【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか

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第1部 貴族学園編

6 異世界版PTA

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 オスカー様に見とれた自分が恥ずかしかった。逃げるように、中庭のガーデンパーティ会場に向かう。大きなパラソルの設置されたテーブルが、いくつも並んでいる。着飾ったご夫人の席から、賑やかな笑い声が聞こえてきた。

 母様はどこだろう? 紺色のドレスを目印に探してたら、木の陰のテーブルで発見した。隣にいるのはだれ? ってまた黒髪?!
 オスカー様のお母様の辺境伯夫人かな? それとも侯爵夫人? 勇者の黒髪は、この両家にだけ受け継がれているんだって。
 でも、母様ったら、大丈夫なの? 上級貴族と一緒にお茶をしてるの? 絶対やめた方がいいってば!

 急いで、母様の側に駆け寄った。

「あ! レティちゃん~!」

 母様は私に気が付くと、泣きそうな声を出して手招きした。私は急いで母様の隣に立ち、その前の椅子に座る黒髪の女性に挨拶する。

「ごきげんよう。マッキントン侯爵夫人」

 黒髪に赤い目だから、マッキントン侯爵夫人の方だとあたりをつけて呼んでみた。勇者の血を引くマッキントン侯爵家は、近親婚を繰り返して黒髪の維持に努めている。でも、マッキントン家は辺境伯家とは違って、黒眼ではなく赤眼なんだよね。だから、この呼び方で正解のはず。

「こっ、この子は私の、娘で、レティシア、です」

 ちょこんとお辞儀をした私の横で、母様がどもりながらも紹介した。

 マッキントン侯爵夫人は、大きな赤い扇を広げて、ゆっくりと顔を扇いだ。そして、私と母様を真っ赤な目で見て、ふんっと鼻で笑った。

 なんだか感じが悪い夫人だなぁ。身分差があるから仕方ない? 上級貴族ってみんなこうなの? 5歳の女の子が挨拶したら、少しぐらいは笑顔を見せてくれてもいいんじゃない?

「男爵の娘のくせに、王族の紫眼を持つなんて、生意気ね」

 侯爵夫人はそう言って、笑顔どころか蔑むような視線をくれた。
 ビクトル王子と同じこと言ってる! 同類なの?! もう、貴族なんかヤダ! 幼児をにらみつけるなんて、ほんともう、性格悪いよ。

 母様は、隣で泣きそうな顔をして、口をパクパクさせた。私はこの場所に来ない方が良かったのかな? 侯爵夫人の冷たい視線に耐え切れずにうつむいていると、

「ゴールドウィン公爵家の血筋ですもの。綺麗な紫眼も当然ですわよ」

 鈴の音のような声が響いた。
 顔をあげたら、綺麗な女の人が目に入った。ホワイトブロンドの髪に青い瞳の美女が、侯爵夫人の隣に立っている。

「マッキントン侯爵夫人、幼い子供にそんなことを言うなんて、大人げないですわよ。わたくし、ゴールドウィン男爵夫人とお話がしたかったの。席を代わってもらっても、よろしくて?」

 ホワイトブロンドの美女は、返事を待たずに空いている椅子にすっと座った。

 王太子から私をかばってくれた美少女に似てる! ってことはもしかしてベアトリス様のお母様?

「ふん、いいわよ。私も、男爵夫人になんて関わってる暇はないわ。じゃあ、あなた、さっきの件、分かってるでしょうね。覚えておきなさいよ」

 黒髪の侯爵夫人は捨て台詞を残して、テーブルから去って行った。

 母様は、「あう、あう」とアシカみたいな声をだして、それを見送った。

「お嬢さんもお座りなさい。このお菓子はとてもおいしいわよ」

 ベアトリス様によく似た夫人は、優しく私にお菓子を勧めてくれた。私は母様の隣の椅子に座って、夫人の綺麗な顔に見とれた。母様は、ようやく肩の力を抜いて息を吐いた。

「あ、あの、あ、ありがとう……ございます」

「もう、ナタリー様ったら。あのクリス様と結婚できたのに、マッキントン夫人ごときをあしらえなくてどうするんですの? また厄介ごとを押し付けられたのじゃなくて?」

「あ、えと、その、クリス様が勇者の遺産を見つけたら、その所有権は勇者の子孫のマッキントン家にあるから、自分に渡せって言ってきて。……その、そんな法律はないんですけど、でも……」

「まあ、あきれたこと。そうね、今はマッキントン侯爵家は落ち目ですものね。領地の鉱山が廃坑になって、借金を重ねているって噂もあるし」

 向き合って話す二人は知り合いだったみたい。そうだよね。母様は平民になる前は伯爵家の令嬢だったから、魔法学校で交流があるよね。これなら、私が心配することなかったのかも。この優しそうな公爵夫人が母様を守ってくれる。

 私は安心して、目の前のクッキーをかじった。サクサクしてバターの香り広がる。おいしい。

「それはそうと、ナタリー様。わたくし、保護者会の会計を任されましたの。ナタリー様は学園時代から計算がお得意でしょ? 代わりに書類をまとめていただけないかしら?」

「え、ええ?」

「後で、資料を運ばせますわ。早急に予算案が必要なんですって。来週までに公爵家に持ってきてちょうだいね。……まったく、契約獣を得るためだけの貴族学園なのに、幼児教育とか保護者活動とか面倒の多いことが増えて……。なんでこんなことしなくちゃいけないのかしら。全部、園でやってくれたらいいのに。保護者の負担が多すぎるわよ。わたくしだって暇じゃありませんのよ……まあ、でも、ナタリー様がいてくれてよかったですわ。魔法学校の時みたいに、また私のために役に立ってくれるでしょ? お願いするわね」

 公爵夫人は、母様に断る暇も与えずに、一方的に要求を伝えてからすぐに席を立った。そして、そのまま賑やかなテーブルの方へ向かって行った。断ろうと口を開いた母様を、振り返りもせずに。

「え? 無理無理ぃ。なんで、なんで私? 予算? え? ええっ? 私?……」

 母様、かわいそう。魔法学校時代もいいように使われてたんだね。
 涙目になって落ち込んでいる母様の隣で、私はクッキーのお代わりをした。
 日陰のテーブルで座って、暗い顔をした母様の元には、この後誰も来なかった。
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