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7 裁判準備
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学園の聴講生になるための勉強も必要だけど、裁判の準備もしないといけない。
今日は、担当弁護士と打ち合わせをするのだ。
「お嬢様、客人を迎える時の礼は?」
適当に挨拶しようとしたら、ルカに注意された。
彼には、礼儀作法も教わっている。
背中をピンと伸ばして、ドレスをつまんで軽く会釈をする。
「よくできました。お嬢様、背筋は常に伸ばしておいてくださいね。椅子に座ってからも、背もたれに身を預けてはいけませんよ」
ルカは、なかなか厳しい。
「はい。ルカ先生」
言われた通りに、応接間のソファーに、ぴしっと背筋を伸ばして座る。
すぐ後ろに、ルカが立って待機した。
「えーそれでは、アリシア様の夫のガイウス様を、殺人未遂そして、辺境伯家への詐欺未遂で訴えるということですかね」
ふくよかな弁護士が、額の汗を拭きながら、父に尋ねる。
弁護士の名前はベンジャミン。いつもは、領地の取引関係の書類を作成しているそうだ。
「ああ、そうだ。ケイリー、説明してやってくれ」
父は、脳筋だから、魔物討伐以外の仕事は、全部家令に丸投げしている。
「おおむね、その通りです。あとは、侯爵家との間に禍根を残したくないので、刑罰ではなく、慰謝料という形での処罰を望みます」
家令が眼鏡を直してから、手元の書類を記入しようとするのをあわててとめる。
「ちょっと待って。ガイには、刑務所に入って償ってほしいの。赤髪メイドのメリッサにも! 私は殺されるところだったんだから」
「おう、その通りだ! アリシアを愛してるなんて嘘をつきやがって。すっかり騙されたじゃないか。処刑だ! 俺が奴を丸焼きにしてやる!」
父が、拳を燃やしそうになってる。
「死刑はやりすぎだけど、ちゃんと反省させたい。それから、婚姻無効の証明もほしい。あんなのと結婚してたってことを、消し去りたいの!」
「アリシア~。ごめんよ。俺がだまされたばかりに。だって、ふつう、愛してない女に、『愛してる』なんて言うと思わないだろう? そんなこと言えるか? 本当に愛する女にも、好きだって気持ちを伝えるのは、ものすごく難しいんだぞ」
父は、頭をガリガリかきむしった。
「詐欺師は、平気で嘘をつけるのよ。そもそも、なんでガイだったの? ガイの実家の侯爵家って、うちと仲良かった? わざわざ婿にもらうほど?」
ガイウスは、爵位がもらえるから、私と結婚したって言っていた。侯爵家の三男だから、将来は平民になるしかないもんね。だけど、私に多少問題はあっても、婿になりたい人は、他にもいたんじゃないかな? なんで、彼だったんだろう? 侯爵令息だから?
うーん。よく考えたら、ガイウスの家族にも、会ったことないかも。侯爵家の名前すら知らない。
うちから追い出したガイウスとメリッサは、今は、王都にある侯爵の館に住んでいるみたいだけど、行ったことないから、どこにあるのかも知らないよ。
「ロンダリング侯爵家の領地は、辺境領の川を挟んだところにあります。うちの領民は、王都へ行く際には、侯爵家が架けた橋を利用させてもらっています。良好な関係です。そして、アリシア様の婿を募集した際に、一目ぼれをしたと言って、一番熱心に申し込んできたのが、ガイウス様でした」
え?! ロンダリング侯爵家?!
「ああ、侯爵家が橋を架けてくれたおかげで、かなり交通の便が良くなった。あの橋がなかったら、こうやってアリシアに会いに来るにも、遠回りしないといけなくなるからな。いつも助かっている」
まって、まって。
ちょっと待って。
「ガイの実家って、ロンダリング侯爵家なの?!」
「今更何を……」
眼鏡のレンズ越しに、あきれたような視線を向けられる。
いや、だって。天使のアリーちゃんは、夫の家名を知らなかったんだよ。
でも!
小説を読んだ私は知っている。
ロンダリング侯爵といえば!
ラスボスだよ!
反結界主義者たちの裏ボスで、テロリスト!
ええっ?!
私の舅が、あのロンダリング侯爵だったの?!
「えー。それでは、今後の領地の関係を悪化させないために、刑事告訴は行わないということで」
「そうです。民事だけで結構です。慰謝料さえもらえれば、罪に問う必要はありません。そのかわり、それなりの額を要求します。まあ、できたら示談にしたかったのですが、断られてしまったので。離婚したくないとの一点張りで……」
「ああ、アリシア様はドラゴンの母ですから。相手方は、利用価値があると考えたのでしょう」
「はぁ、醜聞は避けたいのですが……。では、早期解決をお願いします。今後の方針として……」
家令と弁護士が、勝手に打ち合わせを進めているけど、私は衝撃の事実に、ほとんど聞いてなかった。右耳から左耳に、するっと抜けて行ってしまう。
だって、だって。
ロンダリング侯爵って!
諸悪の根源!
魔物の密売や人身売買、違法魔道具の作成等、あらゆる悪事を裏で操るボスキャラ。反聖女主義で、結界をなくして国から出て行こう運動をしていて……。
って、つまり、当て馬キャラのディートの祖父が、ロンダリング侯爵ってこと? そんな描写あった?
とにかく、そのラスボスが夫の父親?!
そんなやつに、私が裁判で勝てるの?
今日は、担当弁護士と打ち合わせをするのだ。
「お嬢様、客人を迎える時の礼は?」
適当に挨拶しようとしたら、ルカに注意された。
彼には、礼儀作法も教わっている。
背中をピンと伸ばして、ドレスをつまんで軽く会釈をする。
「よくできました。お嬢様、背筋は常に伸ばしておいてくださいね。椅子に座ってからも、背もたれに身を預けてはいけませんよ」
ルカは、なかなか厳しい。
「はい。ルカ先生」
言われた通りに、応接間のソファーに、ぴしっと背筋を伸ばして座る。
すぐ後ろに、ルカが立って待機した。
「えーそれでは、アリシア様の夫のガイウス様を、殺人未遂そして、辺境伯家への詐欺未遂で訴えるということですかね」
ふくよかな弁護士が、額の汗を拭きながら、父に尋ねる。
弁護士の名前はベンジャミン。いつもは、領地の取引関係の書類を作成しているそうだ。
「ああ、そうだ。ケイリー、説明してやってくれ」
父は、脳筋だから、魔物討伐以外の仕事は、全部家令に丸投げしている。
「おおむね、その通りです。あとは、侯爵家との間に禍根を残したくないので、刑罰ではなく、慰謝料という形での処罰を望みます」
家令が眼鏡を直してから、手元の書類を記入しようとするのをあわててとめる。
「ちょっと待って。ガイには、刑務所に入って償ってほしいの。赤髪メイドのメリッサにも! 私は殺されるところだったんだから」
「おう、その通りだ! アリシアを愛してるなんて嘘をつきやがって。すっかり騙されたじゃないか。処刑だ! 俺が奴を丸焼きにしてやる!」
父が、拳を燃やしそうになってる。
「死刑はやりすぎだけど、ちゃんと反省させたい。それから、婚姻無効の証明もほしい。あんなのと結婚してたってことを、消し去りたいの!」
「アリシア~。ごめんよ。俺がだまされたばかりに。だって、ふつう、愛してない女に、『愛してる』なんて言うと思わないだろう? そんなこと言えるか? 本当に愛する女にも、好きだって気持ちを伝えるのは、ものすごく難しいんだぞ」
父は、頭をガリガリかきむしった。
「詐欺師は、平気で嘘をつけるのよ。そもそも、なんでガイだったの? ガイの実家の侯爵家って、うちと仲良かった? わざわざ婿にもらうほど?」
ガイウスは、爵位がもらえるから、私と結婚したって言っていた。侯爵家の三男だから、将来は平民になるしかないもんね。だけど、私に多少問題はあっても、婿になりたい人は、他にもいたんじゃないかな? なんで、彼だったんだろう? 侯爵令息だから?
うーん。よく考えたら、ガイウスの家族にも、会ったことないかも。侯爵家の名前すら知らない。
うちから追い出したガイウスとメリッサは、今は、王都にある侯爵の館に住んでいるみたいだけど、行ったことないから、どこにあるのかも知らないよ。
「ロンダリング侯爵家の領地は、辺境領の川を挟んだところにあります。うちの領民は、王都へ行く際には、侯爵家が架けた橋を利用させてもらっています。良好な関係です。そして、アリシア様の婿を募集した際に、一目ぼれをしたと言って、一番熱心に申し込んできたのが、ガイウス様でした」
え?! ロンダリング侯爵家?!
「ああ、侯爵家が橋を架けてくれたおかげで、かなり交通の便が良くなった。あの橋がなかったら、こうやってアリシアに会いに来るにも、遠回りしないといけなくなるからな。いつも助かっている」
まって、まって。
ちょっと待って。
「ガイの実家って、ロンダリング侯爵家なの?!」
「今更何を……」
眼鏡のレンズ越しに、あきれたような視線を向けられる。
いや、だって。天使のアリーちゃんは、夫の家名を知らなかったんだよ。
でも!
小説を読んだ私は知っている。
ロンダリング侯爵といえば!
ラスボスだよ!
反結界主義者たちの裏ボスで、テロリスト!
ええっ?!
私の舅が、あのロンダリング侯爵だったの?!
「えー。それでは、今後の領地の関係を悪化させないために、刑事告訴は行わないということで」
「そうです。民事だけで結構です。慰謝料さえもらえれば、罪に問う必要はありません。そのかわり、それなりの額を要求します。まあ、できたら示談にしたかったのですが、断られてしまったので。離婚したくないとの一点張りで……」
「ああ、アリシア様はドラゴンの母ですから。相手方は、利用価値があると考えたのでしょう」
「はぁ、醜聞は避けたいのですが……。では、早期解決をお願いします。今後の方針として……」
家令と弁護士が、勝手に打ち合わせを進めているけど、私は衝撃の事実に、ほとんど聞いてなかった。右耳から左耳に、するっと抜けて行ってしまう。
だって、だって。
ロンダリング侯爵って!
諸悪の根源!
魔物の密売や人身売買、違法魔道具の作成等、あらゆる悪事を裏で操るボスキャラ。反聖女主義で、結界をなくして国から出て行こう運動をしていて……。
って、つまり、当て馬キャラのディートの祖父が、ロンダリング侯爵ってこと? そんな描写あった?
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