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Second Tales:生意気なドラゴンにどちらが上かわからせます
Tale8:名前はあなたへのギフトです
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「さて、これで今日の勉強は終わりっ、遊びましょう!」
ぱんとひとつ手を叩きつつ、私は言う。
何事もメリハリが重要で、だらだらと続けることに意味などないだろう。
「オーリ、あなたはどうするの?」
ちょっとの望みをかけて、オーリの予定を聞いてみる。
お姉ちゃんとして、弟とゲームで遊んでみたい。
そんなちっぽけな願望を、私は少し前から抱いていたのだ。
しかし、この数週間一度たりともお誘いをかけることができていない。
「シキミさんたちと約束があるから、そっちに行くよ」
なぜなら、このようにオーリはひじょうにモテるようで、毎日私以外の誰それとの予定でいっぱいだからだ。
なんか、よく知らないけどすごく強いらしい。
数か月遅れて始めたのに、初期プレイヤーであるシキミさんたちといっしょに遊べるというのだから、それは事実なのだろう。
「ふぅん……じゃあ、シキミさんによろしく言っといて」
私の弟を取りやがって、変態サイコパス爽やかお兄さんめ。
そんな気持ちを隠しながら、表情だけは微笑ませた。
いや、こっちから誘えば、きっとオーリは予定を調整してくれると思うんだけどね。
なんとなく気恥ずかしくて、ほんの一歩が踏み出せていないのだ。
「うん? もしかして、まだシキミさんのことよく思ってない?」
隠したはずの感情に、察しよく勘付くオーリ。
ゲームのキャラクターを通しているのに、さすがは家族といったところか。
でも、第一印象が最悪だっただけで、別にシキミさんのことを嫌っているわけではない。
「ううん、そんなことないよ。嫌いなのは、チャラ髪ピアス男だけだから」
チャラチャラックへの嫌悪はあえて隠さずに、私は吐き捨てるように言った。
あいつはダメだ、隙あらばセクハラしてこようとするからな。
「あはは……そんな風に言ったら可愛そうだよ。チャックさん、いつも『リリアちゃんに会いたいなぁ、ちらっ、この辺りに身内がいたりしないかなぁ、ちらちらっ』とか言ってくるんだから」
「ああ、そんな感じの名前だったっけ? まあ、なんでもいいか」
ひどいな、とオーリは苦笑いを浮かべた。
そして、ややあって続けて、私にとって嬉しいことを言ってくれる。
「うーん、そうだなぁ……実は、そろそろうるさいと思ってたんだよね。だから、姉ちゃん、今度いっしょに来ない?」
おっとぉ? 私の弟はエスパーなのか?
もしかしたら、いっしょに遊びたいと思っていることに気づかれていたのかもしれない。
ただ、垂らされた糸にすぐ食いついてしまったら、姉としてのプライドに関わるだろう。
「ちょっと、“姉ちゃん”じゃなくて“リリア”でしょ?」
「ああ、そうだった。顔つきが現実と似てるからよくわからなくなるんだよね」
無理やり優位性を保とうとする、呼び間違いの指摘。
しかし、その指摘は、軽く頷くようにするだけでかわされてしまう。
それにしても、いまのオーリの発言はなんだか軟派な印象を受けるものだった。
あれだ、“お姉さん芸能人のほにゃららちゃんにそっくりだねぇ”みたいなやつだ。
「……あの赤髪ナンパ野郎が私の弟に悪影響を与えていないか、調査する必要がありそうね」
「いや、別に影響なんて……というか、頑なに正しい名前を呼ばないのはなんで?」
あいつの名前なんかを出したら、私の口が穢れてしまうからだ。
そして、地の文でもそうなのは、私の頭がスカスカにならないようにするためだ。
「あのピンポン球のことはどうでもいいの――今度いっしょに行ってもいいか、シキミさんとセイシンさんに聞いておいてもらえる?」
ピンポン球? と首を傾げつつも、オーリは頷いて了承を示してくれた。
「私もおハゲさんに会いたいですっ」
セイシンさんの名前に反応して、スラリアが元気よく言う。
大柄でスキンヘッドのセイシンさんは、主にスラリア限定で“おハゲさん”と呼ばれていた。
本当は人の名前はちゃんと呼んだ方がいいのだけれど、セイシンさんも「好きに呼んでくれてかまわぬ」って言っていたから特に改めたりしていない。
「いいよって言ってもらえたら、会いに行こうね」
はいっ、と良い子の返事をするスラリア。
うん、私もオーリといっしょに遊べるのはわくわくだ。
恥ずかしいから、絶対に顔には出さないけどね。
「じゃあ、そろそろ俺は行こうかな」
そう言って、立ち上がるオーリ。
座ったまま見上げると、その無駄に高い身長は天井にぶつかるのではないかと心配になるほどだ。
「うん、気をつけてね、いってらっしゃい」
「オーリっ、いってらっしゃい!」
軽く手を振る私と、跳びはねるようにオーリに抱きつくスラリアは。
現実の日常のように、無事に帰ることを願うのであった。
ぱんとひとつ手を叩きつつ、私は言う。
何事もメリハリが重要で、だらだらと続けることに意味などないだろう。
「オーリ、あなたはどうするの?」
ちょっとの望みをかけて、オーリの予定を聞いてみる。
お姉ちゃんとして、弟とゲームで遊んでみたい。
そんなちっぽけな願望を、私は少し前から抱いていたのだ。
しかし、この数週間一度たりともお誘いをかけることができていない。
「シキミさんたちと約束があるから、そっちに行くよ」
なぜなら、このようにオーリはひじょうにモテるようで、毎日私以外の誰それとの予定でいっぱいだからだ。
なんか、よく知らないけどすごく強いらしい。
数か月遅れて始めたのに、初期プレイヤーであるシキミさんたちといっしょに遊べるというのだから、それは事実なのだろう。
「ふぅん……じゃあ、シキミさんによろしく言っといて」
私の弟を取りやがって、変態サイコパス爽やかお兄さんめ。
そんな気持ちを隠しながら、表情だけは微笑ませた。
いや、こっちから誘えば、きっとオーリは予定を調整してくれると思うんだけどね。
なんとなく気恥ずかしくて、ほんの一歩が踏み出せていないのだ。
「うん? もしかして、まだシキミさんのことよく思ってない?」
隠したはずの感情に、察しよく勘付くオーリ。
ゲームのキャラクターを通しているのに、さすがは家族といったところか。
でも、第一印象が最悪だっただけで、別にシキミさんのことを嫌っているわけではない。
「ううん、そんなことないよ。嫌いなのは、チャラ髪ピアス男だけだから」
チャラチャラックへの嫌悪はあえて隠さずに、私は吐き捨てるように言った。
あいつはダメだ、隙あらばセクハラしてこようとするからな。
「あはは……そんな風に言ったら可愛そうだよ。チャックさん、いつも『リリアちゃんに会いたいなぁ、ちらっ、この辺りに身内がいたりしないかなぁ、ちらちらっ』とか言ってくるんだから」
「ああ、そんな感じの名前だったっけ? まあ、なんでもいいか」
ひどいな、とオーリは苦笑いを浮かべた。
そして、ややあって続けて、私にとって嬉しいことを言ってくれる。
「うーん、そうだなぁ……実は、そろそろうるさいと思ってたんだよね。だから、姉ちゃん、今度いっしょに来ない?」
おっとぉ? 私の弟はエスパーなのか?
もしかしたら、いっしょに遊びたいと思っていることに気づかれていたのかもしれない。
ただ、垂らされた糸にすぐ食いついてしまったら、姉としてのプライドに関わるだろう。
「ちょっと、“姉ちゃん”じゃなくて“リリア”でしょ?」
「ああ、そうだった。顔つきが現実と似てるからよくわからなくなるんだよね」
無理やり優位性を保とうとする、呼び間違いの指摘。
しかし、その指摘は、軽く頷くようにするだけでかわされてしまう。
それにしても、いまのオーリの発言はなんだか軟派な印象を受けるものだった。
あれだ、“お姉さん芸能人のほにゃららちゃんにそっくりだねぇ”みたいなやつだ。
「……あの赤髪ナンパ野郎が私の弟に悪影響を与えていないか、調査する必要がありそうね」
「いや、別に影響なんて……というか、頑なに正しい名前を呼ばないのはなんで?」
あいつの名前なんかを出したら、私の口が穢れてしまうからだ。
そして、地の文でもそうなのは、私の頭がスカスカにならないようにするためだ。
「あのピンポン球のことはどうでもいいの――今度いっしょに行ってもいいか、シキミさんとセイシンさんに聞いておいてもらえる?」
ピンポン球? と首を傾げつつも、オーリは頷いて了承を示してくれた。
「私もおハゲさんに会いたいですっ」
セイシンさんの名前に反応して、スラリアが元気よく言う。
大柄でスキンヘッドのセイシンさんは、主にスラリア限定で“おハゲさん”と呼ばれていた。
本当は人の名前はちゃんと呼んだ方がいいのだけれど、セイシンさんも「好きに呼んでくれてかまわぬ」って言っていたから特に改めたりしていない。
「いいよって言ってもらえたら、会いに行こうね」
はいっ、と良い子の返事をするスラリア。
うん、私もオーリといっしょに遊べるのはわくわくだ。
恥ずかしいから、絶対に顔には出さないけどね。
「じゃあ、そろそろ俺は行こうかな」
そう言って、立ち上がるオーリ。
座ったまま見上げると、その無駄に高い身長は天井にぶつかるのではないかと心配になるほどだ。
「うん、気をつけてね、いってらっしゃい」
「オーリっ、いってらっしゃい!」
軽く手を振る私と、跳びはねるようにオーリに抱きつくスラリアは。
現実の日常のように、無事に帰ることを願うのであった。
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