アメミヤのよろず屋

高柳神羅

文字の大きさ
35 / 176

第35話 逆さの塔・五階

しおりを挟む
 逆さの塔、五階。
 どうやら此処が最上階らしく、この階層に上に上がるための階段はなかった。
 あるのは、一面の星の海。天井も、壁も、床も全てがそれで構成されていた。
 部屋の中央には、淡い青色に輝く巨大な水晶の結晶体が浮かんでいる。
 そして、それの傍にいるのは──
 虹色に輝く、人形のようなものだった。
 その全身は、よく見ると細かなプリズムの板で構成されている。大きさは二メートルほど。胸の辺りに大きな穴が空いており、そこに山吹色に輝く光の球が収まっている。
 人形は、目も鼻もないのっぺりとした顔をこちらに向けていた。まるで、顔全体でこちらの様子を伺っているようだった。
 魔物──にしては、雰囲気が違う。と言うよりも、この人形には気配というものがまるで感じられなかった。
 それでも、あれが僕たちにとって障害となりうる存在であることはひしひしと感じられる。
 人形の姿を視界に捉えた僕たちは、身構えた。
「どうやら、あれがこの塔の主のようですね」
「……あれを倒せば、この世界から脱出できるのかな」
 僕の疑問に、アリスさんは小さく首を振った。
「……分かりません。でも……他に出口の手掛かりらしい手掛かりもありませんでしたから、やってみる価値はあると思います」
 彼女は杖を構え、魔力を練り始めた。
 僕はそっと、彼女から離れた。
「油断はしないでよ」
「これでも、魔術師としてはそれなりに顔が知られているんです。訳の分からないものとはいえ、ただの魔物に負けるなんてことがあったら名折れです」
 とん、と足下を杖で突き、先端を人形へと向けた。
「必ず、勝ちます!」
 ぶわっ、と彼女のローブが大きく跳ね上がった。
「メテオレイン!」
 ちょっ……何て魔術を使ってるんだ、こんなところで!
 人形の頭上に召喚された隕石が、人形に降り注いで派手な音を周囲に撒き散らした。
 隕石が床に当たって砕け散り、無数の岩となって辺りに飛び散る。
 人形は──無傷だ。数多の岩に囲まれながら、平然と顔をこちらに向けた格好のまま佇んでいる。
「ウィンドカッター!」
 続けてアリスさんが魔術を放つ。
 風の刃は一点に収束し、人形の胸の光を射抜いた。
 人形が仰け反る。体を構成しているプリズムが細かな光となってぱらぱらと剥がれ落ち、宙に溶けていった。
 効いている!
 人形は体勢を立て直すと、周囲の岩を押し退けるようにこちらに向かってきた。
 胸の光が、山吹色から茜色に──変わる。
 人形が右手を翳す。その指の先端のプリズムがぼろりと崩れて炎の矢となり、僕たちに向かって飛んできた。
 僕は反射的に身を縮めた。その上を、炎の矢は通過していった。
 アリスさんは杖を振るって炎の矢を叩き落とした。
 そのまま人形を見据えて、次の一撃を撃つ!
「ウォーターレイ!」
 圧縮された水が光線のように空間を横切り、人形を貫く。
 頭と胸に一撃を受けた人形は先程と同じように体勢を崩し、全身からプリズムの欠片を撒き散らした。
 胸の光の色が、更に変化する。今度は茜から緑色へと。
 人形が右手を振るう。
 剥がれ落ちたプリズムが宙に溶けて風の刃となり、僕たちに襲いかかる。
 それは僕の脇腹を掠め、アリスさんの頬を裂き、風となって散っていった。
 僕は切り裂かれた脇腹を見た。
 どうやら、切られたのは服だけのようだ。体の方は何ともなっていない。
 アリスさんは険しい顔をして、対抗する形で魔術を放った。
「ウィンドスラッシュ!」
 人形の胸の光を、不可視の剣が断ち割った。
 光が大きくなり、強く光り輝く。
 そして、強烈な風の衝撃波を生んだ。
 僕たちは風に飲まれ、吹き飛ばされて見えない壁に叩き付けられた。
 みしり、と骨が軋み、痛みを訴えた。
「か……ごほっ!」
 たまらず僕は咳き込んだ。
 アリスさんの姿を探すと、彼女は床の上に倒れていた。
 今の一撃で、ひょっとして頭を強く打ったか!?
 僕は痛む体を懸命に動かして彼女の元に駆け寄った。
 落ちている杖を拾い、彼女を抱き起こす。
 彼女はゆっくりと顔を上げ、人形を見つめた。
「……まさか、魔術を反射するなんて……」
 人形は、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
 アリスさんの魔術で断ち割られたはずの胸の光は、今は元に戻っていた。
 ──魔術が効く時と、効かない時がある……
 僕は人形の胸に注目しながら、考えを巡らせた。
 そういえば、魔術が効いた時、胸の光は色を変化させていた。
 しかし今は、変化していない。
 ひょっとして、光の色が示しているのは──
 僕の頭の中で、ひとつの考えが閃いた。
 僕はアリスさんに杖を渡して、言った。
「アリスさん、あの光を狙って何でもいいから氷魔術を!」
「氷魔術……ですか?」
「僕の考えが正しければ、氷魔術なら反射されない! あの光の色は、属性を表しているんだよ!」
「……成程」
 ぐっ、と息を飲み込んで、アリスさんは杖の先端を人形へと向けた。
「その考え、信じますよ!」
 人形が目の前まで来た。これ以上は此処に留まるのは危険だ。
 アリスさんは叫んだ。
「アイシクルランス!」
 杖の先端から生まれた氷の槍が、人形の胸の光に吸い込まれていく。
 光は膨張して、辺りを眩く照らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

野獣と噂の王太子と偽りの妃

葉月 まい
ファンタジー
継母に勧められるまま、 野獣のように恐ろしいと噂の 王太子との縁談に向かった 伯爵令嬢のプリムローズ。 「勘違いするな。妃候補だなどと思っているなら大きな間違いだ。とっとと帰れ」 冷たくあしらわれるが 継母と異母妹の為にも 邪魔者の自分が帰る訳にはいかない。 「わたくしをここの使用人として 雇っていただけませんか?」 「…は?!」 戸惑う王太子の告白。 「俺は真の王太子ではない。そなたはこんなところにいてはならない。伯爵家に帰れ」 二人の関係は、どうなっていくのか? ⎯⎯⎯⎯ ◦◈◦◈◦◈◦⎯⎯⎯⎯ プリムローズ=ローレン(十七歳)…伯爵令嬢 母を知らずに育ち、継母や異母妹に遠慮しながら毎日を過ごしている。 自分がいない方がいいと、勧められるまま王太子の妃候補を募る通達により、宮殿へ。 野獣のように恐ろしいと噂の王太子に 冷たくされながらも いつしか心を通わせていく。 そんなプリムローズの 幸せなプリンセスストーリー♡

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...