アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
36 / 176

第36話 冒険の終着点

しおりを挟む
 光が収まる。
 人形は、上半身を傾けた体勢のまま動きを停止させていた。
 僕たちは、慌てて人形から離れて中央の水晶を挟んだ空間の対角線上に移動した。
 人形が、ゆっくりとこちらを振り向く。
 胸の光が、力を失っていくように──消えた。
 ぼろり、と砕ける人形の体。細かなプリズムの欠片となりながら、形を失って床へと崩れ落ちていく。
「…………」
 僕とアリスさんは、それを無言のまま見つめていた。
 人形は、完全なプリズムの欠片となった。床に飛び散り、ぼんやりと発光する水晶の光を浴びてきらきらと星のように輝いている。
 ようやく戦闘が終わったことを悟った僕たちは、互いの顔を見て、再度崩れた人形に目を向けて、同時に深く息を吐いた。
「……何とか……」
「倒せましたね」
 静かに、人形の残骸に歩み寄る。
 床に散らばったプリズムの欠片を拾ってみる。
 プリズムの欠片は、まるで磨かれたガラスの欠片のように綺麗な虹色を湛えていた。
 こんなに綺麗な欠片なら、何か作れそうだ。
 此処が魔術で創られた作り物の世界でなかったら持って帰ったんだけど、惜しいな。
「シルカさん、光の色の関係をよく見抜きましたね。私は単なる心臓だとしか思っていませんでした」
「……うん、まあ……こう見えて、雑学の知識だけはあるからね」
 拾ったプリズムの欠片を床に落として、僕は薄く笑った。
「さて、塔の主を倒したわけだけど……此処には世界の出口に関係するものはあるのかな」
 僕たちは、室内をぐるりと見回した。
 空間の中央にある水晶は、変わらぬ様子で淡く発光しながら浮かんでいる。
 星の海に見える天井や壁、床は、単にそう見えるだけの存在といった感じで、これといって変わったような点はない。
 ……まさか、此処はハズレか?
 僕がそう思った、その時。
 床に散らばったプリズムの欠片が、白い光を放ち始めた。
「!」
 まさか、人形が復活するのか?
 その場から離れる僕たちの視線を浴びながら、プリズムの欠片は宙に浮かび上がってひとつの形を形成していく。
 円の中に描かれた五芒星。縁に記された魔術文字と、空白を飾る紋様。
 これは──魔法陣だ。それも見覚えがある。
 あの書物に描かれていたものと全く同じ魔法陣が、宙に扉のように作り出された。
「これは……」
「…………」
 目を丸くするアリスさんを置いて、僕は魔法陣に静かに歩み寄った。
 両手を前に突き出して、扉を押すように、魔法陣に触れる。
 触れた手が、飲み込まれて消える。
 そのまま僕は魔法陣に向かって前進していき、体全体を光の中に飲み込ませていった。

 宙を浮遊するような感覚。
 光に包まれた視界に闇が落ちていき、再び明るくなっていく。
 途絶えていた音が、次第に聞こえるようになっていって──
 全ての感覚が元に戻った時。僕は、立ち慣れたよろず屋のカウンターの中に両手を突き出した格好で立っていた。
 辺りを見回して、自分の体が無事なことを確認して。
 そうして、僕は無事に現実世界に戻ってこれたことを悟ったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。 白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。

処理中です...