アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
8 / 176

第8話 橋を架ける

しおりを挟む
 開けている場所に出た。
 道は崖に寸断されて途切れており、崖の下には水の流れがある。
 そこかしこに鍾乳洞ができており、ぽつぽつと水が垂れ落ちている。
 光る珊瑚は此処にも生えており、渓谷全体を淡く照らしてくれているお陰で地形がよく見える。
 崖から向こう岸を覗くと、十メートルほど先に道の続きがあるのが見えた。
 これは……跳んで渡れるような距離ではないな。
 僕が崖を覗いていると、アラグの溜め息が聞こえてきた。
「さっきのは此処の崖が崩れた音だな。前に来た時よりも谷が大きくなってやがる」
 どうやら、此処ら一帯は川があるせいで足場が脆くなっているらしい。
「シルカ、出番だ。此処の道を繋いでくれ」
 此処を繋ぐのか……
 僕は足下の地面の様子を確認した。
 湿気を含んだ岩の地面は、固さはとりあえず申し分ない。
 対岸までは十メートル。何とか……いけそうだ。
 僕は深呼吸をして、両手を地面にしっかりと付けた。
 掌に魔力を込めて、脳内に橋を築くイメージを描く。
 ばしっ、と辺りの地面に僕の魔力が迸る。
 地面が変形し、崖の先端が向こう岸に向かって延びていく。
 ──この橋を架けるという作業は、厳密に言うと橋を新しく作っているのではない。足場を魔力で変形させて、橋のように伸ばしているのだ。
 当然、橋の材料となる足場の岩は、橋ができていくほど質量を取られて薄くなっていく。考えなしに橋を作ろうとすると、足場の方が崩れてしまうため注意が必要だ。
 今回作る橋は十メートルほどなので、流石に足場が崩れるほどに岩が薄くなるといったことはないだろうが、何事にも万が一ということがある。警戒するに越したことはない。
 そうして、橋が谷の半ばほどまでできた時。対岸から黒いものがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
 大きな翼に、鋭い爪。キィキィと甲高い声を発する、牙剥き出しの口。
 あれは──
「ケイブバット! 音に反応して出てきたな」
 剣を抜くアラグ。
「フラウ、撃ち落とせ! シルカの方に近付けさせるな!」
「了解!」
 フラウが杖を頭上に翳して、声高に叫んだ。
「サンダーバレット!」
 彼女の杖の先端が淡い紫に輝き、幾つもの光の球が生まれて迫り来るケイブバットを捉えた。
 ばちっ、ばちっと雷撃が迸り、フラウの魔術を食らったケイブバットが次々と谷底に落ちていく。
 しかし、飛んでくるケイブバットの数はまだまだ多い。
「アイシクルランス!」
 氷の槍が、ケイブバットの翼に風穴を空ける。
 飛べなくなったケイブバットが地面に落ちる。それを剣で両断して、アラグは僕に向かって言った。
「シルカは橋作りを止めるな! お前の方には意地でも近寄らせないから安心しろ!」
「頼むよ!」
 僕は意識を橋に集中させた。
 今此処で橋作りを止めたら、せっかくここまで作った橋が崩れてしまう。完成するまで、この作業を止めるわけにはいかないのだ。
「ウィンドスラッシュ!」
 ざん、と体を斜めに真っ二つにされたケイブバットが僕の目の前に落ちてくる。
 どさ、と目の前に臓物が丸見えの死骸が転がったので、僕は思わず悲鳴を上げた。
「うわぁぁ!?」
「死体を見たくらいで騒ぐな! びっくりするだろ!」
「無茶言うな! 馬鹿!」
 ちょっぴり涙目になりながら、何とか意識を橋の方に集中させる。
 橋は八割がた完成した。後少しだ。
「ファイアボール!」
 フラウの魔術がケイブバットを三匹まとめて消し炭にする。
 火の粉が散り、一瞬だけ場が明るくなった。
「おりゃっ!」
 アラグが振るった剣が飛んでいた最後のケイブバットを両断する。
 ケイブバットが地面に落ちた時、ようやく橋が完成した。
「橋、できたぞ!」
「こっちも丁度終わった。大した数じゃなかったな」
 剣を背に戻し、アラグは僕の背後に立った。
 完成した橋を見て、頷く。
「よし、これで先に進めるな。やっぱりお前を連れてきて正解だった」
「ケイブバットっていえば翼が素材になるんでしょ? 持ってく?」
 足下に散らばったケイブバットの死骸を見つめながらフラウが尋ねてくる。
 いや、とアラグは首を振った。
「ケイブバットはそんなに珍しい魔物じゃないからな。パスだ。持ち帰れる量には限りがあるからな」
 ケイブバットの翼は皮素材として用いられている。指輪などの装飾品に使われているのだ。
 僕としても、ケイブバットの素材はそんなに魅力には感じない。冒険者たちがよく店に持って来てくれる素材だから、在庫が結構あるのだ。
 どうせ持って帰るなら、もっと珍しくて価値のある素材でお願いしたい。
「先に進むぞ」
 僕たちは隊列を整えて、橋を渡って更に先へと進んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

野獣と噂の王太子と偽りの妃

葉月 まい
ファンタジー
継母に勧められるまま、 野獣のように恐ろしいと噂の 王太子との縁談に向かった 伯爵令嬢のプリムローズ。 「勘違いするな。妃候補だなどと思っているなら大きな間違いだ。とっとと帰れ」 冷たくあしらわれるが 継母と異母妹の為にも 邪魔者の自分が帰る訳にはいかない。 「わたくしをここの使用人として 雇っていただけませんか?」 「…は?!」 戸惑う王太子の告白。 「俺は真の王太子ではない。そなたはこんなところにいてはならない。伯爵家に帰れ」 二人の関係は、どうなっていくのか? ⎯⎯⎯⎯ ◦◈◦◈◦◈◦⎯⎯⎯⎯ プリムローズ=ローレン(十七歳)…伯爵令嬢 母を知らずに育ち、継母や異母妹に遠慮しながら毎日を過ごしている。 自分がいない方がいいと、勧められるまま王太子の妃候補を募る通達により、宮殿へ。 野獣のように恐ろしいと噂の王太子に 冷たくされながらも いつしか心を通わせていく。 そんなプリムローズの 幸せなプリンセスストーリー♡

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...