良くやってるよ。な? 杏樹」
「え、っと……」

 戸惑っていると、今度は隣の壱星が杏樹の髪をポンと撫でる。

「杏樹くんは気が利くし優しいから、俺たちが甘えっぱなしだけどな」
「そんなことないです! 僕が皆さんに、お世話になりっぱなしで!」

 首を横にブンブンと振れば、彗も加勢してくる。杏樹にではなく、銀河と壱星に、だ。

「兄貴の言う通りだよ。鈴原はもう、すっかりこの家の一員だ」
「彗くん……」

 ふと気づくと、この場にいる全員のあたたかい視線が、杏樹へと注がれていた。そう分かった瞬間、涙が一気にこみ上げてしまいそうになる。慌ててぎゅっと下くちびるを噛んで、喉の奥でぐっと押しこめる。

「えっと……この家で暮らすことになった時は、本当にどうしようかと思ったけど……今、毎日がすごく楽しいです。壱星さんがいなきゃ乗り越えられなかったこと、銀河くんが教えてくれた楽しさとか誰かを大事にしたいって思うこととか、彗くんとだからできる話とか優しさとか……全部、僕にとっては宝ものです」

 やっとの思いで口にできた言葉は、嘘偽りのない杏樹の心だ。けれどちょっと、くさい言い方になってしまっただろうか。少しずつ顔が伏せっていったが、気づいた時にはぎゅっと抱きしめられていた。いつの間にか母が席を立って、こちらまで回ってきていたみたいだ。

「はは、お母さん苦しいよ」
「だってー、嬉しくて! 私が振り回しちゃったから、ほっとした」
「団地が解約されてたのは本当にびっくりしたけど……大丈夫だよ、お母さんのおっちょこちょいにはもう慣れっこだし」
「え、おっちょこちょい? お母さんが? そんなことないわよ。え、そうよね? 宇京さん」
「はは、私に振られるとちょっと困っちゃうかな」
「ええ、そんな! 壱星くんたちは?」
「俺の口からもちょっと……」
「俺も黙秘」
「律子はおっちょこちょいだよ。でもそこがいいとこじゃね?」
「そんなあ……でも、こんな話ができるのも杏樹が無事だったからだし。いいかな」

 まだ少しだけ不服そうだけれど、律子はそう言ってふうと息をついた。再びソファに腰を下ろすのを見届けながら、杏樹はふと疑問があったことを思い出す。

「そう言えば……どうして僕があそこにいるって分かったんですか?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

サークル合宿に飛び入り参加した犬系年下イケメン(実は高校生)になぜか執着されてる話【※試作品/後から修正入ります】

日向汐
BL
「来ちゃった」 「いやお前誰だよ」 一途な犬系イケメン高校生(+やたらイケメンなサークルメンバー)×無愛想平凡大学生のピュアなラブストーリー♡(に、なる予定) 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 ♡やお気に入り登録、しおり挟んで追ってくださるのも、全部全部ありがとうございます…!すごく励みになります!! ( ߹ᯅ߹ )✨ おかげさまで、なんとか合宿編は終わりそうです。 次の目標は、教育実習・文化祭編までたどり着くこと…、、 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 総愛され書くのは初めてですが、全員キスまではする…予定です。 皆さんがどのキャラを気に入ってくださるか、ワクワクしながら書いてます😊 (教えてもらえたらテンション上がります) 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 ⚠︎書きながら展開を考えていくので、途中で何度も加筆修正が入ると思います。 タイトルも仮ですし、不定期更新です。 下書きみたいなお話ですみません💦 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL 不定期更新

処理中です...