【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか

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39 別れ

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 翌日、父は、家を出て行った。
 領地に戻ったわけではない。

「ダンジョンに潜るぞぉ! 領地は心配ない。スタンピードが起きたばかりだからな。しばらくは、魔物もおとなしいだろう」

 そう言って、ウキウキと楽しそうに出かけて行った。
 遊びに行ったんじゃないことは、分かっている。私の学費を稼ぐためだ。

「閣下なら大丈夫ですよ。Sランクですからね。すぐに大金を手に、戻ってくるでしょう」

 ルカはそう言って、慰めてくれた。
 そのルカとも、もうすぐお別れだ。

 あれから、ルカに気持ちを伝えようとした。「あなたが好きです」って、行動で示そうとした。
 料理人のおばあちゃんのアドバイスに従って、恋心を伝える方法を試してみた。こんな感じで。


 「ルカ。クッキーを焼いたの。食べてみて」 

「男の気持ちをつかむには、まずは胃袋から」って教えてもらったからね。この世界でも、好きな人に手作りのお菓子を渡すのは、告白の定番なんだって。(作ったのは、ほぼ料理人のおばあちゃんだってことは、内緒。だって、異世界の調理器具って、扱いが難しいんだもん)

 ルカは書類を書く手を止め、私を見て、にっこり笑った。

「おいしそうですね。いただきます」

 上品な仕草で、クッキーを手に取るルカに、ちょっと見とれる。やっぱり、……かっこいい。
 この笑顔が、大好き。
 一口かじって、青い瞳をキラキラ輝かせている。
 ああ、もう。好き、好き、大好き。

「とてもおいしいです」

「よかった! 今日はね、チョコチップクッキーにしたんだけど、他にもね、レモンピールとかナッツとかを入れても作れるんだよ。ね、どんな味にしたらいい?」

 さりげなくルカの好みの味を知ろうとしたのに……。

「そうですね。リハルト様は、学園の食堂では、ナッツ入りパンをよく注文していました。プレゼントするなら、甘いものよりも、木の実入りがいいのではないでしょうか。……ですが、お嬢様の手作りでしたら、何を入れても喜んでくださるでしょう」

 って返された。
 え? 違うってば。
 リハルト様じゃなくて、ルカの好みが知りたいんだよ。

「ただ、リハルト様は毒の混入を警戒されていましたので、人伝手に渡すよりは、直接、手渡した方が良いと思います。お嬢様からのプレゼントなら、リハルト様は、きっと大喜びで受け取られるでしょう」

 なんで? 
 だから、なんでリハルト様の話になるの? 
 ってか、ルカって、そんなにリハルト様と親しかったの?

「なんでそんなこと分かるのよ」

「それは、お嬢様のリハルト様に対する熱い想いを、毎日聞いていましたから。きっと、お嬢様の想いに、リハルト様も答えてくださると思います」

 とか言い出す。

 なにこれ。
 私って、全く相手にされてないのかな?

「あのね、ルカ。わたし、リハルト様のことは、もういいかなって思うの……」 

 今は、リハルト様じゃなくて、ルカのことが気になるの。そう続けようとしたのに。

「ダメです! お嬢様、絶対に、あきらめてはなりません! お嬢様のリハルト様に対する想いは、そんなものではなかったでしょう?!」

 強く反対されてしまった。
 なんで?

「いや、でも……。だって、ずっと会ってなかったし。それに、リハルト様にとっては、私って、妹みたいなものかなって思うし、向こうも迷惑だよね。きっと」

「そんなことはありません! お嬢様の成長した姿を見れば、リハルト様は、必ずお嬢様を好きになります! もっと自信を持ってください。私も全力で協力しますので!」

 って言われてしまった。
 好きな人に、他の人との仲を全力で協力されるなんて……。
 ああ、これって、私、フラれてるのかな?
 全く、脈ナシってこと?

 ルカは、私がリハルト様を好きだと思ってるから。
 だから、何をしても、リハルト様との仲を応援されてしまう。
 ルカのために焼いたクッキーも、リハルト様への告白の練習だって思われてる。

 分かってるよ。
 私は、ルカには、女性として見られてないんだよね。
 私は彼の護衛対象だから。ただの仕事上の関係者に過ぎないから……。

 だから、もう、これ以上ルカに何も言えなくなった。

 学園の寮に入る日まで、ルカ先生と一緒にまじめに勉強するだけだった。今の私には、それが精いっぱい。

 そして、一生懸命に考えたルカとのお別れの言葉は、これだった。

「ルカ。私、絶対に、学園で一番になるから。それで、冒険者になって、ダンジョンに行って、強い魔物を倒して、大金持ちになる。そうしたら、また、護衛として雇ってもいい?」

 虚勢を張って、早口でお願いしたら、ルカは、ふっと、とろけるように笑った。もうっ、大好き。

「私の雇用料金は、高いですよ」

「平気よ。いっぱい稼ぐんだから。ダンジョンじゃ、きっと負け知らずよ。だって、私には、ドラゴンがついているんだからね」

「ピッ」

 私の言葉に、ルカの膝の上で丸まっていた赤ちゃんが返事する。
 今はまだ、花火程度の炎しか吐けないミニドラゴンだけど、成長したら、魔物をいっぱいやっつけてくれるはず。それで、私は冒険者としてランクを上げて、ルカの前に現れるの。そうしたら、認めてもらえるかな?

 最初は、リハルト様に会うために冒険者になりたかったんだけど、今は、ルカのためにがんばりたいって思う。

 でも、いつかは、初恋のリハルト様にも会いに行くよ。
 ありがとうって、感謝を伝える。彼の存在は、私をたくさん助けてくれたから。アリーちゃんの初恋の思い出に……。


 ドラゴンの頭をなでるルカを見つめる。

 彼と離れたくない。明日から会えなくなるって考えただけで、泣きたくなる。
 でも、今の私は、すごく弱いから。彼の護衛対象でしかいられない。守ってもらうばかりで、全く相手にされてない。それなら、もっと強くなるしかない。そして、もう一度、護衛として雇うって理由で出会えたら、その時に、彼の隣に立つことができるくらい強くなったことを証明して、認めてもらうの。

 ただの護衛対象じゃないって、分かってもらうの。
 それから、彼に気持ちを伝えよう。今度はちゃんと、はっきり言うね。

 学園生活は、不安でいっぱいだけど、目標ができたから。
 私、もっと、がんばるね。


 ※※※※※※

 その夜、私は夢を見た。

 夢の中で、愛用のスマホを手にしている。

「あー! スマホゲーム! 裁判のゲームは、役にたったよ。ヒントは分かりにくいし、勝った気は全然しないけど。次は何のゲーム?」
 
 知らないアプリが、一つだけ入っている。

「『歪んだ愛♡アブノーマルロマンス~魔法学園は危険がいっぱい~』……?」

 恋愛ゲームかな?
 アブノーマルってことは、もしかしてR18?
 今の私は16歳だけど、前世と合わせたら、とっくに成人してるから、いいよね?
 ドキドキしながら、アプリを起動する。
 校歌風の音楽とともに、アニメ絵が流れ出した。

「危ない恋がいっぱい♡ あなたは誰に選ばれる?」

 攻略対象キャラの名前と絵が次々に現れる。

「たっぷり中にそそいであげる。僕の子供を産んでくれ。側室にしてあげるよ。 ~絶倫王太子ヴィルフリート」

「君は、兄上の役に立ちそうだ。病める時も健やかなる時も、共に、兄上のために生きると誓え。兄上に、心も体も捧げるのだ。 ~ブラコン王子アルフレッド」

「私の研究対象になってほしい。あなたの体のすべてを知りたい。さあ、ドレスを脱いでごらん。~サイコパス魔法教師ヨナス」

「僕を養って! 高貴な僕には、たくさんのお金が必要なんだ。その代わり、毎晩、喜ばせてあげるよ。~無職ホームレス平民ガイウス」 


 どさり

 スマホをベッドの上に落とした。

 ……なに、このゲーム……。
 キャラクター全員が、気持ち悪いんだけど……。
 特に、最後に出て来た「無職ホームレス平民ガイウス」って、あのガイウスのこと?!
 あいつ、侯爵家から追い出されたの?

 まさか、ね。……これはただの夢? 夢だよね?!

 そんな魔法学園、行きたくなーい!! 
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