アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第143話 ヒルコの森と神様の指輪

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 次の日。ラフィナに留守番を頼んで、僕はシルバーを連れてヒルコの森を目指して出発した。
 馬車でヒルコの街まで行き、その後徒歩で森に向かうという算段だ。
 マンドラゴラは紐で括って、僕のベルトに引っ掛けてある。
 彼女には僕を道案内するという役割があるからね。鞄の中に入れるよりは外の様子が見えた方がいいだろうと思い、この形にしたのだ。
 馬車の御者には不思議なものを見るような目で見られたけど、それは気にしないでおこう。
 僕たちを乗せた馬車は街道をまっすぐ南に向かって走り、太陽が南の空に高く輝く頃に、ヒルコの街へと到着した。
 シルバーは魔物が出なくて退屈だなんて言いながら欠伸をしていた。
 魔物は出ない方がいいんだよ。全く、フェンリルというのは戦いが好きで困るね。冒険者みたいだ。
 街に着いたら馬車を降り、一路ヒルコの森へ。
 森、の名が付いてはいるがそれほど深い感じはしない。生えている木もそれほど密集してはおらず、森の中は差してくる日の光に照らされて全体的に明るかった。
 鳥の歌声が心地良い。森林浴をしているような気分だ。
 これで魔物がいなかったら最高の環境なんだけど。
『この森は小さな昆虫の魔物が棲んでるくらいかしら。そんなに大きな生き物はいないわ』
 マンドラゴラに魔物について尋ねると、彼女からはそんな回答が返ってきた。
 やっぱり、いることはいるんだね。魔物。
 見落とさないように気を付けながら、獣道を歩くことしばし。
 通り道の真ん中に大きな群れを作って飛んでいる蜂のような昆虫に出くわした。
 一匹の大きさは五センチくらい。鮮やかな黄色と黒の縞模様が特徴だ。
 これは……ハニーホーネットだな。
 蜜蜂のように花の蜜を求めて花の咲いている場所を点々と移動する魔物で、性格は基本的に穏やかだがひとたび敵意を向けられたら尻の針を武器に襲いかかってくる生き物である。
 毒はないので刺されても痛いだけではあるが、集団で襲いかかられたら流石にひとたまりもない。
 シルバーに何とかしてくれと頼むと、シルバーは一歩前に出て強めの風を放った。
 ぶわんっ、…………
 強風に煽られたハニーホーネットは吹き飛ばされ、散り散りになった。
 再び蜂たちが集まってくる前に、僕たちは急いでその場を通り過ぎた。
 そうして三十分ほど歩いただろうか。
 マンドラゴラが、声を上げた。
『此処、見覚えがある。わたしが住んでいた場所の近くよ』
 道を外れて茂みの中に入るようにと彼女は言った。
 僕はシルバーに声を掛けて、背の低い草が茂る場所へと足を踏み入れた。
 木の間に蔦が蜘蛛の糸のように絡み合いながら伸びている。それを払いながら、どんどん奥へ。
 ややあって、ちょっとした広場になっている場所に出た。
 空間の広さは大体十メートルくらい。そこだけ何かに踏まれたように草がぺたんと倒れており、地面が見えている。
 マンドラゴラは言った。
『此処よ。此処に宝物が封印されてるの』
「此処?」
 僕は目を瞬かせて広場全体を見た。
 特に何かがあるようには見えないが……
『見ようとしても人間には見えないわ。そうね……目を閉じて、そこにある魔力を感じてみて。そうすれば何かがあるって分かるわ』
 魔力を感じる?
 言われた通りに、僕は深呼吸をして目を閉ざし、両の掌を前方に向けて翳した。
 すると──
 確かに彼女の言う通り、そこに丸い何かが浮かんでいるのが感じられた。
 大きさは五センチほど。随分と小さい。
 此処に何かがあるというのは分かったけれど、これをどうやって取り出せというのだろう。
「どうすればいいの?」
『ちょっと待ってて』
 マンドラゴラはそう言うと、沈黙した。
 ぱちん、と何かが弾けたような音がする。
 ちゃりん、と音がして、小さいものが僕の足下に落ちてきた。
 僕はそれを拾った。
 それは、指輪だった。細かい彫刻が施された銀のボディに、丸くて青い瞳のような模様の宝石があしらわれている骨董品のようなデザインの品だ。
 宝石の中を覗くと、何か文字のようなものが見えるが──何と彫られているのかは分からない。
 これが……宝物? 僕にはただの指輪にしか見えないんだけど。
『人間には手にできない宝物よ。大事にしてね』
「……うん」
 僕はマンドラゴラの言葉に頷いて、指輪を左の人差し指に填めた。
 指輪は僕の指には少し大きかったが、指の付け根に指輪を填めると、リングの部分が縮んでぴったりのサイズになった。
 普通の指輪でないことだけは、何となく分かった。普通の指輪はサイズが縮んだりしないものだし。
 どんな力を持った品なのかは分からないが、わざわざ馬車まで使ってこの森に来たんだし、せっかく手に入れたのだから大事にすることにしよう。
 僕は指輪を填めた手を翳して、見つめた。
 指輪の宝石に太陽の光が当たり、きらりと反射して澄んだ青に輝いていた。
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