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第15話 労働の対価
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「このポーション下さい」
「八ダイルになります」
アメミヤのよろず屋は、買い物に訪れる客たちでそこそこ賑わっている。
彼らと世間話をしながら、僕は普段通りこの店の店主として働いていた。
商品を棚に陳列したり、奥の作業台で新しく商品を作ったり。
こじんまりとした中に、平穏な雰囲気の世界が出来上がっていた。
「マスター、聞いてよ。今度アメミヤの森にアンバーモスの討伐に行くことになったんだよ」
「へぇ、それは凄いね。アンバーモスっていえば幻覚作用のある燐粉を撒き散らす厄介な魔物だ。ちゃんと火魔術が使える魔術師の協力者は見つけたのかい?」
「うん、冒険者ギルドで紹介してもらったよ。この仕事は複数人で請けるのが鉄則だって冒険者ギルドも言ってたからね」
「そうかい、それは何よりだ」
商品を渡して代金を受け取りながら、僕は客に微笑みかけた。
「冒険者は体が資本だ。ちゃんと体調を整えて、準備をしっかりしてから森に行くんだよ」
「分かってるよ。ありがとう、マスター」
去っていく客の背中を見つめながら、僕はこの幸福を噛み締めていた。
自分の店で働ける充実感。この落ち着いた雰囲気。
ああ、僕は今最高に輝いてるなぁ。
「シルカ。いるかー?」
……その幸福を壊す存在が現れた。
僕は浮かべていた笑顔を消して、カウンターの上に置かれた銅貨を金庫に片付けた。
「本日は閉店しました。またお越し下さい」
「ベタな冗談言うなよ。今日はお前に大事な用事があって来たんだ」
「やだ! 絶対にダンジョンには行かないからな!」
僕は声を上げて、カウンターの前に立っているアラグとフラウを睨んだ。
「僕は此処で商売をして暮らすんだ! 生活に刺激は求めてない! 善良な一般人を危険に巻き込むのはやめてくれ!」
「落ち着けって。ダンジョンに誘いに来たわけじゃないから」
アラグの言葉に、僕は疑わしげな視線を彼へと向けた。
「……本当に?」
「ああ、本当だって。ほら、これ」
アラグは腰の袋から革袋を取り出すと、カウンターの上に置いた。
中を覗くと、金貨が十枚詰まっていた。
「この金は?」
「この前のダンジョンで手に入れた宝が売れたから、その分け前だ。全部で千ダイルある。お前にはまだ渡してなかったからな」
ダイルというのはこの国で流通しているお金の単位で、主に三種類の貨幣が用いられている。
一ダイルが銅貨一枚。銅貨十枚で銀貨一枚となり、銀貨十枚で金貨一枚という風に単位が決められている。
一般人は、大体千ダイルもあれば一月は生活ができる。それだけの金額をこんな風に平然と遣り取りする冒険者は、何かと実入りの多い職業なのだ。
三人で分けてこの金額か……この前の宝は結構いい値段で売れたんだな。
「それと、例の水晶の短剣だが」
アラグは腰の袋を叩きながら、言った。
「ギルドの鑑定じゃ詳しいことは分からなかったが、面白い話が聞けた」
曰く。
例の短剣は全部で四本あり、その一本一本が何かの鍵になっているらしいという逸話があるという。
それが何の鍵なのか、他の短剣が何処にあるのか、それは詳しくは分かっていないらしい。
無論、その逸話は全く根拠がないデタラメ話という可能性もある。これに関しては各地を巡って情報を集めてみるとアラグは言っていた。
今日此処に立ち寄ったのは、今日アメミヤを発つのでその挨拶も兼ねていたのだとか。
「お前には色々世話になった。ありがとな」
アラグは礼を述べて、小さな瓶をカウンターの上に置いた。
星の砂。僕がダンジョン探索に協力したらくれると約束していた錬金素材だ。
やった、ようやく手に入ったよ!
小躍りしたくなるのをぐっと堪えて、僕は瓶を手に取った。
星の砂は、相変わらず綺麗な色をして輝いている。
これで何を作ろうかな……武器、いや錬金薬も捨てがたいな。
思わず笑みを零す僕を微笑ましげに見つめて、アラグはカウンターから離れた。
「それじゃ、俺は行くよ。お前も元気でな」
ぴっ、と指を立てるポーズを取って、彼は店から出て行った。
それを見送る僕とフラウ。
……フラウは一緒に行かないのか?
「あんたはアラグに付いていかないのか?」
「うん、行かない。アラグの行動力は半端じゃないしね。生半可な覚悟と好奇心だけじゃあいつの旅には付いていけないよ」
フラウは肩を竦めた。
「ま、何かあれば向こうの方から言ってくるでしょ。その時が来るまで、あたしはこの辺で気楽に冒険者ギルドが出してくれる仕事でもしているよ」
「そうか」
彼女はウインクをして、笑った。
「美味しい仕事を請け負ったらまた誘いに来てあげるから。それまでしっかり錬金術の腕を磨いておくんだよ? シルカ」
「だから僕はダンジョンに行きたくないって言ってるだろー!」
僕の心の底からの叫びは、店中に反響した。
アメミヤの街の外れにある、小さなよろず屋『アメミヤのよろず屋』。
今日も、店は平常運転で一日の業務を終えるのだった。
「八ダイルになります」
アメミヤのよろず屋は、買い物に訪れる客たちでそこそこ賑わっている。
彼らと世間話をしながら、僕は普段通りこの店の店主として働いていた。
商品を棚に陳列したり、奥の作業台で新しく商品を作ったり。
こじんまりとした中に、平穏な雰囲気の世界が出来上がっていた。
「マスター、聞いてよ。今度アメミヤの森にアンバーモスの討伐に行くことになったんだよ」
「へぇ、それは凄いね。アンバーモスっていえば幻覚作用のある燐粉を撒き散らす厄介な魔物だ。ちゃんと火魔術が使える魔術師の協力者は見つけたのかい?」
「うん、冒険者ギルドで紹介してもらったよ。この仕事は複数人で請けるのが鉄則だって冒険者ギルドも言ってたからね」
「そうかい、それは何よりだ」
商品を渡して代金を受け取りながら、僕は客に微笑みかけた。
「冒険者は体が資本だ。ちゃんと体調を整えて、準備をしっかりしてから森に行くんだよ」
「分かってるよ。ありがとう、マスター」
去っていく客の背中を見つめながら、僕はこの幸福を噛み締めていた。
自分の店で働ける充実感。この落ち着いた雰囲気。
ああ、僕は今最高に輝いてるなぁ。
「シルカ。いるかー?」
……その幸福を壊す存在が現れた。
僕は浮かべていた笑顔を消して、カウンターの上に置かれた銅貨を金庫に片付けた。
「本日は閉店しました。またお越し下さい」
「ベタな冗談言うなよ。今日はお前に大事な用事があって来たんだ」
「やだ! 絶対にダンジョンには行かないからな!」
僕は声を上げて、カウンターの前に立っているアラグとフラウを睨んだ。
「僕は此処で商売をして暮らすんだ! 生活に刺激は求めてない! 善良な一般人を危険に巻き込むのはやめてくれ!」
「落ち着けって。ダンジョンに誘いに来たわけじゃないから」
アラグの言葉に、僕は疑わしげな視線を彼へと向けた。
「……本当に?」
「ああ、本当だって。ほら、これ」
アラグは腰の袋から革袋を取り出すと、カウンターの上に置いた。
中を覗くと、金貨が十枚詰まっていた。
「この金は?」
「この前のダンジョンで手に入れた宝が売れたから、その分け前だ。全部で千ダイルある。お前にはまだ渡してなかったからな」
ダイルというのはこの国で流通しているお金の単位で、主に三種類の貨幣が用いられている。
一ダイルが銅貨一枚。銅貨十枚で銀貨一枚となり、銀貨十枚で金貨一枚という風に単位が決められている。
一般人は、大体千ダイルもあれば一月は生活ができる。それだけの金額をこんな風に平然と遣り取りする冒険者は、何かと実入りの多い職業なのだ。
三人で分けてこの金額か……この前の宝は結構いい値段で売れたんだな。
「それと、例の水晶の短剣だが」
アラグは腰の袋を叩きながら、言った。
「ギルドの鑑定じゃ詳しいことは分からなかったが、面白い話が聞けた」
曰く。
例の短剣は全部で四本あり、その一本一本が何かの鍵になっているらしいという逸話があるという。
それが何の鍵なのか、他の短剣が何処にあるのか、それは詳しくは分かっていないらしい。
無論、その逸話は全く根拠がないデタラメ話という可能性もある。これに関しては各地を巡って情報を集めてみるとアラグは言っていた。
今日此処に立ち寄ったのは、今日アメミヤを発つのでその挨拶も兼ねていたのだとか。
「お前には色々世話になった。ありがとな」
アラグは礼を述べて、小さな瓶をカウンターの上に置いた。
星の砂。僕がダンジョン探索に協力したらくれると約束していた錬金素材だ。
やった、ようやく手に入ったよ!
小躍りしたくなるのをぐっと堪えて、僕は瓶を手に取った。
星の砂は、相変わらず綺麗な色をして輝いている。
これで何を作ろうかな……武器、いや錬金薬も捨てがたいな。
思わず笑みを零す僕を微笑ましげに見つめて、アラグはカウンターから離れた。
「それじゃ、俺は行くよ。お前も元気でな」
ぴっ、と指を立てるポーズを取って、彼は店から出て行った。
それを見送る僕とフラウ。
……フラウは一緒に行かないのか?
「あんたはアラグに付いていかないのか?」
「うん、行かない。アラグの行動力は半端じゃないしね。生半可な覚悟と好奇心だけじゃあいつの旅には付いていけないよ」
フラウは肩を竦めた。
「ま、何かあれば向こうの方から言ってくるでしょ。その時が来るまで、あたしはこの辺で気楽に冒険者ギルドが出してくれる仕事でもしているよ」
「そうか」
彼女はウインクをして、笑った。
「美味しい仕事を請け負ったらまた誘いに来てあげるから。それまでしっかり錬金術の腕を磨いておくんだよ? シルカ」
「だから僕はダンジョンに行きたくないって言ってるだろー!」
僕の心の底からの叫びは、店中に反響した。
アメミヤの街の外れにある、小さなよろず屋『アメミヤのよろず屋』。
今日も、店は平常運転で一日の業務を終えるのだった。
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