82 / 176
第82話 誘拐犯の華麗なる犯行
しおりを挟む
道行く人たちの視線がちらちらとこちらに向けられているのを僕は肌で感じ取っていた。
分かるよ、その気持ち。貴族の格好をした奴が従者も付けないで一人で歩いてたら何だろうって思うだろうしね。
僕が逆の立場だったら、間違いなく興味を惹かれている。
それだけ、今の僕は浮き立った存在であることは理解している。
これを、誘拐犯はどう捉えるか。そこが問題である。
……考えていても仕方がない。僕は僕の役割を果たすだけだ。
捕まったら下手な抵抗はせずに犯人の本拠地に連れて行ってもらい、そこに捕まっているであろう被害者たちの安否を確認する。それからギルベルトさんに連絡を取って、警備隊に救出に来てもらう。これがギルベルトさんが考えた計画だ。
彼と連絡を取る手段は、懐に仕込んである。『テレフォン盤』という遠隔通話用の道具だ。
これは二枚で一組になっているコイン型の道具で、一方の盤に話しかけるともう一方の盤に声が届く仕組みになっているのだ。
錬金術はこういう便利な道具を作ることもできるのである。僕が自ら作った道具なのでその性能は折り紙付きだ。
一方の盤は既にギルベルトさんに渡してある。向こうからは話しかけないように言い含めてあるので、声が外に漏れて犯人に存在がばれるといったことはないだろう。
通りの向こうから馬車がやって来た。
このままだとぶつかる。道の端に避けないと。
僕は小走りで、道の端に身を寄せた。
馬車が横をすれ違う。
と。馬車が急停車し、中から帽子を目深に被った魔術師風の人間が下りてきた。
帽子に顔が隠れているのと着ている服が大きいせいで、性別は分からない。
魔術師は僕に近付いてくると、手にした布を僕の顔に押し付けてきた!
鼻の奥に広がる、清涼感のある匂い。
匂いを感じた瞬間、頭の芯がぼうっとするような、鈍い痺れのような感覚が全身に押し寄せてきた。
これは……睡眠薬か!?
「む……」
声が出ない。
全身の力が抜けていく。意識が朦朧となり、そうしようとも思っていないのに瞼が勝手に落ちていく。
遂に自力で立てなくなった僕は、魔術師の体に倒れ込むように崩れ落ちた。
魔術師は僕の体を抱えると、慣れた手つきで馬車の中に僕を運び込んだ。
そうか、誘拐された場面を目撃した人間がいないのは、こうして自然に馬車の中に連れ込んでいるせいで周囲の人間が気付いていないからだったのか。
僕を乗せた馬車は何事もなかったかのように発車する。
僕は魔術師の横に座らされたまま、窓から見える景色をぼんやりと見つめていた。
今眠るのはまずい。今眠ったら、犯人のアジトが何処にあるのかが分からなくなる。
眠る……わけには……
僕は奥歯を噛み締めた。
しかし、薬の力には抗えない。僕の意思とは無関係に、意識はどんどん混濁していく。
馬車が十字路を右に曲がる。そこで遂に僕は力尽き、深い眠りに落ちてしまった。
分かるよ、その気持ち。貴族の格好をした奴が従者も付けないで一人で歩いてたら何だろうって思うだろうしね。
僕が逆の立場だったら、間違いなく興味を惹かれている。
それだけ、今の僕は浮き立った存在であることは理解している。
これを、誘拐犯はどう捉えるか。そこが問題である。
……考えていても仕方がない。僕は僕の役割を果たすだけだ。
捕まったら下手な抵抗はせずに犯人の本拠地に連れて行ってもらい、そこに捕まっているであろう被害者たちの安否を確認する。それからギルベルトさんに連絡を取って、警備隊に救出に来てもらう。これがギルベルトさんが考えた計画だ。
彼と連絡を取る手段は、懐に仕込んである。『テレフォン盤』という遠隔通話用の道具だ。
これは二枚で一組になっているコイン型の道具で、一方の盤に話しかけるともう一方の盤に声が届く仕組みになっているのだ。
錬金術はこういう便利な道具を作ることもできるのである。僕が自ら作った道具なのでその性能は折り紙付きだ。
一方の盤は既にギルベルトさんに渡してある。向こうからは話しかけないように言い含めてあるので、声が外に漏れて犯人に存在がばれるといったことはないだろう。
通りの向こうから馬車がやって来た。
このままだとぶつかる。道の端に避けないと。
僕は小走りで、道の端に身を寄せた。
馬車が横をすれ違う。
と。馬車が急停車し、中から帽子を目深に被った魔術師風の人間が下りてきた。
帽子に顔が隠れているのと着ている服が大きいせいで、性別は分からない。
魔術師は僕に近付いてくると、手にした布を僕の顔に押し付けてきた!
鼻の奥に広がる、清涼感のある匂い。
匂いを感じた瞬間、頭の芯がぼうっとするような、鈍い痺れのような感覚が全身に押し寄せてきた。
これは……睡眠薬か!?
「む……」
声が出ない。
全身の力が抜けていく。意識が朦朧となり、そうしようとも思っていないのに瞼が勝手に落ちていく。
遂に自力で立てなくなった僕は、魔術師の体に倒れ込むように崩れ落ちた。
魔術師は僕の体を抱えると、慣れた手つきで馬車の中に僕を運び込んだ。
そうか、誘拐された場面を目撃した人間がいないのは、こうして自然に馬車の中に連れ込んでいるせいで周囲の人間が気付いていないからだったのか。
僕を乗せた馬車は何事もなかったかのように発車する。
僕は魔術師の横に座らされたまま、窓から見える景色をぼんやりと見つめていた。
今眠るのはまずい。今眠ったら、犯人のアジトが何処にあるのかが分からなくなる。
眠る……わけには……
僕は奥歯を噛み締めた。
しかし、薬の力には抗えない。僕の意思とは無関係に、意識はどんどん混濁していく。
馬車が十字路を右に曲がる。そこで遂に僕は力尽き、深い眠りに落ちてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
Chivalry - 異国のサムライ達 -
稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか?
これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~
白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた!
もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する!
とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する!
ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか?
過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談
小説家になろうでも連載しています!
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
野獣と噂の王太子と偽りの妃
葉月 まい
ファンタジー
継母に勧められるまま、
野獣のように恐ろしいと噂の
王太子との縁談に向かった
伯爵令嬢のプリムローズ。
「勘違いするな。妃候補だなどと思っているなら大きな間違いだ。とっとと帰れ」
冷たくあしらわれるが
継母と異母妹の為にも
邪魔者の自分が帰る訳にはいかない。
「わたくしをここの使用人として
雇っていただけませんか?」
「…は?!」
戸惑う王太子の告白。
「俺は真の王太子ではない。そなたはこんなところにいてはならない。伯爵家に帰れ」
二人の関係は、どうなっていくのか?
⎯⎯⎯⎯ ◦◈◦◈◦◈◦⎯⎯⎯⎯
プリムローズ=ローレン(十七歳)…伯爵令嬢
母を知らずに育ち、継母や異母妹に遠慮しながら毎日を過ごしている。
自分がいない方がいいと、勧められるまま王太子の妃候補を募る通達により、宮殿へ。
野獣のように恐ろしいと噂の王太子に
冷たくされながらも
いつしか心を通わせていく。
そんなプリムローズの
幸せなプリンセスストーリー♡
追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?
あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます!
世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。
「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。
・神話級ドラゴン
⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺)
・深淵の邪神
⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決)
・次元の裂け目
⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い)
「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」
本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……?
「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー!
【免責事項】
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる