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冒険者への道
第15話 レオンを蝕むもの
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ぱしゃん、と湯が跳ねる。
透明な湯船に浸かり、アメルは脹脛を一生懸命に揉んでいた。
今までにやったことのない量の運動を急に行ったので、彼女の全身の筋肉はぱんぱんになっていた。それを少しでもほぐすために、懸命にマッサージをしているのだ。
レオンは優しい。しかし、訓練においては彼は一切の妥協をしない。
アメルが運動の初心者だと分かっていても、初心者がやり遂げられる限界の運動量を見極めて彼女にノルマを課す。
その辺りは流石名教官といったところだろう。
もっとも、アメルにとっては鬼教官と遜色ないかもしれないが。
「はあ……」
脹脛、二の腕、特によく動かした筋肉をよく揉んで、広い浴槽の中で全身を伸ばす。
寝室もリビングも殺風景なレオンの家ではあるが、浴室の設備は整えられ小物も充実していたことに関してはアメルにとっては驚きだった。
石鹸は無造作に置かずにきちんと専用の容器に入れられ壁に誂えられた棚に置かれ、体を洗うためのタオルもあり、湯加減を見るための湯掻き棒といった道具も一通り揃っている。小さいが壁には鏡も備えられている。
特に、湯を沸かすための設備。風呂を焚くための立派な竈があるのは、一般家庭の家に備えられている風呂としてはかなり珍しいものだ。
どうやらレオンは、風呂を生活における設備としてかなり重要視しているようである。
「……気持ちいい」
つい口に出してしまう。
そのくらい、彼女にとって入浴は至福のひと時だった。
──ゆったりと全身を温めて、彼女は浴槽から出た。
鏡の前に立ち、腕に力を入れて力こぶを作ってみる。
まだまだ色々な部分が発展途上にある彼女の体は、日焼けもしておらず、力強さも感じられない。
一日特訓をしただけで急に体が出来上がるわけではない。まだまだ、これからといったところだ。
明日も頑張ろう。鏡の中の自分にそう胸中で言い聞かせ、彼女は浴室を出た。
タオルで濡れた体や髪をよく拭いて、籠に置かれていた寝間着を身に着ける。
この服は、訓練用の服同様にレオンが彼女に買ってくれたものだった。
柔らかな綿の肌触りを感じながら、格好を整える。
室内履きを履いて、使ったタオルは部屋の隅にある籠に入れ、リビングへと向かう。
「レオン、お風呂、上がったよ──」
アメルが風呂に行く時は、リビングで紅茶を飲みながら寛いでいたレオン。今も同じ場所にいるであろう彼に声を掛ける。
彼女の目はレオンの姿を探して、──ある一点で、動きを止めた。
床に横倒しになった椅子。
その隣に、投げ出されたような格好で床の上に倒れているレオンの背中に釘付けになった。
「……レオン!?」
ぱたぱたと駆け寄り、レオンの肩に手を触れる。
レオンは胸元を必死に押さえながら、苦悶の表情を浮かべていた。
はー、はー、と荒い呼吸を繰り返している。何とか呼吸を整えようとしているようだが、上手くいかないようだった。
「どうしたの、大丈夫!?」
「……アメル」
レオンの視線が泳ぐように動いてアメルの顔を捉えた。
「……大丈夫……すぐに、収まるから……心配、いらない」
言って、彼は目をきつく閉ざした。
アメルの力では、レオンをベッドに運ぶどころか起こすことすらできない。
アメルは自分が何もできないことを歯痒く思いながら、レオンが彼の言う通りに立ち直るまでその場に座って彼を見守り続けたのだった。
透明な湯船に浸かり、アメルは脹脛を一生懸命に揉んでいた。
今までにやったことのない量の運動を急に行ったので、彼女の全身の筋肉はぱんぱんになっていた。それを少しでもほぐすために、懸命にマッサージをしているのだ。
レオンは優しい。しかし、訓練においては彼は一切の妥協をしない。
アメルが運動の初心者だと分かっていても、初心者がやり遂げられる限界の運動量を見極めて彼女にノルマを課す。
その辺りは流石名教官といったところだろう。
もっとも、アメルにとっては鬼教官と遜色ないかもしれないが。
「はあ……」
脹脛、二の腕、特によく動かした筋肉をよく揉んで、広い浴槽の中で全身を伸ばす。
寝室もリビングも殺風景なレオンの家ではあるが、浴室の設備は整えられ小物も充実していたことに関してはアメルにとっては驚きだった。
石鹸は無造作に置かずにきちんと専用の容器に入れられ壁に誂えられた棚に置かれ、体を洗うためのタオルもあり、湯加減を見るための湯掻き棒といった道具も一通り揃っている。小さいが壁には鏡も備えられている。
特に、湯を沸かすための設備。風呂を焚くための立派な竈があるのは、一般家庭の家に備えられている風呂としてはかなり珍しいものだ。
どうやらレオンは、風呂を生活における設備としてかなり重要視しているようである。
「……気持ちいい」
つい口に出してしまう。
そのくらい、彼女にとって入浴は至福のひと時だった。
──ゆったりと全身を温めて、彼女は浴槽から出た。
鏡の前に立ち、腕に力を入れて力こぶを作ってみる。
まだまだ色々な部分が発展途上にある彼女の体は、日焼けもしておらず、力強さも感じられない。
一日特訓をしただけで急に体が出来上がるわけではない。まだまだ、これからといったところだ。
明日も頑張ろう。鏡の中の自分にそう胸中で言い聞かせ、彼女は浴室を出た。
タオルで濡れた体や髪をよく拭いて、籠に置かれていた寝間着を身に着ける。
この服は、訓練用の服同様にレオンが彼女に買ってくれたものだった。
柔らかな綿の肌触りを感じながら、格好を整える。
室内履きを履いて、使ったタオルは部屋の隅にある籠に入れ、リビングへと向かう。
「レオン、お風呂、上がったよ──」
アメルが風呂に行く時は、リビングで紅茶を飲みながら寛いでいたレオン。今も同じ場所にいるであろう彼に声を掛ける。
彼女の目はレオンの姿を探して、──ある一点で、動きを止めた。
床に横倒しになった椅子。
その隣に、投げ出されたような格好で床の上に倒れているレオンの背中に釘付けになった。
「……レオン!?」
ぱたぱたと駆け寄り、レオンの肩に手を触れる。
レオンは胸元を必死に押さえながら、苦悶の表情を浮かべていた。
はー、はー、と荒い呼吸を繰り返している。何とか呼吸を整えようとしているようだが、上手くいかないようだった。
「どうしたの、大丈夫!?」
「……アメル」
レオンの視線が泳ぐように動いてアメルの顔を捉えた。
「……大丈夫……すぐに、収まるから……心配、いらない」
言って、彼は目をきつく閉ざした。
アメルの力では、レオンをベッドに運ぶどころか起こすことすらできない。
アメルは自分が何もできないことを歯痒く思いながら、レオンが彼の言う通りに立ち直るまでその場に座って彼を見守り続けたのだった。
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