アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第168話 スプライトの楽園

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 天空神殿は、一体空のどの辺りの高さに浮かんでいるのだろう。
 足場から下を覗いてみた限りでは、陸地も海も見えなかった。雲が遥か下にちらほらと浮かんでいるのが見えたくらいだ。
 ということは、少なくとも雲の上──それも世界中のどんなに高い山の頂上に登ったとしても欠片も姿が捉えられないような高さを飛んでいるということくらいは分かる。
 それだけの高さにあるから此処の気候は常に一定で、とても穏やかな環境だ。
 天国と言っても過言ではないような、そんな雰囲気がある。
 しかしそんな場所にも、争いの種はある。
「何で僕ばっかり!」
 僕は体勢を低くして、頭上を旋回するウィンド・スプライトの群れを必死に避けていた。
 此処には、どういうわけか悪天候でもないのに大量のスプライトがいる。
 それが僕を見つけるなり問答無用で飛びかかってくるのだから、僕としてはたまったものではない。
 魔術を使える人間ならわざわざ僕を狙わなくてもシャーリーンさんもキクもいるのに、そちらには何故だか見向きもしないのだ。
 この場で唯一魔力を持たない人間であるクレハが、暢気に僕とウィンド・スプライトの追いかけっこを眺めている。
「楽しそうやんなぁ、シルカ」
「楽しそうに見えるのか、これが!」
 僕は怒鳴った。
 これをお遊戯会か何かと思っているなら、あいつはいっぺん医者に頭の中を診てもらった方がいいと思う。
「キク、氷魔術だ! こいつらを撃ち落としてくれ!」
 キクがこくこくと頷いて、掌を宙に向けた。
「アイシクルランス!」
 ばすっ、と氷の槍がウィンド・スプライトを射抜いた。
 しかし、此処にいるウィンド・スプライトは一匹だけではない。
「アイシクル……」
 僕も振り向きながらウィンド・スプライトを狙って掌を翳す。
 と、ぐきっと音がして足首が妙な方向に傾いた。
「バレットォ!?」
 僕は仰向けにひっくり返った。
 何とか意地で唱え切った魔術は、氷の礫をウィンド・スプライトたちに浴びせる。
 礫を受けた残りのウィンド・スプライトが、蒸発するように消滅した。
 何とか駆除できて良かった。
 僕は立ち上がろうと地面に手をついた。
 途端、びきっと足首に激痛が走る。
 どうやら、ひっくり返った時におかしな風に足首を捻ってしまったらしい。
「やばい、足首やった!」
「何や、貧弱やなぁシルカ!」
 あっはっは、と大笑いするクレハ。
「そんなんやと冒険者は務まらんよ? もっと体鍛えな!」
「馬鹿! 僕は冒険者は引退したんだって言っただろ!」
 ふー、と深呼吸をする僕。
 此処でクレハを怒鳴りつけたところで足の怪我が治るわけではない。無駄なことをしても体力がなくなるだけだ。
 僕の様子を見つめながら、シャーリーンさんが近付いてきた。
「……怪我をなさったのですか?」
「足首を、ちょっと」
 僕の足首にそっと手を触れるシャーリーンさん。
「オールキュア」
 彼女の手が、淡い黄金色の光に包まれる。
 彼女から温かいものが流れてくるのを、僕の足は感じ取った。
 まるで足首だけがお湯に浸かっているような感覚だ。
 シャーリーンさんの手から光が消える。
 彼女は僕の足首から手を離し、言った。
「完全に治るまで少し時間はかかりますが、これで大丈夫だと思います」
「……ありがとう」
 今のは治癒魔術の一種か。
 治癒魔術といえばヒーリングという魔術が一般的に広く知られているが、それとは違うものらしい。
 ヒーリングは裂傷や打撲のような外的要因によって負った怪我は治せるが、捻挫のような代物は治せない。それを考えると、今彼女が僕に使った魔術は相当高等なもののようである。
 僕はクレハを呼んだ。
「足が治るまでおぶってってくれるか」
「しゃあないのう」
 クレハは肩を竦めて、僕の体の下に腕を差し入れた。
 そして、そのまま僕をお姫様抱っこした。
 僕はぎょっとして足をばたつかせた。
「おい、おぶってって言ったのに……」
「どっちも大して変わらへんよ。ほれ、大人しくしい。地面の外に落としてまうで」
 移動できると判断したのか、シャーリーンさんは踵を返して先へと進み始めた。
 そんなこともあって、僕は目的の場所に着くまでクレハの腕に抱かれて運ばれることになった。
 こんな姿、みっともなくて知り合いには絶対に見せられないな。
 このことは、僕だけの秘密にしておこう。
 クレハの腕の中で揺られながら、僕はそう思ったのだった。
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