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第37話 この世に男女が一人ずつだったなら
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「アレク」
気を取り直してホテルマンとしてカウンターに立っていると、フロントの隅の方で腕を組んで立っていたレンが声を掛けてきた。
彼女がアレクに接近したのを見たミカの表情が僅かに強張る。
レンはそんなミカをちらりと一瞥してから、アレクの視界からミカを隠すように立った。
「お前と話がしたい」
「……僕の答えは聞かせたはずだ。僕は天冥騎士団に戻る気はない」
「アレク」
頑なに振る舞うアレクに、レンは彼に詰め寄りながら声を上げた。
「これはお前のためでもあるんだ。騎士団は、お前が戻ってくるための準備を整えてくれている。皆もお前のことを待っている。一体何が気に入らないというんだ」
「僕はもう騎士じゃない。言ったよな、僕は僕の守りたいものを守るために此処にいるんだと。それを邪魔するようなことはしないでほしい」
「アレク!」
レンはアレクの襟首を掴んで、ぐいっと引き寄せた。
顔と顔が重なる。互いの吐息が、肌に掛かる。
レンは、アレクの唇を奪っていた。
唐突の出来事に、アレクの表情が困惑の色に染まる。
目を見開いて、息を止め。
レンの唇の感触が柔らかくて温かいと、他人事のように感じていた。
アレクから顔を離し、レンは言った。
「私が、お前を必要としているんだ。それでも駄目なのか、私の願いは、聞き入れてはもらえないのか」
「……レン」
アレクはミカの方へと目を向けた。
ミカは、目を見開いて全身を震わせていた。
何か信じられないものを見たような、そんな顔をしていた。
アレクと視線がぶつかると、彼女は跳ねるようにその場を立ち上がり。
慌てて玄関扉に飛びつき、それを開いて外へと飛び出していった。
「ミカさん!」
アレクは慌ててカウンターから飛び出した。
ミカの後を追おうと駆け出したところを、腕を掴まれ引っ張られてつんのめる。
レンが、アレクの腕を掴んで引き止めたのだ。
「アレク! まだ話は終わっていない!」
「話はもう終わった!」
アレクはきっとレンを睨み付けて、怒鳴った。
普段冷静で穏やかな彼の様子からは信じられないような爆発の仕方であった。
「僕は、此処で彼女の傍にいると決めたんだ! 誰に何を言われようと、その考えをやめるつもりはない!」
それは、アレクが本心を外に曝け出した瞬間であった。
レンの目が丸くなる。
アレクは険しい顔をして、低い声で言った。
「……離してくれ」
腕を掴む手を見て、繰り返す。
「離せ!」
「…………」
するり、とレンの手がアレクの腕から離れる。
アレクはその場を駆け出し、玄関扉を勢い良く開いて外に出ていった。
レンは呆然とした顔をしたまま、その場に棒立ちになっていた。
「……あんなに感情的なアレクは初めて見たのう」
カウンター奥の扉が開き、ルーブルが顔を出す。
彼はゆっくりとカウンターに出てくると、閉じられた玄関扉を見ながら、言った。
「それだけ、本気なんじゃろうな。アレクにとって、あの子のことは」
顎鬚を撫でながら、レンに目を向ける。
「アレクはああ見えて頑なじゃ。一度こうと決めたら、儂らがいくら言って聞かせても己を曲げることはない。お嬢さん、アレクのことは、諦めた方が良いかもしれんよ」
「……それでも」
ようやく落ち着きを取り戻したレンが、静かに言った。
「私は、アレクのことを諦めたくはない」
それは、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。
ルーブルは肩を竦めて、独りごちた。
この世に男と女が一人ずつしかいなかったら、こんな辛い思いをする者が生まれることもなかっただろうに……と。
気を取り直してホテルマンとしてカウンターに立っていると、フロントの隅の方で腕を組んで立っていたレンが声を掛けてきた。
彼女がアレクに接近したのを見たミカの表情が僅かに強張る。
レンはそんなミカをちらりと一瞥してから、アレクの視界からミカを隠すように立った。
「お前と話がしたい」
「……僕の答えは聞かせたはずだ。僕は天冥騎士団に戻る気はない」
「アレク」
頑なに振る舞うアレクに、レンは彼に詰め寄りながら声を上げた。
「これはお前のためでもあるんだ。騎士団は、お前が戻ってくるための準備を整えてくれている。皆もお前のことを待っている。一体何が気に入らないというんだ」
「僕はもう騎士じゃない。言ったよな、僕は僕の守りたいものを守るために此処にいるんだと。それを邪魔するようなことはしないでほしい」
「アレク!」
レンはアレクの襟首を掴んで、ぐいっと引き寄せた。
顔と顔が重なる。互いの吐息が、肌に掛かる。
レンは、アレクの唇を奪っていた。
唐突の出来事に、アレクの表情が困惑の色に染まる。
目を見開いて、息を止め。
レンの唇の感触が柔らかくて温かいと、他人事のように感じていた。
アレクから顔を離し、レンは言った。
「私が、お前を必要としているんだ。それでも駄目なのか、私の願いは、聞き入れてはもらえないのか」
「……レン」
アレクはミカの方へと目を向けた。
ミカは、目を見開いて全身を震わせていた。
何か信じられないものを見たような、そんな顔をしていた。
アレクと視線がぶつかると、彼女は跳ねるようにその場を立ち上がり。
慌てて玄関扉に飛びつき、それを開いて外へと飛び出していった。
「ミカさん!」
アレクは慌ててカウンターから飛び出した。
ミカの後を追おうと駆け出したところを、腕を掴まれ引っ張られてつんのめる。
レンが、アレクの腕を掴んで引き止めたのだ。
「アレク! まだ話は終わっていない!」
「話はもう終わった!」
アレクはきっとレンを睨み付けて、怒鳴った。
普段冷静で穏やかな彼の様子からは信じられないような爆発の仕方であった。
「僕は、此処で彼女の傍にいると決めたんだ! 誰に何を言われようと、その考えをやめるつもりはない!」
それは、アレクが本心を外に曝け出した瞬間であった。
レンの目が丸くなる。
アレクは険しい顔をして、低い声で言った。
「……離してくれ」
腕を掴む手を見て、繰り返す。
「離せ!」
「…………」
するり、とレンの手がアレクの腕から離れる。
アレクはその場を駆け出し、玄関扉を勢い良く開いて外に出ていった。
レンは呆然とした顔をしたまま、その場に棒立ちになっていた。
「……あんなに感情的なアレクは初めて見たのう」
カウンター奥の扉が開き、ルーブルが顔を出す。
彼はゆっくりとカウンターに出てくると、閉じられた玄関扉を見ながら、言った。
「それだけ、本気なんじゃろうな。アレクにとって、あの子のことは」
顎鬚を撫でながら、レンに目を向ける。
「アレクはああ見えて頑なじゃ。一度こうと決めたら、儂らがいくら言って聞かせても己を曲げることはない。お嬢さん、アレクのことは、諦めた方が良いかもしれんよ」
「……それでも」
ようやく落ち着きを取り戻したレンが、静かに言った。
「私は、アレクのことを諦めたくはない」
それは、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。
ルーブルは肩を竦めて、独りごちた。
この世に男と女が一人ずつしかいなかったら、こんな辛い思いをする者が生まれることもなかっただろうに……と。
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