4 / 41
4 覚醒
しおりを挟む
ずきずきする頭の痛みとともに、目覚めた。
かすんでいた視界は、今は、はっきりしている。
眠気も、もうない。
私は、やっと記憶を取り戻した。
「あの冷血精霊! ……うっ、痛い」
後頭部を押さえると、かさぶたになった血が手にはりついた。
「もう、痛いったら! ≪治癒≫!!」
簡易呪文を唱えると、ぽわっと体が温かくなって、頭の怪我が完全に治る。
ふう。神聖力は衰えてないみたい。ううん、むしろ増加してる?
ああ、もう、ほんとに……。
記憶を取り戻すまで、長かった。今の私の体は15歳ね。
15年間も記憶を封印されていたなんて。
よくも、やってくれたわね。
人形姫と呼ばれていたころの記憶は全てある。ぼんやりと霞がかかっていたから、自分に起きたことのようには思えないけれど。
復讐リストに載せるべき人の顔と名前はしっかり覚えている。
それから、フェリシティだった頃のことも思い出した。
あの精霊宰相に記憶を封印される前のことも全て。
ぐるり部屋を見渡す。王女の部屋だっていうのに、家具が少ない。
小さいテーブルといす。そして小さなベッドが置かれている。まるで下級使用人の部屋みたい。
掃除も行き届いていない。
王女の側に控えるべき侍女もついていない。
「ほんと。バカにしてるわ」
ほこりっぽい空気を入れ替えようと窓を開けると、青い鳥が飛び込んで来た。
頭と背が青く、お腹の白い毛は灰色に薄汚れている。
やせ細って、翼がボロボロだ。
窓枠に止まった鳥は私を見あげて、
「ぴぃ」
とよわよわしく鳴いた。
「ルリ! 今助けるわ」
急いで小鳥に近づき、手を触れて神聖力を分け与える。
ぱあっと銀色に輝いた後、小鳥は高く羽ばたいた。
そして、私の前に降り立った時には、青い髪の子供の姿になっていた。
「聖女さま~」
青い瞳の美少年は、顔をくしゃくしゃにして私に抱き付く。
「聖女さまだ! 聖女さまが戻った!!」
「ちょっと、声が大きすぎ! やかましいわ」
いつもしていたように叱ったら、精霊はしゅんとなってうなだれる。
私は、そのやわらかな青い髪をくしゅっとなでた。
「でも、ありがとう。なんとか生き残れたのは、あなたのおかげね」
食事を抜かれた時も、この子が料理を盗んできて食べさせてくれた。水を掛けられて、バルコニーに締め出された時にも、タオルと毛布を盗って来てくれた。
「うん。僕、いっぱい聖女さまを守ったよ」
青い鳥精霊のルリは、ずっと人形姫の側にいてくれた。
精霊王の死で、全ての精霊がこの国から去って100年以上経つ。精霊界で知り合ったルリは、私が人間界に戻された時に、こっそり着いて来てくれたのだ。精霊宰相の命令に背いて。
今まで私の記憶が封印されて、神聖力を与えられなかったから、やせ細って、今にも消滅しそうになっていた。
「もう、どうして私に付いて来たのよ。あなたはあと少しで死ぬところだったじゃない」
「だって。姫さまが僕に力をくれたから。だから、僕は下級精霊から上級精霊になれたんだよ。恩返し」
こっちを見上げる真ん丸い瞳がかわいくて、ぎゅっと抱き上げて、そして、いっしょに転んだ。
あ、私、痩せすぎだ。王女なのに、虐待されてた。
「じゃあ、とりあえず、何か食べる物を持ってきて。私、多分2日ぐらい食事してないわ」
「うん! 僕ね、力がいっぱいになったよ。今ならオークの丸焼きでも運んで来れるよ!」
精霊は小鳥の姿に戻って、パタパタと窓から飛んで行った。
それを見送ってから、考える。
さあ、どうしよう。
とりあえず、私が記憶を取り戻したきっかけの「国民奴隷化計画」をやめさせないとね。
だって、国民を守るために、私は生贄として精霊界に行ったのに。
こんなの……。
これじゃあ、私のやったことが全部無駄になってしまう。
鏡に映る自分の姿を見て、ため息をつく。
ガリガリにやせ細った体。カサカサな皮膚。ぼさぼさに伸びた金髪。
紫色の目だけが大きく光って、ぎょろりとこっちを見返している。
白い薄汚れたワンピースを着替えようとクローゼットを開けたけれど、すぐに閉じた。
私に着られそうなドレスが一着もない。
破れたり汚れたりした子供用のドレスばかりだ。
「本当に、ふざけすぎね。今のこの国は……」
でも、幸いなことに私は離宮に住んでいる。それなら、どうにかなるわね。
壁に彫られた王家の意匠に手を当てる。思いっきり神聖力を流し込む。
建国女王が作ったこの離宮には、神聖力に反応する仕掛けが作られている。
まぶしい光とともに、壁の中に通路が現れた。
宝物庫への通路だ。
紫の瞳を持つ王族にしか開かれない扉。
兄が全ての財宝を使ってなかったらいいのだけど。
「まあ、あまり期待しないでおきましょう」
私は、虹色の結界に覆われた細い通路を歩きながら、過去の記憶を思い出していた。
かすんでいた視界は、今は、はっきりしている。
眠気も、もうない。
私は、やっと記憶を取り戻した。
「あの冷血精霊! ……うっ、痛い」
後頭部を押さえると、かさぶたになった血が手にはりついた。
「もう、痛いったら! ≪治癒≫!!」
簡易呪文を唱えると、ぽわっと体が温かくなって、頭の怪我が完全に治る。
ふう。神聖力は衰えてないみたい。ううん、むしろ増加してる?
ああ、もう、ほんとに……。
記憶を取り戻すまで、長かった。今の私の体は15歳ね。
15年間も記憶を封印されていたなんて。
よくも、やってくれたわね。
人形姫と呼ばれていたころの記憶は全てある。ぼんやりと霞がかかっていたから、自分に起きたことのようには思えないけれど。
復讐リストに載せるべき人の顔と名前はしっかり覚えている。
それから、フェリシティだった頃のことも思い出した。
あの精霊宰相に記憶を封印される前のことも全て。
ぐるり部屋を見渡す。王女の部屋だっていうのに、家具が少ない。
小さいテーブルといす。そして小さなベッドが置かれている。まるで下級使用人の部屋みたい。
掃除も行き届いていない。
王女の側に控えるべき侍女もついていない。
「ほんと。バカにしてるわ」
ほこりっぽい空気を入れ替えようと窓を開けると、青い鳥が飛び込んで来た。
頭と背が青く、お腹の白い毛は灰色に薄汚れている。
やせ細って、翼がボロボロだ。
窓枠に止まった鳥は私を見あげて、
「ぴぃ」
とよわよわしく鳴いた。
「ルリ! 今助けるわ」
急いで小鳥に近づき、手を触れて神聖力を分け与える。
ぱあっと銀色に輝いた後、小鳥は高く羽ばたいた。
そして、私の前に降り立った時には、青い髪の子供の姿になっていた。
「聖女さま~」
青い瞳の美少年は、顔をくしゃくしゃにして私に抱き付く。
「聖女さまだ! 聖女さまが戻った!!」
「ちょっと、声が大きすぎ! やかましいわ」
いつもしていたように叱ったら、精霊はしゅんとなってうなだれる。
私は、そのやわらかな青い髪をくしゅっとなでた。
「でも、ありがとう。なんとか生き残れたのは、あなたのおかげね」
食事を抜かれた時も、この子が料理を盗んできて食べさせてくれた。水を掛けられて、バルコニーに締め出された時にも、タオルと毛布を盗って来てくれた。
「うん。僕、いっぱい聖女さまを守ったよ」
青い鳥精霊のルリは、ずっと人形姫の側にいてくれた。
精霊王の死で、全ての精霊がこの国から去って100年以上経つ。精霊界で知り合ったルリは、私が人間界に戻された時に、こっそり着いて来てくれたのだ。精霊宰相の命令に背いて。
今まで私の記憶が封印されて、神聖力を与えられなかったから、やせ細って、今にも消滅しそうになっていた。
「もう、どうして私に付いて来たのよ。あなたはあと少しで死ぬところだったじゃない」
「だって。姫さまが僕に力をくれたから。だから、僕は下級精霊から上級精霊になれたんだよ。恩返し」
こっちを見上げる真ん丸い瞳がかわいくて、ぎゅっと抱き上げて、そして、いっしょに転んだ。
あ、私、痩せすぎだ。王女なのに、虐待されてた。
「じゃあ、とりあえず、何か食べる物を持ってきて。私、多分2日ぐらい食事してないわ」
「うん! 僕ね、力がいっぱいになったよ。今ならオークの丸焼きでも運んで来れるよ!」
精霊は小鳥の姿に戻って、パタパタと窓から飛んで行った。
それを見送ってから、考える。
さあ、どうしよう。
とりあえず、私が記憶を取り戻したきっかけの「国民奴隷化計画」をやめさせないとね。
だって、国民を守るために、私は生贄として精霊界に行ったのに。
こんなの……。
これじゃあ、私のやったことが全部無駄になってしまう。
鏡に映る自分の姿を見て、ため息をつく。
ガリガリにやせ細った体。カサカサな皮膚。ぼさぼさに伸びた金髪。
紫色の目だけが大きく光って、ぎょろりとこっちを見返している。
白い薄汚れたワンピースを着替えようとクローゼットを開けたけれど、すぐに閉じた。
私に着られそうなドレスが一着もない。
破れたり汚れたりした子供用のドレスばかりだ。
「本当に、ふざけすぎね。今のこの国は……」
でも、幸いなことに私は離宮に住んでいる。それなら、どうにかなるわね。
壁に彫られた王家の意匠に手を当てる。思いっきり神聖力を流し込む。
建国女王が作ったこの離宮には、神聖力に反応する仕掛けが作られている。
まぶしい光とともに、壁の中に通路が現れた。
宝物庫への通路だ。
紫の瞳を持つ王族にしか開かれない扉。
兄が全ての財宝を使ってなかったらいいのだけど。
「まあ、あまり期待しないでおきましょう」
私は、虹色の結界に覆われた細い通路を歩きながら、過去の記憶を思い出していた。
55
あなたにおすすめの小説
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて
放浪人
恋愛
「君は偽物の聖女だ」——その一言で、私、リリアーナの人生は転落した。 持っていたのは「植物を少しだけ元気にする」という地味な力。華やかな治癒魔法を使う本物の聖女イザベラ様の登場で、私は偽物として王都から追放されることになった。
行き場もなく絶望する私の前に現れたのは、「氷の公爵」と人々から恐れられるアレクシス様。 冷たく美しい彼は、なぜか私を自身の領地へ連れて行くと言う。
たどり着いたのは、呪われていると噂されるほど荒れ果てた土地。 でも、私は諦めなかった。私にできる、たった一つの力で、この地を緑で満たしてみせる。
ひたむきに頑張るうち、氷のように冷たかったはずのアレクシス様が、少しずつ私にだけ優しさを見せてくれるように。 「リリアーナ、君は私のものだ」 ——彼の瞳に宿る熱い独占欲に気づいた時、私たちの運命は大きく動き出す。
報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?
小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。
しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。
突然の失恋に、落ち込むペルラ。
そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。
「俺は、放っておけないから来たのです」
初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて――
ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~
雪丸
恋愛
【あらすじ】
聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。
追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。
そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。
「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」
「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」
「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」
命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに?
◇◇◇
小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
カクヨムにて先行公開中(敬称略)
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる