アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第7話 海の上に浮かぶダンジョン

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 シル・ベスク岩礁域。そこは切り立った崖と海面から顔を覗かせる岩で景色が構成された、如何にも何かありそうな雰囲気の場所だった。
 押し寄せる波が岩に当たって派手な水飛沫を立てている。
 ダンジョンの入口は、崖の下。岩礁が連なって足場を形成している場所、そこにぽかりと口を開けている洞窟の入口がそれだった。
 おそらく波が岩を削って形成された洞窟なのだろう。岩肌はでこぼことしており、あちこちに小さなフジツボがくっついている。
 洞窟の中から流れてくる空気はひやりと冷たい。
 この分だと、ダンジョンの中は気温が低そうだ。防寒着くらい用意しておくべきだったかな。
「着いたな。此処からが本番だ」
 潮風で乱れた灰色の髪を掻いて整えながら、アラグは言った。
「俺が先頭を歩く。フラウが殿だ。シルカはフラウから離れないように、俺の後ろをついてきてくれ」
「分かった」
 僕はフラウから火の入ったランタンを受け取った。
 魔物と遭遇した時に驚いて火種を消さないようにしないとな。
 しっかりとランタンを手に持って、僕は先陣を切って洞窟の中に入っていくアラグの後に続いた。

 ダンジョンに入ってすぐは、何もない一本道が続いた。
 あちこちから生えている珊瑚のような植物が光っているお陰で、ランタンの明かりがなくてもある程度遠くが見渡せる。
 通路を形成している岩肌はしっとりとしており、海の匂いが仄かに漂っていた。
 渓谷型、とアラグは言っていたけど、今のところはそんな雰囲気は微塵も感じられない。
 おそらく奥の方に行くほど地形が険しくなっているのだろう。
 僕は濡れた床に足を取られないように注意しながら、黙ってアラグの背中を追った。
 ひゅ……と前方から冷たい風が流れてくる。
 それは僕たちの髪を揺らし、後方に吹き抜けていった。
「……静かだね」
 ふと、フラウがそんなことを言った。
「こんなに何の気配もないなんて、おかしいと思わない?」
「そうだな」
 それに相槌を打つアラグ。
 彼は油断なく前方を見据えたまま、言った。
「俺が前に此処に来た時は、こんなに平和じゃなかった。入ってすぐに魔物に出くわしたもんだ」
「普通じゃないよ、これは」
 アラグたちがこの状況を訝るのには理由がある。
 ダンジョンは、基本的に魔物とのエンカウント率が高い。そこかしこに魔物がいて、足を踏み入れたらすぐにそれらと鉢合わせするのが普通なのだ。
 では、そうではないこの状況は一体何なのか。
 あまり考えたくはないが──
「何かが起きてるな」
 僕の考えをそのまま代弁するかのように、アラグは呟く。
 僕は喉を鳴らした。
 それと同時に、行く手から何か硬い物が転がるような音が聞こえてきた。
 今のは、結構大きな音だ。
「……今の」
「岩が崩れた音だな。何処かで通路が崩落したか?」
 さらりととんでもないことを言って、アラグは歩く速度を少しだけ速めた。
「早いところ広い場所に出よう」
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