アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第24話 世界を叉に掛ける謎

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「ファイアボール!」
 フラウが放った魔術が、クラウド・ウィスプを直撃する。
 クラウド・ウィスプは弾け飛び、跡形もなく四散していった。
 僕ははぁっと息を吐きながら、小さくぼやいた。
「……帰りたい……」
「魔物の一匹くらいで腐らないでよ。ちゃんと倒してあげたんだから、いいでしょ」
 慰めているつもりなのか、僕の肩に手を置いて言うフラウ。
 マテリアさんは台座の方に向けていた目を僕へと向けた。
「台座に書かれた文章の謎は……分かりそう?」
「いや。さっぱりだ。多分謎を解くにはピースが足りない」
 僕は小さく首を振って答えた。
 おそらくだが、此処を見ただけじゃ台座の文章が示すものは分からない。他の部屋も調べてみなければ、予想のよの字も出てはこないだろう。
 彼女は残念そうに肩を竦めて、部屋の外を見た。
「なら、先に進むわよ。目的地はもっと奥の方にあるんだから」
「なあ、魔物がいたんだから僕を先頭にするのはやめてくれよ。鉢合わせしたら危ないだろ」
「私たちは魔術師だから前線に立つには向いてないのよ。貴方も冒険者だったならそれくらい分かるでしょう?」
「僕が元冒険者だって分かってるなら先頭に立たせるなよ! あんたたちの感覚はおかしい!」
 ぎゃあぎゃあ言いながら、僕たちは更に奥へと進んでいった。
 幸い物音に反応して襲ってくるような魔物の存在はなく、僕たちは無事に、マテリアさんが言う目的の部屋に到着した。
 それは、今までに見た部屋の中で最も大きな間取りを備えた部屋だった。
 広さは、大雑把に見ても五十メートル四方はある。天井も高く、広い分設置されている石像の数も多い。
 部屋の中央にはひときわ大きな石像があり、それはあちこち罅割れてはいるがほぼ完全な形で残っていた。
 重厚そうな鎧を纏った騎士のような姿をしており、背中には立派な鳥の翼が生えている。右手には剣を、左手には大きな盾を持ち、この広い空間をまっすぐに見つめている。
 大きさは二メートルほど。今までに見た石像とは違って台座に乗っており、台座には錬金文字でこう記されていた。
「『トワルの守護騎士・ウルズ』」
「トワル?」
「ルマ文明が栄える前の時代の文明ね」
 フラウの質問にマテリアさんが答える。
「トワル文明では、運命の三女神という神々が信仰されていたの。おそらくそれを象った像なのね」
「今までの調査で分かってなかったのか?」
「この遺跡に足を踏み入れた錬金術師は貴方が初めてなのよ、シルカ君。錬金術師でない人が錬金文字を読めるわけがないじゃない」
「……まあ、そう言われたらそうなんだろうけど……」
 僕は部屋を見回した。
 そして、部屋の奥に目が向いた。
 部屋の奥──閉ざされた扉があり、その前に崩れた壁が瓦礫となって積もっている。扉の両脇には像が二体立っており、それらも扉同様瓦礫に埋もれていた。
 僕はそちらを指差した。
「あれは?」
「あれが、今発掘中の像よ。石の欠片もあそこから出てきたの」
 僕たちは扉の前に足を運んだ。
 扉はがっちりと閉ざされており、指を引っ掛けられる部分もないので開くことはできそうにない。
 両脇の像は今までの石像と違って上半身裸にスカートのような腰巻だけという何とも淋しい格好をしている。しかしそれ以上に特徴的なのが、頭だ。
 明らかに人間のそれとは違った平べったい頭をしており、表面には何かの模様が刻まれているのだ。模様の形は左の像と右の像とでは異なっており、これは二体でセットのようにも、全く別々の個体のようにも見える。
 模様が表しているものは──何なのか、分からない。
 瓦礫に目を向けてみると、他の石に埋もれるようにして、文字の書かれた板のようなものが埋まっているのに気が付いた。
 マテリアさんが見せてくれた石の欠片は、此処から取ったもので間違いないようだ。
 僕はランタンをフラウに預け、板の上に乗っている瓦礫を丁寧に取り除いていった。
 板の表面は傷だらけで一部欠けている部分もあるが、何とか文字を読むことはできそうだ。
「マテリアさん。あの石の欠片を貸して」
 僕はマテリアさんから石を受け取り、欠けている部分に填め込んだ。
 完成した文章を、口に出して読む。
「『森羅万象の四柱が立つ時、我が心臓へと続く扉は開かれる。』」
「此処でも、森羅万象の四柱……」
 フラウが眉を顰めた。
「多分、あの台座には何か仕掛けがあって、あそこで何かをすると此処の扉が開くようになってるんだろうね。ダンジョンとかではよくある仕掛けだよ」
 それには僕も同意見だ。
 これは僕の憶測だが、あの台座はおそらくひとつではない。予想では、四つ──この遺跡の何処かに点在していると思われる。
 同じように文章が刻まれた台座が設置されていると、思うのだ。
 あの台座に何をすればこの扉が開くのか、それはまだ分からない。
 そして、多分──今の僕たちでは、この扉を開くことはできない。
 この遺跡に秘められた謎を解くには、圧倒的にピースが足りないのだ。
 そのピースを得るには、この遺跡をより細部まで調査するか、あるいは──世界中を巡って情報を集める必要があるのだろう。
「今の僕たちでは、多分この謎は解けない。もっと多くの情報が必要なんだと思う」
 僕は立ち上がって、フラウからランタンを受け取った。
 部屋を見回して、言う。
「この遺跡の中だけじゃなくて、世界中の……それこそ辺境の地に眠ってるような伝承も調査して集めた知識が必要なんだ」
 それを調べるのは、世界を歩くことをやめた僕の役目ではない。
 僕はフラウに目を向けた。
「フラウ。これはお前の使命だ。お前が世界中を歩いて集めた知識がこの遺跡の謎を解明するのには必要なんだよ」
「……あたし?」
 フラウは目を瞬かせた。
「あたし一人が使命を背負うって、何か大袈裟じゃない?」
「いや。これはお前じゃないと駄目だ。世界中を旅する冒険者のお前じゃないと解けない謎なんだ」
「…………」
 フラウは目を僅かに伏せて考え込んだ後、口を開いた。
「ねえ、シルカ……冒険者に戻らない? 一緒にこの謎を解くための旅に出ようよ。一人より二人の方が、きっといいと思うんだ」
「……僕はもう冒険者に戻る気はない。何度言われても、その決意を曲げるつもりはないからな」
 僕ははっきりと言った。
 僕の返答に淋しそうな顔をするフラウの背中にそっと触れて、微笑む。
「旅には出ないけど……あの店で、僕ができることでの協力はしてやるから。それは約束してやるからさ」
「……そう」
 彼女は更に考え込んで口を閉ざし──
 やがて、吹っ切れたように顔を上げて、笑った。
「分かった。あたし、旅に出るよ。アラグみたいに世界中を駆け回って、きっとこの謎、解いてみせるから!」
「フラウさんだけに任せてはいられないわね」
 そう言って微笑んだのはマテリアさん。
「私も、此処の調査を続けるわ。そして、謎が解けたら──必ず、貴方たちに報告しに行くわ。私たちは、同じ使命を共有した仲間なんだもの」
 彼女は腕を伸ばして、僕とフラウの肩を抱いた。
 そのまま、僕たちはしばしの間笑い合った。
「さあ、戻りましょう。これから忙しくなるわよ」

 こうして、無事に調査を終えた僕たちは遺跡を後にした。
 霧がすっかり晴れた高原の景色は、何処までも緑の絨毯が続いたそれは見事なものだった。
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