44 / 176
第44話 ユジンの司祭サテュロス
しおりを挟む
「このような場所までよくおいでになられた」
僕たちの前に姿を現したのは、真っ白な肌をした若い男だった。
腰まで伸ばした銀の髪。ルビーのような真紅の瞳。右の頬に魔術文字に似た紋様の刺青を入れ、司祭が身に着けるようなデザインの白いローブを纏っている。
男は悠然と僕たちの前を通り過ぎ、台座の中央まで歩を進めて、笑った。
「入口の封印を破ってわざわざ入ってきたということは、君たちの狙いはおそらくこれなのであろうな」
そう言って男は懐から何かを取り出した。
それは、掌ほどの大きさの赤い宝石をあしらったペンダントだった。
値打ち物の宝飾品というよりも、呪符とか魔術の道具とか、そっちの印象を受ける品だ。
男は長い爪を生やした指でペンダントの宝石を撫でると、悩ましげにかぶりを振った。
「これは、我が神に捧げるための大切な品なのでな……此処まで御足労頂いておいて申し訳ないが、君たちに差し上げるわけにはいかないのだよ」
「お前は何者だ、ダンジョンにいるということは、魔物の仲間か!?」
男に剣先を向けて身構えるアデルさん。
男は彼に顔を向けてゆるりと首を振ると、これは失礼と言って一礼をした。
「私はサテュロス。ユジンに仕える司祭の一人だ……以後、お見知りおきを」
ユジン……何だ?
とりあえず魔物でないらしいということは分かったが、得体が知れないということに変わりはない。
僕がサテュロスを注視していると、彼はペンダントを懐に戻して、右手を足下に向けて翳した。
「さて……挨拶も済ませたことだし、私はここでおいとまさせてもらうよ」
台座に描かれている紋様が、鈍い赤色の光を放ち始めた。
彼は微笑んで、僕たちの顔を順番に見つめた。
「君たちには、私が此処から去るまでのしばしの間、私の愛する人形たちと戯れていて頂こう」
僕たちの足下に、赤い光の円が現れる。
その光はどんどん強くなっていき、視界を塗り潰していった。
「機会があれば、また何処かで会うこともあるだろう。その時が来るまで、さらばだ──ネクロリボーン」
全身が浮くような感覚を感じた。そんな中で、サテュロスの声だけがはっきりと聞こえてきた。
そして、次に僕が気が付いた時。
僕は、見覚えのない通路の中央に一人で立っていた。
そう。一人。
傍に、アデルさんたちの姿はなかった。
「!?」
僕はぎょっとして周囲を見回した。
天井にある梁の存在や壁の様子で、此処がダンジョンの中であることは分かる。しかし、ダンジョンのどの辺りに位置する場所なのか、それはさっぱり分からなかった。
何故、こんな場所にいるのか──
何となく、理由は分かる。サテュロスが、転移の魔術を僕たちに掛けたのだ。
おそらくアデルさんたちも、このダンジョンの何処かにばらばらに転移しているはずである。
「……そんな」
僕は頭を抱えてその場に座り込んだ。
この、魔物だらけのダンジョンの中に、僕一人。
無理だ。身動きが取れるわけがない!
何とかアデルさんたちに僕を発見してもらいたいところだが、このダンジョンが一体どれほどの広さなのかは分からない。そんな状況下で都合良く彼らに発見されるとは、どうしても思えなかった。
何でこんなことに……
とにかく、誰かに発見されるまでこのまま此処で待っていよう。
そう僕が心に決めた、それと同時に。
通路の向こうから、ゆっくりとこちらに向かって近付いてくる足音が聞こえてきた。
「…………」
僕はランタンを音のする方に向けて翳した。
蟠る闇の中にうっすらと浮かび上がる、土色の裸足。
ゾンビの、足だ。
「……!」
僕は慌てて立ち上がった。
ゾンビは光の有無でものを見ているわけではないので今はまだ僕の存在には気付いていないだろうが、此処にずっといたら見つかってしまう。そうなったら、確実に助からない。
やっぱりダンジョンになんて来るもんじゃない!
僕は胸中で叫びながら、ゾンビが来る方とは逆の方向に向かって早足で歩き出した。
おそらく僕が進む方にも魔物はいるだろうが、運良く出会わない可能性もある。僅かな可能性ではあるが、今はそれに賭けるしかない。
とにかく、アデルさんたちと合流しないと。
僅かな勇気を奮い起こして、僕はランタンを片手に無音の通路を進んでいった。
僕たちの前に姿を現したのは、真っ白な肌をした若い男だった。
腰まで伸ばした銀の髪。ルビーのような真紅の瞳。右の頬に魔術文字に似た紋様の刺青を入れ、司祭が身に着けるようなデザインの白いローブを纏っている。
男は悠然と僕たちの前を通り過ぎ、台座の中央まで歩を進めて、笑った。
「入口の封印を破ってわざわざ入ってきたということは、君たちの狙いはおそらくこれなのであろうな」
そう言って男は懐から何かを取り出した。
それは、掌ほどの大きさの赤い宝石をあしらったペンダントだった。
値打ち物の宝飾品というよりも、呪符とか魔術の道具とか、そっちの印象を受ける品だ。
男は長い爪を生やした指でペンダントの宝石を撫でると、悩ましげにかぶりを振った。
「これは、我が神に捧げるための大切な品なのでな……此処まで御足労頂いておいて申し訳ないが、君たちに差し上げるわけにはいかないのだよ」
「お前は何者だ、ダンジョンにいるということは、魔物の仲間か!?」
男に剣先を向けて身構えるアデルさん。
男は彼に顔を向けてゆるりと首を振ると、これは失礼と言って一礼をした。
「私はサテュロス。ユジンに仕える司祭の一人だ……以後、お見知りおきを」
ユジン……何だ?
とりあえず魔物でないらしいということは分かったが、得体が知れないということに変わりはない。
僕がサテュロスを注視していると、彼はペンダントを懐に戻して、右手を足下に向けて翳した。
「さて……挨拶も済ませたことだし、私はここでおいとまさせてもらうよ」
台座に描かれている紋様が、鈍い赤色の光を放ち始めた。
彼は微笑んで、僕たちの顔を順番に見つめた。
「君たちには、私が此処から去るまでのしばしの間、私の愛する人形たちと戯れていて頂こう」
僕たちの足下に、赤い光の円が現れる。
その光はどんどん強くなっていき、視界を塗り潰していった。
「機会があれば、また何処かで会うこともあるだろう。その時が来るまで、さらばだ──ネクロリボーン」
全身が浮くような感覚を感じた。そんな中で、サテュロスの声だけがはっきりと聞こえてきた。
そして、次に僕が気が付いた時。
僕は、見覚えのない通路の中央に一人で立っていた。
そう。一人。
傍に、アデルさんたちの姿はなかった。
「!?」
僕はぎょっとして周囲を見回した。
天井にある梁の存在や壁の様子で、此処がダンジョンの中であることは分かる。しかし、ダンジョンのどの辺りに位置する場所なのか、それはさっぱり分からなかった。
何故、こんな場所にいるのか──
何となく、理由は分かる。サテュロスが、転移の魔術を僕たちに掛けたのだ。
おそらくアデルさんたちも、このダンジョンの何処かにばらばらに転移しているはずである。
「……そんな」
僕は頭を抱えてその場に座り込んだ。
この、魔物だらけのダンジョンの中に、僕一人。
無理だ。身動きが取れるわけがない!
何とかアデルさんたちに僕を発見してもらいたいところだが、このダンジョンが一体どれほどの広さなのかは分からない。そんな状況下で都合良く彼らに発見されるとは、どうしても思えなかった。
何でこんなことに……
とにかく、誰かに発見されるまでこのまま此処で待っていよう。
そう僕が心に決めた、それと同時に。
通路の向こうから、ゆっくりとこちらに向かって近付いてくる足音が聞こえてきた。
「…………」
僕はランタンを音のする方に向けて翳した。
蟠る闇の中にうっすらと浮かび上がる、土色の裸足。
ゾンビの、足だ。
「……!」
僕は慌てて立ち上がった。
ゾンビは光の有無でものを見ているわけではないので今はまだ僕の存在には気付いていないだろうが、此処にずっといたら見つかってしまう。そうなったら、確実に助からない。
やっぱりダンジョンになんて来るもんじゃない!
僕は胸中で叫びながら、ゾンビが来る方とは逆の方向に向かって早足で歩き出した。
おそらく僕が進む方にも魔物はいるだろうが、運良く出会わない可能性もある。僅かな可能性ではあるが、今はそれに賭けるしかない。
とにかく、アデルさんたちと合流しないと。
僅かな勇気を奮い起こして、僕はランタンを片手に無音の通路を進んでいった。
0
あなたにおすすめの小説
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
Chivalry - 異国のサムライ達 -
稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか?
これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~
白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた!
もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する!
とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する!
ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか?
過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談
小説家になろうでも連載しています!
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。
Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。
白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる