アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第23話 先人が遺した遺産

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 遺跡の中は、等間隔に設置された燭台の炎が淡く空間を照らしてくれているお陰でランタンの光がなくてもある程度は奥まで見渡せた。
 燭台があるのは、先に調査に訪れていたマテリアさんを含む調査隊の人間が設置したかららしい。
 つまり、燭台がある場所は既に調査の手が入ったところということになる。
 僕たちが目指すのは、燭台の明かりが途切れる未調査区域──遺跡の中枢だ。
 ランタンを掲げる僕を先頭に、僕たちはどんどん遺跡の奥を目指して進んでいった。
 遺跡の壁にはラインが入っているように模様が刻まれており、それが何だか僕には何かの魔術の刻印のように見えた。
 乾いた砂の匂い。静まり返った空間に反響する僕たちの足音。
 それらを全身で感じていると、気持ちが引き締まる。
 それはマテリアさんたちも同じようで。
 遺跡に入る前はあんなにもふざけた態度を取っていたのが一変して、彼女たちは真面目な面持ちでじっと前を見据えていた。
 やがて、広い部屋に出た。
 此処にも燭台があるということは、此処は既に調査が行われた場所ということになる。
 床に砕けた石像らしきものが転がっており、それは何体も、床の中央を占拠するように並べられていた。
「この像は?」
「おそらく、遺跡の守護者として作られた戦士の像だと思うけど、詳しいことは分かっていないわ」
 フラウの質問に答えるマテリアさん。
 フラウはふうんと鼻を鳴らして、石像のひとつに近付いた。
 しゃがんで、顔を覗き込み、言う。
「古代文明の遺跡ってこういうのが多いよね」
「おい、あまり不用意に近付くなよ」
 僕はフラウを嗜めた。
 此処が古代の錬金術師が作った遺跡ということは、中に存在するものの全ては何らかの錬金術の力を秘めた遺物だという可能性がある。
 何の変哲もない石像が急に動き出して襲いかかってくる──なんてことがあるかもしれないのだ。
 対処法が分かっていないうちは不用意に近付かない。触らない。これが遺跡を調査する時の鉄則なのである。
 フラウは僕の言葉に若干不満そうな表情を浮かべて、それでも一応は此処が危険な場所かもしれないということを理解しているのか、大人しく石像から離れた。
 マテリアさんは部屋の奥に伸びる通路を視線で指し示して、言った。
「こういう部屋はこの奥にたくさんあるわ。この部屋が何のために作られたものなのかは現在調査中。解明には時間がかかるわね」
「例の石が見つかった部屋は?」
「この奥よ」
「行こう」
 僕たちは歩みを再開した。
 マテリアさんが言った通り、今の部屋と同じような造りをした部屋は幾つもあった。
 まるで集合住宅のように部屋が通路に沿って並んでおり、その中に石像が所狭しと並んでいた。
 この石像たちが急に動き出すかもしれないと考えると……この光景は不気味だ。
 なるべく石像には近付かないようにして、通路をどんどん進んでいく。
 やがて、通路は途切れ──広めの部屋に出た。
 この部屋には石像はなく、部屋の中央に四角い台座のようなものが誂えられていた。
 台座の大きさは大人一人が立てるくらい。中央に菱形の穴が空いており、その周囲には円形に文字が刻み込まれている。
 これは……錬金文字だ。
 僕は文字を順番に目で追って、それを読み上げた。
「『森羅万象の四柱が立つ時、太陽が天に昇り我が心臓を不滅の光で照らすだろう。』」
「どういう意味?」
「僕はただ此処に書いてある字を読んだだけだ。分かるわけないだろ」
 僕の返答にフラウはううんと小首を傾げながら、台座に近付いた。
 台座に空いている穴に人差し指を近付けて、縁をついとなぞる。
「何か……此処に填まってたのかな」
 確かに彼女が言う通り、元々此処には何かがあったんじゃないかって思えるような穴だ。
 おそらくそれを示すのが先の一文なのだろうが、何の手掛かりもない現状ではこれ以上解読のしようがない。
「穴、結構深いね」
 言いながら、フラウが指をぶすっと穴に突き刺した。
「おい、勝手に……」
 僕の言葉は途切れた。
 穴の中から、黒い煙がふしゅーっと勢い良く噴き出してきたのだ。
 煙は僕たちの目の前で渦を巻きながら一点に集まっていき、玉のような形になった。
 これは──クラウド・ウィスプ!
 ガス生命体の一種で、本来は火山地帯なんかに生息する魔物である。
 生き物の吐く息に反応して襲いかかり、肺に入り込んで窒息させてしまう危険な存在なのだ。
 元々形のない魔物なので、台座の中に入り込んでいたのだろう。
「魔物、いたじゃないか!」
 僕は慌てて台座から身を遠ざけた。
「魔物が出たくらいでいちいち騒がないでよ!」
 同じく台座から離れて身構えるフラウ。
 マテリアさんは冷静に魔術を放つべく魔力を練っている。
 クラウド・ウィスプは僕たちの存在を見つけると、ふよふよとした動きでゆっくりとこちらに向かって迫ってきた。
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