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第4話 エリザベートは見た
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お屋敷の捜索を始めて五分。遂に私は、遥か前を歩くルーク様の背中を発見しました。
ルーク様は周囲を気にするように時折左右を見回しながらある扉の前まで行き、その中へと入っていきました。
扉を開けて中に入る前に一瞬だけ、こちらを向いたような気がしましたが……距離が離れていたお陰か、彼が私の存在に気付くことはなかったようです。
わざわざパーティーを途中で抜け出してまで、こんな人気のない場所に来るなんて……一体、何の用事なのでしょうか?
私はこっそり部屋へと近付いて、閉じられている扉を音を立てないように少しだけ開けました。
扉が開いた瞬間、中からお菓子にも花にも似た甘い香りがふわりと漂ってきました。
これは……何かの香、でしょうか?
それなりに裕福な貴族の中には、香という焚いて香りを楽しむ嗜好品を愛用する者もいます。私は体に余計な匂いを付けることを好まないので香を使ったことはありませんが、時々家に行商人の方が売りに来ることがあるので、ある程度であればどういうものかを知っているのです。
ひょっとして、ルーク様が此処にいらっしゃったのは、香を楽しむためなのでしょうか?
私は僅かに開いた扉と壁の隙間から、ルーク様の姿を探します。
「────」
その時、中から、明らかにルーク様のものとは異なる男性の声が聞こえてきました。
此処には、ルーク様以外にも誰かがいる……?
気になった私は、部屋に入ることはせず、そのまま中の様子を伺うことにしました。
綺麗に片付けられた薄暗い部屋の中に、小さなテーブルがひとつだけ置かれています。それを囲むように、四人の男性が座っていました。
貴族、ではありません。平民という感じもしませんが、服装が貴族御用達のものと比較するとかなり安価なもののように思えます。
商人……そうですね。平民よりも少しばかりお金をかけた服を着ているということは、彼らはルーク様が独自にお招きになられた商人たちなのかもしれません。
「遅かったですね、ルークさん」
「誰にも気付かれないように抜け出してくるのが大変だったんだよ」
ルーク様は空いている椅子に腰掛けると、テーブルの上に大量に置かれているあるものを手に取りました。
それは、茶色い棒のようなものでした。先端は細く、中央がほんの少しだけ膨らんでいる、奇妙な形状をしたものです。
葉巻にも思えますが、どうもそれとは異なるような、奇妙な違和感を覚えました。
ルーク様は手に取ったそれの先端に火を点けて、棒の端を口に咥えました。そしてゆっくりと深く息を吸い、吐き出しました。
何処かうっとりとした面持ちで、手中の棒に視線を落とします。
「美味い……流石、アーノルド商会自慢のオグシードだ。頭の芯まで染み渡るよ。香りも悪くない」
「御気に召されたようで何よりです」
オグシード。その単語を聞いた私は自分の耳を疑いました。
オグシードとは、ある地方にのみ自生しているある植物を乾燥させて作る麻薬です。大量に摂取すると幻覚が見えたり激痛を齎す副作用がある大変危険なものなのですが、微量の摂取であれば痛覚を麻痺させ気分を高揚させる効果を齎すだけなので、昔は国が擁する騎士たちが鎮痛剤や興奮剤代わりに使用していたという実話があります。
もちろん、現在はオグシードを作ることは法によって固く禁じられており、それを破った者は思い刑罰が課せられます。
しかしそれでも、オグシードを秘密裏に作って売りさばこうと考える人間はいなくなりません。彼らはオグシードがとんでもない大金になる夢の薬であることを知っているからです。
ルーク様は目の前の商人たちに向かって、上機嫌に言葉を続けました。
「ベルモット商会の知名度とこれまでに築き上げた販売ルートを使えば、物を売りさばくのは簡単だ。そしてシャーロットと結婚してリーグル家と繋がりができれば、王家の人間に口利きすることも夢じゃなくなる。一部の王族は娯楽に飢えているからな、必ず飛び付く奴はいるはずだ」
「おや、ルークさんがシャーロット嬢と御婚約なされたのは、シャーロット嬢を愛されているからではなかったのですか?」
「それはもちろん、愛しているよ。僕に貴重な王家との繋がりを齎してくれるパイプとしてね。……そうでなければ、誰があのようなただ人当たりが良いだけのお飾りのような女を選ぶものか。シャーロットがリーグル家の娘でなかったら、そもそも近付きすらしなかっただろうさ」
その後もルーク様は私が物陰で聞き耳を立てていることなど知る由もなく、実に様々なことを喋って下さいました。
結婚の後のこととか、ルーク様がベルモット商会を継いでからのこととか、それはもう色々と。
大半は妄想じみた野望話だったので聞き流してしまいましたが、これらの話を聞いていて、分かったことがあります。
それは、ルーク様は最初からシャーロットのことを本心から愛してはいなかった、ということです。
今此処で私が聞いた話をパーティー会場で暴露してしまえば、シャーロットを含めたリーグル家のルーク様に対する信用はガタ落ちです。そのまま婚約破棄……となる可能性も十分にありえます。
ルーク様とシャーロットの婚約を解消させる、という私の目的は、それでも一応達成されることにはなります。
でも……それだけでは不十分です。単に婚約を解消させただけでは、私の一番の目的である『ルーク様を私のものにする』ことは果たされません。
ルーク様が自ら、私の傍にいたいと仰って下さらなければ意味がないのです。
そうなると。此処はやはり、ルーク様が私の傍にいたくなるように仕向けるのが最善でしょうか。
さて、そのためにはどういう手を使いましょうかねぇ……
考えることによって緊張が少しばかり緩んでいたのでしょう。私はうっかりよろけて、扉に肩の先をごつんとぶつけてしまいました。
「……っ! 誰だ!」
私が立てた物音に驚いたルーク様が立ち上がりながら声を荒げます。
慌てて扉に駆け寄った商人の一人が勢い良く扉を開き──その向こうに立っている私の姿を見つけました。
「……エ、エリザベート!?」
驚愕で目を丸くするルーク様。
私は商人たちに囲まれて腕を掴まれて、部屋の中に無理矢理引き摺り込まれてしまいました。
乱暴に突き飛ばされ、私はルーク様の前に膝をつきました。床にぶつけた膝がほんの少しばかり痛みました。
「……まさか、君が此処にいるなんてね……エリザベート。驚きすぎて掛けるべき言葉が一瞬見つからなかったよ」
「御機嫌よう、ルーク様」
私は笑顔を見せながら立ち上がり、ドレスに付いた埃を手で払い落としました。
令嬢たる者、いつ如何なる時も身だしなみには気を遣わなければなりません。埃にまみれたドレスを着て平然としているなどもってのほかです。
ルーク様は私の顔とテーブルの上とを交互に見つめながら、問いました。
「まさか……君は、僕たちの会話を盗み聞きしていたのか?」
「盗み聞きとは、人聞きが悪いですわね。私はただ、扉の影からこっそりと聞き耳を立てていただけですわ」
「……それを世間一般では盗み聞きと言うんだよ。まあ、いい。ということは……君は、知ってしまったというわけだね。僕が父にすら隠していた、僕の秘密を」
彼はテーブルの上に置かれていた小さなガラスの瓶を手に取りました。
中には白くて細かい粉のようなものが入っています。
ああ、これは興味本位でも手を出してはいけないものだ。本能で、私はそう悟りました。
瓶の蓋を開けながら、彼は私の周囲に立っている商人たちに命令します。
「お前たち。その女を取り押さえるんだ」
「どうなさるおつもりなんですか?」
「此処で僕たちが話していたことを外に漏らさせるわけにはいかないんだよ。この薬を飲ませて正常な理性と自我を潰してから、闇の商人から薬を買おうとしていたところを僕が発見して取り押さえたという名目で国に引き渡す。麻薬中毒者の発言はただの戯言として判断されるからな。それで、僕たちのことは守られる」
「…………」
私は顔を伏せました。
全く……呆れてものも言えませんわね。そのようなちょっと調べればすぐに足がつきそうな稚拙な手段で私の口を塞ごうとするなんて。
頭の良いルーク様のお考えになったこととはとても思えませんわね。
でも、どうぞ御安心なさいませ。貴方が例えどうしようもないほどに救いようのない悪党であったとしても、私は貴方を欲しいと思う気持ちをなくしたりなどしませんから。
「さあ、早く取り押さえろ!」
ルーク様の怒号が飛び、商人の一人が慌てて私の体を羽交い絞めにします。
それなりにお若い男性というだけあって、力はなかなかのものです。完璧に締め上げられていたら、私如きの力ではとても抗うことなどできなかったでしょう。
ですが……残念でした。
「ふっ」
私は息を吐きながら両肩に捻りを加えて、肩関節を通常では考えられない方向に折り曲げます。
まるで蛇の体のようにぐにゃりと変形した私の肩は、商人の羽交い絞めから易々と抜け出しました。
相手が驚いた顔をして私を見ます。そのこめかみを狙って、私は渾身の力を込めた回し蹴りを叩き込みました。
「がっ!?」
私の回し蹴りをまともに食らった商人が、声を上げながら仰向けにひっくり返りました。衝撃で目を回してしまったらしく、彼はそのままぴくりとも動きません。
残った商人たちの間に緊張が走ります。
私は彼らの方を向いて、にこりと笑いながら言いました。
「申し上げ忘れておりましたが……私、体を使うことには少々自信がありますの。甘く見ていると、痛い目に遭いますわよ」
こうなってしまった以上は仕方がありません。あまり気は進みませんが、この場は商人たちを力ずくで黙らせてから改めてルーク様とお話することに致しましょう。
ソウルから教わった護身術がこんな形で役に立つとは思いませんでした。やはり令嬢たる者、お勉強は真面目にやっておくべきですわね。
ルーク様は周囲を気にするように時折左右を見回しながらある扉の前まで行き、その中へと入っていきました。
扉を開けて中に入る前に一瞬だけ、こちらを向いたような気がしましたが……距離が離れていたお陰か、彼が私の存在に気付くことはなかったようです。
わざわざパーティーを途中で抜け出してまで、こんな人気のない場所に来るなんて……一体、何の用事なのでしょうか?
私はこっそり部屋へと近付いて、閉じられている扉を音を立てないように少しだけ開けました。
扉が開いた瞬間、中からお菓子にも花にも似た甘い香りがふわりと漂ってきました。
これは……何かの香、でしょうか?
それなりに裕福な貴族の中には、香という焚いて香りを楽しむ嗜好品を愛用する者もいます。私は体に余計な匂いを付けることを好まないので香を使ったことはありませんが、時々家に行商人の方が売りに来ることがあるので、ある程度であればどういうものかを知っているのです。
ひょっとして、ルーク様が此処にいらっしゃったのは、香を楽しむためなのでしょうか?
私は僅かに開いた扉と壁の隙間から、ルーク様の姿を探します。
「────」
その時、中から、明らかにルーク様のものとは異なる男性の声が聞こえてきました。
此処には、ルーク様以外にも誰かがいる……?
気になった私は、部屋に入ることはせず、そのまま中の様子を伺うことにしました。
綺麗に片付けられた薄暗い部屋の中に、小さなテーブルがひとつだけ置かれています。それを囲むように、四人の男性が座っていました。
貴族、ではありません。平民という感じもしませんが、服装が貴族御用達のものと比較するとかなり安価なもののように思えます。
商人……そうですね。平民よりも少しばかりお金をかけた服を着ているということは、彼らはルーク様が独自にお招きになられた商人たちなのかもしれません。
「遅かったですね、ルークさん」
「誰にも気付かれないように抜け出してくるのが大変だったんだよ」
ルーク様は空いている椅子に腰掛けると、テーブルの上に大量に置かれているあるものを手に取りました。
それは、茶色い棒のようなものでした。先端は細く、中央がほんの少しだけ膨らんでいる、奇妙な形状をしたものです。
葉巻にも思えますが、どうもそれとは異なるような、奇妙な違和感を覚えました。
ルーク様は手に取ったそれの先端に火を点けて、棒の端を口に咥えました。そしてゆっくりと深く息を吸い、吐き出しました。
何処かうっとりとした面持ちで、手中の棒に視線を落とします。
「美味い……流石、アーノルド商会自慢のオグシードだ。頭の芯まで染み渡るよ。香りも悪くない」
「御気に召されたようで何よりです」
オグシード。その単語を聞いた私は自分の耳を疑いました。
オグシードとは、ある地方にのみ自生しているある植物を乾燥させて作る麻薬です。大量に摂取すると幻覚が見えたり激痛を齎す副作用がある大変危険なものなのですが、微量の摂取であれば痛覚を麻痺させ気分を高揚させる効果を齎すだけなので、昔は国が擁する騎士たちが鎮痛剤や興奮剤代わりに使用していたという実話があります。
もちろん、現在はオグシードを作ることは法によって固く禁じられており、それを破った者は思い刑罰が課せられます。
しかしそれでも、オグシードを秘密裏に作って売りさばこうと考える人間はいなくなりません。彼らはオグシードがとんでもない大金になる夢の薬であることを知っているからです。
ルーク様は目の前の商人たちに向かって、上機嫌に言葉を続けました。
「ベルモット商会の知名度とこれまでに築き上げた販売ルートを使えば、物を売りさばくのは簡単だ。そしてシャーロットと結婚してリーグル家と繋がりができれば、王家の人間に口利きすることも夢じゃなくなる。一部の王族は娯楽に飢えているからな、必ず飛び付く奴はいるはずだ」
「おや、ルークさんがシャーロット嬢と御婚約なされたのは、シャーロット嬢を愛されているからではなかったのですか?」
「それはもちろん、愛しているよ。僕に貴重な王家との繋がりを齎してくれるパイプとしてね。……そうでなければ、誰があのようなただ人当たりが良いだけのお飾りのような女を選ぶものか。シャーロットがリーグル家の娘でなかったら、そもそも近付きすらしなかっただろうさ」
その後もルーク様は私が物陰で聞き耳を立てていることなど知る由もなく、実に様々なことを喋って下さいました。
結婚の後のこととか、ルーク様がベルモット商会を継いでからのこととか、それはもう色々と。
大半は妄想じみた野望話だったので聞き流してしまいましたが、これらの話を聞いていて、分かったことがあります。
それは、ルーク様は最初からシャーロットのことを本心から愛してはいなかった、ということです。
今此処で私が聞いた話をパーティー会場で暴露してしまえば、シャーロットを含めたリーグル家のルーク様に対する信用はガタ落ちです。そのまま婚約破棄……となる可能性も十分にありえます。
ルーク様とシャーロットの婚約を解消させる、という私の目的は、それでも一応達成されることにはなります。
でも……それだけでは不十分です。単に婚約を解消させただけでは、私の一番の目的である『ルーク様を私のものにする』ことは果たされません。
ルーク様が自ら、私の傍にいたいと仰って下さらなければ意味がないのです。
そうなると。此処はやはり、ルーク様が私の傍にいたくなるように仕向けるのが最善でしょうか。
さて、そのためにはどういう手を使いましょうかねぇ……
考えることによって緊張が少しばかり緩んでいたのでしょう。私はうっかりよろけて、扉に肩の先をごつんとぶつけてしまいました。
「……っ! 誰だ!」
私が立てた物音に驚いたルーク様が立ち上がりながら声を荒げます。
慌てて扉に駆け寄った商人の一人が勢い良く扉を開き──その向こうに立っている私の姿を見つけました。
「……エ、エリザベート!?」
驚愕で目を丸くするルーク様。
私は商人たちに囲まれて腕を掴まれて、部屋の中に無理矢理引き摺り込まれてしまいました。
乱暴に突き飛ばされ、私はルーク様の前に膝をつきました。床にぶつけた膝がほんの少しばかり痛みました。
「……まさか、君が此処にいるなんてね……エリザベート。驚きすぎて掛けるべき言葉が一瞬見つからなかったよ」
「御機嫌よう、ルーク様」
私は笑顔を見せながら立ち上がり、ドレスに付いた埃を手で払い落としました。
令嬢たる者、いつ如何なる時も身だしなみには気を遣わなければなりません。埃にまみれたドレスを着て平然としているなどもってのほかです。
ルーク様は私の顔とテーブルの上とを交互に見つめながら、問いました。
「まさか……君は、僕たちの会話を盗み聞きしていたのか?」
「盗み聞きとは、人聞きが悪いですわね。私はただ、扉の影からこっそりと聞き耳を立てていただけですわ」
「……それを世間一般では盗み聞きと言うんだよ。まあ、いい。ということは……君は、知ってしまったというわけだね。僕が父にすら隠していた、僕の秘密を」
彼はテーブルの上に置かれていた小さなガラスの瓶を手に取りました。
中には白くて細かい粉のようなものが入っています。
ああ、これは興味本位でも手を出してはいけないものだ。本能で、私はそう悟りました。
瓶の蓋を開けながら、彼は私の周囲に立っている商人たちに命令します。
「お前たち。その女を取り押さえるんだ」
「どうなさるおつもりなんですか?」
「此処で僕たちが話していたことを外に漏らさせるわけにはいかないんだよ。この薬を飲ませて正常な理性と自我を潰してから、闇の商人から薬を買おうとしていたところを僕が発見して取り押さえたという名目で国に引き渡す。麻薬中毒者の発言はただの戯言として判断されるからな。それで、僕たちのことは守られる」
「…………」
私は顔を伏せました。
全く……呆れてものも言えませんわね。そのようなちょっと調べればすぐに足がつきそうな稚拙な手段で私の口を塞ごうとするなんて。
頭の良いルーク様のお考えになったこととはとても思えませんわね。
でも、どうぞ御安心なさいませ。貴方が例えどうしようもないほどに救いようのない悪党であったとしても、私は貴方を欲しいと思う気持ちをなくしたりなどしませんから。
「さあ、早く取り押さえろ!」
ルーク様の怒号が飛び、商人の一人が慌てて私の体を羽交い絞めにします。
それなりにお若い男性というだけあって、力はなかなかのものです。完璧に締め上げられていたら、私如きの力ではとても抗うことなどできなかったでしょう。
ですが……残念でした。
「ふっ」
私は息を吐きながら両肩に捻りを加えて、肩関節を通常では考えられない方向に折り曲げます。
まるで蛇の体のようにぐにゃりと変形した私の肩は、商人の羽交い絞めから易々と抜け出しました。
相手が驚いた顔をして私を見ます。そのこめかみを狙って、私は渾身の力を込めた回し蹴りを叩き込みました。
「がっ!?」
私の回し蹴りをまともに食らった商人が、声を上げながら仰向けにひっくり返りました。衝撃で目を回してしまったらしく、彼はそのままぴくりとも動きません。
残った商人たちの間に緊張が走ります。
私は彼らの方を向いて、にこりと笑いながら言いました。
「申し上げ忘れておりましたが……私、体を使うことには少々自信がありますの。甘く見ていると、痛い目に遭いますわよ」
こうなってしまった以上は仕方がありません。あまり気は進みませんが、この場は商人たちを力ずくで黙らせてから改めてルーク様とお話することに致しましょう。
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