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Second Tales:生意気なドラゴンにどちらが上かわからせます

Tale7:仮想と現実には橋が架けられています

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 数週間前に、VRMMO『テイルズ・オンライン』は再販された。
 限定10万人の当選枠に対して、応募者はその数十倍にのぼったらしい。
 
 前回の初版の抽選で当選、しかし不勉強が原因で姉にゲームをする権利を譲らざるをえなかった私の弟、莉央りお
 彼が心を入れ替えて努力していた姿を、神様は見ていたのだろうか。
 幸運なことに数十倍の倍率を乗り越えて、莉央は『テイルズ・オンライン』の世界に降り立っていた。

 ただ、ゲームを遊ぶための条件として“ちゃんと勉強もする”というものが、彼にとっては不幸なことに、設定されていたのだ。
 そんなわけで、私が『テイルズ』内で買った家では日々勉強会が開かれているのであった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私とスラリアがダイニングのソファでのんびりしていると、玄関のチャイムが鳴った。
 おそらく、弟のオーリだ。

 このゲームには、相互ブックマークというお互いの居場所への転移機能が備わっている。
 しかし、チュートリアルNPCのリリアのいる空間や、持ち家の中などのプライベートな場所への転移は相互相手でもできない設定なのだ。

 そのため、オーリは一度街の中に転移して、そこからここにやって来たのだろう。

「私、開けてきますねっ」

 ソファから立ち上がったスラリアが、私の返事を待たずに玄関に飛んでいく。
 なんか、妙にオーリに懐いているのよね、あの子。

「いらっしゃい、オーリっ!」
「やあ、スラリア、今日も元気だね」
「オーリが勉強してるところ見るの好きだから楽しみなのっ」
「あはは、そんなに面白がってもらえるなら報われるよ」

 広い家ではないので、玄関での二人の会話が聞こえてきた。
 しばらくして、オーリと彼にしがみつくスラリアがダイニングに入ってくる。
 現実とあまり変わらない黒髪短髪の姿は、やっぱりシキミさんなんかよりも格好いい。

「オーリ、いらっしゃい」

「姉ちゃ――リリア、こんにちは」

 別に姉弟であることを隠しているわけではないのだが、私たちはゲーム内で設定したプレイヤーネームで呼び合うようにしていた。
 いや、いまの時代は少しの情報で個人を特定することもできると聞くから、こうした意識も必要なのだろう。

 スラリアが私の隣、オーリがもうひとつのソファに座った。
 それを見て、すぐに問いかける。

「さっそくだけど、今日の一時間目の授業はなにやった?」

 この質問には、という枕詞がつく。
 今日は、平日のど真ん中。
 私は卒業間近なので学校に行かなかったが、当然莉央はそうではない。

「一時間目は数学で、えっと、データの分析で四分位範囲を箱ひげ図で表すってところ」

 初めはたどたどしかった返答も、最近はすらすら引き出せるようになっていた。
 オーリの発言に出てきた単語についてさらに聞いてみても、ちゃんと答えられているし。
 学校の授業をその中で最大限に理解しようとしている証だろう。

「四分位範囲ってなに?」

「えっと、データを小さい順に並べて――」

 たぶん『テイルズ・オンライン』をたくさん遊ぶためだとは思うけど、私の弟は、努力しなければいけないときに正しく努力できるようになってきている。
 ちなみに、私の隣のスラリアもなぜか真剣で、オーリの話だけでわからないところは積極的に質問して理解しようと努めるのであった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 同様に七時間目の授業まで繰り返して、その後前回までで気になっていたことを確認。
 そんな感じで、今日の勉強会は終了した。

「うん、いいでしょう」

「あー、終わった……」

 天井を仰ぎ、大きく息を吐くオーリ。
 そうだよ、本気で頭を使うと疲れるものだ。

「最近、調子良いんじゃない? 受け答えもスムーズになってきたし」

「姉ちゃんに言われたとおり、死ぬ気で授業受けてるからね」

 学校の授業は電子黒板を眺めているだけ、そんなふざけたことをこいつは言っていた。
 だからノートを用意させて、先生が説明したこととか黒板の内容で重要だと思うことを書き込ませるようにしたのだ。
 授業のICT化にはメリットが多いけど、けっきょく勉強をできるようにするかは本人の意志によるところが大きい。

「ちゃんと見開き1ページ埋めるようにしてる?」

 ノルマとして、さっきのことにプラスして問題なり単語なりなんでもいいからとにかく1ページ分を書けと伝えてあった。

「してるけど、家庭とか情報の授業でもノート書く必要ってある?」

 莉央の表情から察するに、面倒だからやりたくないと思って聞いているわけではなさそうだ。

「ふむ、あなたが必要ないと思うならやらなくてもいいよ」

「なんか怖い言い方だな、やらないって言ったら怒ってきそう」

 お姉ちゃんをなんだと思っているのかしら?
 でも、思い返してみると、そうした引っかけるような話の進め方はよくやっているかもしれない。
 まあ、今回は違うけど。

「私は、初めから“やる”と“やらない”を決めてほしくなかったから全部やれって言っただけ。あなた自身がこれは必要ないと考えたんだったら尊重するよ」

 手を抜いていいところなのかどうかは、まずは本気でやってみてからでないと正しい判断を下せないと思うのだ。

「……じゃあ、半ページにしようかな」

 おそらく、今までの学習の中で家庭とか情報の授業だったら半ページがちょうどいいと判断したのだろう。

「うんうん、自分で決められて偉いね、よしよし」

「よしよーし、偉い偉いっ」

 ソファから身を乗り出して、莉央――いや、オーリの頭をくしゃくしゃと撫でる。
 そして、なぜかスラリアもいっしょになってわしわししていた。

「子ども扱いするなよな」

 そんなことを言ってふてくされながらも、オーリは私たちの手をはね除けたりはしない。
 やはり、私の弟は弟なのだ。
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