三十路の魔法使い

高柳神羅

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第134話 そのゴーレム、豆腐の如し

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「アルテマ!」
 戦闘開始の合図は俺が放った魔法だった。
 ばがん!
 手前側にいたブラントフェイスの頭に、アルテマの光がぶち当たる。
 魔法を受けた箇所が大きくぼろりと崩れ落ちた。俺の予想を遥かに上回って、頭部の半分以上が今の一撃で吹っ飛んでいる。
 しかし案の定ブラントフェイスは全く堪えていない様子で、魔法を撃った俺の方へと注意を向ける。石像なので目玉が動いたりといったことはないのだが、そういう雰囲気は伝わってくる。
 もう一方のブラントフェイスには、シキがわざと大きく雄叫びを上げながら突っ込んでいった。注意を自分へと向けて俺たちから引き離すためだろう。
 俺に狙いを定めたブラントフェイスが、動き出す。

 ごりごりがりごりがりがりっ!

 ──最初に現れた時の様子からは全く想像付かないほどの、驚異的なスピードで。
 まるで、腹の下に滑車を付けられた亀が爆走してきたかのような速度だった。
「うぉおおおおおっ!?」
 慌ててその場を飛び退く俺。
 ブラントフェイスは今し方俺が立っていた位置を勢い良く通過していき、そのまま壁に真っ向から激突して派手な音を立ててようやく停止した。
 あの鈍重そうな見た目の奴がこんな無茶苦茶な動きをするなんて。妖異だから別におかしいことではないのかもしれないが、明らかにこれは物理法則無視してるだろって突っ込みを入れたくなる。
 そもそも妖異って時点で邪魔者確定なのだ。まともに相手をしてやる義理はない!
「ヴァイス! やれっ!」
「わんっ!」
 ぎゅばっ!
 ヴァイスが吠え声と共に発した衝撃波が、壁に激突して止まった全身を回転させてこちらに振り返ろうとしていたブラントフェイスを粉微塵に打ち砕いた!
 細かくなった石の欠片が辺りに飛び散る。その中に綺麗な白い玉のような石が紛れているのを見つけたが、それも衝撃波を影響を受けたのか砕け散っていた。多分あれがブラントフェイスの核だろう。
 流石はヴァイスの力だ。ただ突進してくるだけの石の塊を砕くことなど容易いか。
 よし、もう一体もさっさと片付けよう。
 そう思って振り向くと、丁度アヴネラが放った光の矢がブラントフェイスの中心を射抜いて、中にあった核を砕いたところだった。
 射抜かれた衝撃でごろんと横倒しになるブラントフェイス。全身は穴が空いている以外はほぼ無傷の状態だが、核を破壊されているため動くことはない。あれはもう単なる石像だ。
「そっちも片付いたか」
「思ってたよりも簡単だったよ。二人が動きを止めてくれてたから狙うのは苦労しなかったかな」
 弓を下ろしてアヴネラがほっと一息つく。
 その横で、ゼファルトが何やら納得いかなさそうに眉間に皺を寄せていた。
「……おかしい」
 呟く。
 妖異を苦労しないで仕留められたのは良いことだと思うのだが、それをおかしいって、何を言い出すのだろう?
「おかしいって、何がだ?」
「ゴーレム種というものは、ダンジョンの中では要所を護る番人などの役割を担って決められた場所から動かないものが殆どなのだ。無論それは絶対というわけではないから、中には他の妖異同様に通路を徘徊しているものもいるが……番人型であれ徘徊型であれ、種の特性として衝撃に強い堅固な体を持っていることに差はないのだ。アヴネラ殿の弓の威力は、確かに並の武器よりは優れているとは思うが、それでもゴーレム種の体を一撃で貫通できるほどの威力はないように思えるのでな……この脆さは妙だと思ってな」
「……確かに、それはボクも思ったよ。元々神樹の魔弓は楽器としての特性の方が強い道具だからね、弓が生み出している矢は、物理的な力では絶対に折れないし落とせないってだけで貫通力自体は普通の木の弓矢よりもちょっといいかなってくらいのものでしかないんだ。そいつほどの厚みがある石を一発で貫くっていうのは、普通に考えたらまず無理なことだと思う。何ていうか……見た目は石なんだけど、石じゃない、何か……実は凄く脆いものでできてるんじゃないかって、気がする」
 ゼファルトの言葉に、ブラントフェイスを仕留めたアヴネラ当人も頷いている。
 石に見えて、実は石じゃない別の何かでできたゴーレム、か……
 わざわざ脆い素材で創られたゴーレムが存在していなければならない理由があるってことか?
「……あれっ」
 転がったブラントフェイスを観察していたシキが、唐突に声を発した。
「こいつ、起きてた時は見えなかったから分からなかったけど、底に模様が付いてるね。ほら、此処」
 横倒しになったお陰で見えるようになったそいつの底面を指差しながら、俺たちを呼ぶ。
 言われて彼が指し示す箇所を見てみると──そこには、はっきりと掘り込まれた三日月の模様があった。
 床に設置された二枚のパネルのうち一枚に描かれている模様と同じものだ。
「……もしかして、この妖異が、鍵……?」
 フォルテの呟きに、俺たちは顔を見合わせた。
 部屋の仕掛けに描かれた模様と同じ刻印を持つ妖異。これが単なる邪魔者として現れたとは、確かに考えづらい。
 さっきの杯の部屋でバブルヘッドの血が鍵になったのと同じで、ひょっとして此処ではこいつを仕掛けを解く鍵として利用するのか?
 ……って、もう一体の方粉々にしちゃったじゃん! 何やってんだ俺! 実際に吹っ飛ばしたのはヴァイスだけど!
「フォルテ殿の意見には一理あるな。とりあえずこれを同じ模様が描かれている石の上に運んでみよう」
 内心冷や汗を垂らしている俺を他所に、ゼファルトがシキに仕留めたブラントフェイスを月のパネルの上まで運ぶのを手伝うように言う。
 男二人でブラントフェイスを持ち上げようとするが……何故か、ブラントフェイスはその場から一ミリも動かなかった。転がせないし、持ち上がらない。床に直接固定された置き物のようだった。ゼファルトが腕力強化の魔法を掛けて再度試してみるが、同様だ。
 うんうんと唸っていたが、やがて諦めたようだった。二人は溜め息をついて、首を振った。
「……無理だな。何故だか動かせない。大きさからして重量があることは分かるが、それでも腕力強化しても転がすことすらできないというのは妙だな」
「あー、腰痛くなっちゃった。もう一匹の方は……って、何あれ粉々じゃん。おっさん、何てことしてるのさー」
「いや、あれは俺じゃなくてヴァイスが……って、命令したのは俺か……その……すまん。こんなことになるとは思ってなくてな」
 俺が言い訳している間に、二体のブラントフェイスの死骸(残骸?)はダンジョンの理に倣って、ダンジョンに吸収されて跡形もなく消えてしまった。
 参ったな、死骸すらなくなったとなると仕掛けが動かせるかどうか試すこともできないぞ。
「……妖異だから、しばらくすれば新たな個体が生まれてくるはず。それまで此処で待とう」

 ゼファルトの意見に従い、俺たちは新手が来るまでこの場で少し休憩することにしたのだった。

 新手が例の通路から現れるのに大した時間は要さず、前の個体を撃破してからおよそ五分ほどで再挑戦の場は整った。
 前回の教訓から分かったことは、二つ。
 ひとつ目。こいつらはゴーレム種であるにも拘らず、物理的な衝撃に対する耐性が殆どない。特に貫通系の力には驚くほどに弱い。多分アルテマのように着弾した箇所を爆砕させる発破系の魔法よりも、フレアランスのような貫通系の魔法の方が効果は高いだろうと思う。
 そして、二つ目。こいつらは、核を破壊した時点でその場所からは動かせなくなる。どういう理屈なのかは不明だが、死骸を運ぶことができなくなるのだ。
 それを踏まえて、今回俺たちが取るべき行動は以下の通りだ。
 まず、二手に分かれてそれぞれが一体ずつ相手にするのは前回と同じ。二体を上手く引き離したら、自分が担当しているブラントフェイスの底面に描かれている模様が太陽と月のどちらなのかを確認する。核さえ潰さなければ多少壊したところで動きが止まることはないから、衝撃の強い魔法か何かで吹っ飛ばす勢いで転がしてしまえば良いだろう。
 描かれている模様が判明したら、対応しているパネルの上に上手く誘導して相手がパネルに乗るように仕向けて、パネルに乗ったらそこから動かないように足止めをし、原型が残るように核のみを破壊する。もしもあいつらが此処の仕掛けを動かす鍵になっているのなら、それで閉ざされている扉は開くはずだ。
 妖異は死骸になっても少しの間であればその場に残るから、扉が開いたら死骸が完全に消滅する前に扉を通ればいい。
「よし……やるぞ!」
「おっさん、今度はばらばらにしないようにねー」
「俺だって学習くらいしてるっての! 同じ失敗なんて二度もやらかすか!」
 俺たちは散開し、手筈通りに一体ずつ別々に挑発して自分のところに来るように仕向けた。
 先程と同じように俺からの挑発代わりの魔法を食らったブラントフェイスが、俺めがけて突っ込んでくる!
 俺は相手の突進を横へと避けながら、相手の足下めがけて魔法を撃った!
「ウィンドボム!」
 ぼばん!
 ブラントフェイスの足下で空気が破裂する。
 今の一撃は、魔力を多めに込めて空気の密度を上げている。とはいえ元々殺傷力がないに等しい魔法なので、奴に傷を付けることはできない。
 だが、こちらに向かって突進してくる石の塊を、躓かせて転ばせるのにはそれでも十分だった。
 がががっと床を削る勢いで横転したブラントフェイスが俺の目の前を通り過ぎていく。
 俺は急いで奴の後ろに回り、底面に描かれている模様の形を確認した。
 丸に棘が刺さったみたいな形……太陽だな、これは。
 ががががが、どかん!
 壁に激突して止まるブラントフェイス。
 そいつはすぐに腕もないのに器用に起き上がると、再度俺めがけて突進してきた!
 だが、それはむしろ俺の狙い通り。俺は奴が起き上がる前に、目的の場所まで移動している。
 太陽の絵が描かれた、パネルの上に。
 よし来い。来い。来い。
 今だ!
 ブラントフェイスが俺に接触する瞬間。奴と俺の間に突如として出現したそいつが、ブラントフェイスの突進を真っ向から受け止めた!
 俺が生み出したゴリラ型の使い魔は、しっかりと体全体で相手を掴み、動きを止めている。
 意外に思えるかもしれないが、マナ・サーヴァントで生み出した使い魔は、例え鳩のような小動物の姿をしていても人間よりも優れた力を備えている。魔力をより多く費やせばそれだけ巨体で力のある使い魔を作り出すことができるのだが、体が大きい使い魔であるほど、その身体能力が上がるのだ。
 ゴリラ相手ならば、流石のこいつもそう簡単に束縛を振りほどくことはできないだろう。
 一瞬でも動きが止まったその隙に、俺は相手の中心めがけてとどめの魔法を叩き込んだ!
「フレアランス!」
 茜色の槍がブラントフェイスの体の中心を貫く。
 核を破壊されたブラントフェイスは力を失い、使い魔の腕の中で沈黙した。
 よし……上手くいった。パネルの中央にしっかりと乗ってるし、これで俺の任務は完了だ。
 俺は使い魔を消し去って、ゼファルトたちの方に振り向いた。
 丁度、向こうも標的を仕留めたらしい。三人が取り囲んでいる中心、月のパネルの上で、もう一体のブラントフェイスが核を破壊されて沈黙したところだった。
 パネルに描かれた二つの模様が、白い光を放つ。
 音を立てて、閉ざされていた扉が開かれたのだった。
「ふー。やっと終わったか。普通に仕留めるのと違って頭使うねぇ」
 深呼吸をしながらシキが刀を鞘に納めた。
 多分、向こうはシキがブラントフェイスを動かないようにパネルの上で固定する役割を担っていたのだろう。素の筋力じゃ流石に厳しいだろうから強化魔法の力を利用したのは想像が付くが、生身であの突進を受け止めるというのは人間業じゃないな。これも召喚勇者だからこそなせる所業ってやつか。
 ともあれ、これで行く手を阻んでいた扉は開かれた。妖異が消滅して扉が閉じてしまう前に、先へと進むことにしよう。
 俺たちは達成感をじっくりと噛み締めることもなく、その部屋を去って次なる関門を目指し、通路の続きへと足を踏み入れたのだった。
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