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第64話 魔列車奪還作戦

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 俺が予想した通り、他の車両にも強盗たちがいた。
 皆同じような格好をしていて持っている武器が剣だけだというのも同じだ。
 魔道士がいたら厄介だな……と思っていたのだが、どうやらその心配は不要だったようである。
 俺はアラヤと共に真っ向から車両に乗り込んで、奴らを次々と叩き伏せていった。
「サンダーボルト!」
「ウィンドボム!」
 弱めに威力を絞った魔法を叩き込んで気絶させていき、縛り上げて無力化させていく。
 奴らが乗客を縛るために用意していたものなのか縄を持っていたのは助かったよ。
 俺は縄なんて持ってないから、奴らを拘束しようと思ったら魔法で氷漬けにするくらいしか手段がないもんな。
 客が乗っている車両は全部で五つあったが、その全てを解放するのにそれほどの時間はかからなかった。
「……お前……噂の『盲目の勇者』だろ……」
 最後の一人を縛り上げている最中、そいつは顔を上げて俺のことを見ながら呻くようにそう言った。
「噂通りの強さだが……ボスには絶対に敵わねぇよ。上には上がいるってことを思い知るんだな……」
 こいつらを統括している奴がいるのか。
 まあ、そうだよな。これだけの人数がいる強盗団だし。こいつらを纏めている存在がいても不思議でも何でもない。
 俺たちが解放した車両にはそれらしき人物の姿はなかったから、そいつがいるのは俺たちがまだ足を踏み入れていない場所ということになるが……
 後俺たちが行っていない場所といえば、操縦室のある先頭車両か最後尾にある貨物車両。
 しかし貨物車両にあるものといえば他の街に運搬する腸詰めくらいだ。そんなものしかない場所にボスが身を置いているとは思えない。
「……操縦室に行くぞ」
 ボスは先頭車両にいるだろうとあたりを付けた俺の言葉に、アラヤは腕を組みながら小首を傾けて、言った。
「何かあっさりしすぎてるのよねぇ……おかしいくらいに。何か隠し玉があるんじゃないかって気がするわ」
 確かに、今までに倒した連中は全員剣で武装しているだけの、魔法も使えない人間だった。ちょっと勇気のある人間が殴りかかればそのまま倒せてしまうかもしれない、言ってしまえば一般人に毛が生えた程度の、そんな連中だった。
 数がいるとはいえ、その程度の人間だけでこの列車を完全に制圧できるとは考えづらい。
 そして、この手下の謎の自信。
 確実に、ボスには何かがある。そんな気がする。
 これは……素手で何とかできるような相手ではなさそうだな。
 俺は鞘から剣を抜いた。
「油断しないように行こう。何が出てきても対処できるように」
「これで出てきたのが飼われてる竜とかだったら、ちょっとはやる気が出るんだけどねぇ」
 被っている帽子の位置を正しながらうふふと笑うアラヤ。
 物騒なことを言うのはやめてほしいものである。
 でも、そういうことがないとも言い切れない。
 何が出てきても驚かないようにしよう。
 俺は頬を引き締めて、アラヤと共に先頭車両へと向かった。

 操縦室がある先頭車両は客室車両とは通路が繋がっていないため、そこに行くためには一旦外に出る必要がある。
 乗降口から外に出ると、横殴りの風が俺たちの体にぶつかってきた。
「うわっ……」
 俺は慌てて入口横の手摺りを掴んだ。
 アラヤは帽子が飛ばされないように手で押さえながら、先頭車両の方をじっと見つめていた。
「静かねぇ」
「操縦室の中にいるんだろ」
「此処から魔法を叩き込んじゃえばいいんじゃない?」
「馬鹿、そんなことをしたら操縦士が危ないだろ」
 乗降口の横に屋根の上に上がるための梯子が付いているのを見つけたので、それで屋根の上に上がり、そこから先頭車両に移動することにした。
 多分この梯子は車両のメンテナンスのために付けられているものなのだろう。本来は列車の走行中に使うようなものではないのだろうが、状況が状況だし、利用できるものは何でも利用させてもらう。
 梯子を上がって屋根の上に上がった俺たちは、足場になりそうな場所を選んで先頭車両に飛び移り、操縦室の入口の傍まで移動した。
 扉に付いている窓からこっそり中を覗き込むと、巨大な窯の前に立って何かの作業をしている操縦士と、その首筋に剣先を突きつけている一人の男の姿が見えた。
 傷のある黒い鎧を身に着けて外套を羽織った、頬に何かの爪痕のような傷痕がある茶色の髪の男だ。如何にも只者ではない雰囲気のある人物である。
 強盗団のボスというよりも、警備隊とかの隊長クラスのポジションにいそうな感じの男だが……
 操縦室の中は色々な装置のようなものが所狭しと並んでおり、動き回れるスペースはあまりない。辛うじて剣を振り回すことはできそうだが、攻撃系の魔法は装置を巻き込んでしまう可能性がありそうで使用できそうにはない。
 何とかしてあの男を操縦室の外に引き摺り出すまでは、剣だけで戦う必要がある。
 この状況だと、アラヤからの援護は期待できないな。
「俺が何とかあいつを外に引き摺り出すから、アラヤは此処にいてくれ」
「……分かったわ」
 入口の傍から一歩下がるアラヤ。
 俺はすっと息を吸い、意を決して操縦室の扉を開け放った!
 中にいた二人の顔がこちらを向く。
 まずはボスと操縦士を引き離さなければ。
 俺はボスの手元を狙って剣を振るった。
 ボスが操縦士の首に突きつけていた剣を引っ込める。
 操縦士は転びそうな足取りでその場を駆け出して、操縦室の外へと逃げていった。
 操縦者がいなくなって──大丈夫なのか、この列車?
「……まさか、魔列車に乗る冒険者がいたとはな。通りで、手下が誰一人として戻ってこないわけだ」
 ボスは俺を見ても全く慌てていない様子で、言った。
 その口元には、僅かながら笑みが浮かんでいる。
 俺は剣を構えながらボスを睨み付けた。
「手下は全員捕まえた。後はあんただけだ」
「……俺を捕まえると。笑わせてくれる」
 ボスは無造作に剣を真横に薙ぐ動作をした。
 俺とボスとの間には人一人分くらいの間が空いている。あの位置からでは、剣を振るっても俺には届かないはずだが──

「魔法剣技──ウィンドソード」

 力ある言葉をボスが唱える。
 奴が振るった剣の刃が──蜃気楼のように、ゆらりと揺らめいた。
 それは不可視の刃となって腕を伸ばし、俺の両足を横一文字に斬りつけた!
「!?」
 急に太腿を襲った衝撃に俺は思わずよろけた。
 じわり、と滲み出た血が服を濡らして、しみとなって広がっていく。
「魔法剣技。この技の力で、俺は数多くの戦士を倒し今の地位にまで上り詰めた」
 俺を冷たく見下ろしながらボスが嗤う。
「お前との戦いも、俺の武勇伝のひとつに加えてやろう。せいぜい足掻いて、苦しみながら死んでいくがいい」
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