三十路の魔法使い

高柳神羅

文字の大きさ
9 / 164

第9話 おっさんの薬箱

しおりを挟む
「エルザ! しっかりして!」
 倒れた魔法使いの元に、仲間たちが駆けていく。
 虚無ホロウを残らず駆逐して一息ついた俺も、辺りに飛び散った黒い石の欠片を踏みながらそちらに向かった。
 仲間の一人が魔法使いを抱き起こし、他の仲間に言った。
「ポーションは! 残ってないのか!」
「もうないよ……全部使っちゃったよ!」
 絶望的な声が場に満ちる。
 ポーションって、あれだよな。ゲームなんかでよく出てくる体力を回復するための薬品だ。
 どうやらこの世界でのポーションは、怪我を治すための道具としての役割を持っているらしい。
 魔法使いを抱き起こしている男の目が俺の方へと向いた。
「君……すまないが、ポーションを持っていたら売ってほしい。このままだとエルザの命が危ないんだ!」
「…………」
 俺は頭を掻いた。
 俺はポーションを持っていない。旅の最中の食事をどうするかの方で頭が一杯だったから、食糧以外のものは鞄に入れてはいないのだ。
 フォルテもそれに関しては特に何も言ってこなかったから、旅の準備はそれで十分なのだろうと思っていたが……怪我を治療するための薬品か。虚無ホロウが徘徊している土地を歩く旅をするのだから、確かにそれくらいの準備は必要だよな。
 でも……待てよ。
 怪我を治す薬が存在しているくらいなのだから、怪我を治す魔法も存在しているんじゃないか?
 実際に存在していたとして、俺がその魔法を使えるかどうかは疑問だが。
 俺は傍らで魔法使いの様子を見つめているフォルテに尋ねた。
「フォルテ。怪我を治す魔法ってないのか?」
「ひょっとして、ヒーリングのこと? あるにはあるけど……」
 フォルテは微妙に眉間に皺を寄せた。
「回復魔法っていうのは基本的に神官しか使えないわ。召喚魔法が召喚士にしか使えないのと同じでね、魔法の種類が違うのよ。ハルは魔道士でしょ? 魔道士には、回復魔法を操る力はないわ」
 一口に魔法使いと言ってもその職業には幾つか種類があるそうで、その職種によって扱える魔法が異なるらしい。
 唯一の例外が円卓の賢者と呼ばれる魔法使いたち。彼らは複数の種類の魔法を操る才能を持った特別な存在なのだそうだ。
 しかし、それはあくまでこの世界に住む人間に当てはまる方程式だ。
 神に魔法の力を授かった異世界人の俺に、それと同じ方程式が当てはまるとは限らない。
 俺は怪我をしている魔法使いの前に膝をついて、血が流れている腹を覆うように掌を翳した。
 頭の中に傷口が塞がっていくイメージを描きながら、小さく魔法を唱えてみる。
「ヒーリング」
 ふわり、と暖かい黄金色の光が生まれた。
 それは腹の穴全体を覆うと、時計を逆回しにしているように腹の穴を塞いでいく。
 流れている血が止まり、肉が盛り上がっていき、皮が張って、瞬く間に傷は完治した。
 流石に出てしまった血の量までは戻せないらしく、魔法使いの顔色は悪かったが──怪我は治ったのだから、そのうち元に戻るだろう。
 ひょっとして俺ならできるのではと思っていたが、やっぱり俺に備わった魔法の能力は普通のものではないらしい。魔法であればある程度は自由に操ることができるようだ。
 皆が目を丸くして俺を見つめている。
「まさか、夢を見てるのか……? 虚無ホロウを一撃で倒す破壊魔法を使うだけじゃなく、回復魔法まで操れるなんて……」
「それだけじゃない。対価を使わなかったぞ! それでこれほどまでの回復力を出せるなんて、普通じゃない……!」
「貴方……ひょっとして、円卓の賢者……?」
 兵士たちの驚き方と全く一緒だ。
 俺は適当に笑って返した。
「ああ、俺は……色々できるようにって修行を積んだんだよ。だから色々な種類の魔法ができる、それだけだ」
 フォルテの方をちらりと見て、口元に人差し指を当てて小さく首を振る。
 俺が異世界人だってことを明かしたら余計にこの場が騒ぎになるだろうからな。明かしたところで得になることもなさそうだし、それなら最初から余計なことは言わないに限る。
 皆は眉根を寄せながらも、俺の言葉に納得してくれた。そういうこともあるのだろうとでも思ってくれたようだ。
 怪我をした魔法使いの意識が戻るまで、俺たちは護衛も兼ねて男たちと一緒にいることにした。
 いい感じに腹も減ってきたし……早目の休憩ってことで、昼飯の仕度を始めるとしよう。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

処理中です...