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第176話 思いを風に乗せて
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震動を続ける通路を懸命に駆け、僕とキクは神殿を脱出した。
ゴーレムが並ぶ通路に出て、後方を振り返る。
入口の上部で輝いていた水晶の光が──消える。
口を開けていた入口は、壁のような扉に音もなく塞がれて、人が通ることはできなくなった。
そして。
ボン、と建物の上部から噴き出す炎と、飛び散る石の欠片。
天空神殿の本殿は、まるで切り離されるように通路から離れて、雲が広がる眼下の空へと落ちていった。
ゆっくりと。シャボンが地面に吸い寄せられて落ちていくように。
僕たちの目の前から遠ざかって、消えていった。
「兄さん!」
通路の端に駆け寄って叫ぶキク。
僕は奥歯を噛んで、本殿が飲み込まれていった空を見つめた。
「……クレハ。あんたは、こうなることが分かってたんだな」
湧き上がってくるやるせない思いを吐き捨てるように、呟く。
「あんたは、世界を救ったんだ。立派だよ。でも──」
拳を握って、空から顔を反らした。
「大馬鹿だ……!」
僕の目の前で崩れ落ちるキクの慟哭が、静かな天空神殿に響く。
僕は鼻の奥が熱くなるのを感じながら、それでも涙だけは零すまいと、毅然とした態度で空の前に佇み続けた。
天空神殿から帰還した僕たちは、長旅を経てアメミヤへと帰り着いた。
旅立った時と何も変わらない店の中で、店主として立つ僕の前で。
キクは、目をまっすぐ僕へと向けて、言った。
「……ぼく、兄さんを探す旅に出よう思います」
その表情は、出会った頃に見せていた引っ込み思案な少年のものではない。
一人前の、冒険者としての顔だった。
「天空神殿は落ちただけで、中におった兄さんが死んだとは決まったわけやないから……きっと今でも世界の何処かで生きとるんやって、ぼくは思いたい」
「そうか」
僕はキクの肩を優しく叩いた。
「僕も、信じるよ。クレハは何処かで生きてるって」
何事にも、絶対というものはない。
万が一の可能性に縋っても、それは決して罰当たりじゃないと思う。
キクが、クレハは何処かで生きていると信じているのなら──
その思いを後押ししてもいいんじゃないかって、思うのだ。
「また、クレハと一緒に遊びにおいで。僕は此処で、待ってるから」
「はい!」
キクは笑顔で頷いた。
僕はそれに笑顔で応えたのだった。
冒険者は僅かな可能性を掴もうと日々を懸命に生きている。
それをこの店で微力ながらも応援するのが、僕の役割なのだ。
今日も僕は、ラフィナと共に店を切り盛りしながら──
懐かしい顔が笑顔を土産に此処に来てくれることを静かに願うのだった。
ゴーレムが並ぶ通路に出て、後方を振り返る。
入口の上部で輝いていた水晶の光が──消える。
口を開けていた入口は、壁のような扉に音もなく塞がれて、人が通ることはできなくなった。
そして。
ボン、と建物の上部から噴き出す炎と、飛び散る石の欠片。
天空神殿の本殿は、まるで切り離されるように通路から離れて、雲が広がる眼下の空へと落ちていった。
ゆっくりと。シャボンが地面に吸い寄せられて落ちていくように。
僕たちの目の前から遠ざかって、消えていった。
「兄さん!」
通路の端に駆け寄って叫ぶキク。
僕は奥歯を噛んで、本殿が飲み込まれていった空を見つめた。
「……クレハ。あんたは、こうなることが分かってたんだな」
湧き上がってくるやるせない思いを吐き捨てるように、呟く。
「あんたは、世界を救ったんだ。立派だよ。でも──」
拳を握って、空から顔を反らした。
「大馬鹿だ……!」
僕の目の前で崩れ落ちるキクの慟哭が、静かな天空神殿に響く。
僕は鼻の奥が熱くなるのを感じながら、それでも涙だけは零すまいと、毅然とした態度で空の前に佇み続けた。
天空神殿から帰還した僕たちは、長旅を経てアメミヤへと帰り着いた。
旅立った時と何も変わらない店の中で、店主として立つ僕の前で。
キクは、目をまっすぐ僕へと向けて、言った。
「……ぼく、兄さんを探す旅に出よう思います」
その表情は、出会った頃に見せていた引っ込み思案な少年のものではない。
一人前の、冒険者としての顔だった。
「天空神殿は落ちただけで、中におった兄さんが死んだとは決まったわけやないから……きっと今でも世界の何処かで生きとるんやって、ぼくは思いたい」
「そうか」
僕はキクの肩を優しく叩いた。
「僕も、信じるよ。クレハは何処かで生きてるって」
何事にも、絶対というものはない。
万が一の可能性に縋っても、それは決して罰当たりじゃないと思う。
キクが、クレハは何処かで生きていると信じているのなら──
その思いを後押ししてもいいんじゃないかって、思うのだ。
「また、クレハと一緒に遊びにおいで。僕は此処で、待ってるから」
「はい!」
キクは笑顔で頷いた。
僕はそれに笑顔で応えたのだった。
冒険者は僅かな可能性を掴もうと日々を懸命に生きている。
それをこの店で微力ながらも応援するのが、僕の役割なのだ。
今日も僕は、ラフィナと共に店を切り盛りしながら──
懐かしい顔が笑顔を土産に此処に来てくれることを静かに願うのだった。
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