【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか

文字の大きさ
5 / 41

5 魔力検査

しおりを挟む
「……結界は、出入りを阻むだけでなく、魔物をダンジョンに転送する力も持っています。近年、魔力不足により、結界が縮小しています。特に辺境では、結界が損傷し、外部から魔物が入り込むことが多くなりました。そのため、東西南北の辺境騎士団を結成し……」

 うーん。なるほど、なるほど。
  
 試験勉強のためのテキストを読んでいるのだけど、小説の設定集みたいで、けっこうおもしろい。

 私が転生したこの国は、魔物の森に囲まれてるの。
 今から200年くらい前に、帝国の権力争いに敗れた皇子とその派閥の者たちが出奔して、新しく作った国なんだって。追っ手から逃げるために、誰も来られない場所に建国されたの。初代王の恋人だった聖女の結界スキルのおかげだったのだけどね。
 
 その結界が、めちゃくちゃ優れモノ。魔物を入れないだけじゃなくて、結界内で発生をする魔物を閉じ込めるダンジョンまで作ってるの。すごい仕組みだよね。
 しかも、ダンジョン内の魔物は浄化済みで、素材も魔石も利用できる。そして、その魔石を利用した魔道具で、200年間、この結界を維持しているの。

 完璧な鎖国ってわけね。
 この国の貴族の義務は、魔石に魔力を奉納して、聖女の作った結界を維持すること。
 あと、ダンジョンの魔物討伐と、魔力の強い子供を生むこともね。

 だけどね、200年も経ったから、結界がどんどん縮小されて、辺境の結界なんて、綻びまくってるの。魔物がいっぱい入って来て、瘴気に侵されて、放棄地域が増えてるの。
 国自体が、どんどん小さくなってきてるんだよね。
 農作地域が減ったから、食料不足で、人口を抑制するために、平民の間では出生数の調整が行われてるんだって。
 あ、貴族は別だよ。魔力持ちだからね。逆に、どんどん子供産めって言われるんだけどね。


 まあ、そんな滅びに向っている国で、誕生するのが、小説のヒロインちゃん。
 なんと、彼女は、新たに結界を張ることのできるスキルをもつ聖女なのだ!

 小説では、ヒロインちゃんは、この国に結界を張り直すために、建国の聖女が残した秘宝を探して、ヒーロー君たちと旅に出るんだ。で、その間に、反結界主義者たちに命を狙われたりするの。
反結界主義者って言うのは、「結界なんか必要ない。みんなで国から出て行こう」っていう開国派の人ね。

 実は、ヒロインちゃんが生まれる前の、今の時期は、一番大変だったりするんだよね。
 特に辺境がね。
 結界が破れて、魔物が大量に入ってくるから。

 だから、そのせいで、うちってもしかして、貧乏なのかな? って感じてる。
 外からやってくる魔物は、瘴気を振りまくから、辺境って、ほとんど農作物が取れないんだよね……。討伐した魔物も、瘴気まみれで、素材も魔石も回収できないし……。


 あ、メイドが呼びに来た。教会から魔力検査石を借りてきたって。

 ※※※※※

「さあ、アリシア! これに手を置いてごらん」

 部屋に入ると、父が満面の笑みで迎えてくれた。

 魔力検査は、小説でも丁寧に描写されてたね。ヒロインちゃんに結界のスキルがあることが分かって、聖女認定される場面ね。
 教会で新入生全員が、大きな白い石に手をかざして、魔力を測るの。そこでヒーロー君が、ヒロインちゃんに一目ぼれするんだけど……。

 ん? 思ったより小さい石だね。 小説とは違うのかな?

「貸出許可が出るのは、簡易検査用の物ですからね。まあ、四大魔力を測るだけなら、これで十分でしょう」

 眼鏡をくいっと上げながら、家令が私をせかした。

 ちょっとドキドキする。絶対に私は、転生魔力チートだよね。ステータスに書いてあったから。

 ワクワクしながら、小さい石の上に手を置いた。すぐに手の指の間から、4色の光が漏れ出す。
 赤、青、黄色、緑の順番に点滅を繰り返す。
 クリスマスツリーのイルミネーションみたい。
 赤色がちょっと弱くて、黄色が強いかな?

「すばらしい! さすがはお二人の血をひいてますね。四大魔力全てに適性があります! 炎は思ったよりも少ないですが、土の魔力は特大ですね」

「さすが俺の娘だ! でかしたぞ! アリシア!」

 大興奮する父と家令に対して、私は、ちょっとだけ、がっかりしてしまった。
 だって、南の辺境伯家は、炎の魔力が多い家系なんだよ。どうして炎が一番少ないのかな?

「炎の魔力が少ないとは言っても、標準以上です。というよりも、その他の魔力が、けた違いに多いのです。特に、土の魔力が異常にありますね」

「さすが俺とマリアの娘だ。マリアと同じで、土の魔力が多いな。うん」

「それに、四大魔力全てに適性があるのは、王族ぐらいですから、素晴らしいことですよ」

 父と家令が褒めてくれる。 
 そうなの? 炎の魔力が少ないのは問題ないの? 私は母に似てるってこと?

「それで、スキルはあるのか?」

 あ、そうだ。スキル。私の異世界転生のチートスキル!

「まあ、魔力持ちの中でも、スキルを持つのは、ごく一部の選ばれた者だけなのですが」

 家令に指示され、石から手をのける。白い石には、金色の文字が浮かび上がっていた。

「なんだ? このスキルは?」

 凝視する父の前で、文字は薄くなって、すっと消えた。

「ゲーム……チートだと?」

 白い石には、金色の文字で「ゲームチート」と書かれていた。

 そう、これこれ、最強のスキルでしょ?!

 笑顔で父と家令を見上げたけど、二人はなぜか顔を曇らせている。

「……チートとは何だ? ゲームってのは、チェスやリバーシのことか?」

「チートとは、おそらく、古代語で、いかさまや不正行為を意味すると思いますが……」

「!なんだと?! アリシアが不正行為? いかさまだとぉ!!」 

 え、そうなの? チートって、「めちゃくちゃ強い」って意味だと思ってたよ。違うの?

「他には、だます、欺く、そして、浮気をするといった意味もあるようですね」

 ケイリーが、ポケットから古代語辞典を取り出して、めくって説明すると、父が燃えだした。
 やばい、拳が炎になってる。

「なんだと?! こぉらぁ! アリシアが浮気? 浮気男はガイウスのやつだ! あいつがだまして、浮気して、アリシアを苦しめたんだ! 俺の娘は潔白だ!!」

「ちょっと、お父様!」

 ガイウスのことを思い出したのか、父がメラメラしだした。
 屋敷とケイリーを破壊されたら困るので、あわてて止める。

「違うってば、ほら、ゲームチート、ね、チートの前にゲームが付いてるでしょう? だから、そんな意味じゃないってば」

「なるほど。チェスのゲームで、密かに不正を働いて、勝利を手にすることができるスキルということですね。まあ、チェス大会では、有利になるかもしれませんね」

 ケイリーの言ってることも、なんか違うと思うけど、まあいいか。

「誤解を受けやすいスキルですから、人には言わない方が良いでしょう。学園の願書には、スキルなしと記入しておきます」

「アリシア。チェスといえども、勝負に不正は良くないぞ。正々堂々と戦ってこそ、辺境の娘だぞ」

 だから違うってば。もう、めんどくさいな。

 私のスキルは、誤解されたら面倒だからと、なかったことにされてしまった。
 絶対に、勝ち組スキルだと思うんだけどな。違うのかな?
 ゲームしてる時だけのチートなの? そんなの、テレビゲームもスマホもないこの世界じゃ、無用の長物じゃない?
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

さよなら、悪女に夢中な王子様〜婚約破棄された令嬢は、真の聖女として平和な学園生活を謳歌する〜

平山和人
恋愛
公爵令嬢アイリス・ヴェスペリアは、婚約者である第二王子レオンハルトから、王女のエステルのために理不尽な糾弾を受け、婚約破棄と社交界からの追放を言い渡される。 心身を蝕まれ憔悴しきったその時、アイリスは前世の記憶と、自らの家系が代々受け継いできた『浄化の聖女』の真の力を覚醒させる。自分が陥れられた原因が、エステルの持つ邪悪な魔力に触発されたレオンハルトの歪んだ欲望だったことを知ったアイリスは、力を隠し、追放先の辺境の学園へ進学。 そこで出会ったのは、学園の異端児でありながら、彼女の真の力を見抜く魔術師クライヴと、彼女の過去を知り静かに見守る優秀な生徒会長アシェル。 一方、アイリスを失った王都では、エステルの影響力が増し、国政が混乱を極め始める。アイリスは、愛と権力を失った代わりに手に入れた静かな幸せと、聖女としての使命の間で揺れ動く。 これは、真実の愛と自己肯定を見つけた令嬢が、元婚約者の愚かさに裁きを下し、やがて来る国の危機を救うまでの物語。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...