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24 弱小サークル

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 シャルに会いたいようで、会いたくなかった。
 聞きたいことはあったけど、聞く勇気がなくて。

 後宮って何? あなたとは関係ある?

 部屋に戻ってすぐ、寝室のドアを開けたけど、シャルはそこにはいなかった。
 しわひとつないシーツの上に、枕を抱えて横になって、ぎゅうっと目をつぶった。

 考えても仕方ないじゃない。
 とりあえず、もう、忘れよう。
 私にできることなんてないんだから。
 考えないように、忘れよう。

 シャルはきっと大丈夫だよね。だって、シャルに聖力を渡しても、私は全然平気だから。どれだけ渡しても、まだまだ余っている。シャルにも吸いつくせないほどに、私の聖力は強い。だから、他の聖女も後宮の聖女もシャルには必要ないよね。

 なんで、私、シャルのことばかり考えてるの?
 寮にいる他の聖女が、大変な思いをしてても関係ないって思えるくらい。だって、先輩には今日会ったばかりだよ。関係ないよね。
 イザベラは、イザベラだし。処刑死って……。
 ああ、もう、知りたくなかった。もう、忘れよう。

 大丈夫。なんでもない。私は強い。

 私は大丈夫。きっと大丈夫。
 もう、聞かなかったことにしよう。
 明日になったら、全部忘れる……

 お願いだから、考えたくない……
 ……大丈夫だって言って……お願い……シャル……




 今日はいい天気。雲一つない空に、惑星がくっきり見える秋晴れだ。せっかくの気持ちいい日だったのに、放課後、イザベラにサークル部屋へと無理やり連れて行かれた。嫌だって言ったのに。

「皆さま。これでサークルが継続できますわ」

 なんと、イザベラ・サークルはたった3名の弱小サークルだった。あれだけみんなに宣伝してたのに、イザベラ、人望ない。
 まあ、イザベラだし。

 サークルに入るなんて言ってないのに、なぜか入ったことにされてる。絶対、書類にサインはしないんだからね。

「それでは、改めて紹介いたしますわ。こちらがブルレッドさん。格闘術が得意ですのよ。前の世界では狩人だったそうよ」

「ブルレッドだ。カナデさん、今までのことは謝罪するから、私に呪文の覚え方を教えてほしい」

 ブルレッドさんが頭を下げてきた。まだ呪文が覚えられないそうだ。ちょっとだけ、気の毒。今日は新しく防具化の呪文も習った。もちろんこれも数字が呪文。

「スノウよ。私はなれ合うつもりはないわ」

「スノウさんは前の世界では神官だったそうよ。刀の使い手よ。岩をも切れるほどの名刀使いだったそうよ」

 神官って、刀で戦うものだっけ? いろんな異世界があるんだな。
 もう、入るつもりないのに、無理やり仲間認定されてる。どうしよう。あれだけ嫌味言われてたのに、今さら手のひら返しで仲良くできる? そんなの無理だよ。

 でも、他に入れるサークルはなさそうだし、仕方ないのかな。嫌だけど、とりあえず保留で。ものすごく嫌だけど。


 ようやく、サークルの会合から開放されて寮に戻ってきた。テイクアウトしてきた夕食を持ってリビングのドアを開けると、

 ん?

 豪華な金色の縁飾りの付いた革のソファーで、金色の精霊がゆったりお茶を飲んでいた。金色のローテーブルまである。フローリングには金糸の刺繍の入った赤いカーペットが敷いてある。天井を見上げると、金色のシャンデリア。

 ……なんだ、この成金インテリアは。

「ああ、おかえり。カナデ」

 シャルは金で縁どられた白いティーカップを優雅に置いた。

「引っ越し祝いだよ。受け取って」

 家具はありがたいんだけど、キラキラ光りすぎて落ち着かない。
 金庫に入りこんだみたい。その中でも、一番のキラキラは契約精霊のシャルだった。

「なんだかカナデが冷たいな。昨日はベッドの上で放置されたし。さみしかったよ」

 また、シャルがからかってくる。そんな目で見られても、2年生になって成長した私には通用しない……、うっ、効かないってば。
 でも、ソファーに座ってじっと見上げてくるハチミツみたいな甘い誘惑に負けて、隣に座って、差し出された手を取ってしまった。

 聖力を流しながら、昨日からの出来事を話す。
 寮の先輩と食堂で挨拶したこと。イザベラのサークルに連れて行かれたこと。うん、これくらいかな。昨日と今日の出来事は。他には特別なことは何もなかったよね。

「まあ、人間のことは良くわからないけれど、基本的に弱い生き物は、群れで行動する方が生存率は高くなる。単独行動をすると捕食者に狙われやすいからね」

 シャルのアドバイスは一理ある。つまりサークルには入った方がいいってことかな。私は異世界で生き残りたい。分からないことだらけの信用できないこの世界で。生き残るためには、いやなことを我慢することも必要だってことだよね。

 今日一日で感じた事。私が3級市民になって、上級寮に移ったことを知ったクラスメイトが、話しかけたそうにこっちを見ていた。私はあえて知らないふりをした。もし、この人たちが手の平を返して寄って来ても、絶対信用できないって思ったから。私も、シャルのことを隠してたから、それは、お互い様だけど。
 だったら、初めから嫌味を言ってたイザベラの方がまだマシかもしれない。仲良くなるつもりがないんだったら、裏切っても心が痛まない相手の方がいいよね。ずるがしこい考え方。でも、そうしないと生き残れない。

 サークルの継続には4人以上が必要だから、ここで、恩を売っておくのもいいかもしれない。でも、イザベラは苦手なんだよなぁ。口うるさいし、嫌味っぽいし、自慢ばっかりだし、……でも、本当の悪人ではないと思うんだけど……ああ、でもっ、あの性格。

 シャルが私の頭をよしよしと撫でてくれた。しばらく、その手の平の心地よさに甘えて、シャルの膝に頭を預けた。
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