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第45話 孤軍奮闘
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ランタンが照らした行く手の壁際に、ロックワームがいる。
ロックワームが壁の岩を食べている隙に、僕は反対側の壁に背中を付けるようにしてその場を通り過ぎた。
ロックワームの傍から離れ、何もない位置まで移動して、ほっと息をつく。
こっちから手を出さない限りは襲ってこないと分かっていても、魔物の傍を通るのは心臓に悪い。
しかし、相手がロックワームのような無害の生き物であるうちはまだいい。
アンデッドに遭遇したら、発見されずにそこを通り抜けるのはほぼ不可能だろう。
誰か……誰でもいい。この先にいてほしい。早いところ僕を見つけてくれ。
今にも不安で潰れてしまいそうな心臓に手を当てて、僕はとにかく前に進まなければという思いで歩を進めた。
そうして、三十分ほどダンジョンの中を彷徨ったであろうか。
少し広くなっている場所に出た。
崩れた壁。放置されているつるはし。山になっている石。
今までに見てきたのと同じ、採掘場所になっていた場所のようである。
つるはし……ちょっと古いけど、使えそうだ。身を守る武器として持って行こう。
僕の腕力では満足に扱えないだろうけど、何もないよりはマシだ。
僕はつるはしを拾った。
そして、何気なく石の山の方に目を向けて。
そこに埋もれるようにして宝箱が置かれていることに気が付いた。
角が黄銅で補強された木製の箱だ。鍵穴は付いておらず、簡単に開くことができそうだった。
せっかくだし、開けていこう。役に立つ道具が入っているかもしれないし。
僕は宝箱の後ろに立って、蓋に手を掛けた。
ダンジョンにある宝箱には、罠が仕込まれている可能性がある。飛び出す矢の仕掛けだったり、噴き出す炎だったり……そういった罠は、背後から箱を開けることで回避できるのだ。
ゆっくりと、蓋を開ける。
罠は、仕込まれてはいなかった。
中には、腕輪が入っていた。銀か、プラチナか──銀色の金属でできており、赤色の宝石が一粒あしらわれている。
これは……ルビーではないな。サードニクスか?
宝飾としての価値は低そうだが、ダンジョン産の宝ということでそれなりに世間の需要はあるだろう。
僕は腕輪を左腕に填めた。
僕の腕にはちょっと大きかったが、それはこの際いい。
ランタンを手に、歩みを再開する。
分かれ道に出た。
さて、どちらに進むか──
立ち止まって考えていると、右の通路から砂利を踏む足音が聞こえてきた。
固い足音だ。ゾンビの足音ではない。
誰だ?
つるはしを構える僕の前に、相手が姿を現した。
それは、ひしゃげた角材を手にしたスケルトンであった。
スケルトンは眼球のない目でこちらを見ると、かたかたと歯を鳴らしながら手にした角材を振り上げた。
「ひ……」
思わず漏らしそうになる悲鳴を、僕は奥歯を噛んで耐えた。
此処で悲鳴を上げたところで助けてくれる存在はない。僕が、僕自身の力で、この状況を何とかしなければならないのだ。
逃げるか?──いや、逃げたところでこいつはしつこく追って来る。僕の足では追いつかれてしまう。
やられる前に……やれ!
「……うわぁぁぁーッ!」
僕は叫びながらつるはしを力任せに振り下ろした。
つるはしは、スケルトンの脳天を砕いて頭をもぎ取った。
つるはしに串刺しにされた頭は、未だにかたかたと歯を鳴らしていた。
「ぎゃーっ!」
無我夢中でつるはしを振り回す僕。
首を失った胴体につるはしの先端が当たり、それはよろけてその場に倒れた。
すっぽ抜けた頭蓋骨が、すかんと肋骨に当たって転がっていく。
僕はスケルトンを飛び越えて、左の通路に飛び込んだ。
スケルトンは粉々にならない限り動き続ける。復活する前に、逃げてしまうに限るのだ。
僕は走った。息を切らしながら通路をどんどん走った。
曲がり道を勢い良く曲がる。
と、目の前に急に眩い光が飛び込んできた。
どすん!
僕は光と正面衝突した。
「うわっ!」
「きゃっ」
尻餅をつく僕の前で、光は小さな悲鳴を上げた。
聞き覚えのある声だった。
恐る恐る顔を向けると、そこにいたのは。
「あ……アミィ、さん?」
「……貴方だったの」
アミィさんは全く驚いてもいない様子で、僕のことを見下ろしていた。
「凄い悲鳴が聞こえた。何かあったかと思った」
「アンデッドから逃げてきたんだよ!」
僕は後方を指差した。
「何とか振り払ってきたけど絶対追いかけてくる。逃げないと」
「大丈夫。私がいるから」
アミィさんが手を差し伸べてくる。
僕はそれに掴まって立ち上がった。
「アデルたちはさっきの部屋を目指してるはず。私たちもあの部屋に戻ろう」
アミィさんは僕から手を離して、光の灯った杖を前方に翳しながら歩き始めた。
またあの部屋に行くのか。僕としてはもうこのダンジョンから出たいんだけど……
溜め息をついて彼女の後を付いて行く僕をちらりと横目で見て、彼女は怪訝そうに言った。
「そのつるはし、何」
「何って……武器だよ。こんなのでもないよりマシだと思って、拾った」
「そう」
行くべき道が分かっているのか、アミィさんは枝分かれしている通路を迷うことなく進んでいく。
とりあえず……一人だけでも合流できて良かった。これでアンデッドが出てきても何とかしてもらえる。
アデルさんたちは、まあ大丈夫だろうとは思うけど、顔を見るまではやっぱり心配だ。
どうか何事もなくいてほしいと願いつつ、僕はアミィさんの後ろを置いていかれないように早足で歩いた。
ロックワームが壁の岩を食べている隙に、僕は反対側の壁に背中を付けるようにしてその場を通り過ぎた。
ロックワームの傍から離れ、何もない位置まで移動して、ほっと息をつく。
こっちから手を出さない限りは襲ってこないと分かっていても、魔物の傍を通るのは心臓に悪い。
しかし、相手がロックワームのような無害の生き物であるうちはまだいい。
アンデッドに遭遇したら、発見されずにそこを通り抜けるのはほぼ不可能だろう。
誰か……誰でもいい。この先にいてほしい。早いところ僕を見つけてくれ。
今にも不安で潰れてしまいそうな心臓に手を当てて、僕はとにかく前に進まなければという思いで歩を進めた。
そうして、三十分ほどダンジョンの中を彷徨ったであろうか。
少し広くなっている場所に出た。
崩れた壁。放置されているつるはし。山になっている石。
今までに見てきたのと同じ、採掘場所になっていた場所のようである。
つるはし……ちょっと古いけど、使えそうだ。身を守る武器として持って行こう。
僕の腕力では満足に扱えないだろうけど、何もないよりはマシだ。
僕はつるはしを拾った。
そして、何気なく石の山の方に目を向けて。
そこに埋もれるようにして宝箱が置かれていることに気が付いた。
角が黄銅で補強された木製の箱だ。鍵穴は付いておらず、簡単に開くことができそうだった。
せっかくだし、開けていこう。役に立つ道具が入っているかもしれないし。
僕は宝箱の後ろに立って、蓋に手を掛けた。
ダンジョンにある宝箱には、罠が仕込まれている可能性がある。飛び出す矢の仕掛けだったり、噴き出す炎だったり……そういった罠は、背後から箱を開けることで回避できるのだ。
ゆっくりと、蓋を開ける。
罠は、仕込まれてはいなかった。
中には、腕輪が入っていた。銀か、プラチナか──銀色の金属でできており、赤色の宝石が一粒あしらわれている。
これは……ルビーではないな。サードニクスか?
宝飾としての価値は低そうだが、ダンジョン産の宝ということでそれなりに世間の需要はあるだろう。
僕は腕輪を左腕に填めた。
僕の腕にはちょっと大きかったが、それはこの際いい。
ランタンを手に、歩みを再開する。
分かれ道に出た。
さて、どちらに進むか──
立ち止まって考えていると、右の通路から砂利を踏む足音が聞こえてきた。
固い足音だ。ゾンビの足音ではない。
誰だ?
つるはしを構える僕の前に、相手が姿を現した。
それは、ひしゃげた角材を手にしたスケルトンであった。
スケルトンは眼球のない目でこちらを見ると、かたかたと歯を鳴らしながら手にした角材を振り上げた。
「ひ……」
思わず漏らしそうになる悲鳴を、僕は奥歯を噛んで耐えた。
此処で悲鳴を上げたところで助けてくれる存在はない。僕が、僕自身の力で、この状況を何とかしなければならないのだ。
逃げるか?──いや、逃げたところでこいつはしつこく追って来る。僕の足では追いつかれてしまう。
やられる前に……やれ!
「……うわぁぁぁーッ!」
僕は叫びながらつるはしを力任せに振り下ろした。
つるはしは、スケルトンの脳天を砕いて頭をもぎ取った。
つるはしに串刺しにされた頭は、未だにかたかたと歯を鳴らしていた。
「ぎゃーっ!」
無我夢中でつるはしを振り回す僕。
首を失った胴体につるはしの先端が当たり、それはよろけてその場に倒れた。
すっぽ抜けた頭蓋骨が、すかんと肋骨に当たって転がっていく。
僕はスケルトンを飛び越えて、左の通路に飛び込んだ。
スケルトンは粉々にならない限り動き続ける。復活する前に、逃げてしまうに限るのだ。
僕は走った。息を切らしながら通路をどんどん走った。
曲がり道を勢い良く曲がる。
と、目の前に急に眩い光が飛び込んできた。
どすん!
僕は光と正面衝突した。
「うわっ!」
「きゃっ」
尻餅をつく僕の前で、光は小さな悲鳴を上げた。
聞き覚えのある声だった。
恐る恐る顔を向けると、そこにいたのは。
「あ……アミィ、さん?」
「……貴方だったの」
アミィさんは全く驚いてもいない様子で、僕のことを見下ろしていた。
「凄い悲鳴が聞こえた。何かあったかと思った」
「アンデッドから逃げてきたんだよ!」
僕は後方を指差した。
「何とか振り払ってきたけど絶対追いかけてくる。逃げないと」
「大丈夫。私がいるから」
アミィさんが手を差し伸べてくる。
僕はそれに掴まって立ち上がった。
「アデルたちはさっきの部屋を目指してるはず。私たちもあの部屋に戻ろう」
アミィさんは僕から手を離して、光の灯った杖を前方に翳しながら歩き始めた。
またあの部屋に行くのか。僕としてはもうこのダンジョンから出たいんだけど……
溜め息をついて彼女の後を付いて行く僕をちらりと横目で見て、彼女は怪訝そうに言った。
「そのつるはし、何」
「何って……武器だよ。こんなのでもないよりマシだと思って、拾った」
「そう」
行くべき道が分かっているのか、アミィさんは枝分かれしている通路を迷うことなく進んでいく。
とりあえず……一人だけでも合流できて良かった。これでアンデッドが出てきても何とかしてもらえる。
アデルさんたちは、まあ大丈夫だろうとは思うけど、顔を見るまではやっぱり心配だ。
どうか何事もなくいてほしいと願いつつ、僕はアミィさんの後ろを置いていかれないように早足で歩いた。
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