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第80話 魔物騒ぎと誘拐事件
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強盗を警備隊に引き渡し、その謝礼として金一封が出た。
そのお金で、僕は街の食品店でグレイボアの肉を買ってきた。グレイボアは猪の魔物で、癖のない肉質が食肉としては人気の魔物だ。
その肉をよく焼き、強盗を捕まえた御褒美だと言ってシルバーに出してやった。
シルバーは喜んで肉を食べていた。肉は焼いたやつに限るとか言いながら、一生懸命器に首を突っ込んでがっついていたよ。
これなら幾らでも強盗に来てほしいとか言い出したものだから、それは御免だと僕は言った。全く、フェンリルというのは好戦的で困るね。
ともあれ、これで街を騒がせていた事件も片付いたし、明日からまたゆっくりと店を営業できるぞ。
僕は、そう思っていた。
しかし、事件というものはなかなかなくならないもので。
ひとつ事が片付いたと思ったら、すぐに次が茸のように生えてくるのだから困ったものだ。
大抵の事件は警備隊が何とかしてくれるものなのだが、それで片付かなかった場合、話は冒険者ギルドの方に行く。仕事として冒険者に解決を願うのだ。
冒険者ギルドに話が回ると、冒険者ギルドと繋がりのある街の商店なんかにも必然的に話が行くことになる。
ただ話を聞かされるだけならいいのだが、僕みたいに魔術や錬金術の心得がある人間が相手だと、度々相談を持ちかけられるようになる。
僕は自分が元冒険者だということを人に話した覚えはないのだが、ギルベルトさんは勘が鋭いというか何というか、まるでそのことを知っているかのように僕に話を持ってくるのだから対処に困る。
僕は一般人なのだから、荒事は御免なのである。どうか平和に暮らさせてほしい。
そう願わずにはいられなかった。
「……誘拐事件?」
「ああ」
開店準備を進める僕の横で、腕を組みながらギルベルトさんは頷いた。
「最近、街に魔物が出るのは知ってるな?」
「ええ、一応は」
最近、アメミヤでは魔物の出没騒ぎが起きている。
街の中心にいきなり現れて、通行人を襲う事件が多発しているのだ。
幸いそれほど凶悪な魔物ではないので通りすがりの冒険者が退治してくれるのだが、街の人間からしたらたまったものではない。
警備隊の方も魔物が街の何処に現れるのか分からないとあって後手に回っている状況で、なかなか解決に至らないというのが現状だった。
「その騒ぎが起きる前に、必ず起こるんだ。街の若い娘ばかりが狙われて、もう十人も行方不明になっている」
「結構被害に遭ってるんですね」
「そうなんだよ」
ギルベルトさんは渋い顔をして、ふうっと大きく息を吐いた。
「この誘拐事件と魔物の出没騒ぎに何の関係があるのかは分からんが、ここまで被害が出てるとなると冒険者ギルドとしても指を咥えて見てるわけにはいかなくてな。囮捜査をやるということになったんだ」
囮捜査……冒険者にただの娘のふりをさせてわざと誘拐させて、犯人を捕まえようという作戦か。
冒険者なら荒事には慣れているし、いい方法なんじゃないかな。
僕がそう言うと、ギルベルトさんは首を振った。
「それがな……どうやって見分けてるのかは分からんが、どうも冒険者だってことを見抜かれてるみたいで、囮には食いついてくれないんだよ」
それは難儀な話である。
あれか、冒険者は体格がいいからそれで見抜かれてるのだろうか?
「そこで、相談なんだが、シルカ」
ギルベルトさんは僕のことをじっと見据えて、言った。
「お前さん、囮役になってくれんだろうか。娘に化けてわざと誘拐されて、犯人の正体と居場所を突き止めてほしいんだ」
「……はい?」
彼の申し出に、僕の目は点になった。
囮になれって……僕が?
いやいや、無理でしょそんなの。僕は男だし、そもそも犯人とやり合う度胸なんてないって。
「お前さん、冒険者と一緒にダンジョンに行ったりしてただろ? その度胸と錬金術の腕で、ひとつ、人助けだと思って俺たちに力を貸してほしい」
「錬金術は魔術と違って荒事に使えるような力じゃないですからね!?」
僕は慌てて首を振った。
どうもギルベルトさんは錬金術を何でもできる万能の力のように思っているようだ。
その認識は正しておかないと危ない。主に僕の身の安全が脅かされるという意味で。
「錬金術は物を作るための力であって、魔術みたいに火を出したりなんてことはできないんですよ。犯人を捕まえるなんて大それたこと、僕には無理です」
「どうか頼む。これ以上被害者を出すわけにはいかないんだ。引き受けてくれ」
「だから、僕は冒険者じゃなくてただの一般人で──!」
僕たちの言葉の応酬はしばらく続いた。
その遣り取りを傍で眺めていたシルバーが、ぽつりと「引き受けてあげたら」などと言っているが、無視だ。
僕は断固としてこの店から動かないぞ。この話、絶対に引き受けてなるものか!
そのお金で、僕は街の食品店でグレイボアの肉を買ってきた。グレイボアは猪の魔物で、癖のない肉質が食肉としては人気の魔物だ。
その肉をよく焼き、強盗を捕まえた御褒美だと言ってシルバーに出してやった。
シルバーは喜んで肉を食べていた。肉は焼いたやつに限るとか言いながら、一生懸命器に首を突っ込んでがっついていたよ。
これなら幾らでも強盗に来てほしいとか言い出したものだから、それは御免だと僕は言った。全く、フェンリルというのは好戦的で困るね。
ともあれ、これで街を騒がせていた事件も片付いたし、明日からまたゆっくりと店を営業できるぞ。
僕は、そう思っていた。
しかし、事件というものはなかなかなくならないもので。
ひとつ事が片付いたと思ったら、すぐに次が茸のように生えてくるのだから困ったものだ。
大抵の事件は警備隊が何とかしてくれるものなのだが、それで片付かなかった場合、話は冒険者ギルドの方に行く。仕事として冒険者に解決を願うのだ。
冒険者ギルドに話が回ると、冒険者ギルドと繋がりのある街の商店なんかにも必然的に話が行くことになる。
ただ話を聞かされるだけならいいのだが、僕みたいに魔術や錬金術の心得がある人間が相手だと、度々相談を持ちかけられるようになる。
僕は自分が元冒険者だということを人に話した覚えはないのだが、ギルベルトさんは勘が鋭いというか何というか、まるでそのことを知っているかのように僕に話を持ってくるのだから対処に困る。
僕は一般人なのだから、荒事は御免なのである。どうか平和に暮らさせてほしい。
そう願わずにはいられなかった。
「……誘拐事件?」
「ああ」
開店準備を進める僕の横で、腕を組みながらギルベルトさんは頷いた。
「最近、街に魔物が出るのは知ってるな?」
「ええ、一応は」
最近、アメミヤでは魔物の出没騒ぎが起きている。
街の中心にいきなり現れて、通行人を襲う事件が多発しているのだ。
幸いそれほど凶悪な魔物ではないので通りすがりの冒険者が退治してくれるのだが、街の人間からしたらたまったものではない。
警備隊の方も魔物が街の何処に現れるのか分からないとあって後手に回っている状況で、なかなか解決に至らないというのが現状だった。
「その騒ぎが起きる前に、必ず起こるんだ。街の若い娘ばかりが狙われて、もう十人も行方不明になっている」
「結構被害に遭ってるんですね」
「そうなんだよ」
ギルベルトさんは渋い顔をして、ふうっと大きく息を吐いた。
「この誘拐事件と魔物の出没騒ぎに何の関係があるのかは分からんが、ここまで被害が出てるとなると冒険者ギルドとしても指を咥えて見てるわけにはいかなくてな。囮捜査をやるということになったんだ」
囮捜査……冒険者にただの娘のふりをさせてわざと誘拐させて、犯人を捕まえようという作戦か。
冒険者なら荒事には慣れているし、いい方法なんじゃないかな。
僕がそう言うと、ギルベルトさんは首を振った。
「それがな……どうやって見分けてるのかは分からんが、どうも冒険者だってことを見抜かれてるみたいで、囮には食いついてくれないんだよ」
それは難儀な話である。
あれか、冒険者は体格がいいからそれで見抜かれてるのだろうか?
「そこで、相談なんだが、シルカ」
ギルベルトさんは僕のことをじっと見据えて、言った。
「お前さん、囮役になってくれんだろうか。娘に化けてわざと誘拐されて、犯人の正体と居場所を突き止めてほしいんだ」
「……はい?」
彼の申し出に、僕の目は点になった。
囮になれって……僕が?
いやいや、無理でしょそんなの。僕は男だし、そもそも犯人とやり合う度胸なんてないって。
「お前さん、冒険者と一緒にダンジョンに行ったりしてただろ? その度胸と錬金術の腕で、ひとつ、人助けだと思って俺たちに力を貸してほしい」
「錬金術は魔術と違って荒事に使えるような力じゃないですからね!?」
僕は慌てて首を振った。
どうもギルベルトさんは錬金術を何でもできる万能の力のように思っているようだ。
その認識は正しておかないと危ない。主に僕の身の安全が脅かされるという意味で。
「錬金術は物を作るための力であって、魔術みたいに火を出したりなんてことはできないんですよ。犯人を捕まえるなんて大それたこと、僕には無理です」
「どうか頼む。これ以上被害者を出すわけにはいかないんだ。引き受けてくれ」
「だから、僕は冒険者じゃなくてただの一般人で──!」
僕たちの言葉の応酬はしばらく続いた。
その遣り取りを傍で眺めていたシルバーが、ぽつりと「引き受けてあげたら」などと言っているが、無視だ。
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