アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第94話 始まりは突然に

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『ふあ~ぁ』
 ひなたぼっこをしているシルバーが、大きな欠伸をしている。
 店に訪れる客たちは、店内を物色して目についた商品を買っていく。
 僕は客から受け取った代金を金庫にしまって、それなりに賑わっている店内をカウンターから眺めていた。
 いつもの、風景。平穏な日常のひとこまが、そこにあった。
 平和だなぁ。
 僕がそう思った、その時。

「シルカ! シルカはいるか!」

 外から転がり込むように、一人の男が店に入ってきた。
 短く刈った灰色の髪。深い傷の入った頬に、青い瞳。傷の付いた黒い鎧を身に纏い、背に巨大なハルバードを背負っている。背は高く、如何にも肉体派の冒険者といった風貌の男だ。
 そいつは店内をきょろきょろと見回して、カウンターで呆気に取られている僕を見つけると、大股で近付いてきた。
 がっ、と僕の腕を引っ掴み、引っ張ってくる。
「探したぞ、シルカ! こんな場所に引き篭もってるなんて田舎のお母さんが知ったら泣くぞ!」
「え……え?」
「さあ、俺たちと出かけるぞ! まだ見ぬ冒険の舞台へ! いざ!」
「ちょ、ちょーっ、こらっ、話が見えない! 離せ! 痛い痛い痛い!」
 カウンターから引き摺り出されそうになり、僕は喚いた。
 他の客が目を丸くしてこちらを見ている……が、巻き込まれるのは御免だと思っているのかこの状況を制止してくれる者はいない。
 シルバーも、怪訝そうにこちらを見ているばかりだ。
 ちょっと、騒ぎだと思ったなら止めなさいよ、あんたたち!
「もー、ブラン、急に走らないで下さいよぉ、私は貴方と違って運動は苦手なんですからぁ……」
 小股で駆けてきたローブ姿の少女が、息を切らしながら店の前で立ち止まった。
 彼女はカウンターで騒いでいる男を見つけると、腰に差していた小型の杖を取り出しながら、近付いてきた。
「その方がシルカさんですねぇ? 氷漬けにして運び出してしまえばいいんですかぁ?」
「ちょっと待てー!」
 絶叫する僕。
 何とか男の手を振りほどき、また掴まれないようにカウンターの奥に避難して、言った。
「久々に会っての挨拶がこれか!? アラグはもう少し紳士的だったぞ!」
「話してる時間が惜しい! こうしてる間にも海賊王の宝が誰かの手に渡ってるかもしれないからな!」
「いっそ持って行かれてしまえ、そんなもの!」
 天井を仰いで、僕は叫んだ。
 ああ、どうして僕の元には厄介事ばかりが転がり込んでくるんだ!
 お願いだから此処で商売をさせてくれ!
 何度願ったか分からない心の底からの願いを、心の中で叫ぶ僕なのだった。
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