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第35話 逆さの塔・五階
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逆さの塔、五階。
どうやら此処が最上階らしく、この階層に上に上がるための階段はなかった。
あるのは、一面の星の海。天井も、壁も、床も全てがそれで構成されていた。
部屋の中央には、淡い青色に輝く巨大な水晶の結晶体が浮かんでいる。
そして、それの傍にいるのは──
虹色に輝く、人形のようなものだった。
その全身は、よく見ると細かなプリズムの板で構成されている。大きさは二メートルほど。胸の辺りに大きな穴が空いており、そこに山吹色に輝く光の球が収まっている。
人形は、目も鼻もないのっぺりとした顔をこちらに向けていた。まるで、顔全体でこちらの様子を伺っているようだった。
魔物──にしては、雰囲気が違う。と言うよりも、この人形には気配というものがまるで感じられなかった。
それでも、あれが僕たちにとって障害となりうる存在であることはひしひしと感じられる。
人形の姿を視界に捉えた僕たちは、身構えた。
「どうやら、あれがこの塔の主のようですね」
「……あれを倒せば、この世界から脱出できるのかな」
僕の疑問に、アリスさんは小さく首を振った。
「……分かりません。でも……他に出口の手掛かりらしい手掛かりもありませんでしたから、やってみる価値はあると思います」
彼女は杖を構え、魔力を練り始めた。
僕はそっと、彼女から離れた。
「油断はしないでよ」
「これでも、魔術師としてはそれなりに顔が知られているんです。訳の分からないものとはいえ、ただの魔物に負けるなんてことがあったら名折れです」
とん、と足下を杖で突き、先端を人形へと向けた。
「必ず、勝ちます!」
ぶわっ、と彼女のローブが大きく跳ね上がった。
「メテオレイン!」
ちょっ……何て魔術を使ってるんだ、こんなところで!
人形の頭上に召喚された隕石が、人形に降り注いで派手な音を周囲に撒き散らした。
隕石が床に当たって砕け散り、無数の岩となって辺りに飛び散る。
人形は──無傷だ。数多の岩に囲まれながら、平然と顔をこちらに向けた格好のまま佇んでいる。
「ウィンドカッター!」
続けてアリスさんが魔術を放つ。
風の刃は一点に収束し、人形の胸の光を射抜いた。
人形が仰け反る。体を構成しているプリズムが細かな光となってぱらぱらと剥がれ落ち、宙に溶けていった。
効いている!
人形は体勢を立て直すと、周囲の岩を押し退けるようにこちらに向かってきた。
胸の光が、山吹色から茜色に──変わる。
人形が右手を翳す。その指の先端のプリズムがぼろりと崩れて炎の矢となり、僕たちに向かって飛んできた。
僕は反射的に身を縮めた。その上を、炎の矢は通過していった。
アリスさんは杖を振るって炎の矢を叩き落とした。
そのまま人形を見据えて、次の一撃を撃つ!
「ウォーターレイ!」
圧縮された水が光線のように空間を横切り、人形を貫く。
頭と胸に一撃を受けた人形は先程と同じように体勢を崩し、全身からプリズムの欠片を撒き散らした。
胸の光の色が、更に変化する。今度は茜から緑色へと。
人形が右手を振るう。
剥がれ落ちたプリズムが宙に溶けて風の刃となり、僕たちに襲いかかる。
それは僕の脇腹を掠め、アリスさんの頬を裂き、風となって散っていった。
僕は切り裂かれた脇腹を見た。
どうやら、切られたのは服だけのようだ。体の方は何ともなっていない。
アリスさんは険しい顔をして、対抗する形で魔術を放った。
「ウィンドスラッシュ!」
人形の胸の光を、不可視の剣が断ち割った。
光が大きくなり、強く光り輝く。
そして、強烈な風の衝撃波を生んだ。
僕たちは風に飲まれ、吹き飛ばされて見えない壁に叩き付けられた。
みしり、と骨が軋み、痛みを訴えた。
「か……ごほっ!」
たまらず僕は咳き込んだ。
アリスさんの姿を探すと、彼女は床の上に倒れていた。
今の一撃で、ひょっとして頭を強く打ったか!?
僕は痛む体を懸命に動かして彼女の元に駆け寄った。
落ちている杖を拾い、彼女を抱き起こす。
彼女はゆっくりと顔を上げ、人形を見つめた。
「……まさか、魔術を反射するなんて……」
人形は、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
アリスさんの魔術で断ち割られたはずの胸の光は、今は元に戻っていた。
──魔術が効く時と、効かない時がある……
僕は人形の胸に注目しながら、考えを巡らせた。
そういえば、魔術が効いた時、胸の光は色を変化させていた。
しかし今は、変化していない。
ひょっとして、光の色が示しているのは──
僕の頭の中で、ひとつの考えが閃いた。
僕はアリスさんに杖を渡して、言った。
「アリスさん、あの光を狙って何でもいいから氷魔術を!」
「氷魔術……ですか?」
「僕の考えが正しければ、氷魔術なら反射されない! あの光の色は、属性を表しているんだよ!」
「……成程」
ぐっ、と息を飲み込んで、アリスさんは杖の先端を人形へと向けた。
「その考え、信じますよ!」
人形が目の前まで来た。これ以上は此処に留まるのは危険だ。
アリスさんは叫んだ。
「アイシクルランス!」
杖の先端から生まれた氷の槍が、人形の胸の光に吸い込まれていく。
光は膨張して、辺りを眩く照らした。
どうやら此処が最上階らしく、この階層に上に上がるための階段はなかった。
あるのは、一面の星の海。天井も、壁も、床も全てがそれで構成されていた。
部屋の中央には、淡い青色に輝く巨大な水晶の結晶体が浮かんでいる。
そして、それの傍にいるのは──
虹色に輝く、人形のようなものだった。
その全身は、よく見ると細かなプリズムの板で構成されている。大きさは二メートルほど。胸の辺りに大きな穴が空いており、そこに山吹色に輝く光の球が収まっている。
人形は、目も鼻もないのっぺりとした顔をこちらに向けていた。まるで、顔全体でこちらの様子を伺っているようだった。
魔物──にしては、雰囲気が違う。と言うよりも、この人形には気配というものがまるで感じられなかった。
それでも、あれが僕たちにとって障害となりうる存在であることはひしひしと感じられる。
人形の姿を視界に捉えた僕たちは、身構えた。
「どうやら、あれがこの塔の主のようですね」
「……あれを倒せば、この世界から脱出できるのかな」
僕の疑問に、アリスさんは小さく首を振った。
「……分かりません。でも……他に出口の手掛かりらしい手掛かりもありませんでしたから、やってみる価値はあると思います」
彼女は杖を構え、魔力を練り始めた。
僕はそっと、彼女から離れた。
「油断はしないでよ」
「これでも、魔術師としてはそれなりに顔が知られているんです。訳の分からないものとはいえ、ただの魔物に負けるなんてことがあったら名折れです」
とん、と足下を杖で突き、先端を人形へと向けた。
「必ず、勝ちます!」
ぶわっ、と彼女のローブが大きく跳ね上がった。
「メテオレイン!」
ちょっ……何て魔術を使ってるんだ、こんなところで!
人形の頭上に召喚された隕石が、人形に降り注いで派手な音を周囲に撒き散らした。
隕石が床に当たって砕け散り、無数の岩となって辺りに飛び散る。
人形は──無傷だ。数多の岩に囲まれながら、平然と顔をこちらに向けた格好のまま佇んでいる。
「ウィンドカッター!」
続けてアリスさんが魔術を放つ。
風の刃は一点に収束し、人形の胸の光を射抜いた。
人形が仰け反る。体を構成しているプリズムが細かな光となってぱらぱらと剥がれ落ち、宙に溶けていった。
効いている!
人形は体勢を立て直すと、周囲の岩を押し退けるようにこちらに向かってきた。
胸の光が、山吹色から茜色に──変わる。
人形が右手を翳す。その指の先端のプリズムがぼろりと崩れて炎の矢となり、僕たちに向かって飛んできた。
僕は反射的に身を縮めた。その上を、炎の矢は通過していった。
アリスさんは杖を振るって炎の矢を叩き落とした。
そのまま人形を見据えて、次の一撃を撃つ!
「ウォーターレイ!」
圧縮された水が光線のように空間を横切り、人形を貫く。
頭と胸に一撃を受けた人形は先程と同じように体勢を崩し、全身からプリズムの欠片を撒き散らした。
胸の光の色が、更に変化する。今度は茜から緑色へと。
人形が右手を振るう。
剥がれ落ちたプリズムが宙に溶けて風の刃となり、僕たちに襲いかかる。
それは僕の脇腹を掠め、アリスさんの頬を裂き、風となって散っていった。
僕は切り裂かれた脇腹を見た。
どうやら、切られたのは服だけのようだ。体の方は何ともなっていない。
アリスさんは険しい顔をして、対抗する形で魔術を放った。
「ウィンドスラッシュ!」
人形の胸の光を、不可視の剣が断ち割った。
光が大きくなり、強く光り輝く。
そして、強烈な風の衝撃波を生んだ。
僕たちは風に飲まれ、吹き飛ばされて見えない壁に叩き付けられた。
みしり、と骨が軋み、痛みを訴えた。
「か……ごほっ!」
たまらず僕は咳き込んだ。
アリスさんの姿を探すと、彼女は床の上に倒れていた。
今の一撃で、ひょっとして頭を強く打ったか!?
僕は痛む体を懸命に動かして彼女の元に駆け寄った。
落ちている杖を拾い、彼女を抱き起こす。
彼女はゆっくりと顔を上げ、人形を見つめた。
「……まさか、魔術を反射するなんて……」
人形は、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
アリスさんの魔術で断ち割られたはずの胸の光は、今は元に戻っていた。
──魔術が効く時と、効かない時がある……
僕は人形の胸に注目しながら、考えを巡らせた。
そういえば、魔術が効いた時、胸の光は色を変化させていた。
しかし今は、変化していない。
ひょっとして、光の色が示しているのは──
僕の頭の中で、ひとつの考えが閃いた。
僕はアリスさんに杖を渡して、言った。
「アリスさん、あの光を狙って何でもいいから氷魔術を!」
「氷魔術……ですか?」
「僕の考えが正しければ、氷魔術なら反射されない! あの光の色は、属性を表しているんだよ!」
「……成程」
ぐっ、と息を飲み込んで、アリスさんは杖の先端を人形へと向けた。
「その考え、信じますよ!」
人形が目の前まで来た。これ以上は此処に留まるのは危険だ。
アリスさんは叫んだ。
「アイシクルランス!」
杖の先端から生まれた氷の槍が、人形の胸の光に吸い込まれていく。
光は膨張して、辺りを眩く照らした。
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