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第34話 異世界の馳走に釣られた男
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「美味い! 旅の途中でこんな美味いもんが食えるなんてな! 感激だぜ!」
目の前で、ロールキャベツをがつがつと頬張りながら男が感激の声を上げている。
俺はその様子を見つめながら、自分の分のロールキャベツをフォークで切り分けてぱくりと頬張った。
「もっと落ち着いて食べろよ。料理は逃げやしないんだから」
「あはは、悪い悪い。すっげぇ美味かったもんだから、つい」
んぐっと口の中のものを飲み下し、男は笑った。
何とも軽い調子の奴だ。日本にいる高校生とか、その辺の年代の若者を彷彿とさせる。
分かる、と俺の隣で何度も頷くフォルテ。
「ハルの料理はすっごい美味しいもんね。一流の料理人顔負けだよね」
「褒めても何も出ないぞ」
「本当にそう思うんだもの。ハルの作る料理は食べた人みんなが笑顔になる、何だか魔法みたいよね」
魔法みたいって大袈裟だな。
俺にとっては自炊するのは当たり前のことだし、どうせ自分で料理するなら美味いものが食べたいと思うのも自然のことだと思うのだが。
まあ、俺が扱っている食材や調味料はこの世界には存在しないはずの日本製のものだからな……この世界の人間にとって魅力的に感じられるのも、無理はないことなのか。
半分以上なくなったロールキャベツを見下ろしながら、男がしみじみと言った。
「オレの故郷の料理を思い出すなぁ……故郷にいた頃はこんな味気ねぇ料理なんて食えるかって思ってろくに食わなかったけど、こっちに来て、あの料理が如何に美味い料理だったかって思い知らされることになってさ。しばらくは後悔してたね。何でもっとちゃんと味わって食わなかったんだろうってさ」
「此処から遠いのですか? 貴方の故郷は」
ユーリルの問いに、男は微妙に遠い目をして何処か淋しそうな笑いを零しながら答えた。
「遠いなんてもんじゃねぇさ……多分、もう二度と帰れねぇだろうな」
故郷を出たこと自体を後悔はしてないが、淋しくは思っている。そんな顔をしていた。
彼も、若いなりに色々な経験をして今日までの人生を歩んできたのだろう。
「……はー、美味かった。御馳走さん!」
空になった器を膝の上に置いて、彼は笑った。
しっかりスープまで平らげて、すっかり御満悦のようだ。
そりゃそうだろう。空腹で行き倒れていた彼のためにわざわざ妖異の肉を使って拵えた自慢の一品なのだ。自分で言うのも何だが、美味くないはずがない。
「こんな食事が毎回食えるあんたたちが羨ましいよ。このまま付いて行きたいくらいだぜ」
「……あんたにも自分の旅があるだろうに」
俺の言葉に彼は後頭部を掻きながら、肩を竦めた。
「あー……オレの旅の目的なんて、あってねぇようなもんだからよ。毎日が充実してりゃそれでいいっていうか、特に拘っちゃいねぇんだよな」
旅人が旅をする理由には、色々なものがある。
それは名声を得るためであったり、億万長者になるためであったり、俺のようにただ楽しく日々を暮らすためであったり……旅人の数だけ、存在する。その中には、彼のように目的のない気が向くままの旅というものも、あると思う。
旅の目的は、何も無理して旅を始める時に決める必要はないのだ。歳を重ねたら見えてくるものがあるように、時が過ぎていくうちに得られるものもあるんじゃないかと俺は思っている。
彼はしばし何かを考えていたようだが、ややあってうんと頷いてぽんと胡坐をかいている膝を叩き、言った。
「……決めた。オレ、あんたたちの旅に付いてくわ」
「……は?」
俺は口に運びかけていたロールキャベツをぽろりと器の中に落としてしまった。
フォルテたちも、きょとんとした様子で男のことを見つめている。
「そんな、唐突な……」
「オレ、こう見えても腕は立つ方だぜ? 見た感じあんたたちは体を張って武器を振り回すタイプじゃなさそうだし、何かあった時に盾になってくれる前衛ってのは必要だろ?」
あっちに落ちてるジャックコンドルを仕留めたのはオレなんだぜ、と彼は胸を張った。
確かに、あそこに落ちている鳥の死骸は結構な数があった。もし本当に彼が剣であれを全部仕留めたのだとしたら、彼が剣術士として相当の腕前を持っていることは分かる。
俺たちは、魔法使いだ。これから先何らかの理由で戦うことになった場合、率先して体を張ってくれる役割を担ってくれる存在は必要になるだろう。
魔帝やその下僕がいつ目の前に現れるかも分からない御時勢だし、仲間は一人でも多い方がいい。
でも、彼の方はいいのだろうか? 急にそんなことを決意したりして。
「いや、こんな美味い飯が三食食えるなら喜んで旅の道連れにでも何にでもなってやるよ。それで毎日の食生活が保障されるってんなら安いもんだぜ」
……懸念するだけ無駄だったらしい。
どうやら、彼は俺が作る料理が目当てで俺たちの旅に付いて来る気のようだ。
まあ、当人がそれでいいって思ってるなら俺から何かを言うつもりはないが……何だかなぁ。
俺が無言でいることを肯定の意と受け取ったらしい。彼は右手を差し出してきながら、言った。
「オレの名前はリュウガ・ヤマト。宜しくな、おっさん!」
「……俺はおっさんじゃない。次におっさん呼ばわりしたら叩き出す……ん?」
リュウガの言葉に、俺はある引っ掛かりを覚えて片眉を跳ね上げた。
「……その名前……ひょっとして」
「──何だ、そう言うってことはあんたも同類か? 見た目も何かそれっぽいし、もしかしたらって思ってたんだよな」
リュウガはにやりとして、言葉を続ける。
「正式に名乗るわ。オレの本当の名前は大和龍河。難しい方の龍って字に、河川の河って書く。年齢は十七、こう見えてれっきとした現役の高校生」
胸元を右手で軽く叩きながら、笑ったのだった。
「半年前にこの世界に召喚された日本人だ」
目の前で、ロールキャベツをがつがつと頬張りながら男が感激の声を上げている。
俺はその様子を見つめながら、自分の分のロールキャベツをフォークで切り分けてぱくりと頬張った。
「もっと落ち着いて食べろよ。料理は逃げやしないんだから」
「あはは、悪い悪い。すっげぇ美味かったもんだから、つい」
んぐっと口の中のものを飲み下し、男は笑った。
何とも軽い調子の奴だ。日本にいる高校生とか、その辺の年代の若者を彷彿とさせる。
分かる、と俺の隣で何度も頷くフォルテ。
「ハルの料理はすっごい美味しいもんね。一流の料理人顔負けだよね」
「褒めても何も出ないぞ」
「本当にそう思うんだもの。ハルの作る料理は食べた人みんなが笑顔になる、何だか魔法みたいよね」
魔法みたいって大袈裟だな。
俺にとっては自炊するのは当たり前のことだし、どうせ自分で料理するなら美味いものが食べたいと思うのも自然のことだと思うのだが。
まあ、俺が扱っている食材や調味料はこの世界には存在しないはずの日本製のものだからな……この世界の人間にとって魅力的に感じられるのも、無理はないことなのか。
半分以上なくなったロールキャベツを見下ろしながら、男がしみじみと言った。
「オレの故郷の料理を思い出すなぁ……故郷にいた頃はこんな味気ねぇ料理なんて食えるかって思ってろくに食わなかったけど、こっちに来て、あの料理が如何に美味い料理だったかって思い知らされることになってさ。しばらくは後悔してたね。何でもっとちゃんと味わって食わなかったんだろうってさ」
「此処から遠いのですか? 貴方の故郷は」
ユーリルの問いに、男は微妙に遠い目をして何処か淋しそうな笑いを零しながら答えた。
「遠いなんてもんじゃねぇさ……多分、もう二度と帰れねぇだろうな」
故郷を出たこと自体を後悔はしてないが、淋しくは思っている。そんな顔をしていた。
彼も、若いなりに色々な経験をして今日までの人生を歩んできたのだろう。
「……はー、美味かった。御馳走さん!」
空になった器を膝の上に置いて、彼は笑った。
しっかりスープまで平らげて、すっかり御満悦のようだ。
そりゃそうだろう。空腹で行き倒れていた彼のためにわざわざ妖異の肉を使って拵えた自慢の一品なのだ。自分で言うのも何だが、美味くないはずがない。
「こんな食事が毎回食えるあんたたちが羨ましいよ。このまま付いて行きたいくらいだぜ」
「……あんたにも自分の旅があるだろうに」
俺の言葉に彼は後頭部を掻きながら、肩を竦めた。
「あー……オレの旅の目的なんて、あってねぇようなもんだからよ。毎日が充実してりゃそれでいいっていうか、特に拘っちゃいねぇんだよな」
旅人が旅をする理由には、色々なものがある。
それは名声を得るためであったり、億万長者になるためであったり、俺のようにただ楽しく日々を暮らすためであったり……旅人の数だけ、存在する。その中には、彼のように目的のない気が向くままの旅というものも、あると思う。
旅の目的は、何も無理して旅を始める時に決める必要はないのだ。歳を重ねたら見えてくるものがあるように、時が過ぎていくうちに得られるものもあるんじゃないかと俺は思っている。
彼はしばし何かを考えていたようだが、ややあってうんと頷いてぽんと胡坐をかいている膝を叩き、言った。
「……決めた。オレ、あんたたちの旅に付いてくわ」
「……は?」
俺は口に運びかけていたロールキャベツをぽろりと器の中に落としてしまった。
フォルテたちも、きょとんとした様子で男のことを見つめている。
「そんな、唐突な……」
「オレ、こう見えても腕は立つ方だぜ? 見た感じあんたたちは体を張って武器を振り回すタイプじゃなさそうだし、何かあった時に盾になってくれる前衛ってのは必要だろ?」
あっちに落ちてるジャックコンドルを仕留めたのはオレなんだぜ、と彼は胸を張った。
確かに、あそこに落ちている鳥の死骸は結構な数があった。もし本当に彼が剣であれを全部仕留めたのだとしたら、彼が剣術士として相当の腕前を持っていることは分かる。
俺たちは、魔法使いだ。これから先何らかの理由で戦うことになった場合、率先して体を張ってくれる役割を担ってくれる存在は必要になるだろう。
魔帝やその下僕がいつ目の前に現れるかも分からない御時勢だし、仲間は一人でも多い方がいい。
でも、彼の方はいいのだろうか? 急にそんなことを決意したりして。
「いや、こんな美味い飯が三食食えるなら喜んで旅の道連れにでも何にでもなってやるよ。それで毎日の食生活が保障されるってんなら安いもんだぜ」
……懸念するだけ無駄だったらしい。
どうやら、彼は俺が作る料理が目当てで俺たちの旅に付いて来る気のようだ。
まあ、当人がそれでいいって思ってるなら俺から何かを言うつもりはないが……何だかなぁ。
俺が無言でいることを肯定の意と受け取ったらしい。彼は右手を差し出してきながら、言った。
「オレの名前はリュウガ・ヤマト。宜しくな、おっさん!」
「……俺はおっさんじゃない。次におっさん呼ばわりしたら叩き出す……ん?」
リュウガの言葉に、俺はある引っ掛かりを覚えて片眉を跳ね上げた。
「……その名前……ひょっとして」
「──何だ、そう言うってことはあんたも同類か? 見た目も何かそれっぽいし、もしかしたらって思ってたんだよな」
リュウガはにやりとして、言葉を続ける。
「正式に名乗るわ。オレの本当の名前は大和龍河。難しい方の龍って字に、河川の河って書く。年齢は十七、こう見えてれっきとした現役の高校生」
胸元を右手で軽く叩きながら、笑ったのだった。
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