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第164話 ふたつの青き瞳
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天の蒼玉がある部屋は、直径三十メートルほどのそこそこ広い間取りを備えていた。
壁に、等間隔に小さな黒い覗き窓のような穴が空いている。部屋の中央には小さな台座があり、天の蒼玉はその上に浮かべられた形で安置されていた。
ゼルニウス遺跡では宝の番人としてゴーレムが置かれていたが、この部屋にはそういう番人の類のものは見当たらない。
やはり、先程の巨大マンイーターが宝の番人だったのだろう。
シャーリーンさんは台座に近付いた。
「これが天の蒼玉です。やっと手に入りましたね」
やっとこの遺跡から出られる。マンイーターを見ずに済む。
僕はほっと胸を撫で下ろして、天の蒼玉に手を伸ばすシャーリーンさんを見守った。
シャーリーンさんは、天の蒼玉を両手で掴んで台座から下ろした。
すると、何もなかった部屋に変化が起きた。
壁に並んだ覗き窓のような黒い穴。それが大きく広がって、人一人が通れるほどの穴になったのだ。
そして、穴の中からぞろぞろと這い出してくる小さなマンイーター。
小さい、といっても一メートルほどの大きさはある。咬まれたら皮膚など簡単に食いちぎられてしまうだろう。
あっという間に部屋中の床を埋め尽くしたマンイーターの群れに、僕は思わず悲鳴を上げた。
「ひぁぁぁぁ!?」
「恐れる必要はありません。こんなものはただの烏合の衆です」
「何でそんなに落ち着いていられるんだよ!」
冷静にマンイーターを観察するシャーリーンさんに怒鳴る僕。
マンイーターたちは足を振り上げてこちらにじりじりと近付いてくる。
「さあ、早いところ駆除してしまいましょう」
「バーストフレア!」
シャーリーンさんのペースに合わせていたらいつか絶対怪我をする。そう思った僕は、我先にと魔術をマンイーターに向けてぶっ放した。
何とかマンイーターの群れを蹴散らした僕たちは、無事にウスト遺跡を脱出した。
太陽が天頂付近に昇っている。この遺跡に入ったのは朝だから、午前中を丸々遺跡探索に費やしたことになるのか。
遠くから吹いてくる風が心地良い。やっぱり人間は遺跡だのダンジョンだの閉鎖された場所に長くいるものじゃないね。
深呼吸をしていると、耳に入る微かな声が。
『……匠……師匠、聞こえますか?』
これは……ラフィナの声だ。
僕は鞄からテレフォン盤を取り出した。
僕の留守中に店で何かあった時のためにとラフィナに一方を預けていたのだが、早速役に立ったようである。
僕はテレフォン盤に口を近付けて、呼びかけた。
「聞こえるよ。どうした? 何か問題でも起きたのか?」
『あ、師匠。いえ、問題というわけではないのですが……』
ラフィナの声は半ばで途切れた。
代わりに聞こえてきたのは、随分と軽い様子の男の声。
『やっほ。シルカ、クレハや。聞こえたら返事したってぇな』
これは……クレハの声?
何でラフィナに預けたテレフォン盤からクレハの声が聞こえるんだ?
僕は眉を顰めて、テレフォン盤の向こうにいるであろうクレハに問いかけた。
「何であんたが僕の店にいるんだよ」
『何でって……遺跡を見つけたら教えにくる約束やったやんか。忘れてしもたん?』
そうだったっけ?
『せっかく店に来たのに、シルカは天空神殿を探す旅に出てしもて店にはおらんちゅうし……そんなに天空神殿が見たかったんなら、自分らと一緒に来てくれればええのに。ほんまいけずやなぁ』
「好きで旅に出たんじゃない。こっちにも色々事情があるんだよ」
僕は溜め息をついた。
シャーリーンさんが、怪訝そうに僕のことを見ている。
……そうだ、天の蒼玉のことがあるんだった。このタイミングでクレハが捕まったのは逆に有難かったかもしれない。
僕はつい放り投げそうになったテレフォン盤を握り直して、話を切り出した。
「クレハ。その天空神殿のことで相談があるんだ。いいか?」
『何や?』
訝るクレハに、天空神殿への道を開くのに彼が持っている天の蒼玉が必要であることを説明する。
話が終わると、クレハのあっさりとした返事が聞こえてきた。
『あの水晶が必要なんやね? ええよ、自分ら此処でシルカのこと待っとるから、取りに来て』
……まあ、そうなるよな。クレハに此処に来いって言う方が色々と面倒な気がするし。
シャーリーンさんの幻獣を使えば、明日にはアメミヤに戻ることができるだろう。
『……その代わりと言っちゃなんやけど』
クレハは畏まった様子で言葉を続けた。
『自分らもシルカの旅に付いてってええか? 何としても、天空神殿をこの目で見たいんや。お願いや』
天空神殿は古代の破壊兵器だ。気軽に観光するような代物ではないのだが──
その天空神殿に行くためには、彼が持っている天の蒼玉がどうしても必要なのだ。品物だけ貰って彼らを蚊帳の外に追い出す、というわけには流石にいかないだろう。
僕はシャーリーンさんに視線を向けた。
僕とクレハの会話は聞こえていたのだろう。シャーリーンさんが小さく頷いた。
彼女もクレハたちの同行は構わないと言っているし、僕にはクレハの同行を断る理由はない。
決まりだね。
「分かった。あんたたちにも旅に付いてきてもらう」
『やった、おおきに! 恩に着るで、シルカ!』
キク、天空神殿やで、と叫ぶクレハの声が聞こえてきた。
やっぱり、キクも一緒にいるんだな。
僕はクレハに明日僕の店で会おうと約束して、通信を切った。
テレフォン盤を鞄にしまい、シャーリーンさんに言う。
「……そういうわけだから、アメミヤに戻ろう」
「分かりました。早速向かいましょう」
シャーリーンさんが幻獣を呼び出す。
それに乗って、僕たちは一路アメミヤを目指して飛び立った。
壁に、等間隔に小さな黒い覗き窓のような穴が空いている。部屋の中央には小さな台座があり、天の蒼玉はその上に浮かべられた形で安置されていた。
ゼルニウス遺跡では宝の番人としてゴーレムが置かれていたが、この部屋にはそういう番人の類のものは見当たらない。
やはり、先程の巨大マンイーターが宝の番人だったのだろう。
シャーリーンさんは台座に近付いた。
「これが天の蒼玉です。やっと手に入りましたね」
やっとこの遺跡から出られる。マンイーターを見ずに済む。
僕はほっと胸を撫で下ろして、天の蒼玉に手を伸ばすシャーリーンさんを見守った。
シャーリーンさんは、天の蒼玉を両手で掴んで台座から下ろした。
すると、何もなかった部屋に変化が起きた。
壁に並んだ覗き窓のような黒い穴。それが大きく広がって、人一人が通れるほどの穴になったのだ。
そして、穴の中からぞろぞろと這い出してくる小さなマンイーター。
小さい、といっても一メートルほどの大きさはある。咬まれたら皮膚など簡単に食いちぎられてしまうだろう。
あっという間に部屋中の床を埋め尽くしたマンイーターの群れに、僕は思わず悲鳴を上げた。
「ひぁぁぁぁ!?」
「恐れる必要はありません。こんなものはただの烏合の衆です」
「何でそんなに落ち着いていられるんだよ!」
冷静にマンイーターを観察するシャーリーンさんに怒鳴る僕。
マンイーターたちは足を振り上げてこちらにじりじりと近付いてくる。
「さあ、早いところ駆除してしまいましょう」
「バーストフレア!」
シャーリーンさんのペースに合わせていたらいつか絶対怪我をする。そう思った僕は、我先にと魔術をマンイーターに向けてぶっ放した。
何とかマンイーターの群れを蹴散らした僕たちは、無事にウスト遺跡を脱出した。
太陽が天頂付近に昇っている。この遺跡に入ったのは朝だから、午前中を丸々遺跡探索に費やしたことになるのか。
遠くから吹いてくる風が心地良い。やっぱり人間は遺跡だのダンジョンだの閉鎖された場所に長くいるものじゃないね。
深呼吸をしていると、耳に入る微かな声が。
『……匠……師匠、聞こえますか?』
これは……ラフィナの声だ。
僕は鞄からテレフォン盤を取り出した。
僕の留守中に店で何かあった時のためにとラフィナに一方を預けていたのだが、早速役に立ったようである。
僕はテレフォン盤に口を近付けて、呼びかけた。
「聞こえるよ。どうした? 何か問題でも起きたのか?」
『あ、師匠。いえ、問題というわけではないのですが……』
ラフィナの声は半ばで途切れた。
代わりに聞こえてきたのは、随分と軽い様子の男の声。
『やっほ。シルカ、クレハや。聞こえたら返事したってぇな』
これは……クレハの声?
何でラフィナに預けたテレフォン盤からクレハの声が聞こえるんだ?
僕は眉を顰めて、テレフォン盤の向こうにいるであろうクレハに問いかけた。
「何であんたが僕の店にいるんだよ」
『何でって……遺跡を見つけたら教えにくる約束やったやんか。忘れてしもたん?』
そうだったっけ?
『せっかく店に来たのに、シルカは天空神殿を探す旅に出てしもて店にはおらんちゅうし……そんなに天空神殿が見たかったんなら、自分らと一緒に来てくれればええのに。ほんまいけずやなぁ』
「好きで旅に出たんじゃない。こっちにも色々事情があるんだよ」
僕は溜め息をついた。
シャーリーンさんが、怪訝そうに僕のことを見ている。
……そうだ、天の蒼玉のことがあるんだった。このタイミングでクレハが捕まったのは逆に有難かったかもしれない。
僕はつい放り投げそうになったテレフォン盤を握り直して、話を切り出した。
「クレハ。その天空神殿のことで相談があるんだ。いいか?」
『何や?』
訝るクレハに、天空神殿への道を開くのに彼が持っている天の蒼玉が必要であることを説明する。
話が終わると、クレハのあっさりとした返事が聞こえてきた。
『あの水晶が必要なんやね? ええよ、自分ら此処でシルカのこと待っとるから、取りに来て』
……まあ、そうなるよな。クレハに此処に来いって言う方が色々と面倒な気がするし。
シャーリーンさんの幻獣を使えば、明日にはアメミヤに戻ることができるだろう。
『……その代わりと言っちゃなんやけど』
クレハは畏まった様子で言葉を続けた。
『自分らもシルカの旅に付いてってええか? 何としても、天空神殿をこの目で見たいんや。お願いや』
天空神殿は古代の破壊兵器だ。気軽に観光するような代物ではないのだが──
その天空神殿に行くためには、彼が持っている天の蒼玉がどうしても必要なのだ。品物だけ貰って彼らを蚊帳の外に追い出す、というわけには流石にいかないだろう。
僕はシャーリーンさんに視線を向けた。
僕とクレハの会話は聞こえていたのだろう。シャーリーンさんが小さく頷いた。
彼女もクレハたちの同行は構わないと言っているし、僕にはクレハの同行を断る理由はない。
決まりだね。
「分かった。あんたたちにも旅に付いてきてもらう」
『やった、おおきに! 恩に着るで、シルカ!』
キク、天空神殿やで、と叫ぶクレハの声が聞こえてきた。
やっぱり、キクも一緒にいるんだな。
僕はクレハに明日僕の店で会おうと約束して、通信を切った。
テレフォン盤を鞄にしまい、シャーリーンさんに言う。
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