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第91話 店主は冒険心を持たない
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集中して薬品作りをしたお陰で、全部で三十二本のコールドドリンクが完成した。
アイスマッシュルームはまだまだ生えているが、持参した瓶の在庫がなくなってしまったためこの本数となったのだ。
これだけあれば、ナナイに必要な分を渡しても相当数の薬が僕の手元に残るだろう。
危険は伴ったが、引き受けて良かった。今回の依頼。
「待たせたね。薬、できたぞ」
道具と出来上がった薬を鞄に詰めて、僕は立ち上がった。
傍の壁に凭れ掛かって寛いでいたナナイがこちらを向いた。
「ん、できたの?」
「ああ。アメミヤに帰ったら渡す」
「やった、ありがとうシルカちゃん! 頼んで良かったよ!」
ぱん、と手を叩いて、彼女は嬉しそうに体をくねらせるポーズを取った。
「それじゃあ、帰ろう。まだそんなに時間は経ってないから、夕方になる前には街に帰れるよ」
「シルバー、行くよ」
僕の呼びかけに応えてシルバーがのっそりと立ち上がる。
僕たちは元来た道を引き返していった。
そして、分かれ道まで来た時。
通っていない方の道から岩を引き摺るような重たい音が聞こえてきて、思わず足を止めた。
「……今、何か聞こえたよね」
「……うん」
ナナイの問いかけに頷く僕。
ナナイは小首を傾げて道を覗き込むと、面白いものを見つけた子供のような表情をして僕の袖を引っ張ってきた。
「ね、ちょっと見に行ってみない?」
「は?」
僕は眉間に皺を寄せた。
「別にいいだろ、行かなくても。わざわざ危険かもしれないことに首を突っ込むなんて」
「ちょっと見るだけだから。もし魔物がいてもナナイが戦うし、シルカちゃんに危険なことはさせないから」
「僕は嫌だぞ、早く街に帰りたい!」
「レッツゴー♪」
「人の話を聞けー!」
勝手に音の出所を探して歩いていってしまうナナイ。
置いて行かれてはたまらないと、僕は早足で彼女の背中を追った。
道は、緩やかな下り坂になっていた。
奥に進めば進むほど湿気は増えていき、床にある水溜まりの数も増えていった。
それに……この臭い。
カビっぽいというか、淀んだ臭いがする。
どうやらこの奥は、空気の流れがあまりない場所らしい。
「何があるのかなー」
「……見るだけだからな。ちょっと見たらすぐに帰るんだぞ」
「シルカちゃん、男の子なんだからもっと冒険心を持たなきゃ。ひょっとしたら隠されてる財宝があるかもしれないよ? そう考えたらわくわくするでしょ?」
「全然しない! 僕は冒険者じゃないからね!」
わーわー言いながら歩くことしばし。
僕たちは、道の果てに到着した。
行き止まりだ。宝物もなければ、魔物もいない。ただ平坦な壁が、僕たちの前に立ち塞がっている。
何だぁ、とがっかりした様子でナナイは壁を見上げた。
「行き止まりかー」
「……ほら、満足しただろ。帰ろう」
僕は内心ほっとしていた。
これで何かあったとなれば、ナナイの冒険心にますます火が点くであろうことは容易に想像が付く。
そんなのは御免だ。僕は茸狩りが目的で此処に来たのであって冒険をしに来たわけではないのだから。
微妙に納得できない様子で、ナナイは目の前の壁をぺたぺたと叩いた。
「この壁に、隠し扉とかが設置されてたりして」
「……天然の洞窟だろ? そんなもの、あるわけ──」
僕の言葉は途切れた。
ナナイが手を付いたところの壁が、四角い形にへこんだのだ。
がこん、という音。
壁に四角い亀裂が入り、鈍い音を立てて横にスライドしていく。
僕はそれを、呆気に取られて見つめていた。
「…………」
「ほら、何かあったじゃない! 何でも調べてみるものだよ!」
ナナイが嬉しそうにスライドしていく壁に注目している。
一分ほどかけて、壁には人一人が通れるくらいの穴が空いた。
その向こうにあったのは──
「ほら、行ってみようよ。隠し扉があるなんて、きっとこの奥には何かがあるよ!」
立ち止まっている僕の腕を引っ張って、ナナイは隠し扉の向こうに足を踏み入れる。
岩の向こうに隠された、道の続き。
それは、四角い建物のような形に作られた幾つもの岩が並んだ広い空間だった。
アイスマッシュルームはまだまだ生えているが、持参した瓶の在庫がなくなってしまったためこの本数となったのだ。
これだけあれば、ナナイに必要な分を渡しても相当数の薬が僕の手元に残るだろう。
危険は伴ったが、引き受けて良かった。今回の依頼。
「待たせたね。薬、できたぞ」
道具と出来上がった薬を鞄に詰めて、僕は立ち上がった。
傍の壁に凭れ掛かって寛いでいたナナイがこちらを向いた。
「ん、できたの?」
「ああ。アメミヤに帰ったら渡す」
「やった、ありがとうシルカちゃん! 頼んで良かったよ!」
ぱん、と手を叩いて、彼女は嬉しそうに体をくねらせるポーズを取った。
「それじゃあ、帰ろう。まだそんなに時間は経ってないから、夕方になる前には街に帰れるよ」
「シルバー、行くよ」
僕の呼びかけに応えてシルバーがのっそりと立ち上がる。
僕たちは元来た道を引き返していった。
そして、分かれ道まで来た時。
通っていない方の道から岩を引き摺るような重たい音が聞こえてきて、思わず足を止めた。
「……今、何か聞こえたよね」
「……うん」
ナナイの問いかけに頷く僕。
ナナイは小首を傾げて道を覗き込むと、面白いものを見つけた子供のような表情をして僕の袖を引っ張ってきた。
「ね、ちょっと見に行ってみない?」
「は?」
僕は眉間に皺を寄せた。
「別にいいだろ、行かなくても。わざわざ危険かもしれないことに首を突っ込むなんて」
「ちょっと見るだけだから。もし魔物がいてもナナイが戦うし、シルカちゃんに危険なことはさせないから」
「僕は嫌だぞ、早く街に帰りたい!」
「レッツゴー♪」
「人の話を聞けー!」
勝手に音の出所を探して歩いていってしまうナナイ。
置いて行かれてはたまらないと、僕は早足で彼女の背中を追った。
道は、緩やかな下り坂になっていた。
奥に進めば進むほど湿気は増えていき、床にある水溜まりの数も増えていった。
それに……この臭い。
カビっぽいというか、淀んだ臭いがする。
どうやらこの奥は、空気の流れがあまりない場所らしい。
「何があるのかなー」
「……見るだけだからな。ちょっと見たらすぐに帰るんだぞ」
「シルカちゃん、男の子なんだからもっと冒険心を持たなきゃ。ひょっとしたら隠されてる財宝があるかもしれないよ? そう考えたらわくわくするでしょ?」
「全然しない! 僕は冒険者じゃないからね!」
わーわー言いながら歩くことしばし。
僕たちは、道の果てに到着した。
行き止まりだ。宝物もなければ、魔物もいない。ただ平坦な壁が、僕たちの前に立ち塞がっている。
何だぁ、とがっかりした様子でナナイは壁を見上げた。
「行き止まりかー」
「……ほら、満足しただろ。帰ろう」
僕は内心ほっとしていた。
これで何かあったとなれば、ナナイの冒険心にますます火が点くであろうことは容易に想像が付く。
そんなのは御免だ。僕は茸狩りが目的で此処に来たのであって冒険をしに来たわけではないのだから。
微妙に納得できない様子で、ナナイは目の前の壁をぺたぺたと叩いた。
「この壁に、隠し扉とかが設置されてたりして」
「……天然の洞窟だろ? そんなもの、あるわけ──」
僕の言葉は途切れた。
ナナイが手を付いたところの壁が、四角い形にへこんだのだ。
がこん、という音。
壁に四角い亀裂が入り、鈍い音を立てて横にスライドしていく。
僕はそれを、呆気に取られて見つめていた。
「…………」
「ほら、何かあったじゃない! 何でも調べてみるものだよ!」
ナナイが嬉しそうにスライドしていく壁に注目している。
一分ほどかけて、壁には人一人が通れるくらいの穴が空いた。
その向こうにあったのは──
「ほら、行ってみようよ。隠し扉があるなんて、きっとこの奥には何かがあるよ!」
立ち止まっている僕の腕を引っ張って、ナナイは隠し扉の向こうに足を踏み入れる。
岩の向こうに隠された、道の続き。
それは、四角い建物のような形に作られた幾つもの岩が並んだ広い空間だった。
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