アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
2 / 176

第2話 物で釣らないでほしい

しおりを挟む
「……?」
 僕はきつく閉じていた瞼を開いた。
 目の前にいたライトニング・スプライトは、いなくなっていた。
 その代わりに、ライトニング・スプライトがいた場所に小石が落ちていた。
 僕が小石に注目していると、斜め後ろからくすくすという笑い声が聞こえてきた。

「人気者だねー、シルカ」

 僕は声のした方に振り向いた。
 五歩分ほど離れた位置に、男物の魔術師のローブを身に着けた金茶の髪の女が立っている。
 彼女は微笑ましげな表情で、僕のことをのんびりと見つめていた。
「こんなにスプライトに群がられてる人なんて見たことないよ。シルカ、スプライトを集める才能があるんじゃない?」
「フラウ!」
 僕は彼女の名を叫んだ。
「僕を護衛するって言っといて何処に行ってたんだよ! お陰でこっちは死ぬところだったんだぞ!」
「いや、大きなウォーター・スプライトがいてさー。良質の核が採れるかもって思って追いかけてたら、いつの間にか森の奥に入っちゃってたみたいで」
 ウォーター・スプライトとは、天候が雨の時に発生する魔物で、ライトニング・スプライトと同じスプライト族の仲間だ。
 雷雨の時は基本的にライトニング・スプライトしか湧かないものなのだが、雷の力が弱かったのか一緒に湧いていたらしい。
 ……と、そんなことはどうでもいいのだ。
 僕は怒鳴った。
「これだから森に来るのは嫌だったんだよ! ライトニング・スプライトには殺されそうになるし全身泥だらけになるし、散々だ!」
「殺されるって……シルカ、大袈裟すぎ」
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
 笑うのをやめないフラウに当たり散らす僕。
「とにかく! 何とかしてくれよ!」
「はいはい」
 フラウは肩を竦めると、持っていた杖の先端を僕へと向けた。
「ストーンバレット」
 ばん、ばぁんっ!
 杖の先端から生じた大量の石礫が、僕の体の上に群がっていたライトニング・スプライトを吹き飛ばした。
 ライトニング・スプライトは雷属性の魔物だから、弱点に当たる土属性の魔術は効果覿面なのだ。
「はい、もういいよ」
「…………」
 僕はのろのろと身を起こした。
 ああ、服がすっかり泥でぐちゃぐちゃだ。洗っただけで落ちるだろうか。
 僕の格好を見て、再度ぷっとフラウが吹き出した。
「シルカ、凄い格好」
「……もう帰る」
「子供じゃないんだから拗ねないの。はい、これ」
 むすっとする僕の傍まで来て、フラウは腰のポーチから取り出したものを僕の目の前に差し出してきた。
「ウォーター・スプライトの核。シルカ、欲しがってたでしょ」
「…………」
 スプライトの核は、見た目はほんのり色の付いたただの水晶玉のように見えるが、貴重な錬金素材なのだ。
 秘められた属性によって作れるものは変わるが、その殆どは高度な魔術の力を秘めた魔術師用の杖となる。
 ウォーター・スプライトの核は丁度在庫を切らしていたから有難い。
 僕はむすっとした顔のまま、ウォーター・スプライトの核を受け取った。
「……素材を渡せば僕の機嫌が直るとでも思うなよ」
「思ってないって、そんなこと。たまたま手に入ったから欲しがってる人にあげた、それだけのことじゃん」
 肩口でばっさりと切った髪をかしかしと掻いて、彼女は言った。
「……本当に、よろず屋の店主に納まっちゃったんだね、シルカ。灰燼の魔術師の二つ名が泣くよ?」
「……その話はしないでくれ。僕はもう魔術師じゃない。魔術師は引退したんだ」
 僕は溜め息をついた。
 額を伝って落ちる雨粒を指先で払いながら、伏せた視線をフラウに向ける。
「ライトニング・スプライトは狩ったから目的は果たしたんだろ。街に帰ろう。もうたかられるのは御免だ」
「分かったって。帰りはちゃんと護衛するから、いい加減機嫌直しなよ」
 街に向かってさっさと歩き始める僕の後を、数歩遅れてフラウが付いてくる。
 彼女は空を見上げて、あーあと声を漏らした。
「ライトニング・スプライトの核も採れれば良かったんだけどねぇ。もう少し狩ってく?」
「嫌だ。僕は早く帰りたい」
「そんなに嫌がらなくたっていいじゃない。冗談だよ」
「あんたの言葉は冗談に聞こえないから嫌なんだよ」
 アメミヤの森は、相変わらず雷鳴が轟き大粒の雨が降っている。
 雨がやむまでは、まだしばらく時間がかかりそうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

野獣と噂の王太子と偽りの妃

葉月 まい
ファンタジー
継母に勧められるまま、 野獣のように恐ろしいと噂の 王太子との縁談に向かった 伯爵令嬢のプリムローズ。 「勘違いするな。妃候補だなどと思っているなら大きな間違いだ。とっとと帰れ」 冷たくあしらわれるが 継母と異母妹の為にも 邪魔者の自分が帰る訳にはいかない。 「わたくしをここの使用人として 雇っていただけませんか?」 「…は?!」 戸惑う王太子の告白。 「俺は真の王太子ではない。そなたはこんなところにいてはならない。伯爵家に帰れ」 二人の関係は、どうなっていくのか? ⎯⎯⎯⎯ ◦◈◦◈◦◈◦⎯⎯⎯⎯ プリムローズ=ローレン(十七歳)…伯爵令嬢 母を知らずに育ち、継母や異母妹に遠慮しながら毎日を過ごしている。 自分がいない方がいいと、勧められるまま王太子の妃候補を募る通達により、宮殿へ。 野獣のように恐ろしいと噂の王太子に 冷たくされながらも いつしか心を通わせていく。 そんなプリムローズの 幸せなプリンセスストーリー♡

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...