アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第28話 星空の下の大捕り物劇

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 夜。すっかり日は落ちて、辺りを闇が包んでいる。
 僕は畑の一角に、コルム君と肩を並べて座っていた。
「……兄ちゃんも大変だな。犯人の疑いを掛けられるなんて」
 コルム君はランタンを指でゆらゆらと揺らしながら、僕の方を横目で見つめて慰めるように言った。
 僕は溜め息をついた。
「この街で錬金術を使える人間は限られてるから……無理もないとは思ってるけどね」
 もしも僕が逆の立場だったら、少なからずその人のことを疑っていただろうしね。
 僕の肩をぽんぽんと叩くコルム君。
「ま、大丈夫さ。オレと兄ちゃんとで泥棒をとっ捕まえればいいだけの話だ。オレ、頑張るからさ。そんなに落ち込むなよ」
「……ありがとう」
 僕はふにゃりとした笑みを彼に返した。
 ──現在、僕はコルム君と一緒に畑に潜んで泥棒が現れるのを待っていた。
 泥棒が現れるのは、決まって夜──警備が手薄になる時間を狙ってくるらしい。
 そこを先手を打って張り込んで、現れたところを力ずくで捕まえるという作戦なのだ。
 泥棒の方も全力で抵抗してくるだろうから、万が一戦闘になった時のことを考慮して捕獲はコルム君に任せてある。
 とはいえ、僕も何もしないわけではない。
 ズボンのポケットに、入れられるだけのトラッパーを仕込んできた。直に捕まえられないまでも、足止めくらいの役には立つつもりでいる。
 さあ、来るなら来い。迎え撃つ準備はできている。
 そうして僕たちが畑に身を潜めて、一時間が経過した時のこと。
 風もないのに、がさりと薬草の葉っぱが揺れる音がした。
 ぴくり、とコルム君が反応して音のした方に目を向けた。
「……誰かいるな」
「…………」
 僕は無言で頷き、ポケットからトラッパーを取り出した。
 ランタンを見つからないように薬草の陰に隠して、コルム君は立ち上がる。
「先手必勝だ。一、二の三で仕掛けよう」
 僕の喉がこくりと鳴った。
「……一」
 僕はトラッパーを持った手を思い切り振りかぶった。
「二の」
 コルム君が体勢を低くする。
「三!」
 僕は合図と同時にトラッパーを音がした方向めがけて投げつけた!
 ばっ、と閃光が生じ、闇が一瞬払われてそこにあったものを鮮明に照らし出す。
 薬草の間に佇んだ、黒いローブを着た男──
 その手には、畑から引き抜いたと思わしき薬草が握られていた。
「ライティング!」
 コルム君が叫ぶと同時に駆け出す。
 彼が生んだ魔光は、白々と辺りを昼間のように照らした。
「見つけたぜ、薬草泥棒!」
「ちっ!」
 男が舌打ちして、手にした薬草をこちらに投げつけてきた。
 そして、くるりと背を向けて駆け出した。
「アイシクルアロー!」
 コルム君が氷の矢を生み出し、放つ。
 それは男のローブの裾に突き刺さり、氷の戒めと化して男を大地に繋ぎ止めた。
「!」
 男がつんのめり、慌てて凍らされたローブに目を向ける。
 そこに、コルム君が飛びかかった。
 二人は投げ出されるように地面に転がった。
 うつ伏せになった男を、コルム君が全身でがっちりと押さえ込んでいる。
 完全に決まっている。あれなら男は身動きが取れないだろう。
 僕は二人の元に駆け寄った。
「捕まえたぞ、こいつめ!」
 コルム君が男を押さえ込みながら、懐からロープを取り出した。
 しかし男は、余裕たっぷりの笑みを浮かべている。
「……これで私を捕まえられたと思っているなら、甘いな」
 男は地面に掌を付けた。
「私の野望は誰にも邪魔させんぞ!」
 ばちっ、と地面に魔力が迸る。
 彼らの周囲にある畑の土が盛り上がり、それは一瞬にして巨大な手と化した。
「なっ!?」
 顔を上げたコルム君に、手が襲いかかる。
 コルム君は顔に不意の一撃を食らって、男の上から飛ばされて地面に転がった。
 やはり……錬金術!
 なおもコルム君に襲いかかろうとする手。
 僕は咄嗟に地面に手をついて、魔力を流した。
 僕の魔力に干渉された手が元の土の塊となってばらばらと落ちる。
 ほう、と男は起き上がりながら僕の方を見た。
「お前も錬金術師か……ならば、私がやろうとしていることの偉大さが理解できるだろう」
「薬草泥棒の何処が偉大だ!」
 僕は男を見据えて叫んだ。
 男はこちらを向いて両腕を広げながら、言った。
「万能の霊薬、エリクサー……その製造法は並の錬金術師では到底為し得ない困難なもの。それを覆すために、私は日々研究を重ねているのだ」
 そして、と拳を握り、それを顔の前に持ってきて力説する男。
「そして、遂に……この薬草から神の一滴を作り出す技法を、私は編み出したのだ! これは錬金学会に革命を齎す素晴らしい発見となるであろう!」
 ……つまり、エリクサー作りのために必要な薬草を、この畑から盗んでいたということか?
 本当にこの薬草からエリクサーが作れる方法を見つけたのかどうかは分からないが、盗みは犯罪だ。到底許されるようなことではない。
 何より、そのせいで僕は犯人の濡れ衣を着せられそうになっているのだ。勘弁できるはずがないではないか。
 男は低く笑みを零した。
「どうだ、私の偉大さが理解できたか? ならば此処で私を捕らえるという愚かなことはやめるのだな。私を捕らえれば、錬金学会の大きな損失に繋がるのだからな!」
「ごちゃごちゃうるせえんだよ!」
 ごすっ!
 コルム君の跳び蹴りが、男の顔面の中心に炸裂した。
 たまらず男が倒れる。それを踏みつけて、コルム君は叫んだ。
「錬金術がどうとかは分からねえけど、盗みは犯罪だ! それを見逃せとか馬鹿なことを言ってるんじゃねえ!」
 男は今の一撃で目を回してしまったらしい。コルム君の言葉に反応することはなかった。
 コルム君は持っていたロープで男を後ろ手に縛り上げた。
「……ったく、錬金術師ってのは訳の分からねえ輩が多いな。理解できねえよ」
 ……あのね、コルム君。僕も錬金術師なんですけど……
 まあ、いいか。言わないでおこう。
 縛り上げた男を地面に転がして、コルム君は僕の方に顔を向けた。
「兄ちゃん、さっきはありがとな。兄ちゃんのお陰で助かったよ」
「君の方こそ、凄かったじゃないか。そんな小さい体してるのに」
「ん、まあ。これでも鍛えてるからな。オレ」
 コルム君は胸を張った。
「無事に泥棒も捕まえたし、これで兄ちゃんの疑いも晴れるな! 良かったな、兄ちゃん」
 そうだ。これで僕の疑いも無事に晴れたわけだ。
 やっとこれで、元の平穏な生活に戻れるよ。
 僕はゆっくりと空を見上げた。
 満天の星は、この畑に平和が戻ったことを喜ぶかのようにちらちらと瞬きながら僕たちのことを見下ろしていた。
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