【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか

文字の大きさ
34 / 41

34 結審1

しおりを挟む
 ハンナに買ってきてもらった新聞には、連日、私達の裁判記事が載せられている。
 ちらっと見ただけでも、

「美人弁護士は語る。メイドの娘こそが、本物の跡継ぎ! 赤毛のメイドと主人の関係は?!」

「『赤ちゃんって、卵から産まれるの』美少女妻の実態。異母姉への壮絶ないじめ。『代わりに子供を生め』と命じられて」

「早く子供を作りましょ♡ メイドと主人の熱い夜。その時、妻は嫉妬で異母姉を!」

 下品な煽り文句であふれている。
 本文を読もうとしたら、ルカに取り上げられた。

「お嬢様。こんな低俗な記事を読むと、品位が下がります」

 ちょっとだけ読みたかったんだけどな。あれだよ。ほら、エゴサーチとおなじ。見たら後悔するんだけど、でも見てしまう……。



 そして、延期になっていた裁判が再開された。
 私たちは、万全の対策をして臨む。

 裁判所前は、野次馬と新聞記者であふれているから、こっそりと裏口から入れてもらう。今回は、同行者がいるから、融通が利くみたい。

「本当に、うまくいくでしょうかね?」

 ベンジャミンさんが、冷や汗を流しながら聞いてくる。

「もちろん。彼らがいると、心強いですね」

 ルカは後ろを振り向いて、同行者に笑顔を贈る。

 私達3人の後ろを、背の高い仮面の男が付いてきている。真っ黒のマントを羽織って、顔には黒い仮面をつけている。見るからに怪しすぎる男だ。
 彼は、王国秘密騎士団員だそうだ。

「さあ、さっさと裁判を終わらせましょう」

 ルカは私の手を取った。



※※※※※※※

「それでは、前回の続きから始めましょう。証人のメリッサさん。体調はいかがですか? 無理はしないでくださいね」

 裁判長が、証人席に座るメリッサを気遣って、声をかける。
 メリッサは、甘ったるい声でそれに答えた。

「大丈夫でーす。ちょっとおっぱいが張って痛いけどぉ、あ、授乳休憩をくださいね。ディートちゃんは、1時間おきに授乳が必要なの。あの子、パパに似て、おっぱいが大好きなんだから」

 そう言って、被告人席のガイウスに手をふる。
 彼はちょっと困った顔をして、照れたように微笑んだ。

 キモイ!

「ええ、では進めましょう。前回の原告弁護人の質問からですね。メリッサさんが辺境伯の娘という証拠はあるのか、と問われていましたね。それに答えてください」

「はぁーい。証拠はありまーす! ディートよ。私とガイ様の赤ちゃん。今は、隣の部屋で寝てるけど、裁判長さんも見たでしょう? 赤い髪に赤い目をしているの。間違いなく、辺境伯の孫なのよ!」

 メリッサの答えに、観客席からささやき声がもれる。

「やっぱりな」

「あのメイドは、辺境伯の愛人の子か」

「それじゃあ、代理母って言うのは、本当のことなの?」

「新聞に書いてあった通りだわ。あの金髪の妻は、おとなしそうな顔をして、異母姉をいじめてたのね!」

 観客たちが、私をにらみつける。

「質問を続けます」

 ベンジャミンさんは、ドアの前に立つ仮面の男を気にしながら、メリッサに質問する。

「メリッサさんは、今22歳でしたね」

「ええ、そうよ。まだ若いの。これからもガイウス様の子供をいっぱい生めるわ。辺境伯の血筋をたくさん増やせるわ」

 メリッサは誇らしげに、赤い髪をかき上げる。

「もし、メリッサさんが辺境伯の娘だとしたら、アーサー様が18歳の時に生まれた子になります」

「それが何? 充分子供を作れる年齢でしょう? まさか辺境伯も、子供の作り方を知らないとか? 赤ちゃんは卵から生まれるなんて、言わないでちょうだいね。ふふふっ」

 メリッサの言葉に、観客席からも失笑がもれた。

 笑っていられるのも、今のうちよ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

さよなら、悪女に夢中な王子様〜婚約破棄された令嬢は、真の聖女として平和な学園生活を謳歌する〜

平山和人
恋愛
公爵令嬢アイリス・ヴェスペリアは、婚約者である第二王子レオンハルトから、王女のエステルのために理不尽な糾弾を受け、婚約破棄と社交界からの追放を言い渡される。 心身を蝕まれ憔悴しきったその時、アイリスは前世の記憶と、自らの家系が代々受け継いできた『浄化の聖女』の真の力を覚醒させる。自分が陥れられた原因が、エステルの持つ邪悪な魔力に触発されたレオンハルトの歪んだ欲望だったことを知ったアイリスは、力を隠し、追放先の辺境の学園へ進学。 そこで出会ったのは、学園の異端児でありながら、彼女の真の力を見抜く魔術師クライヴと、彼女の過去を知り静かに見守る優秀な生徒会長アシェル。 一方、アイリスを失った王都では、エステルの影響力が増し、国政が混乱を極め始める。アイリスは、愛と権力を失った代わりに手に入れた静かな幸せと、聖女としての使命の間で揺れ動く。 これは、真実の愛と自己肯定を見つけた令嬢が、元婚約者の愚かさに裁きを下し、やがて来る国の危機を救うまでの物語。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

処理中です...