アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第9話 最下層にあるものは

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 奥に進めば進むほど、ダンジョンの地形は険しくなっていった。
 縦長に伸びた通路を今にも飲み込まんとしている勢いの滝は、物凄い音を立てて遥か下方を流れる川へと落ちている。
 あの川に落ちたら元の場所に戻ることは不可能だろう。
 絶えず流れるひやりとした空気は、風となって道を進む僕たちの背を押した。
 時折強風となり吹き付けてくるので、その度に僕は立ち止まり、アラグやフラウに笑われていた。
 昔がどうであれ、今の僕はただのよろず屋の店主なのだ。ダンジョンみたいな場所を平然と歩く神経は持ち合わせていないっての。
 滝の裏側には横穴があり、その奥は小さな洞穴となっていた。
 珊瑚が密集して生えている中に埋もれるようにして宝箱が置かれており、中には如何にも骨董品と思わしき古いデザインの指輪や宝石が入っていた。
 一財産ではあるが、ダンジョンの難易度を考えたらこれは少し実入りが少ない、というのがアラグの意見だった。
 それでも全然宝がないよりはいいと思うんだけどね、僕は。
 崩落している通路を錬金術で繋ぎながら、少しずつ下に下りていき。
 遂に僕たちは、滝壺付近──ダンジョンの最下層と思わしき場所へと到着した。
 最下層は、広い空間になっていた。
 ただし、通路はその殆どが水没しており通ることができなくなっている。一応足が着く程度の水かさではあるが、この水の流れだ。うっかり足を滑らせようものならそのまま流されていってしまうだろう。
 光る珊瑚は水中にも生えており、水面がちらほらと光っている。
 ふうむ、と顎に手を当ててアラグが声を漏らした。
「こいつはちと厄介だな」
 それは僕も思っていた。
 こういう地形の場所には、水棲の魔物が水の中に多く潜んでいるのが定番だ。奴らは水中を驚異的なスピードで動き回るので、うっかり近寄ろうものなら背後から不意の一撃を食らいやすい。
 そして、これだけの水量だ。雷魔術は下手をすると自分が感電する恐れがあるので、使うには術者の技量が求められる。
 背後の滝壺をちらりと見やって、フラウが言った。
「とりあえず、進もうよ。滝壺って如何にも何かいそうじゃない? いきなり咬み付かれるのは御免だよ」
「……そうだな。此処で立ち止まってても状況は変わらんか。進もう」
 僕たちは、水面に顔を出している道を選んで慎重に進んでいった。
 そして、空間の半ばほどに到達した時。
 前方の通路の脇からぶくぶくと泡が立っているのに気が付き、足を止めた。
 アラグは剣を抜き、身構えた。
「そこの水底に何かいるな」
「引き摺り出すよ」
 フラウが前に出て、杖を翳した。
「トルネード!」
 巨大な竜巻が起こり、水を派手に巻き上げた。
 ざばぁっ!
 それに引っ張られるようにして、巨大な蟹の魔物が姿を現した。
 体長は二メートルほど。赤い色をしており、巨大な二本の鋏が特徴的だ。
「キングクラブ!」
「潜ってやがったな!」
 アラグは先陣を切ってキングクラブに向かっていった。
 剣を上段から振り下ろす。それを、キングクラブは鋏で弾くようにして受け止めた。
「くそっ、硬ぇ……!」
「下がって、あたしがやる!」
 フラウは目を閉じて精神を集中させた。
「サンダーボルト!」
 ばりばりばりっ!
 荒れ狂う雷撃の網がキングクラブの全身を捉えた。
 キングクラブは後方にひっくり返り、そのままばしゃんと派手な水飛沫を立てて水底に沈んでいった。
「……硬い魔物は嫌いだぜ。剣が駄目になる」
「その時のためにあたしがいるんでしょ。ぶつぶつ言わないの」
 溜め息をつくアラグを宥めながら、フラウは奥に伸びる通路に目を向けた。
 通路の両脇から、幾つも泡が立ち上っているのが見える。
 ……ひょっとして、あれ全部……
 嫌な予感を覚えた僕は、二人に言った。
「今の騒ぎで他の魔物を起こしたんじゃないか? 早く此処を抜けよう」
 流石に此処で何時間も魔物と戦いを繰り広げるのは御免だ。
 僕たちはその場から逃げるようにして、急いで通路を渡っていった。
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