三十路の魔法使い

高柳神羅

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第136話 巨大水路劇場

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 ざあああ……と激しく水が流れている音が聞こえる。
 扉をくぐった俺たちを待ち受けていたのは、途方もない広さを誇る空間だった。
 二階席が設けられた劇場、という感じの造りをした部屋で、俺たちが現在立っている部屋の入口は丁度その二階席の部分に当たる場所だ。そこそこ大きな階段が設けられていて、そこから部屋の中心部──一階席の部分へと下りられるようになっている。
 部屋の中心部には、ドーム状の光で覆われた円形の台座のようなものがある。台座の上には何かが置かれているようだが、ドームの光と距離の都合で此処からでは何があるのかは分からない。
 台座の向こう側、劇場ならば舞台がある場所に当たるのだろうか。そこは一面巨大な水路になっていた。壁の向こうに水が流れている様子が分かるので敢えて水路と称したが、見た目は巨大な石のプールといった感じで、大きさは見える部分だけでも端から突き当たりの壁側まで五十メートル近くある。壁の向こう側に水路が続いていることを考えると、全体の長さは相当のものになるだろう。深さは正確には分からないが、決して浅いものではなさそうだ。
 水路の水が流れ込んでいる壁の、上部。高さ的に二階席部分と同じくらいの位置に、橋のようなものがある。しかし明らかに橋としての役割を果たしていない、見たままの状態を述べるならば、宙に中途半端に浮かんでいる石の橋板という感じの代物だった。端の一方が壁に付いているわけでもない、上に乗るための梯子があるわけでもない、まさに謎の物体である。
 一応その橋の近くに、扉が設置されているのが見えるが……あれでは扉に近寄ることすらできそうにない。仮に橋に乗れたとしても、端から扉までそこそこの距離がある上に、扉周辺には足場になるものもなかったからだ。
 扉があるということは、あの扉の先に進むべき道があるということに他ならない。何故か扉自体は開いている状態なので、あそこまで行く手段さえ確立できれば、先に進むことができるのだろうが……
「ほー。今回のは随分大掛かりな仕掛けだなぁ」
 辺りを見回して感心の声を発しながら階段を下りていくシキ。
 現時点では扉の方に行く方法がないので、俺たちもとりあえず彼の後に続くように階段を下りていく。
 ほどなくして台座の元に到着する。
 早速台座を調べようと近付いてみるが、光のドームが邪魔で台座自体に触れることはできなかった。どうやらこの光、台座に対する物理的な接触を阻むための結界になっているらしい。結界が展開している範囲は台座がぎりぎり覆われる程度の小さなものなので、台座の上の様子を確認することだけは可能だったが。
 台座の上には、謎の図形が描かれていた。白い石の台座に、黒い塗料ではっきりと。その形状は魔法陣のようにも見えるが、中心に魔法陣には必ずと言っていいほどに描かれているはずの星模様はない。太い線で描かれた大きな円の内側に等間隔に六つ円陣を組むように並べられた小さな円があり、その六つの円は線で繋がっている。図形の中心部……台座の中心に当たる位置にはアメリカドルのマークに似たような形の模様が描かれており、その上に無造作に置かれる形で、六個の宝石が並べられていた。
 宝石の種類は六個全て違う。ルビー、サファイア、ペリドット、アクアマリン、アメジスト、アンバー……宝飾に使われているような綺麗にカットされたものではなく、加工前の原石って感じの歪な形をした石だ。宝石ではあるが、財宝……って感じはしない。台座に描かれている小さい円と数が同じなので、多分この宝石も台座の仕掛けの一部なのだろう。
 しかしこれらが仕掛けだと分かっても、実際に触れられないのでは動かしようもない。
 まずは、この結界を解かなければ。話はそれからだ。
 台座を包む結界に手を触れて見つめていたゼファルトが、呟く。
「……かなり強力な防御結界だな。おそらく迷宮内の魔素を利用して、何らかの術式を用いて発生させているものなのだろうが。現代には存在しない魔法だ」
「ナザラン文明時代に存在していた古代の魔法、ってこと?」
 アヴネラの質問に、彼はこくりと頷いて。
「おそらく、そうだ。ナザラン文明時代に存在していた魔法技術の水準は、現代のものとは比較にならないほど高度なものだったらしい。当時の魔法技術を持ってすれば、このような結界を生み出すことなど造作もないことなのかもしれないな」
 古代の魔法、か……
 何やら生半可ではない代物のようだが、それでも結局は『魔法』だってことに変わりはないってことだよな?
 それなら、わざわざ結界を解くための鍵になるようなものを探してこなくても、俺の能力で何とかなるかもしれない。
 俺は試しに結界に向けて能力を使ってみた。
「アンチ・マジック」
 結界を丸ごと包み込む形に展開したアンチ・マジックフィールドが、結界をあっさりと消滅させた。
 ……やっぱりな。この結界も魔力で構成されてるものだから、アンチ・マジックで解くことができるってわけだ。
 俺があっさりと結界を解いたことで、ゼファルトは驚きの眼差しを俺へと向けている。
「……まさか、ハル殿には古代魔法をも処理することができる力があるのか……! 本当に召喚勇者というものは、我々の常識の範疇を越えた存在なのだな」
「召喚勇者全員が同じことができるってわけじゃないけどな。でも、せっかく使える能力があるんだから、使わなきゃ損だろ」
 微苦笑しながらアンチ・マジックフィールドを解除する俺。
 すると、領域が消失した傍から台座は再び先程の結界に覆われて、再び台座には触れることができなくなってしまった。
「……何だ、こりゃぁ」
「ふむ……もしかしたら、何処かに結界を生み出している魔法の道具マジックアイテムのようなものがあるのかもしれないな。それを探して破壊しない限り、この結界を完全に解くことは不可能だということか」
「……そんなもんをわざわざ探してる余裕なんてないぞ」
 俺は溜め息をついた。
 こいつはちょっと予想外だが、一応アンチ・マジックフィールドを発生させてる間は結界が無効化することは分かったのだ。台座の仕掛けを解いている間中領域を展開させ続けていれば問題はないだろう。
 幸い、今は此処に妖異はいない。もしも台座に触れた瞬間に何処からか妨害役として現れたとしても、戦えるのは俺だけじゃないのだ。そちらの対処については皆に任せてしまえばいい。
「とりあえず、早いところ仕掛けの謎を解いて作動させよう。……フォルテ、あんたに任せたいんだが、やれるな?」
「え……私? どうして?」
 面食らった様子で自分の顔を指差すフォルテに、理由を説明する。
「仕掛けを作動させようとしたら、妖異が妨害してくる可能性がある。仮に大量に出てきた時のことを考えたら、戦える奴はなるべく自由に動けるようにしておきたいんだよ。台座の結界を無効化させるために俺はアンチ・マジックを発動させ続けてなけりゃならないし、アンチ・マジックを発動させてる間は、俺は魔法が一切使えなくなるんだ。……俺も一緒に謎解きに協力するから、頼む。あんた以外には頼めないんだよ」
 アンチ・マジックを発動させてる間も他の神の能力を使うことはできるが、それだけで妖異相手に対等に渡り合えるかといったら、正直言って厳しい。足止め程度ならばできるが、仕留めるとなると相手によっては難しいこともあるのだ。
 フォルテは不安そうではあったが、俺の言いたいことは理解してくれたようで、承諾してくれた。
「……分かったわ。私、頑張る。必ず、仕掛けを解いてみせるから」
「ありがとな。……それじゃあ、結界を解くぞ」
 俺は再度結界に向かって両手を翳し──

「……ようやく、此処まで来たのね。御機嫌よう、ロクシュヴェルド様に見込まれた天才魔道士と、そのお仲間さんたち」

 俺たちの中の誰のものでもない、物静かな女の声に、俺は思わず翳した手を下ろしてしまった。
 声のした方──開かれていた部屋の出口の方へと目を向ければ、そこには。
「しばらく見ない間に、随分と私の知らない顔が増えたのね。賑やかな舞踏会になりそうで、嬉しいわ」
 漆黒のドレスを身に纏った銀髪縦ロールの女が、妖艶な笑みを浮かべながら俺たちのことを見下ろしていたのだった。
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