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第70話 説得
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僕たちが神殿を出ると、すぐにそれは見えてきた。
神殿の正面の、建物が崩れて瓦礫の山を作っている広場。そこに、ウロボロスはいた。
相変わらず、五十メートルを超える体は規格外の大きさだ。尻尾の一部が陸地からはみ出して、川の中に填まっている。
ウロボロスは神殿に向かってビームを何度も撃っていた。
ビームは神殿の周囲に張られている結界に当たり、建物に届く前に散らされている。結界は想像以上に強固なもののようで、びくともしていない。
しかし、創造神はこの結界もいつまで持つか分からないといっていた。悠長に眺めている時間はない。
僕はウロボロスの近くにいるであろうラファニエルの姿を探した。
ウロボロスの周囲を旋回し、ぐるりと巨体を見つめる。
……いた。
ウロボロスのすぐ傍。大地の上に、ラファニエルの姿はあった。
彼女はまっすぐに神殿を見つめていた。
今のところ彼女がウロボロスに指示を出しているといったところは見受けられないが、そんなことなど彼女を放置しておく理由にはならない。
僕はフェアリーホースに指示を出して、ラファニエルの目の前に降り立った。
ラファニエルは僕の存在に気付くと、にこりと笑った。
「神界にようこそ、樹良さん。貴方の姿をこの地でお目にかけるとは想像してもいませんでしたよ」
「ラファニエル……何で、こんなことを」
僕はフェアリーホースの背に乗ったまま、ラファニエルに尋ねた。
ラファニエルは笑顔を絶やさぬまま、穏やかに語り始める。
「神界は、長らく続いた平穏に現を抜かしてすっかり堕落しきっていました。それを正して本来のあるべき姿に戻すために、私は神界を粛清することにしたのです」
傍らのウロボロスに手を触れて、その巨体を見上げて、うっとりと続ける。
「見て下さい……この素晴らしい破壊の力を。この子は必ず私の悲願を叶えてくれるでしょう。それだけの希望が、この子の中には秘められています」
「そんなもっともらしい言葉を並べたって騙されないわよ。貴女は結局、神界を自分の思い通りに支配したいだけでしょう!?」
カエラが声を張り上げる。
彼女の言葉を聞いたラファニエルは、首をことりと傾けた。
「……神界を粛清しても、それを正しく治めることができる支配者がいなければ意味がありません。そのために私が先頭に立つことにしただけです。全てはこの世界のためなのですよ」
「ラファニエル、こんな馬鹿げたことはやめてくれないか。この世には、壊れていいものなんてないんだ」
僕はラファニエルに訴えた。
ラファニエルの視線が僕の方を向く。
ラファニエルの微笑は消えない。
型に填めたようなその微笑みは、まるで道化師の仮面のように、僕には思えた。
「物事を無理矢理自分の思い通りにしようだなんて間違ってる。こんなやり方をしたって誰も喜ばない! ラファニエルの考えは、間違ってるんだよ!」
「……貴方と話すことは、もう何もありません」
ラファニエルは右の掌を僕に向けて翳した。
それまで神殿の方を向いていたウロボロスが、僕の方を向く。
「貴方も、本殿もろとも粛清して差し上げましょう。私の前に立ったことが過ちであったということを、その身で悟りなさい」
「ラファニエル!」
ウロボロスが口を開く。
喉の奥が、眩い光を放った。
「さようなら、樹良さん」
神殿の正面の、建物が崩れて瓦礫の山を作っている広場。そこに、ウロボロスはいた。
相変わらず、五十メートルを超える体は規格外の大きさだ。尻尾の一部が陸地からはみ出して、川の中に填まっている。
ウロボロスは神殿に向かってビームを何度も撃っていた。
ビームは神殿の周囲に張られている結界に当たり、建物に届く前に散らされている。結界は想像以上に強固なもののようで、びくともしていない。
しかし、創造神はこの結界もいつまで持つか分からないといっていた。悠長に眺めている時間はない。
僕はウロボロスの近くにいるであろうラファニエルの姿を探した。
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……いた。
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今のところ彼女がウロボロスに指示を出しているといったところは見受けられないが、そんなことなど彼女を放置しておく理由にはならない。
僕はフェアリーホースに指示を出して、ラファニエルの目の前に降り立った。
ラファニエルは僕の存在に気付くと、にこりと笑った。
「神界にようこそ、樹良さん。貴方の姿をこの地でお目にかけるとは想像してもいませんでしたよ」
「ラファニエル……何で、こんなことを」
僕はフェアリーホースの背に乗ったまま、ラファニエルに尋ねた。
ラファニエルは笑顔を絶やさぬまま、穏やかに語り始める。
「神界は、長らく続いた平穏に現を抜かしてすっかり堕落しきっていました。それを正して本来のあるべき姿に戻すために、私は神界を粛清することにしたのです」
傍らのウロボロスに手を触れて、その巨体を見上げて、うっとりと続ける。
「見て下さい……この素晴らしい破壊の力を。この子は必ず私の悲願を叶えてくれるでしょう。それだけの希望が、この子の中には秘められています」
「そんなもっともらしい言葉を並べたって騙されないわよ。貴女は結局、神界を自分の思い通りに支配したいだけでしょう!?」
カエラが声を張り上げる。
彼女の言葉を聞いたラファニエルは、首をことりと傾けた。
「……神界を粛清しても、それを正しく治めることができる支配者がいなければ意味がありません。そのために私が先頭に立つことにしただけです。全てはこの世界のためなのですよ」
「ラファニエル、こんな馬鹿げたことはやめてくれないか。この世には、壊れていいものなんてないんだ」
僕はラファニエルに訴えた。
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ラファニエルの微笑は消えない。
型に填めたようなその微笑みは、まるで道化師の仮面のように、僕には思えた。
「物事を無理矢理自分の思い通りにしようだなんて間違ってる。こんなやり方をしたって誰も喜ばない! ラファニエルの考えは、間違ってるんだよ!」
「……貴方と話すことは、もう何もありません」
ラファニエルは右の掌を僕に向けて翳した。
それまで神殿の方を向いていたウロボロスが、僕の方を向く。
「貴方も、本殿もろとも粛清して差し上げましょう。私の前に立ったことが過ちであったということを、その身で悟りなさい」
「ラファニエル!」
ウロボロスが口を開く。
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「さようなら、樹良さん」
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