45 / 176
第45話 孤軍奮闘
しおりを挟む
ランタンが照らした行く手の壁際に、ロックワームがいる。
ロックワームが壁の岩を食べている隙に、僕は反対側の壁に背中を付けるようにしてその場を通り過ぎた。
ロックワームの傍から離れ、何もない位置まで移動して、ほっと息をつく。
こっちから手を出さない限りは襲ってこないと分かっていても、魔物の傍を通るのは心臓に悪い。
しかし、相手がロックワームのような無害の生き物であるうちはまだいい。
アンデッドに遭遇したら、発見されずにそこを通り抜けるのはほぼ不可能だろう。
誰か……誰でもいい。この先にいてほしい。早いところ僕を見つけてくれ。
今にも不安で潰れてしまいそうな心臓に手を当てて、僕はとにかく前に進まなければという思いで歩を進めた。
そうして、三十分ほどダンジョンの中を彷徨ったであろうか。
少し広くなっている場所に出た。
崩れた壁。放置されているつるはし。山になっている石。
今までに見てきたのと同じ、採掘場所になっていた場所のようである。
つるはし……ちょっと古いけど、使えそうだ。身を守る武器として持って行こう。
僕の腕力では満足に扱えないだろうけど、何もないよりはマシだ。
僕はつるはしを拾った。
そして、何気なく石の山の方に目を向けて。
そこに埋もれるようにして宝箱が置かれていることに気が付いた。
角が黄銅で補強された木製の箱だ。鍵穴は付いておらず、簡単に開くことができそうだった。
せっかくだし、開けていこう。役に立つ道具が入っているかもしれないし。
僕は宝箱の後ろに立って、蓋に手を掛けた。
ダンジョンにある宝箱には、罠が仕込まれている可能性がある。飛び出す矢の仕掛けだったり、噴き出す炎だったり……そういった罠は、背後から箱を開けることで回避できるのだ。
ゆっくりと、蓋を開ける。
罠は、仕込まれてはいなかった。
中には、腕輪が入っていた。銀か、プラチナか──銀色の金属でできており、赤色の宝石が一粒あしらわれている。
これは……ルビーではないな。サードニクスか?
宝飾としての価値は低そうだが、ダンジョン産の宝ということでそれなりに世間の需要はあるだろう。
僕は腕輪を左腕に填めた。
僕の腕にはちょっと大きかったが、それはこの際いい。
ランタンを手に、歩みを再開する。
分かれ道に出た。
さて、どちらに進むか──
立ち止まって考えていると、右の通路から砂利を踏む足音が聞こえてきた。
固い足音だ。ゾンビの足音ではない。
誰だ?
つるはしを構える僕の前に、相手が姿を現した。
それは、ひしゃげた角材を手にしたスケルトンであった。
スケルトンは眼球のない目でこちらを見ると、かたかたと歯を鳴らしながら手にした角材を振り上げた。
「ひ……」
思わず漏らしそうになる悲鳴を、僕は奥歯を噛んで耐えた。
此処で悲鳴を上げたところで助けてくれる存在はない。僕が、僕自身の力で、この状況を何とかしなければならないのだ。
逃げるか?──いや、逃げたところでこいつはしつこく追って来る。僕の足では追いつかれてしまう。
やられる前に……やれ!
「……うわぁぁぁーッ!」
僕は叫びながらつるはしを力任せに振り下ろした。
つるはしは、スケルトンの脳天を砕いて頭をもぎ取った。
つるはしに串刺しにされた頭は、未だにかたかたと歯を鳴らしていた。
「ぎゃーっ!」
無我夢中でつるはしを振り回す僕。
首を失った胴体につるはしの先端が当たり、それはよろけてその場に倒れた。
すっぽ抜けた頭蓋骨が、すかんと肋骨に当たって転がっていく。
僕はスケルトンを飛び越えて、左の通路に飛び込んだ。
スケルトンは粉々にならない限り動き続ける。復活する前に、逃げてしまうに限るのだ。
僕は走った。息を切らしながら通路をどんどん走った。
曲がり道を勢い良く曲がる。
と、目の前に急に眩い光が飛び込んできた。
どすん!
僕は光と正面衝突した。
「うわっ!」
「きゃっ」
尻餅をつく僕の前で、光は小さな悲鳴を上げた。
聞き覚えのある声だった。
恐る恐る顔を向けると、そこにいたのは。
「あ……アミィ、さん?」
「……貴方だったの」
アミィさんは全く驚いてもいない様子で、僕のことを見下ろしていた。
「凄い悲鳴が聞こえた。何かあったかと思った」
「アンデッドから逃げてきたんだよ!」
僕は後方を指差した。
「何とか振り払ってきたけど絶対追いかけてくる。逃げないと」
「大丈夫。私がいるから」
アミィさんが手を差し伸べてくる。
僕はそれに掴まって立ち上がった。
「アデルたちはさっきの部屋を目指してるはず。私たちもあの部屋に戻ろう」
アミィさんは僕から手を離して、光の灯った杖を前方に翳しながら歩き始めた。
またあの部屋に行くのか。僕としてはもうこのダンジョンから出たいんだけど……
溜め息をついて彼女の後を付いて行く僕をちらりと横目で見て、彼女は怪訝そうに言った。
「そのつるはし、何」
「何って……武器だよ。こんなのでもないよりマシだと思って、拾った」
「そう」
行くべき道が分かっているのか、アミィさんは枝分かれしている通路を迷うことなく進んでいく。
とりあえず……一人だけでも合流できて良かった。これでアンデッドが出てきても何とかしてもらえる。
アデルさんたちは、まあ大丈夫だろうとは思うけど、顔を見るまではやっぱり心配だ。
どうか何事もなくいてほしいと願いつつ、僕はアミィさんの後ろを置いていかれないように早足で歩いた。
ロックワームが壁の岩を食べている隙に、僕は反対側の壁に背中を付けるようにしてその場を通り過ぎた。
ロックワームの傍から離れ、何もない位置まで移動して、ほっと息をつく。
こっちから手を出さない限りは襲ってこないと分かっていても、魔物の傍を通るのは心臓に悪い。
しかし、相手がロックワームのような無害の生き物であるうちはまだいい。
アンデッドに遭遇したら、発見されずにそこを通り抜けるのはほぼ不可能だろう。
誰か……誰でもいい。この先にいてほしい。早いところ僕を見つけてくれ。
今にも不安で潰れてしまいそうな心臓に手を当てて、僕はとにかく前に進まなければという思いで歩を進めた。
そうして、三十分ほどダンジョンの中を彷徨ったであろうか。
少し広くなっている場所に出た。
崩れた壁。放置されているつるはし。山になっている石。
今までに見てきたのと同じ、採掘場所になっていた場所のようである。
つるはし……ちょっと古いけど、使えそうだ。身を守る武器として持って行こう。
僕の腕力では満足に扱えないだろうけど、何もないよりはマシだ。
僕はつるはしを拾った。
そして、何気なく石の山の方に目を向けて。
そこに埋もれるようにして宝箱が置かれていることに気が付いた。
角が黄銅で補強された木製の箱だ。鍵穴は付いておらず、簡単に開くことができそうだった。
せっかくだし、開けていこう。役に立つ道具が入っているかもしれないし。
僕は宝箱の後ろに立って、蓋に手を掛けた。
ダンジョンにある宝箱には、罠が仕込まれている可能性がある。飛び出す矢の仕掛けだったり、噴き出す炎だったり……そういった罠は、背後から箱を開けることで回避できるのだ。
ゆっくりと、蓋を開ける。
罠は、仕込まれてはいなかった。
中には、腕輪が入っていた。銀か、プラチナか──銀色の金属でできており、赤色の宝石が一粒あしらわれている。
これは……ルビーではないな。サードニクスか?
宝飾としての価値は低そうだが、ダンジョン産の宝ということでそれなりに世間の需要はあるだろう。
僕は腕輪を左腕に填めた。
僕の腕にはちょっと大きかったが、それはこの際いい。
ランタンを手に、歩みを再開する。
分かれ道に出た。
さて、どちらに進むか──
立ち止まって考えていると、右の通路から砂利を踏む足音が聞こえてきた。
固い足音だ。ゾンビの足音ではない。
誰だ?
つるはしを構える僕の前に、相手が姿を現した。
それは、ひしゃげた角材を手にしたスケルトンであった。
スケルトンは眼球のない目でこちらを見ると、かたかたと歯を鳴らしながら手にした角材を振り上げた。
「ひ……」
思わず漏らしそうになる悲鳴を、僕は奥歯を噛んで耐えた。
此処で悲鳴を上げたところで助けてくれる存在はない。僕が、僕自身の力で、この状況を何とかしなければならないのだ。
逃げるか?──いや、逃げたところでこいつはしつこく追って来る。僕の足では追いつかれてしまう。
やられる前に……やれ!
「……うわぁぁぁーッ!」
僕は叫びながらつるはしを力任せに振り下ろした。
つるはしは、スケルトンの脳天を砕いて頭をもぎ取った。
つるはしに串刺しにされた頭は、未だにかたかたと歯を鳴らしていた。
「ぎゃーっ!」
無我夢中でつるはしを振り回す僕。
首を失った胴体につるはしの先端が当たり、それはよろけてその場に倒れた。
すっぽ抜けた頭蓋骨が、すかんと肋骨に当たって転がっていく。
僕はスケルトンを飛び越えて、左の通路に飛び込んだ。
スケルトンは粉々にならない限り動き続ける。復活する前に、逃げてしまうに限るのだ。
僕は走った。息を切らしながら通路をどんどん走った。
曲がり道を勢い良く曲がる。
と、目の前に急に眩い光が飛び込んできた。
どすん!
僕は光と正面衝突した。
「うわっ!」
「きゃっ」
尻餅をつく僕の前で、光は小さな悲鳴を上げた。
聞き覚えのある声だった。
恐る恐る顔を向けると、そこにいたのは。
「あ……アミィ、さん?」
「……貴方だったの」
アミィさんは全く驚いてもいない様子で、僕のことを見下ろしていた。
「凄い悲鳴が聞こえた。何かあったかと思った」
「アンデッドから逃げてきたんだよ!」
僕は後方を指差した。
「何とか振り払ってきたけど絶対追いかけてくる。逃げないと」
「大丈夫。私がいるから」
アミィさんが手を差し伸べてくる。
僕はそれに掴まって立ち上がった。
「アデルたちはさっきの部屋を目指してるはず。私たちもあの部屋に戻ろう」
アミィさんは僕から手を離して、光の灯った杖を前方に翳しながら歩き始めた。
またあの部屋に行くのか。僕としてはもうこのダンジョンから出たいんだけど……
溜め息をついて彼女の後を付いて行く僕をちらりと横目で見て、彼女は怪訝そうに言った。
「そのつるはし、何」
「何って……武器だよ。こんなのでもないよりマシだと思って、拾った」
「そう」
行くべき道が分かっているのか、アミィさんは枝分かれしている通路を迷うことなく進んでいく。
とりあえず……一人だけでも合流できて良かった。これでアンデッドが出てきても何とかしてもらえる。
アデルさんたちは、まあ大丈夫だろうとは思うけど、顔を見るまではやっぱり心配だ。
どうか何事もなくいてほしいと願いつつ、僕はアミィさんの後ろを置いていかれないように早足で歩いた。
0
あなたにおすすめの小説
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
Chivalry - 異国のサムライ達 -
稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか?
これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~
白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた!
もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する!
とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する!
ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか?
過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談
小説家になろうでも連載しています!
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。
Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。
白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる