アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第27話 犯人は錬金術師?

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 午後。店を休業にした僕は、ギルベルトさんに貰った地図が示す場所に足を運んでみた。
 林を切り開いて作られた畑は、広さはざっと見て百メートル四方くらいある。
 畑には、青々とした薬草が規則正しく並んで植えられていた。
 思ってたよりも広い畑だな。これじゃあ人力じゃ囲いを作るのは大変だ。
 僕が畑を眺めていると、畑の中で作業をしていた男が僕の存在に気付いたようでこちらにやって来た。
「君が、ギルベルトさんが言っていた人かい?」
 年齢は五十代半ばといったところか。温厚そうな雰囲気の人物である。
 僕は小さく会釈をした。
「シルカ・アベルフォーンです」
「助かるよ。この畑は私が一人で管理していてね、防犯の方まではなかなか手が回らないのが現状なんだよ」
 この大きな畑を一人で世話してるのか。それじゃあ囲い作りにまで手が回らないのも無理はないな。
 僕は早速、囲い用の資材が置かれている場所に案内してもらった。
 現場には、山吹色の拳法着を身に着けた少年がいた。
 結構小柄だが、体はなかなか肉付きが良い。如何にも格闘家といった感じの少年である。
「ジールさん、その人は?」
「彼はシルカさん。囲い作りをお願いした人だよ」
「ああ、錬金術師さんか」
 少年は担いでいた丸太を下ろして、右手を差し出してきた。
「オレはコルム。薬草泥棒を捕まえるために雇われた冒険者さ。宜しく」
「え……君一人?」
「そうだよ」
 握手を交わしながら、さも当然と言うように頷くコルム君。
 一人でこの畑を警備するって……大丈夫なんだろうか。
 僕が微妙そうな顔をしていると、僕の考えていることが分かったのか、彼は胸を叩きながら言った。
「心配は不要さ。こう見えてオレは少し魔術が使えるんだ。その辺の奴よりは強いって自信があるよ。薬草泥棒なんてあっという間に捕まえてみせるさ」
 ……彼がそこまで言うなら、心配はいらないのかもしれないが……
 まあ、僕は警備のことにまで口を挟むつもりはない。僕の仕事はあくまでこの畑に囲いを作ることだ。
 僕は彼の傍にある、山と積まれている資材に目を向けた。
 資材は、丸太だ。この林の木を切って作ったものなのか仕入れたものなのかは分からないが、結構な量がある。
 これだけあれば、錬金術を使えば囲いは問題なく作ることができるだろう。
 それじゃあ、早速作ることにしよう。
 僕は丸太の山に両手を付けて、意識を集中させた。
 ぱしっ、と音を立てて、積まれていた丸太がばらばらに分解しながら畑の周囲に移動していく。
 それらは、幾分もせずに高さ二メートルほどある柵となった。
 人が通り抜けられないようにしっかりと組まれた構造にしてある。これを突破しようと思ったら柵を破壊する以外に方法はないはずだ。
 柵を破壊しようと思えばそれなりに強い力がいる。そんな力で柵に衝撃を加えれば、派手な音が鳴る。そうなれば、確実に警備の人間が気付くはず。
 そんな危険を冒してまで安価な薬草を盗もうとする馬鹿はいないだろう。
 おお、とジールさんが出来上がっていく柵を見上げて感嘆の声を漏らした。
「立派な柵だ。これならきっと泥棒も盗みを諦めてくれるはず……やはり、錬金術師さんにお願いして良かった」
 囲い作りは三十分ほどで完了した。
 作業を終えた僕は、感謝の言葉を述べるジールさんたちに見送られながら店に戻った。
 人助けをするって気分がいいね。
 さあ、張り切って店の仕事をしよう。

 これで、泥棒騒ぎは収まるだろう。僕はそう思っていた。
 しかし、現実はそんなに甘くはないということを、後日嫌でも思い知らされることになる。

「シルカ、これを頼む」
 その日は、朝からギルベルトさんがポーションの買い付けに店に訪れていた。
 普段から厳つくて近寄り難い面持ちの彼ではあるが、今日は一段と目つきが鋭くなっている。
「悩み事ですか? 眉間に皺が寄ってますよ」
「ああ。実はな」
 ギルベルトさんは、はあっと溜め息をついて話を切り出した。
「例の薬草畑なんだが。また被害に遭ったそうだ」
「え?」
 僕は目を瞬かせた。
「僕、ちゃんと囲い作りに行きましたよ。それで被害が出るっていうのは……」
 まさか、警備の目を盗んで柵を壊したのか?
 警備に気付かれずに柵を破壊するとなると、それこそ錬金術でも使わない限り不可能だと思うのだが……
「それがな。泥棒はお前さんが作った柵をものともせずに中に入り込んだらしいんだ。柵は何ともなってなくて、中の薬草だけがごっそり持って行かれていたそうだ」
「…………」
 あの柵が功を奏さない、となると、ますます泥棒は錬金術の使い手である可能性が高い。
 何か、思っていたよりも厄介なことになりそうだな。
「それでな、言いにくいことなんだが」
 ギルベルトさんは僕のことをじっと見つめて、言葉を続けた。
「泥棒は、錬金術師……つまりお前さんなんじゃないかって話が持ち上がってるんだ」
「……へ?」
 僕はぎょっとした。
 確かに泥棒は錬金術が使える人間である可能性が高いかもとは僕も思ったけど、それで僕が犯人扱いされるなんてたまったものではない。
 僕は慌てて首を振った。
「僕は違いますよ。此処で使ってる薬草だって、ちゃんと買い付けたものですし」
「俺もお前さんを信じてるが、お前さんをよく知らない人間からしたら、そう疑いたくなるのも無理はないことは理解できるんだ」
 近々、警備隊が事の真偽を確かめにこの店に来るらしい、という話をギルベルトさんから聞かされて、僕は頭を抱えたくなった。
 犯人の疑いを掛けられるなんて……例えそれが全くの誤解であったとしても、そんなことがあったという事実があるだけでこの店の評判はガタ落ちだ。
 それはまずい。それだけは、何としても阻止しないと。
 そのためには。
「……誤解を解くためには、僕がこの手で真犯人を捕まえるより他にない、ってことですか……」
「まあ、そういうことになるな……」
 僕の言葉に頷くギルベルトさん。
「お前さんがやる気なら、俺から畑の方にその旨を伝えておいてやる。どうする?」
 どうするもこうするも、こうなったら選択肢はひとつしかないじゃないか。
 僕は髪をくしゃりと掻いて、言った。
「……やります」
「分かった。それじゃあ話は俺の方から通しておくからな」
 ──会計を済ませて去っていくギルベルトさんの背中を見送りながら、僕は深々と溜め息をついた。
 何かとんでもないことになっちゃったな。
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