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第44話 ユジンの司祭サテュロス
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「このような場所までよくおいでになられた」
僕たちの前に姿を現したのは、真っ白な肌をした若い男だった。
腰まで伸ばした銀の髪。ルビーのような真紅の瞳。右の頬に魔術文字に似た紋様の刺青を入れ、司祭が身に着けるようなデザインの白いローブを纏っている。
男は悠然と僕たちの前を通り過ぎ、台座の中央まで歩を進めて、笑った。
「入口の封印を破ってわざわざ入ってきたということは、君たちの狙いはおそらくこれなのであろうな」
そう言って男は懐から何かを取り出した。
それは、掌ほどの大きさの赤い宝石をあしらったペンダントだった。
値打ち物の宝飾品というよりも、呪符とか魔術の道具とか、そっちの印象を受ける品だ。
男は長い爪を生やした指でペンダントの宝石を撫でると、悩ましげにかぶりを振った。
「これは、我が神に捧げるための大切な品なのでな……此処まで御足労頂いておいて申し訳ないが、君たちに差し上げるわけにはいかないのだよ」
「お前は何者だ、ダンジョンにいるということは、魔物の仲間か!?」
男に剣先を向けて身構えるアデルさん。
男は彼に顔を向けてゆるりと首を振ると、これは失礼と言って一礼をした。
「私はサテュロス。ユジンに仕える司祭の一人だ……以後、お見知りおきを」
ユジン……何だ?
とりあえず魔物でないらしいということは分かったが、得体が知れないということに変わりはない。
僕がサテュロスを注視していると、彼はペンダントを懐に戻して、右手を足下に向けて翳した。
「さて……挨拶も済ませたことだし、私はここでおいとまさせてもらうよ」
台座に描かれている紋様が、鈍い赤色の光を放ち始めた。
彼は微笑んで、僕たちの顔を順番に見つめた。
「君たちには、私が此処から去るまでのしばしの間、私の愛する人形たちと戯れていて頂こう」
僕たちの足下に、赤い光の円が現れる。
その光はどんどん強くなっていき、視界を塗り潰していった。
「機会があれば、また何処かで会うこともあるだろう。その時が来るまで、さらばだ──ネクロリボーン」
全身が浮くような感覚を感じた。そんな中で、サテュロスの声だけがはっきりと聞こえてきた。
そして、次に僕が気が付いた時。
僕は、見覚えのない通路の中央に一人で立っていた。
そう。一人。
傍に、アデルさんたちの姿はなかった。
「!?」
僕はぎょっとして周囲を見回した。
天井にある梁の存在や壁の様子で、此処がダンジョンの中であることは分かる。しかし、ダンジョンのどの辺りに位置する場所なのか、それはさっぱり分からなかった。
何故、こんな場所にいるのか──
何となく、理由は分かる。サテュロスが、転移の魔術を僕たちに掛けたのだ。
おそらくアデルさんたちも、このダンジョンの何処かにばらばらに転移しているはずである。
「……そんな」
僕は頭を抱えてその場に座り込んだ。
この、魔物だらけのダンジョンの中に、僕一人。
無理だ。身動きが取れるわけがない!
何とかアデルさんたちに僕を発見してもらいたいところだが、このダンジョンが一体どれほどの広さなのかは分からない。そんな状況下で都合良く彼らに発見されるとは、どうしても思えなかった。
何でこんなことに……
とにかく、誰かに発見されるまでこのまま此処で待っていよう。
そう僕が心に決めた、それと同時に。
通路の向こうから、ゆっくりとこちらに向かって近付いてくる足音が聞こえてきた。
「…………」
僕はランタンを音のする方に向けて翳した。
蟠る闇の中にうっすらと浮かび上がる、土色の裸足。
ゾンビの、足だ。
「……!」
僕は慌てて立ち上がった。
ゾンビは光の有無でものを見ているわけではないので今はまだ僕の存在には気付いていないだろうが、此処にずっといたら見つかってしまう。そうなったら、確実に助からない。
やっぱりダンジョンになんて来るもんじゃない!
僕は胸中で叫びながら、ゾンビが来る方とは逆の方向に向かって早足で歩き出した。
おそらく僕が進む方にも魔物はいるだろうが、運良く出会わない可能性もある。僅かな可能性ではあるが、今はそれに賭けるしかない。
とにかく、アデルさんたちと合流しないと。
僅かな勇気を奮い起こして、僕はランタンを片手に無音の通路を進んでいった。
僕たちの前に姿を現したのは、真っ白な肌をした若い男だった。
腰まで伸ばした銀の髪。ルビーのような真紅の瞳。右の頬に魔術文字に似た紋様の刺青を入れ、司祭が身に着けるようなデザインの白いローブを纏っている。
男は悠然と僕たちの前を通り過ぎ、台座の中央まで歩を進めて、笑った。
「入口の封印を破ってわざわざ入ってきたということは、君たちの狙いはおそらくこれなのであろうな」
そう言って男は懐から何かを取り出した。
それは、掌ほどの大きさの赤い宝石をあしらったペンダントだった。
値打ち物の宝飾品というよりも、呪符とか魔術の道具とか、そっちの印象を受ける品だ。
男は長い爪を生やした指でペンダントの宝石を撫でると、悩ましげにかぶりを振った。
「これは、我が神に捧げるための大切な品なのでな……此処まで御足労頂いておいて申し訳ないが、君たちに差し上げるわけにはいかないのだよ」
「お前は何者だ、ダンジョンにいるということは、魔物の仲間か!?」
男に剣先を向けて身構えるアデルさん。
男は彼に顔を向けてゆるりと首を振ると、これは失礼と言って一礼をした。
「私はサテュロス。ユジンに仕える司祭の一人だ……以後、お見知りおきを」
ユジン……何だ?
とりあえず魔物でないらしいということは分かったが、得体が知れないということに変わりはない。
僕がサテュロスを注視していると、彼はペンダントを懐に戻して、右手を足下に向けて翳した。
「さて……挨拶も済ませたことだし、私はここでおいとまさせてもらうよ」
台座に描かれている紋様が、鈍い赤色の光を放ち始めた。
彼は微笑んで、僕たちの顔を順番に見つめた。
「君たちには、私が此処から去るまでのしばしの間、私の愛する人形たちと戯れていて頂こう」
僕たちの足下に、赤い光の円が現れる。
その光はどんどん強くなっていき、視界を塗り潰していった。
「機会があれば、また何処かで会うこともあるだろう。その時が来るまで、さらばだ──ネクロリボーン」
全身が浮くような感覚を感じた。そんな中で、サテュロスの声だけがはっきりと聞こえてきた。
そして、次に僕が気が付いた時。
僕は、見覚えのない通路の中央に一人で立っていた。
そう。一人。
傍に、アデルさんたちの姿はなかった。
「!?」
僕はぎょっとして周囲を見回した。
天井にある梁の存在や壁の様子で、此処がダンジョンの中であることは分かる。しかし、ダンジョンのどの辺りに位置する場所なのか、それはさっぱり分からなかった。
何故、こんな場所にいるのか──
何となく、理由は分かる。サテュロスが、転移の魔術を僕たちに掛けたのだ。
おそらくアデルさんたちも、このダンジョンの何処かにばらばらに転移しているはずである。
「……そんな」
僕は頭を抱えてその場に座り込んだ。
この、魔物だらけのダンジョンの中に、僕一人。
無理だ。身動きが取れるわけがない!
何とかアデルさんたちに僕を発見してもらいたいところだが、このダンジョンが一体どれほどの広さなのかは分からない。そんな状況下で都合良く彼らに発見されるとは、どうしても思えなかった。
何でこんなことに……
とにかく、誰かに発見されるまでこのまま此処で待っていよう。
そう僕が心に決めた、それと同時に。
通路の向こうから、ゆっくりとこちらに向かって近付いてくる足音が聞こえてきた。
「…………」
僕はランタンを音のする方に向けて翳した。
蟠る闇の中にうっすらと浮かび上がる、土色の裸足。
ゾンビの、足だ。
「……!」
僕は慌てて立ち上がった。
ゾンビは光の有無でものを見ているわけではないので今はまだ僕の存在には気付いていないだろうが、此処にずっといたら見つかってしまう。そうなったら、確実に助からない。
やっぱりダンジョンになんて来るもんじゃない!
僕は胸中で叫びながら、ゾンビが来る方とは逆の方向に向かって早足で歩き出した。
おそらく僕が進む方にも魔物はいるだろうが、運良く出会わない可能性もある。僅かな可能性ではあるが、今はそれに賭けるしかない。
とにかく、アデルさんたちと合流しないと。
僅かな勇気を奮い起こして、僕はランタンを片手に無音の通路を進んでいった。
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