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第158話 店主、自ら歩く
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シャーリーンさん、曰く。
天空神殿は、ザルート帝国が当時の持てる魔術力をつぎ込んで作った巨大な破壊兵器なのだという。
大陸を容易に滅ぼす破壊力を秘めた兵器を数多く搭載し、他の国への侵略の足掛かりとして空高く浮かべたのだそうだ。
その後、ザルート帝国は滅亡し──結局使われることのなかった天空神殿だけが、空に浮かぶ島として残ることになった。
天空神殿は誰にも存在を認識されることなく深い眠りにつき、何処かの空の上で目覚めの時を待っているのだという。
そのことが伝承や歌になって、まるで御伽噺に出てくる夢の島のように必要最低限の情報だけが現代に言い伝えられるようになった。
クレハたちが聞いた吟遊詩人の歌というのも、そんな数ある情報の断片のひとつだったのだろう。
僕は彼女に言おうとしていた数々の言葉を飲み込んでしまった。
だって、これって要はあれだろう? 僕が旅に同行することを承諾しなかったら、時が経って目覚めた天空神殿によって世界が滅びるということなのだから。
しかも、その時まで猶予は残っていないときた。
旅に行かないなんて、とてもじゃないけど言えるわけがない。
何もしないでも世界が滅びるのなら、何処にいて何をしていようが同じだっていう。
僕は、生きていたい。生まれて今日まで二十五年、まだまだやりたいことは山のようにある。
その未来が古代兵器なんかに壊されるのは御免だ。
再び開いた僕の口から出てくる言葉は、決まっていた。
「……分かった」
危険な目に遭うのは嫌だけど、魔物と遭遇するかもしれないのは怖いけど、そんなことは言っていられない。
意を決して、僕は彼女に言った。
「あんたの旅に同行する。世界が滅びるって言うんなら、此処で怯えていようが旅先で苦労していようが変わらないからな」
「貴方なら、きっと私の願いを聞いてくれると思っていました」
シャーリーンさんは僕の両手を取って、笑った。
冷たい小さな手だ。爪が長く伸びた白い指に、金色の指輪が光っている。
「必ず、天空神殿に辿り着きましょう。私たちならば、きっとそれができると信じております」
彼女は僕の手を離し、一歩身を引いて一礼をした。
「明日の朝、こちらにお迎えに上がります。その時までに、旅に必要な物は揃えておいて下さい。後悔のない旅にしましょう」
それでは、と言って、彼女は僕の前から去っていった。
残された僕は、彼女の手の感触が残る自分の手を見つめながら小さく溜め息をついた。
旅……行くことになってしまった。絶対にこの店から出ないぞって思ってたのに。
しかも、この旅。今までと違って巡る場所はひとつじゃない気がする。
随分と長い旅になりそうだと思ったら、溜め息のひとつも出るというものだ。
「師匠……行くんですね。旅に」
僕たちの会話を黙って聞いていたラフィナが、こちらを静かに見つめている。
彼女は椅子から立ち上がり、僕の元に歩いてきながら、言った。
「師匠の留守中のことは任せて下さい。お店は、わたしが立派に切り盛りしてみせますから!」
……そうだね。ラフィナはもう店のことは一通りできるし、用心棒としてシルバーもいるから、彼女に店のことは任せてしまっても良いのかもしれない。
僕自身が店の経営に携われないのはちょっと残念だけど。
彼女を信じて、此処のことは任せることにしよう。
僕は腰のポケットから店の入口の鍵を取り出して、ラフィナに手渡した。
「……いつ帰れるかは分からないけど、必ず帰るから。それまで、この店のことは頼んだよ」
「はい!」
鍵をしっかりと握り締めて、ラフィナは姿勢を正して返事をした。
僕はカウンターの方に振り返り、そこで寝そべっているシルバーに声を掛けた。
「シルバーも、宜しく頼んだよ。ラフィナとこの店を守ってやってくれ」
シルバーは返事をする代わりに尻尾を大きく振った。
……何だか、戦地に赴く兵士になった気分だよ。
旅支度は念入りにやろう。シャーリーンさんも言っていたように、後悔をしない旅にしたいから。
とりあえず、今は店の仕事をやろう。トラッパー、作らないと。
僕は作業台に向かい、台の上に置かれている材料を手に取りながら椅子に腰を下ろした。
天空神殿は、ザルート帝国が当時の持てる魔術力をつぎ込んで作った巨大な破壊兵器なのだという。
大陸を容易に滅ぼす破壊力を秘めた兵器を数多く搭載し、他の国への侵略の足掛かりとして空高く浮かべたのだそうだ。
その後、ザルート帝国は滅亡し──結局使われることのなかった天空神殿だけが、空に浮かぶ島として残ることになった。
天空神殿は誰にも存在を認識されることなく深い眠りにつき、何処かの空の上で目覚めの時を待っているのだという。
そのことが伝承や歌になって、まるで御伽噺に出てくる夢の島のように必要最低限の情報だけが現代に言い伝えられるようになった。
クレハたちが聞いた吟遊詩人の歌というのも、そんな数ある情報の断片のひとつだったのだろう。
僕は彼女に言おうとしていた数々の言葉を飲み込んでしまった。
だって、これって要はあれだろう? 僕が旅に同行することを承諾しなかったら、時が経って目覚めた天空神殿によって世界が滅びるということなのだから。
しかも、その時まで猶予は残っていないときた。
旅に行かないなんて、とてもじゃないけど言えるわけがない。
何もしないでも世界が滅びるのなら、何処にいて何をしていようが同じだっていう。
僕は、生きていたい。生まれて今日まで二十五年、まだまだやりたいことは山のようにある。
その未来が古代兵器なんかに壊されるのは御免だ。
再び開いた僕の口から出てくる言葉は、決まっていた。
「……分かった」
危険な目に遭うのは嫌だけど、魔物と遭遇するかもしれないのは怖いけど、そんなことは言っていられない。
意を決して、僕は彼女に言った。
「あんたの旅に同行する。世界が滅びるって言うんなら、此処で怯えていようが旅先で苦労していようが変わらないからな」
「貴方なら、きっと私の願いを聞いてくれると思っていました」
シャーリーンさんは僕の両手を取って、笑った。
冷たい小さな手だ。爪が長く伸びた白い指に、金色の指輪が光っている。
「必ず、天空神殿に辿り着きましょう。私たちならば、きっとそれができると信じております」
彼女は僕の手を離し、一歩身を引いて一礼をした。
「明日の朝、こちらにお迎えに上がります。その時までに、旅に必要な物は揃えておいて下さい。後悔のない旅にしましょう」
それでは、と言って、彼女は僕の前から去っていった。
残された僕は、彼女の手の感触が残る自分の手を見つめながら小さく溜め息をついた。
旅……行くことになってしまった。絶対にこの店から出ないぞって思ってたのに。
しかも、この旅。今までと違って巡る場所はひとつじゃない気がする。
随分と長い旅になりそうだと思ったら、溜め息のひとつも出るというものだ。
「師匠……行くんですね。旅に」
僕たちの会話を黙って聞いていたラフィナが、こちらを静かに見つめている。
彼女は椅子から立ち上がり、僕の元に歩いてきながら、言った。
「師匠の留守中のことは任せて下さい。お店は、わたしが立派に切り盛りしてみせますから!」
……そうだね。ラフィナはもう店のことは一通りできるし、用心棒としてシルバーもいるから、彼女に店のことは任せてしまっても良いのかもしれない。
僕自身が店の経営に携われないのはちょっと残念だけど。
彼女を信じて、此処のことは任せることにしよう。
僕は腰のポケットから店の入口の鍵を取り出して、ラフィナに手渡した。
「……いつ帰れるかは分からないけど、必ず帰るから。それまで、この店のことは頼んだよ」
「はい!」
鍵をしっかりと握り締めて、ラフィナは姿勢を正して返事をした。
僕はカウンターの方に振り返り、そこで寝そべっているシルバーに声を掛けた。
「シルバーも、宜しく頼んだよ。ラフィナとこの店を守ってやってくれ」
シルバーは返事をする代わりに尻尾を大きく振った。
……何だか、戦地に赴く兵士になった気分だよ。
旅支度は念入りにやろう。シャーリーンさんも言っていたように、後悔をしない旅にしたいから。
とりあえず、今は店の仕事をやろう。トラッパー、作らないと。
僕は作業台に向かい、台の上に置かれている材料を手に取りながら椅子に腰を下ろした。
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