【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか

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30 国家転覆罪

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「23年前の事件って何? 王国秘密騎士団が何をしたの?」 

 疑問だらけの私の言葉に、ルカは「なるほど」とつぶやいた。人差し指を唇に当てて、納得したようにうなずく。

「肖像画のこの少年は、おそらく閣下の兄だな。貴族名簿に載っていないと言うことは、国家転覆罪により、その名を抹消されたのか」

 国家転覆罪? また、知らない言葉。
 顔で疑問符を表現した私に、ルカは説明してくれる。

「この国で最も重い罪が、国家転覆罪です。それは、主に結界に損傷を与える罪です。結界がなければ、この国の人間は、魔物に襲われて死ぬ。だから、最も重い刑罰として、連座制の死刑と、そして名簿の抹消が適用されます。つまり、その存在自体が消されるのです」

 なんか難しい言葉が、いっぱい出てきた。

「たしか、23年前に、王国秘密騎士団が動いたという記録を読んだことが……。そうか、この領地に魔物がやたらと発生するのは……。なるほど、当時の領主は、閣下の兄だったのですね」

 ルカの詰問に、ベンジャミンさんは「ぐぬぬ」という音を出した。

「私は何もしゃべりませんよ。罰則が適用されますからね。むち打ちと石投げは恐ろしいです!」

「お嬢様、おそらく、閣下の兄は結界の損傷という罪を犯しています。……そうか、連座か。確か親と配偶者そして、子供に適用されるんだったな。ちょうどその時期に、閣下の両親が亡くなったのは、そういうことだったのか。流行り病により、辺境の民が多数死亡したとも記録されていたが、実際は、連座による処刑だったのか……」

 ルカは、一人で納得したように、つぶやいている。
 良く分からないけど、父には本当は兄がいて、重罪を犯して死刑になったってことなの? え? でも連座って何? 家族も死刑になっちゃうの? それじゃあ、もしかして、祖父母の死因って?

 ベンジャミンさんが汗を拭きながら、ルカを止める。

「その話は、もうやめましょうよ。どこで秘密騎士団の耳に入るか分かりません。それよりも、裁判。そう、離婚裁判の話をしなくては、」

「おそらく、メリッサは、閣下の兄の子供ですよ」

 え?

「メリッサの子供に血族眼が現れたなら、それしか考えられません」

「そんなまさか。ありえません!」

「メリッサは、今22歳ぐらいですよね。彼女の母親は、この事件の時に、すでに身ごもっていたのでしょうね」

「そんなこと、ありえない! 若奥様は、チャールズ様と一緒に処刑されたんですよ! お腹の子供も一緒に! 首を切られるのを、この目で見たんですから!」

 え?!

「あ……」

 あわててベンジャミンさんは、口を押える。

「チャールズというんですね。閣下の兄の名前は。それで、その配偶者が連座で死刑になった時に、お腹に子供がいたと」

 ルカの言葉が恐ろしいくらい冷たく響く。
 待って。ちょっと待ってよ。
 連座で死刑って。
 そんなに重い罪なの?
 妊婦を殺すほどの?

「では、メリッサは庶子なのでしょうね。チャールズの妻ではなく、浮気相手との間にできた娘だと考えられます。……昨晩、メリッサは男の子を生んだそうですよ。赤い髪に赤い目の、辺境伯の血族眼を持った赤子だと、新聞社が号外を出しています」

 ルカは上着のポケットから、折りたたまれた新聞を取り出した。
 メリッサと一緒に、小さな赤ちゃんの絵が描かれている。
 その赤ちゃんは、赤い髪に赤い目をしている。
 ディートだ!

 ディートはやっぱり、辺境の子だったんだ……。

「そんなまさか。妻が妊娠中に浮気など……。はっ、もしかして、あの時のメイドか? チャールズ様の部屋から出てくるのを見たことがある……。事件後に行方不明になったと思ったら」

「おそらくそれでしょう。それなら、メリッサは、辺境伯の血をひく娘と言えますね。名簿から抹消された当時の辺境伯の庶子ですがね……」

 ルカが語る話に、ついていけない。
 じゃあ、メリッサは、わたしの従姉妹になるの? 父の子じゃなくて、父の兄の子供だったの? 
 罪を犯して存在を消された私の伯父と、浮気相手との間に出来た娘だってこと?

 でも、……。伯父の浮気相手とその子供は生き残れたのに、正妻とお腹にいた赤ちゃんは、連座で死刑にされてしまったの?

 ひどい。
 お腹の赤ちゃんは何の罪も犯していないのに、どうして殺されないといけなかったの?
 どうして、そんなにおそろしい判決が降りるの?

 国家転覆罪って何? 結界を壊したから? 伯父が、辺境を壊したから? 
 今、辺境に魔物があふれかえってるのは、伯父のせいだったの? 畑が瘴気で侵されて、作物がぜんぜん取れなくなって。それで、たくさんの領民が死んだ。うちの領地は、食べていけないほど、貧しくなった。
 こんな大変なことを、伯父がしたの? だから、家族まで処刑にしないといけなかったの?

「ああ、なんてことだ。じゃあ、メリッサは重罪人の娘じゃないか。これをロンダリング侯爵は、知っているのか?」

「おそらく。ガイウス殿とメリッサは、幼い頃に領地で一緒に育ったと言ってましたので。辺境から逃げて来たメリッサの母を、ロンダリング侯爵が匿ったのでしょう」

「それなら、なぜ、裁判で代理母だなんて言いだしたんだ! 罪人の娘だぞ。せっかく逃げ延びたのに、わざわざ自分から、それを明らかにするとは!」

「メリッサは、自分の父親を閣下だと思っているのではないでしょうか? 罪人チャールズは、存在を抹消されているので、何も知らないのだと思います」

「ああ、なんとも愚かな……」

 ベンジャミンとルカが話しこんでいる。私はぼんやりと突っ立ったまま、それを聞いていた。

「すぐに王国秘密騎士団に知らせないと……こんな重大な事を隠していたら、我々も罪に問われてしまう。ああ、もう。こんなことに、関わりたくない。私はただ、離婚裁判で雇われただけなのに……。こんな重大事案を裁判で扱ったことなんてないのに……。いや、そうしたら、裁判は、裁判はどうなるんだ? ああ、こんな大事件になるなんて」

 ベンジャミンさんは、頭を抱える。

「名簿の開示請求」

 私がつぶやくと、二人はこっちを見た。

「王国秘密騎士団に、名簿の開示請求をしたら?」

 夢の中のゲームのヒント。これを見た時には、何のことなのか全然分からなかったけど。
 それを今、言わないといけない気がした。

「名簿の開示請求か。なるほど。すぐに手配します」

 ルカは、私に青い瞳を向けてうなずく。

「おお! ルカ殿は、王宮に伝手があるんですか? 頼みますよ。私はもう、こんな大事件は手に負えないですよ。しがない経営弁護士なんですよ。もう、裁判なんて、こりごりですよ」

 ベンジャミンさんは両手をあげて、お手上げ状態を表現する。本当に、頼りにならない弁護士だ。

「大丈夫ですよ。お嬢様。これできっと裁判に勝てますよ」

 ルカはいつものように、にっこり笑って私を励ましてくれる。

 でも、彼の「大丈夫」を聞いても、私の不安は消えない。

 自分の転生したこの国が、元の国とあまりにも違いすぎているから。
 結界の力で守られたこの国は、全然安全なんかじゃない。
 障碍者は、産まれてすぐに殺されるし、罪を犯したら、連座制で妊婦までもが処刑される。お腹の中の赤ちゃんには、何の罪もないのに!
 ここは、赤ちゃんを殺す国なのだ。
 私はこれから先、ずっと、この恐ろしい国で生きていくしかないの? 
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