【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか

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第1部 貴族学園編

15 運動会練習

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 貴族学園での一日は体育に始まり、体育に終わる。
 運動会まであと3日。

「すごいよ、リョウ君! 障害物競走も、のぼり棒もリョウ君が一番だよ!」

「モンスター競争でもすっごく速いし! どうしたらそんなに速く走れるの?」

 どこの世界でも、運動のできる男の子は人気者だ。
 うちのリョウ君はタンポポ組の子達に毎日囲まれている。先生たちもリョウ君には優しくなった。リョウ君は頭もいいもんね。勇者文字のカタカナも10日でマスターしたよ。天才すぎる……。悔しいから、ひらがなは教えてあげないよ。

「姉さま!」

 休憩から帰った私に気が付いて、リョウ君はタンポポ組の集団の中から手を振った。私も片手をあげてそれに応える。

「レティシアちゃんは、もうちょっとがんばった方がいいよ」

 アニータちゃんがタオルで汗を拭きながら、あきれたように私を見た。

 分かってるよ。分かってるけど、疲れるんだよー。迷路を走ったり、狭い筒の中をくぐったり、のぼり棒を登ったり……。
 体力がぁー。

 ねえ、貴族のお嬢様に、こんなこと本当に必要?
 刺繍したりお茶飲んだりするだけじゃ、ダメなの? 異世界貴族令嬢ってこんなに体力いる?
 でも、そういえば薔薇組の運動会の練習って見たことないな。あの意地悪なマッキントン侯爵令嬢も、こんな風に汗だくになって走ってるのかな?

「薔薇組の練習? そういえばタンポポ組とは違うみたいですわね。王太子様はいつもブランコだし……」

 ルビアナちゃんも薔薇組の練習風景は見ていないみたいだ。
 上級貴族は特別なのかな?

「もう、レティシアちゃんは薔薇組のことを気にしてる暇なんてないでしょ! 先週の国語のテストも赤点だったじゃない。このままだと夏休みが補習になっちゃうよ」

「うー、でもでも、算数は満点だったよ。地理も歴史もぎりぎり合格だったし」

「だけど、芸術点が低いでしょ。もっとしっかりして!」

 アニータちゃんは言葉はきついけど、本気で心配してくれる。ちょっとうれしい。この世界に生まれ変わって、両親は基本的に子供に無関心だから、こんな風に叱られるのって久しぶりだ。

「ありがとう、アニータちゃん」

 アニータちゃんにぎゅっと抱き付いてお礼を言うと、

「ちょ、ちょっと、もう、レティシアちゃんったら」

 アニータちゃんも恥ずかしそうに抱きしめ返してくれた。

「ふふふ、みんな仲良し」

 ルビアナちゃんも一緒にくっついて、団子状になって笑いあった。

 貴族学園って絶対いやだって思ってたけど、友達っていいね。

 友達といえば、あれから毎週、休みの日はオスカー様の家に遊びに行かせてもらってる。リョウ君はオスカー様と一緒に勇者ごっこをして遊ぶ。私はその間、勇者の残した書記を見せてもらったり、勇者の伝説を読んだりして過ごした。

 メモ帳に書いた勇者文字を思い出す。なんで勇者リョウはカタカナで書いたのかな? 日本人に読んでもらいたかったのなら、漢字とひらがなで書けばいいのにね。もしかして、将来だれかに解読してほしかったのかな? 漢字やひらがな混じりの日本語は難しいから、簡単なカタカナで? ってことは、まだ誰も解読していない今のうちに、私が勇者の遺産を見つけなきゃ。そのためには、やっぱり、ダンジョンで良い契約獣を見つけることがマストなのかな?     
 うん、もうちょっと運動会の練習がんばろう。

「のぼり棒の自主練習してくる!」

「やる気出たね! レティシアちゃん、私も付き合うよ」

「私も、もう一回やりますわ!」

 3人でのぼり棒の場所まで走った。


「あ」

 でも、その途中で、出会ってしまった。薔薇の4人組。王太子と侯爵令嬢、そして伯爵子息その1とその2。

 王太子は薄い水色の瞳で私をじろっとにらみつけた。

 また、絡まれるかも。アニータちゃんとルビアナちゃんを巻き込むわけにはいかない。二人をどうやって逃がそうか考えていると、王太子は私をにらんだ後、何も言わずに黙ってブランコの方に走って行った。

 アッシュブロンドの伯爵令息その2がすぐ後に続いた。こいつは前回、私に石をぶつけたヤツだ。全然謝ってももらってない。もちろん、親も謝りに来ない。ああ、貴族って……。

 でも、後に残ったダークブロンドの伯爵令息が、私に頭を下げた。

「この前はダニエルが怪我させてごめん」

 やったのは、彼じゃなくてダニエルってヤツなのに、代わりに謝罪するなんて、彼は本当はいい人? 単純な私はすぐに考えを改めた。

「僕はロレンス。コッパー伯爵家の息子だ。君がゴールドウィン公爵の姪だってことを知らなかったんだ。本当にごめん。コッパー家はゴールドウィン公爵家の傍系なのに……」

 ああ、家の都合的な謝罪なんだ。でも、まあ、いいよ。私は、たかが男爵家だし。

「ちょっと、何を謝ってんの! ゴールドウィン公爵っていっても、この子の親は追い出されたんでしょ? 冒険者なんてつまんない仕事しかできないから。今は、ただの男爵でしょ? それに、ゴールドウィン公爵家はあの悪女オリヴィアを生み出した家よ、悪女の身内よ!」

 ロレンスの隣で、黒髪赤目のマッキントン侯爵令嬢がギャンギャン吠えた。

「生意気な子ね! 今に見てなさい! あんたなんてどうせ、つまんない契約獣しか見つけられないんだから! その時はその目をえぐり出してあげるわよ!」

「おい、やめなよ、スカラ。もう、行こうよ。ビクトル様のブランコを押さなきゃ」

「ふんっだ! いい気になんないでよね! 悪女の身内!」

 一方的に私をなじって、スカラ・マッキントンはブランコの方へ走って行った。ロレンスも私に小さく頭を下げてからスカラを追いかけた。

 ああ、もう。やる気なくなったよ。
 なんで、なんでこんなこと言われなきゃいけないの?
 悪女の身内って……。
 身内どころか娘って知られたらどうなるんだろう。

 あ、ルビアナちゃんとアニータちゃんは、私があの悪女オリヴィアの身内だって知って、仲良しをやめないよね?

「ひどいね。あんないじわる言うなんて」
「気にしないで。私達はオリヴィア様を悪女だなんて思ってないの」

 二人は私に寄り添うようにくっついて、頭をなでてくれた。

「オリヴィア様のこと、お母様が言ってたわ。意地悪な上級貴族にコップの水をかけられた平民の子がいたんだけど、オリヴィア様はそれを見て、その上級貴族に頭からトマトソースをかけたんだって」

「うちのママも言ってた。教科書に落書きされた子がいたら、オリヴィア様は、その犯人の名前と悪口を学園の校舎の壁に大きくペンキで書いたんだって」

「うちのお母様みたいに下級貴族は、みんなオリヴィア様のファンだったんだって」

「ママも。王様との結婚がなくなっちゃったのは残念だけど、オリヴィア様にこの国は狭すぎるんだって言ってた」

 二人は私をぎゅっと抱きしめて慰めてくれた。

 そうなんだ。ただの悪女じゃなかったんだ。実母のことを慕っていた人もいたんだ。

 でも、……。私は会ったことも見たこともない。

 悪女だって聞いてたし。私の妊娠が分かった時に、毒を飲んで堕胎しようとしたって聞いたから、会いたいなんて今まで一度も思わなかったよ。だけど……。

 みんな自分勝手だ。私も、勝手に期待して、勝手に失望して。せっかく転生して人生やり直してるのに、全力でやってるって言える?

 もっと、がんばらなきゃ。
 だって、私にはこんなに良い友達がいるから。
 それから、大切な弟のリョウ君。
 私、幸せだなぁ。
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