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第34話 逆さの塔・三階・四階
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逆さの塔、三階。
今までの城内のような雰囲気からは一転して、そこは物置のような雑然とした造りをしていた。
ぼろぼろとあちこちが崩れた煉瓦の壁を埋め尽くすように、椅子やクローゼットなどの家具が無造作に置かれている。
……いや。置かれているというよりも転がされているといった感じだ。古くなった家具を無理矢理部屋に押し込んだような、そんな置き方をされているのだ。
この部屋にはシャンデリアはなく、壁に設置された燭台が小さな炎を点して室内を頼りなく照らしている。
天井はそんな有様で、足の踏み場がなかった。
まあ、僕たちは天井を歩いているわけではないから、天井がどんなに散らかっていようが一向に構いはしないのだが。
今までの部屋で罠として設置されていた石像や甲冑はなく、この部屋には一見すると障害はないように思えた。
しかし……此処は魔術の力で作られた空間だ。まだ何もないと決まったわけではない。
「……凄い部屋ですね」
天井を見上げて、アリスさんがぽつりと感想を述べた。
僕は彼女の背後から覗き込むように首を伸ばしながら、言った。
「この部屋が単なる物置ならいいんだけど……」
警戒しながら、僕たちは階段を登りきって部屋に足を踏み入れる。
すると、やはりというか、部屋が反応を示した。
部屋の片隅に置かれていたクローゼットが、勝手に扉を開いたのだ。
クローゼットの中には、渦を巻く星の海のようなものが蟠っていた。
渦の中心から、何かが勢い良く飛び出して僕たちの足下に突き刺さる。
それは、紫色のオーラを纏った箒だった。
「走れ!」
僕たちはその場を跳ねるように駆け出した。
それを追尾するように、クローゼットから吐き出されたモップやら何やらが降り注いで床に突き刺さっていく。
見た目はただの掃除道具だが、石の床を貫くような代物なのだ。あれが体に当たったらひとたまりもないだろう。
クローゼットを破壊してしまえばこの狙撃は止まるだろうが、そんな悠長なことをするよりもさっさとこの部屋を駆け抜けてしまった方が早い。
息を切らしながら、僕たちは何とか階段のところまで辿り着いた。
階段に片足を掛けると、クローゼットからの狙撃はぴたりと止まった。
どうやら、無事にこの部屋を抜けることに成功したようである。
僕たちは後を追って来るものの存在がないことを確認して、上に続く階段を上がっていった。
「……な、何だこれ」
階段を上がった僕は、それを見て思わず声を漏らした。
逆さの塔、四階。
そこは室内ではなかった。
壁がない開けた視界の中にあるのは、綺麗に磨かれた白い石畳の地面と白で統一された庭具の数々。流れる川とその上に架けられた白いアーチ状の橋。灯火のない燭台。
地面の端は切り落とされた崖のようにすっぱりと途切れており、空なのか海なのか分からない青が遥か下に広がっている。
頭上は、星の海。夜明け前のような群青色の空に、数多の星々が浮かんでいる。
天空の庭園を思わせる光景が、広がっていた。
「……塔の中ですよね? 此処」
四階に出たアリスさんは、空を見上げて小首を傾げた。
流石は魔術で創られた世界。何でもありだな。
僕はアリスさんに続いて、階段を上がりきった。
庭園に出て、何気なく川を覗き込む。
緩やかに流れる水面に、天の星が映っている。
それが唐突に、眩い光を放ちながら大きくなっていった。
「!?」
僕は頭上を見上げた。
天に向けられた視界が捉えたのは、こちらに向かって落ちてくる星──
真っ赤に燃える、天からの鏃だった。
「無茶苦茶だろ!?」
その場を慌てて離れる僕。
星は猛スピードで川に落ち、ぶしゅうと水を蒸発させながら川底に沈んでいった。
星の大きさは掌に乗る程度のものだが、とにかく落ちてくるスピードが半端ではない。
あんなものが頭に直撃したら、間違いなく頭は割れる。
僕の顔から、みるみる血の気が引いていった。
「早く、次! この階層を出るんだ!」
僕は叫んで駆け出した。
アリスさんも此処に長居することは危険だと悟ったようで、庭具をよけながら走り出す。
向かうのは、次の階に続く階段だ。
階段までは、距離が五十メートルほどある。
それだけの距離を走る間にも星は次々と落下してきて、僕たちがいた場所を容赦なく貫いていった。
綺麗だった庭園が、みるみる穴だらけになっていく。
十秒ほど庭園を全速力で走り、僕たちは階段に辿り着いた。
空間に直接突き刺さっているかのような奇妙な存在の仕方をしている階段を、慌てて駆け上がっていく。
一瞬だけ庭園の方に振り向くと──巨大な星が、庭園の中心を貫いて目茶苦茶に破壊するのが見えた。
今までの城内のような雰囲気からは一転して、そこは物置のような雑然とした造りをしていた。
ぼろぼろとあちこちが崩れた煉瓦の壁を埋め尽くすように、椅子やクローゼットなどの家具が無造作に置かれている。
……いや。置かれているというよりも転がされているといった感じだ。古くなった家具を無理矢理部屋に押し込んだような、そんな置き方をされているのだ。
この部屋にはシャンデリアはなく、壁に設置された燭台が小さな炎を点して室内を頼りなく照らしている。
天井はそんな有様で、足の踏み場がなかった。
まあ、僕たちは天井を歩いているわけではないから、天井がどんなに散らかっていようが一向に構いはしないのだが。
今までの部屋で罠として設置されていた石像や甲冑はなく、この部屋には一見すると障害はないように思えた。
しかし……此処は魔術の力で作られた空間だ。まだ何もないと決まったわけではない。
「……凄い部屋ですね」
天井を見上げて、アリスさんがぽつりと感想を述べた。
僕は彼女の背後から覗き込むように首を伸ばしながら、言った。
「この部屋が単なる物置ならいいんだけど……」
警戒しながら、僕たちは階段を登りきって部屋に足を踏み入れる。
すると、やはりというか、部屋が反応を示した。
部屋の片隅に置かれていたクローゼットが、勝手に扉を開いたのだ。
クローゼットの中には、渦を巻く星の海のようなものが蟠っていた。
渦の中心から、何かが勢い良く飛び出して僕たちの足下に突き刺さる。
それは、紫色のオーラを纏った箒だった。
「走れ!」
僕たちはその場を跳ねるように駆け出した。
それを追尾するように、クローゼットから吐き出されたモップやら何やらが降り注いで床に突き刺さっていく。
見た目はただの掃除道具だが、石の床を貫くような代物なのだ。あれが体に当たったらひとたまりもないだろう。
クローゼットを破壊してしまえばこの狙撃は止まるだろうが、そんな悠長なことをするよりもさっさとこの部屋を駆け抜けてしまった方が早い。
息を切らしながら、僕たちは何とか階段のところまで辿り着いた。
階段に片足を掛けると、クローゼットからの狙撃はぴたりと止まった。
どうやら、無事にこの部屋を抜けることに成功したようである。
僕たちは後を追って来るものの存在がないことを確認して、上に続く階段を上がっていった。
「……な、何だこれ」
階段を上がった僕は、それを見て思わず声を漏らした。
逆さの塔、四階。
そこは室内ではなかった。
壁がない開けた視界の中にあるのは、綺麗に磨かれた白い石畳の地面と白で統一された庭具の数々。流れる川とその上に架けられた白いアーチ状の橋。灯火のない燭台。
地面の端は切り落とされた崖のようにすっぱりと途切れており、空なのか海なのか分からない青が遥か下に広がっている。
頭上は、星の海。夜明け前のような群青色の空に、数多の星々が浮かんでいる。
天空の庭園を思わせる光景が、広がっていた。
「……塔の中ですよね? 此処」
四階に出たアリスさんは、空を見上げて小首を傾げた。
流石は魔術で創られた世界。何でもありだな。
僕はアリスさんに続いて、階段を上がりきった。
庭園に出て、何気なく川を覗き込む。
緩やかに流れる水面に、天の星が映っている。
それが唐突に、眩い光を放ちながら大きくなっていった。
「!?」
僕は頭上を見上げた。
天に向けられた視界が捉えたのは、こちらに向かって落ちてくる星──
真っ赤に燃える、天からの鏃だった。
「無茶苦茶だろ!?」
その場を慌てて離れる僕。
星は猛スピードで川に落ち、ぶしゅうと水を蒸発させながら川底に沈んでいった。
星の大きさは掌に乗る程度のものだが、とにかく落ちてくるスピードが半端ではない。
あんなものが頭に直撃したら、間違いなく頭は割れる。
僕の顔から、みるみる血の気が引いていった。
「早く、次! この階層を出るんだ!」
僕は叫んで駆け出した。
アリスさんも此処に長居することは危険だと悟ったようで、庭具をよけながら走り出す。
向かうのは、次の階に続く階段だ。
階段までは、距離が五十メートルほどある。
それだけの距離を走る間にも星は次々と落下してきて、僕たちがいた場所を容赦なく貫いていった。
綺麗だった庭園が、みるみる穴だらけになっていく。
十秒ほど庭園を全速力で走り、僕たちは階段に辿り着いた。
空間に直接突き刺さっているかのような奇妙な存在の仕方をしている階段を、慌てて駆け上がっていく。
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