56 / 105
前菜は、甘い日々で
ベッドの余白は倦怠期の証でしょうか?
しおりを挟む
PvP闘技大会において、私とスラリアは第七回戦まで勝ち上がった。
1,024名で構成されるトーナメントだったので、ベスト16ということになる。
これ、あらためて考えてみると、けっこうすごくない?
トーナメント自体は五十個ぐらいできていたらしいので、参加プレイヤーの合計はおよそ五万人。
単純に計算しても、私とスラリアは五万人のうちの上位数%に入るだろう。
つまり、なにが言いたいかというと、闘技大会の賞金のリラというかファイトマネー?
それをたくさんもらえたということだ。
『テイルズ・オンライン』では、デスするとその瞬間にアイテムポーチに所持しているアイテムやリラは全て失う。
だから、大金を持ち歩くのはちょっと躊躇してしまうのだ。
ファイトマネーの合計は、そうしてもおかしくないぐらいの額だった。
いろいろ使い道を考えた結果、いつものカラフルな煉瓦造りの街で家を買うことにした。
アイテムとかリラをお店に預ける必要がなくなるから、長期的に考えるとお得になるはずだ。
それに、私みたいに進路の決まっている高校三年生は、三学期はほとんど学校に行かなくていい。
勉強とバイト以外の時間がけっこう空くので、おのずとテイルズ・オンラインの世界にいる時間が多くなる。
そのため、ちょっとした休憩に使えるプライベートな空間があると嬉しいのだった。
さて、私が買った家は、街の中心にある冒険者ギルドと北の城門を繋ぐ大通りから、少しだけ路地に入ったところにある。
位置的には、冒険者ギルドとセッチさんのお店の中間ぐらいだ。
ギルドは言わずもがな、なんだかんだセッチさんを手伝いに行くことも多いので、私にとってすごくちょうどいい立地だった。
まあ、お家自体はこぢんまりとした二階建てだけどね。
部屋数もそんなに多くなく、一階と二階を合わせて三部屋しかないし。
「えへへ、お姉様と同じお家で暮らせるなんて夢みたいですっ」
別に暮らしているわけではないのだけれど、スラリアはずっと嬉しそうにしていた。
「夢って、大げさね……」
こんなつれない言い方をしているが、実は私も内心ではわくわくしている。
一人暮らしをはじめる大学生は、きっといまの私のような思いを抱いているのだろう。
「よーし、まだ家の中になんにもないから」
買い物しなきゃね、と私は声をかける。
そして、お買い物行きましょう、と飛びついてくる可愛いスラリア。
新生活で必要なもの……うーん、なにがいるのかな。
まあ、買い物しながら考えればいいか。
私はスラリアといっしょに、街に繰り出すのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さすがは、ファンタジーの世界だ。
引っ越しトラックが必要になるぐらいの量。
具体的には、大きなベッド、二人がけのソファがふたつ、テーブル、冷蔵庫の役割の魔力ボックス、普通の食器棚、その他こまごまとした家具や備品。
それらを全て、ひとつのアイテムポーチに収納して搬入することができたのだ。
ただ、この大容量のアイテムポーチは私が持っていたものではなくて借りたやつだ。
あとで家具屋さんに返さなければいけない。
「これが現実にあれば便利なのに……」
一通り家具を配置し終えた私は、そのポーチを片手に独りごちた。
ちなみに、プレイヤーのアイテムポーチには制限が設けられていて、それを越えるとなにも入れられなくなる。
「お姉様っ、キッチンの片付け、終わりましたっ!」
部屋の扉を元気よく開けて、スラリアが飛び込んでくる。
一階はダイニングとキッチン、二階は寝室。
食器をしまうのとか、キッチンの片付けをスラリアに任せていたのだ。
「ふふっ、じゃあ、借りたポーチを返しに――行く前に……」
私がにやりと笑うのを、スラリアは不思議そうに見ている。
家具屋さんで、私とスラリアは、さんざん試しふかふかを行っていた。
だが、この家での初ふかふかは、家主である私のものだ!
「えいっ……!」
かけ声とともに、さっき置いたばかりのベッドにダイブする。
うわぁ……やっぱり、ふっかふかだぁ。
なんか特別な羊の毛が使われているみたいな説明をされた覚えがある。
「あーっ!? お姉様だけずるいですっ」
ぼすん、とスラリアも隣にダイブしてきた。
二人分の重さで――といってもスラリアは軽いけど――ふかふかのベッドが沈み込む。
自然と、私とスラリアはベッドの中央でくっつく形になった。
「……ねえ、スラリア? せっかく大きいベッドを買ったんだから、こんなに近づかなくてもいいんじゃない?」
「えー? いやでーすっ! 私、家具屋さんで言ったじゃないですか、小さいベッドでいいって」
「そういえば、そんなこと……なんか遠慮でもしてるんじゃないかって思ってたけど、こういうことだったのね」
いたずらっ子のようにくすくすと笑うスラリア。
その微かな振動が、私にも心地よく伝わってくる。
確かに、けっきょくくっつくのだったら大きいベッドでなくてもいい。
というか、家具屋さんで理由まで話してくれれば、わざわざ高い買い物をしなくて済んだのに。
「いや、それはそれで恥ずかしいか……」
思わず私はつぶやく。
お姉様と抱き合って寝るので小さいベッドでいいです、なんて。
いくら店員さんのNPCだとしても聞かれるのは恥ずかしい。
いつの間にか、私にすり寄るようにしていたスラリアが、すぅすぅと寝息を立てはじめた。
「ちょっと、スラリア、寝るの早くない?」
まあ、このベッドには、それだけの魔力が秘められているのかもしれない。
スラリアの顔にかかる前髪をどかしてあげたりしていたら、私もだんだんと眠くなってきた。
これだけ近くで見ると、スラリアは綺麗な青空みたいだなぁ。
そんなことを思いながら、私は仮想の世界で夢うつつに溶け込んでいく。
大きなベッドの両端に大きな余白を残したまま、私たちは昼下がりの微睡みを楽しむのだった。
1,024名で構成されるトーナメントだったので、ベスト16ということになる。
これ、あらためて考えてみると、けっこうすごくない?
トーナメント自体は五十個ぐらいできていたらしいので、参加プレイヤーの合計はおよそ五万人。
単純に計算しても、私とスラリアは五万人のうちの上位数%に入るだろう。
つまり、なにが言いたいかというと、闘技大会の賞金のリラというかファイトマネー?
それをたくさんもらえたということだ。
『テイルズ・オンライン』では、デスするとその瞬間にアイテムポーチに所持しているアイテムやリラは全て失う。
だから、大金を持ち歩くのはちょっと躊躇してしまうのだ。
ファイトマネーの合計は、そうしてもおかしくないぐらいの額だった。
いろいろ使い道を考えた結果、いつものカラフルな煉瓦造りの街で家を買うことにした。
アイテムとかリラをお店に預ける必要がなくなるから、長期的に考えるとお得になるはずだ。
それに、私みたいに進路の決まっている高校三年生は、三学期はほとんど学校に行かなくていい。
勉強とバイト以外の時間がけっこう空くので、おのずとテイルズ・オンラインの世界にいる時間が多くなる。
そのため、ちょっとした休憩に使えるプライベートな空間があると嬉しいのだった。
さて、私が買った家は、街の中心にある冒険者ギルドと北の城門を繋ぐ大通りから、少しだけ路地に入ったところにある。
位置的には、冒険者ギルドとセッチさんのお店の中間ぐらいだ。
ギルドは言わずもがな、なんだかんだセッチさんを手伝いに行くことも多いので、私にとってすごくちょうどいい立地だった。
まあ、お家自体はこぢんまりとした二階建てだけどね。
部屋数もそんなに多くなく、一階と二階を合わせて三部屋しかないし。
「えへへ、お姉様と同じお家で暮らせるなんて夢みたいですっ」
別に暮らしているわけではないのだけれど、スラリアはずっと嬉しそうにしていた。
「夢って、大げさね……」
こんなつれない言い方をしているが、実は私も内心ではわくわくしている。
一人暮らしをはじめる大学生は、きっといまの私のような思いを抱いているのだろう。
「よーし、まだ家の中になんにもないから」
買い物しなきゃね、と私は声をかける。
そして、お買い物行きましょう、と飛びついてくる可愛いスラリア。
新生活で必要なもの……うーん、なにがいるのかな。
まあ、買い物しながら考えればいいか。
私はスラリアといっしょに、街に繰り出すのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さすがは、ファンタジーの世界だ。
引っ越しトラックが必要になるぐらいの量。
具体的には、大きなベッド、二人がけのソファがふたつ、テーブル、冷蔵庫の役割の魔力ボックス、普通の食器棚、その他こまごまとした家具や備品。
それらを全て、ひとつのアイテムポーチに収納して搬入することができたのだ。
ただ、この大容量のアイテムポーチは私が持っていたものではなくて借りたやつだ。
あとで家具屋さんに返さなければいけない。
「これが現実にあれば便利なのに……」
一通り家具を配置し終えた私は、そのポーチを片手に独りごちた。
ちなみに、プレイヤーのアイテムポーチには制限が設けられていて、それを越えるとなにも入れられなくなる。
「お姉様っ、キッチンの片付け、終わりましたっ!」
部屋の扉を元気よく開けて、スラリアが飛び込んでくる。
一階はダイニングとキッチン、二階は寝室。
食器をしまうのとか、キッチンの片付けをスラリアに任せていたのだ。
「ふふっ、じゃあ、借りたポーチを返しに――行く前に……」
私がにやりと笑うのを、スラリアは不思議そうに見ている。
家具屋さんで、私とスラリアは、さんざん試しふかふかを行っていた。
だが、この家での初ふかふかは、家主である私のものだ!
「えいっ……!」
かけ声とともに、さっき置いたばかりのベッドにダイブする。
うわぁ……やっぱり、ふっかふかだぁ。
なんか特別な羊の毛が使われているみたいな説明をされた覚えがある。
「あーっ!? お姉様だけずるいですっ」
ぼすん、とスラリアも隣にダイブしてきた。
二人分の重さで――といってもスラリアは軽いけど――ふかふかのベッドが沈み込む。
自然と、私とスラリアはベッドの中央でくっつく形になった。
「……ねえ、スラリア? せっかく大きいベッドを買ったんだから、こんなに近づかなくてもいいんじゃない?」
「えー? いやでーすっ! 私、家具屋さんで言ったじゃないですか、小さいベッドでいいって」
「そういえば、そんなこと……なんか遠慮でもしてるんじゃないかって思ってたけど、こういうことだったのね」
いたずらっ子のようにくすくすと笑うスラリア。
その微かな振動が、私にも心地よく伝わってくる。
確かに、けっきょくくっつくのだったら大きいベッドでなくてもいい。
というか、家具屋さんで理由まで話してくれれば、わざわざ高い買い物をしなくて済んだのに。
「いや、それはそれで恥ずかしいか……」
思わず私はつぶやく。
お姉様と抱き合って寝るので小さいベッドでいいです、なんて。
いくら店員さんのNPCだとしても聞かれるのは恥ずかしい。
いつの間にか、私にすり寄るようにしていたスラリアが、すぅすぅと寝息を立てはじめた。
「ちょっと、スラリア、寝るの早くない?」
まあ、このベッドには、それだけの魔力が秘められているのかもしれない。
スラリアの顔にかかる前髪をどかしてあげたりしていたら、私もだんだんと眠くなってきた。
これだけ近くで見ると、スラリアは綺麗な青空みたいだなぁ。
そんなことを思いながら、私は仮想の世界で夢うつつに溶け込んでいく。
大きなベッドの両端に大きな余白を残したまま、私たちは昼下がりの微睡みを楽しむのだった。
0
あなたにおすすめの小説
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
───────
自筆です。
アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件
夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。
周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。
結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜
きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。
遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。
作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓――
今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!?
ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。
癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる