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第6話 エリザベートの欲求は底を知らない
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それからパーティー会場に戻ったルーク様は、約束通り大勢の方々の前でシャーロットとの婚約を解消し、私と交際することを宣言して下さいました。
もちろん、婚約を破棄されたリーグル家の方たちは怒りました。ベルモット家には失望させられたと言い残し、未だ未練を引き摺って泣いているシャーロットを連れて帰っていきました。
ルーク様の父を始めとするベルモット家の方たちは、ルーク様の突然の発表に最初は戸惑っておられました。
でも、ヴィーヴル家はリーグル家よりも名が知れているこの街一番の名家です。爵位は今はまだ同じですが、いずれは位が上がるだろうと言われています。ヴィーヴル家はリーグル家のように王家との繋がりがあるわけではありませんが、ベルモット家にとってヴィーヴル家と関係を結ぶことはプラスにこそなれど、マイナス要素を齎すことは決してありません。
ルーク様の巧みな話術が功を奏したこともあって、最終的には、ベルモット家の方たちも私がルーク様と関係を持つことを受け入れて下さいました。
父は、私がルーク様を射止めたことを大層喜んでおりました。私とルーク様が結婚すれば、ヴィーヴル家にベルモット商会という世界規模の大店が後ろ盾につくということになるわけですからね。これ以上にない良縁だと私を褒めて下さいました。
因みに、ルーク様が秘密裏に売りさばこうとしていたオグシードですが……それを密造、密売していた商人たちの存在共々、初めからそのようなものは存在していなかったという扱いにして、この場では存在を黙っておくことにしました。
今私がオグシードの存在を公表すれば、ルーク様は商人たち共々間違いなく刑罰に処せられて牢屋に入れられてしまいます。せっかくルーク様を手に入れたのに手放すことになってしまうのは得策ではありませんからね。
そんな感じで、念願を叶えた私は、気味が悪いくらいに上機嫌な父と共に、ベルモット家から頂いたお祝いの品を持ってお屋敷へと帰宅したのでした。
いつものように護身術の指南を受けた私は、いつものように紅茶とお茶菓子を用意して午後のおやつの時間を楽しみます。
葡萄のマフィンを齧る私を正面の席に座って見つめながら、ソウルは言いました。
「そうか、遂に念願が叶ったか。それもお前が最後まで諦めずに障害にぶつかっていったからこそ果たされたことだ。誇りに思え」
「私の自慢は人一倍諦めが悪いことです。多少の障害など何ということはありませんわ」
「その男も幸せ者だな。お前のような一途な女にこれほどまでに愛されて」
「まあ。貴方からそんな言葉が出てくるとは思いもしませんでしたわ。意外と語れるくちですのね、ソウル先生は」
「俺を茶化すんじゃない」
肩を竦めて紅茶を一口飲んで、彼は問うてきます。
「それで……今後はどうするつもりだ? 元婚約者の女が黙って引き下がるとは思えない。何かしらの反撃をしてくるかもしれんぞ」
「その時はその時です。受けて立ちますわ。私にはソウル先生の教えという強い武器があります。ただの女如きに後れを取ることなどありえません。返り討ちにしてみせますわ」
「……全く、勇ましいものだな。お前が令嬢だということを時々忘れそうになるよ、エリザベート」
私の言葉に、ソウルはくっくっと肩を揺らして両目を細めました。
どうやら、彼は口で言うほど私のことを心配してはいないようです。
それほど、彼は自信を持っているのでしょう。一流の暗殺者である自分の教え子が、ただの人間などに負けるはずがないと。
彼も、なかなかの自信家ですわね。
やはり、彼を家庭教師として手に入れた私の目に狂いはありませんでした。
私は目の前のお皿に乗ったマフィンをソウルへと薦めながら、微笑みました。
「さあ、遠慮なく召し上がって下さいませ。これはお店に行列ができるほどに人気のお菓子なんですのよ。ソウル先生に召し上がって頂きたいと思いまして、わざわざ使用人にお願いして買いに行ってもらったのですから」
「……俺も、幸せ者だな。日陰者でありながらこれほどまでに大切に思ってくれる存在が傍にいてくれるというのは」
「何か仰いましたか? ソウル先生」
「……いや、別に」
いつも通りのおやつの時間は、いつものように他愛のない会話を楽しみながら穏やかに過ぎていきます。
こうして何事もなく普段通りの時間をゆったりと過ごせるというのも、私が幸せである何よりの証拠ですね。
馬車で学園の門に到着した私は、学び舎までの道をゆったりとした足取りで歩いていきます。
周囲の生徒たちが、私の姿を見てさり気なく距離を置きます。私に目を付けられたくないという彼らの心情がそこはかとなく伝わってきます。
学園では、私は悪名の方が目立っていますから。こういう扱いをされるのもある意味仕方のないことです。
でも、私は別にそのことを気にしてはおりません。私は人気者になる気など毛頭ありませんので。
この学園に通う権利さえ剥奪されなければ、十分なのです。
「エリザベート!」
誰かが、背後から私の名を呼びます。
つられて振り返ると、駆け足で私の元へと近付いてくるあの御方の姿がありました。
「おはよう、エリザベート。相変わらず君は美しいね……流石、僕の女神というだけあるよ」
私の左肩に親しげに手を置いてくる彼。
私は表情を歪めてその手を邪険に払うと、無防備な股間に渾身の力を込めた膝蹴りを叩き込みました。
めりっ、と膝が肉にめり込んで、彼の笑顔が一瞬にして苦痛を耐える顔へと変わります。
その様子を冷たく見つめながら、私は突き放すように言いました。
「馴れ馴れしく触らないで下さるかしら? この駄犬。むやみに御主人様に触れてはいけないと、何度教えたら理解するんですの? 全く、服が汚れたらどう責任を取るおつもりなんですの」
「……はうぅ……」
彼の表情が恍惚の色へと染まります。
彼は、今の言葉と急所への痛みで感じているのです。気持ちいいと思っているのです。
全く、黙っていれば凛々しくて頭も良くて素敵な殿方ですのに。一体何が彼をこんな風に変えてしまったのですかね?
……ああ、元からでしたわね。彼のこの異常とも言える変態な性癖は。
「あ、ああ……いいよ、いい。たまらなくいい。思わず出してしまいそうになったよ……もっとおくれ、エリザベート。もっと僕を蔑んで、踏みつけておくれ」
「此処は学園ですわよ。生徒がお勉強に励む場所であって、貴方を喜ばせる場所ではありません。我慢なさい、お勉強が済みましたら、御希望通りに幾らでも踏みつけて差し上げますから」
「ああ、分かったよ、君がそう言うなら幾らでも我慢してみせよう! この首輪に誓って!」
そう言って、彼は自らの首に填まっている細身の首輪に指先を触れました。
これは、私が彼にプレゼントして差し上げたものです。元々は大型犬用の首輪なのですが、それを彼は喜んで片時も外すことなく身に着けています。
何てものを贈ってるんだ、ですって? これは彼の希望なのですよ。私のものとなった証として首輪が欲しいと言い出したのは彼なのです。私はただそのお願いを聞いてあげただけに過ぎません。
私は優しい女ですので。人から頼み事をされたら嫌とは言えない性分なのです。
「さあ、行きますわよ、ルーク。じきに授業が始まります。ぼやぼやしていないで歩きなさい」
「ああ、待ってくれ……エリザベート。君の愛が強すぎて、足に力が入らないんだ……もう少しゆっくり歩いてくれないか」
「情けないですわね。二度とそんな言葉が吐けないように、ぺしゃんこになるまで叩き潰して差し上げましょうか?」
「それだけは勘弁してくれ! そんな強すぎる愛を貰ったら、理性が飛んでしまう! 歩けなくなってしまうよ! 流石にこんな大勢の前でそんな恥ずかしい姿を晒したくはない!」
「でしたら気合を入れて歩きなさい」
微妙にふらふらとした足取りで歩いていくルークの後ろ姿を、私は溜め息混じりに見つめました。
ルーク様、じゃないのかですって? 何を仰っているのですか。私の所有物となった彼を敬う必要など何処にもないではありませんか。
ええ、彼は私の恋人ではありません。所有物です。それ以上でもそれ以下でもありません。
最初から私は申し上げていますわよ? 私は彼が欲しい、自分のものにしたい、と。そのように。
そのようには言いましたが、彼を愛している、彼と結婚したいとは一言も申したつもりはございません。
勘違いされては困ります。私の目的は、彼を私の所有物とすること。要は骨董品や芸術品を手に入れてコレクションとして並べることと同じなのです。
ルーク・ベルモットは私の自慢のコレクションです。大切にして愛でることはあれど、そこに恋愛感情を持つことは一切ありません。
もっとも、ルークの方は私が自分をそのような目で見ているとはこれっぽっちも思ってはいないようですけれどね。
でも、彼にとっても所詮は些細なことにすぎません。彼は今この上なく幸せなのですから。私にモノ扱いされて蔑まれて苛められることに快楽を見出して、それを自ずから求めているのですから。
私が完全に飽きて捨てたくなるまでは、大切にして差し上げますわ。それまでは精一杯、私を満たして下さいませね、ルーク。
歩みを再開する私の前を、小柄な人影が横切っていきます。
ボブカットにしたふわふわの金髪に、澄んだエメラルド色の瞳が綺麗です。胸に膨らみの存在が見られないのは、彼が少年だからでしょうか、それともまだ成熟するには早い年頃の少女だからでしょうか?
整った身なりに、手に提げた小さな鞄の存在を見る限りでは、あの子もこの学園の生徒なのでしょうが……あのような可愛らしい子が此処の生徒であるということは初めて知りました。この学園の中には、まだまだ私の知らない世界がそこかしこに存在しているようですわね。
私は遠ざかっていくあの子の背中を視線で追いかけながら、思いました。
あのようなお人形のような子が私の傍にいてくれたら、私の人生は一層充実したものになるに違いありませんね、と……
私はあの子が欲しくなりました。少年か少女か、そのようなことは些細なことです。どちらであったとしても、あの子の魅力が失われることなどありえないのですから。
必ず手に入れてみせますわ。あの子を。どんな手を使ったとしても。
そう決意して、私は学び舎に向かって歩いていきます。
始業の時を告げる鐘の音が澄んだ音を立てて辺りに響き渡ったのは、私が学び舎の中に入ったのと同時でした。
私はエリザベート・ヴィーヴル。欲しいものはどんな手を使ってでも必ず手に入れてきた、底なしの欲を持つ女です。
さあ、私を魅了したあの子を、どうやって手に入れましょうか。
私の悩める日々は、まだまだ終わることを知らないようです。
もちろん、婚約を破棄されたリーグル家の方たちは怒りました。ベルモット家には失望させられたと言い残し、未だ未練を引き摺って泣いているシャーロットを連れて帰っていきました。
ルーク様の父を始めとするベルモット家の方たちは、ルーク様の突然の発表に最初は戸惑っておられました。
でも、ヴィーヴル家はリーグル家よりも名が知れているこの街一番の名家です。爵位は今はまだ同じですが、いずれは位が上がるだろうと言われています。ヴィーヴル家はリーグル家のように王家との繋がりがあるわけではありませんが、ベルモット家にとってヴィーヴル家と関係を結ぶことはプラスにこそなれど、マイナス要素を齎すことは決してありません。
ルーク様の巧みな話術が功を奏したこともあって、最終的には、ベルモット家の方たちも私がルーク様と関係を持つことを受け入れて下さいました。
父は、私がルーク様を射止めたことを大層喜んでおりました。私とルーク様が結婚すれば、ヴィーヴル家にベルモット商会という世界規模の大店が後ろ盾につくということになるわけですからね。これ以上にない良縁だと私を褒めて下さいました。
因みに、ルーク様が秘密裏に売りさばこうとしていたオグシードですが……それを密造、密売していた商人たちの存在共々、初めからそのようなものは存在していなかったという扱いにして、この場では存在を黙っておくことにしました。
今私がオグシードの存在を公表すれば、ルーク様は商人たち共々間違いなく刑罰に処せられて牢屋に入れられてしまいます。せっかくルーク様を手に入れたのに手放すことになってしまうのは得策ではありませんからね。
そんな感じで、念願を叶えた私は、気味が悪いくらいに上機嫌な父と共に、ベルモット家から頂いたお祝いの品を持ってお屋敷へと帰宅したのでした。
いつものように護身術の指南を受けた私は、いつものように紅茶とお茶菓子を用意して午後のおやつの時間を楽しみます。
葡萄のマフィンを齧る私を正面の席に座って見つめながら、ソウルは言いました。
「そうか、遂に念願が叶ったか。それもお前が最後まで諦めずに障害にぶつかっていったからこそ果たされたことだ。誇りに思え」
「私の自慢は人一倍諦めが悪いことです。多少の障害など何ということはありませんわ」
「その男も幸せ者だな。お前のような一途な女にこれほどまでに愛されて」
「まあ。貴方からそんな言葉が出てくるとは思いもしませんでしたわ。意外と語れるくちですのね、ソウル先生は」
「俺を茶化すんじゃない」
肩を竦めて紅茶を一口飲んで、彼は問うてきます。
「それで……今後はどうするつもりだ? 元婚約者の女が黙って引き下がるとは思えない。何かしらの反撃をしてくるかもしれんぞ」
「その時はその時です。受けて立ちますわ。私にはソウル先生の教えという強い武器があります。ただの女如きに後れを取ることなどありえません。返り討ちにしてみせますわ」
「……全く、勇ましいものだな。お前が令嬢だということを時々忘れそうになるよ、エリザベート」
私の言葉に、ソウルはくっくっと肩を揺らして両目を細めました。
どうやら、彼は口で言うほど私のことを心配してはいないようです。
それほど、彼は自信を持っているのでしょう。一流の暗殺者である自分の教え子が、ただの人間などに負けるはずがないと。
彼も、なかなかの自信家ですわね。
やはり、彼を家庭教師として手に入れた私の目に狂いはありませんでした。
私は目の前のお皿に乗ったマフィンをソウルへと薦めながら、微笑みました。
「さあ、遠慮なく召し上がって下さいませ。これはお店に行列ができるほどに人気のお菓子なんですのよ。ソウル先生に召し上がって頂きたいと思いまして、わざわざ使用人にお願いして買いに行ってもらったのですから」
「……俺も、幸せ者だな。日陰者でありながらこれほどまでに大切に思ってくれる存在が傍にいてくれるというのは」
「何か仰いましたか? ソウル先生」
「……いや、別に」
いつも通りのおやつの時間は、いつものように他愛のない会話を楽しみながら穏やかに過ぎていきます。
こうして何事もなく普段通りの時間をゆったりと過ごせるというのも、私が幸せである何よりの証拠ですね。
馬車で学園の門に到着した私は、学び舎までの道をゆったりとした足取りで歩いていきます。
周囲の生徒たちが、私の姿を見てさり気なく距離を置きます。私に目を付けられたくないという彼らの心情がそこはかとなく伝わってきます。
学園では、私は悪名の方が目立っていますから。こういう扱いをされるのもある意味仕方のないことです。
でも、私は別にそのことを気にしてはおりません。私は人気者になる気など毛頭ありませんので。
この学園に通う権利さえ剥奪されなければ、十分なのです。
「エリザベート!」
誰かが、背後から私の名を呼びます。
つられて振り返ると、駆け足で私の元へと近付いてくるあの御方の姿がありました。
「おはよう、エリザベート。相変わらず君は美しいね……流石、僕の女神というだけあるよ」
私の左肩に親しげに手を置いてくる彼。
私は表情を歪めてその手を邪険に払うと、無防備な股間に渾身の力を込めた膝蹴りを叩き込みました。
めりっ、と膝が肉にめり込んで、彼の笑顔が一瞬にして苦痛を耐える顔へと変わります。
その様子を冷たく見つめながら、私は突き放すように言いました。
「馴れ馴れしく触らないで下さるかしら? この駄犬。むやみに御主人様に触れてはいけないと、何度教えたら理解するんですの? 全く、服が汚れたらどう責任を取るおつもりなんですの」
「……はうぅ……」
彼の表情が恍惚の色へと染まります。
彼は、今の言葉と急所への痛みで感じているのです。気持ちいいと思っているのです。
全く、黙っていれば凛々しくて頭も良くて素敵な殿方ですのに。一体何が彼をこんな風に変えてしまったのですかね?
……ああ、元からでしたわね。彼のこの異常とも言える変態な性癖は。
「あ、ああ……いいよ、いい。たまらなくいい。思わず出してしまいそうになったよ……もっとおくれ、エリザベート。もっと僕を蔑んで、踏みつけておくれ」
「此処は学園ですわよ。生徒がお勉強に励む場所であって、貴方を喜ばせる場所ではありません。我慢なさい、お勉強が済みましたら、御希望通りに幾らでも踏みつけて差し上げますから」
「ああ、分かったよ、君がそう言うなら幾らでも我慢してみせよう! この首輪に誓って!」
そう言って、彼は自らの首に填まっている細身の首輪に指先を触れました。
これは、私が彼にプレゼントして差し上げたものです。元々は大型犬用の首輪なのですが、それを彼は喜んで片時も外すことなく身に着けています。
何てものを贈ってるんだ、ですって? これは彼の希望なのですよ。私のものとなった証として首輪が欲しいと言い出したのは彼なのです。私はただそのお願いを聞いてあげただけに過ぎません。
私は優しい女ですので。人から頼み事をされたら嫌とは言えない性分なのです。
「さあ、行きますわよ、ルーク。じきに授業が始まります。ぼやぼやしていないで歩きなさい」
「ああ、待ってくれ……エリザベート。君の愛が強すぎて、足に力が入らないんだ……もう少しゆっくり歩いてくれないか」
「情けないですわね。二度とそんな言葉が吐けないように、ぺしゃんこになるまで叩き潰して差し上げましょうか?」
「それだけは勘弁してくれ! そんな強すぎる愛を貰ったら、理性が飛んでしまう! 歩けなくなってしまうよ! 流石にこんな大勢の前でそんな恥ずかしい姿を晒したくはない!」
「でしたら気合を入れて歩きなさい」
微妙にふらふらとした足取りで歩いていくルークの後ろ姿を、私は溜め息混じりに見つめました。
ルーク様、じゃないのかですって? 何を仰っているのですか。私の所有物となった彼を敬う必要など何処にもないではありませんか。
ええ、彼は私の恋人ではありません。所有物です。それ以上でもそれ以下でもありません。
最初から私は申し上げていますわよ? 私は彼が欲しい、自分のものにしたい、と。そのように。
そのようには言いましたが、彼を愛している、彼と結婚したいとは一言も申したつもりはございません。
勘違いされては困ります。私の目的は、彼を私の所有物とすること。要は骨董品や芸術品を手に入れてコレクションとして並べることと同じなのです。
ルーク・ベルモットは私の自慢のコレクションです。大切にして愛でることはあれど、そこに恋愛感情を持つことは一切ありません。
もっとも、ルークの方は私が自分をそのような目で見ているとはこれっぽっちも思ってはいないようですけれどね。
でも、彼にとっても所詮は些細なことにすぎません。彼は今この上なく幸せなのですから。私にモノ扱いされて蔑まれて苛められることに快楽を見出して、それを自ずから求めているのですから。
私が完全に飽きて捨てたくなるまでは、大切にして差し上げますわ。それまでは精一杯、私を満たして下さいませね、ルーク。
歩みを再開する私の前を、小柄な人影が横切っていきます。
ボブカットにしたふわふわの金髪に、澄んだエメラルド色の瞳が綺麗です。胸に膨らみの存在が見られないのは、彼が少年だからでしょうか、それともまだ成熟するには早い年頃の少女だからでしょうか?
整った身なりに、手に提げた小さな鞄の存在を見る限りでは、あの子もこの学園の生徒なのでしょうが……あのような可愛らしい子が此処の生徒であるということは初めて知りました。この学園の中には、まだまだ私の知らない世界がそこかしこに存在しているようですわね。
私は遠ざかっていくあの子の背中を視線で追いかけながら、思いました。
あのようなお人形のような子が私の傍にいてくれたら、私の人生は一層充実したものになるに違いありませんね、と……
私はあの子が欲しくなりました。少年か少女か、そのようなことは些細なことです。どちらであったとしても、あの子の魅力が失われることなどありえないのですから。
必ず手に入れてみせますわ。あの子を。どんな手を使ったとしても。
そう決意して、私は学び舎に向かって歩いていきます。
始業の時を告げる鐘の音が澄んだ音を立てて辺りに響き渡ったのは、私が学び舎の中に入ったのと同時でした。
私はエリザベート・ヴィーヴル。欲しいものはどんな手を使ってでも必ず手に入れてきた、底なしの欲を持つ女です。
さあ、私を魅了したあの子を、どうやって手に入れましょうか。
私の悩める日々は、まだまだ終わることを知らないようです。
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