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第95話 海賊王の宝
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この男、名をブラン・ネブラスという。
かつて僕とパーティを組んだことがある戦士で、アラグの弟だ。
思い込んだら突っ走る猪突猛進を地で行くような男で、僕はこの男の思いつきに何度も苦労させられてきた経験がある。
そんな男が持ってきた話が、平穏に済むような話であるはずがない。
とりあえず話は聞くからと言って何とか彼らを落ち着かせはしたものの、正直に言って話を聞きたくはなかった。
「俺たちは今、海賊王の宝を追って旅をしている」
作業台の周囲に陣取って、地図を広げてブランは語り始めた。
海賊王の宝。
その昔、世界の海という海を叉にかける海賊王と呼ばれる人物がいたらしい。その人物が生涯を賭けて集めた財宝というのが通称海賊王の宝と呼ばれるもので、それは今でもこの世界の何処かに眠っているという。
この宝を探し求めて旅をする冒険者は多く、その分だけ宝に関する情報や逸話も存在する。
それらの情報を集めて回り、海賊王縁の地と言い伝えられている場所には積極的に足を運び、そして遂に、ブランたちはひとつの有力な情報を手に入れた。
「ガラム地方にあるスエルニャ洞穴。そこに、海賊王の宝を隠した場所に関係する鍵が眠ってるらしいんだ」
ガラム地方。それは此処アメミヤがあるサヴァエラ地方の隣にある海沿いの地域だ。
その地方にある街でアメミヤから最も近い位置にあるセロナの街ですら、此処から馬車で七日ほどかかる距離にある。
地図によると、スエルニャ洞穴がある場所はそのセロナの街よりも更に北にあり、徒歩で三日はかかるとのことだった。
「移動に関しては大丈夫ですぅ。私の幻獣を使えば一日で移動することができますからぁ」
彼女はイオン・デリータ。ブランの相棒の魔術師だ。
僕は彼女とはパーティを組んだことはないが、あのブランの相棒を務めているのだから、さぞかし腕のいい魔術師なのだろう。
見た目は大人しそうな雰囲気なのに、人間分からないものだ。
彼女は茶色の巻き毛を指先でくるくると巻きつける仕草をしながら、僕の方を見て言った。
「シルカさんはそれほど体が大きくはありませんしぃ、一緒に幻獣に乗るのは問題ないと思いますぅ」
「……何で僕が一緒に行くみたいな話の流れになってるんだ?」
薄々予想は付いてはいるが、一応念のために尋ねてみた。
ブランはこめかみの辺りを指でとんとんと叩きながら、僕の胸の辺りを見た。
「入口に、錬金術で仕掛けられた罠があったんだよ。罠は何とか潰したが、この分だと中には錬金術が関わる仕掛けが山みたいにあると踏んだんでな」
やっぱり……錬金術絡みか。
その洞穴とやらに何かが隠されているのは間違いなさそうだが、錬金術が関わってるとなると簡単には攻略させてはくれなさそうである。
昔の人間が残した遺産って本当にろくでもないものが多いな。
「行きたくない……って言ったところで、聞いてはくれないんだろうな、あんた」
「灰燼の魔術師が何気弱なこと言ってるんだよ。似合わないぜ?」
「僕はもう冒険者は引退してるんだよ! 昔の僕と一緒にしないでくれ!」
僕は叫んだ。
此処で僕が何と言ってもブランたちは僕を旅に連れて行くつもりなのだろう。
ブランは人の言うことを聞かないところがあるし、それはもう諦めるしかないのかもしれないが、言うべきことは言っておかなければならない。
「魔物が出ても僕は戦わないからな! 一般人を連れて行くんだから、それくらいの覚悟は持ってもらうからな!」
「分かった分かった、お前のことは俺たちが守るから。それでいいだろ?」
気楽にぱたぱたと手を振って笑うブラン。
全く……不安しかないよ。
「それじゃ、話も纏まったことだし行くか」
地図を畳んで腰のポーチに無造作に突っ込んで、ブランは椅子から立ち上がった。
え……今からって。もう午後だし、店も営業中なんですけど。
「今から移動すれば、夜になるまでに途中の街までは行けるからな。善は急げだ」
「……ちょっと待て。僕、何も準備してないぞ」
「ああ、そういえばそれがあったな」
ブランは髪をくしゃくしゃと掻いて、笑顔で言った。
「十分で準備して来い。俺たちは外で待ってるから」
「……なあ。やっぱり行くのやめていいか? 僕」
あまりの無茶振りに、僕は笑顔で答えた。
それを、イオンは微笑ましげに見つめていた。
こうして、僕の旅立ちが半ば強制的に決まった。
僕は慌てて店を閉めて、旅装束に着替えて鞄に必要な物資を詰め込んだ。
シルバーは幻獣には乗れないからということで家に置いていくことになった。なので、彼が僕の留守中に腹を空かせないように食事をたっぷりと用意した。
シルバーには、食事は一度に全部食べないように言い聞かせておいた。これで飢えるといったことはないだろう。
……ブランはアラグと違って目の前のことに集中すると周囲が見えなくなることがある。彼の護衛は過度に期待しない方がいい。
いざという時は自分で身を守らなきゃいけないんだろうな。
姿見に映った魔術師姿の自分を見つめて、僕は肩を落として溜め息をついたのだった。
かつて僕とパーティを組んだことがある戦士で、アラグの弟だ。
思い込んだら突っ走る猪突猛進を地で行くような男で、僕はこの男の思いつきに何度も苦労させられてきた経験がある。
そんな男が持ってきた話が、平穏に済むような話であるはずがない。
とりあえず話は聞くからと言って何とか彼らを落ち着かせはしたものの、正直に言って話を聞きたくはなかった。
「俺たちは今、海賊王の宝を追って旅をしている」
作業台の周囲に陣取って、地図を広げてブランは語り始めた。
海賊王の宝。
その昔、世界の海という海を叉にかける海賊王と呼ばれる人物がいたらしい。その人物が生涯を賭けて集めた財宝というのが通称海賊王の宝と呼ばれるもので、それは今でもこの世界の何処かに眠っているという。
この宝を探し求めて旅をする冒険者は多く、その分だけ宝に関する情報や逸話も存在する。
それらの情報を集めて回り、海賊王縁の地と言い伝えられている場所には積極的に足を運び、そして遂に、ブランたちはひとつの有力な情報を手に入れた。
「ガラム地方にあるスエルニャ洞穴。そこに、海賊王の宝を隠した場所に関係する鍵が眠ってるらしいんだ」
ガラム地方。それは此処アメミヤがあるサヴァエラ地方の隣にある海沿いの地域だ。
その地方にある街でアメミヤから最も近い位置にあるセロナの街ですら、此処から馬車で七日ほどかかる距離にある。
地図によると、スエルニャ洞穴がある場所はそのセロナの街よりも更に北にあり、徒歩で三日はかかるとのことだった。
「移動に関しては大丈夫ですぅ。私の幻獣を使えば一日で移動することができますからぁ」
彼女はイオン・デリータ。ブランの相棒の魔術師だ。
僕は彼女とはパーティを組んだことはないが、あのブランの相棒を務めているのだから、さぞかし腕のいい魔術師なのだろう。
見た目は大人しそうな雰囲気なのに、人間分からないものだ。
彼女は茶色の巻き毛を指先でくるくると巻きつける仕草をしながら、僕の方を見て言った。
「シルカさんはそれほど体が大きくはありませんしぃ、一緒に幻獣に乗るのは問題ないと思いますぅ」
「……何で僕が一緒に行くみたいな話の流れになってるんだ?」
薄々予想は付いてはいるが、一応念のために尋ねてみた。
ブランはこめかみの辺りを指でとんとんと叩きながら、僕の胸の辺りを見た。
「入口に、錬金術で仕掛けられた罠があったんだよ。罠は何とか潰したが、この分だと中には錬金術が関わる仕掛けが山みたいにあると踏んだんでな」
やっぱり……錬金術絡みか。
その洞穴とやらに何かが隠されているのは間違いなさそうだが、錬金術が関わってるとなると簡単には攻略させてはくれなさそうである。
昔の人間が残した遺産って本当にろくでもないものが多いな。
「行きたくない……って言ったところで、聞いてはくれないんだろうな、あんた」
「灰燼の魔術師が何気弱なこと言ってるんだよ。似合わないぜ?」
「僕はもう冒険者は引退してるんだよ! 昔の僕と一緒にしないでくれ!」
僕は叫んだ。
此処で僕が何と言ってもブランたちは僕を旅に連れて行くつもりなのだろう。
ブランは人の言うことを聞かないところがあるし、それはもう諦めるしかないのかもしれないが、言うべきことは言っておかなければならない。
「魔物が出ても僕は戦わないからな! 一般人を連れて行くんだから、それくらいの覚悟は持ってもらうからな!」
「分かった分かった、お前のことは俺たちが守るから。それでいいだろ?」
気楽にぱたぱたと手を振って笑うブラン。
全く……不安しかないよ。
「それじゃ、話も纏まったことだし行くか」
地図を畳んで腰のポーチに無造作に突っ込んで、ブランは椅子から立ち上がった。
え……今からって。もう午後だし、店も営業中なんですけど。
「今から移動すれば、夜になるまでに途中の街までは行けるからな。善は急げだ」
「……ちょっと待て。僕、何も準備してないぞ」
「ああ、そういえばそれがあったな」
ブランは髪をくしゃくしゃと掻いて、笑顔で言った。
「十分で準備して来い。俺たちは外で待ってるから」
「……なあ。やっぱり行くのやめていいか? 僕」
あまりの無茶振りに、僕は笑顔で答えた。
それを、イオンは微笑ましげに見つめていた。
こうして、僕の旅立ちが半ば強制的に決まった。
僕は慌てて店を閉めて、旅装束に着替えて鞄に必要な物資を詰め込んだ。
シルバーは幻獣には乗れないからということで家に置いていくことになった。なので、彼が僕の留守中に腹を空かせないように食事をたっぷりと用意した。
シルバーには、食事は一度に全部食べないように言い聞かせておいた。これで飢えるといったことはないだろう。
……ブランはアラグと違って目の前のことに集中すると周囲が見えなくなることがある。彼の護衛は過度に期待しない方がいい。
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