エンケラドスの女

高柳神羅

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第19話 お披露目

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 飲み会当日。僕とミラは飲み会が始まる十分前に件の居酒屋に到着した。
 ……本当はもう少し早く着く予定だったのだが、色々あってこの時間になったのだ。
 まさか、ミラが電車の乗り方を知らないとは思わなくてな……
 自動改札で挟まるわ、エスカレーターを逆走しようとするわ、ホームに入ってくる電車を身を乗り出して観察しようとするわ、事ある毎に何かをやらかしてくれてこっちは気が気ではなかった。
 そうでなくてもミラは見た目が見た目だから目立つというのに。
 これがわざとの行動だとしたら悪意しか感じられない。
 居酒屋では問題を起こさないでくれよ。頼むから。
「随分と派手な看板のお店ですね」
 通りを吹く風にスカートを靡かせながら、ミラは居酒屋の看板を興味津々と前屈みの体勢で見つめている。
 今日の彼女は、ミニクロで買った淡い水色のワンピースを着ていた。彼女はワンピースが好きらしい。
 かなり盛り上がったおっぱいが、まるで吊り下げられたボールのように揺れている。
 時々思うのだが……彼女は自分の肉を重たいとは思わないのだろうか。
 あの体型だと絶対走るの大変だよな。
 そんなことを考えながら、待つこと十五分。
 通りの向こうから、他の連中がばらばらと集まってきた。
 今日は休日というだけあって、皆ラフな格好をしている。女たちはかなり気合の入ったメイクをしてるけどな。
「おっ、もう着いてたのか三好」
「遅いぞ青木。約束の時間過ぎてるじゃないか」
「五分だけじゃないか。固いこと言うなって」
 悪い悪い、と青木は笑いながら謝って、看板の前に立っているミラについと視線を移した。
「……ひょっとして、そのが……?」
「ああ」
 僕はミラに声を掛けた。
 僕の声に反応したミラが、こちらに振り向く。
「何でしょうか、櫂斗さん」
「皆に自己紹介して」
「はい」
 ミラは小走りで僕のところまで来て、隣にちょこんと立った。
 ゆったりとした動作で深々と頭を下げ、笑顔で名乗る。
「ミラ・ウェルズ・ロクシュナと申します。ロクシュナ王国の第一王女です。宜しくお願いします」
「ロクシュナ王国?」
「あー、外国人なんだよ。彼女」
 訝しげに小首を傾げる神楽に、僕は慌てて説明した。
 ミラが電波娘だということは青木以外には知られていない。僕としては、なるべく彼女がまともじゃないことは隠しておきたかった。
 飲み会が始まって皆に酒が入れば幾らでも誤魔化しようがある。それまでの辛抱だ。
「三好。お前いつこんな美人の外国人のお姉ちゃんと知り合いになったんだよ」
 小林が羨ましそうな目で僕を見てくる。
 そんなに羨ましがることか? たかが美人の女ってだけじゃないか。
 僕は新しい萌えキャラに出会えた時の方が何倍も嬉しいけどな。
 普通の人間の感覚はよく分からない。
「アニメにしか興味ねぇ、って言ってたくせに、隅に置けない奴だぜ」
「僕にも色々事情があるんだよ。別にいいだろ、そんなことは」
 僕は小林の言葉を横に流して腕時計を見た。
「ほら、時間がなくなるぞ。席予約してあるんだろ? さっさと入ろう」
「そうだな。後の話は飲みながらってことで」
 店に入ろう、と皆に声を掛けて、青木が居酒屋の中に入っていく。
「すみません。八人で予約していた青木なんですけど──」
「ミラも、入るぞ。店」
 次々と中に入っていく仲間の背中を見ながら、僕はミラの背中をぽんと叩いた。
 ミラは僕の後ろにぴたりとくっついて、最後に居酒屋の中に足を踏み入れた。
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