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その二 不動明王呪
六
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翌日、昼近くになって、空海と田村麻呂は、田主の家の前に着いた。築地塀で囲まれた大きな屋敷だ。東門が正門となっており、そこに安麻呂がいる。安麻呂だけでなく、その後ろに十人ほど男たちがいる。
「和尚様、田村麻呂様、ありがとうございます。本当に来て下さったのですね。このお礼は必ず致しますぞ」
安麻呂の顔は笑み崩れ、空海たちに近づいてきた。
「安麻呂殿、お待たせしましたな。こちらの方々は?」
「はい、昔、この屋敷におりました使用人や私の友人たちにございます。父と私を心配してきてくれたのです」
安麻呂がそう言うと、男たちは一斉に頭を下げた。
空海も軽く頭を下げる。
「和尚様、田村麻呂様よろしくお願いいたします。どうか物の怪からこの家を、父を取り戻してください。不仲だったとはいえ、私にとりましてはたった一人の父なのです。もう生きてはいないかもしれませぬが・・・。せめて、せめて亡骸だけでも・・・」
安麻呂の目に涙が浮かぶ。
「承知いたしました。私どもにどれ程のことができるかは分かりませぬが、妖物からの名ざしです。まずは行って参りましょう。安麻呂殿、どうすればお父上の部屋まで行けるのですか?」
安麻呂は、家のつくりについて細かく話し出した。
「では行くとするか」
「ああ」
話を聞き終わると、空海と田村麻呂は屋敷の中に進んでいった。
「よろしくお願いいたします!」
空海と田村麻呂の背後から、安麻呂の大きな声が聞こえてきた。
正門をそのままに進むと、この屋敷の入り口がある。この屋敷は「東」と「西」の二つの棟が北側と南側の二つの廊下で結ばれるという造りである。廊下の長さは、それぞれ10mほどであろうか。
田主の部屋に行くには、北側の廊下から西の棟に進むのだという。空海と田村麻呂は屋敷の入り口から入り、歩いている。これから北側の廊下を通り、西の棟に行くのである。
屋敷の中は昼間というのに暗い。単に陽の光が入らないというだけではない、異様な暗さである。
廊下にはホコリが積み重なり、二人の歩いた足跡がくっきりと白く残る。
「この屋敷には、しばらく人の手が入ってはおらんな。ホコリもすごいが、かなりカビ臭いぞ。クシャンッ、グシャッン」
田村麻呂が立て続けてくしゃみをした。
「そうだったな。お前は匂いに興奮するという性癖があったな。この屋敷、かなり前から人の生活している様子がない。解せぬ事だ」
「俺は、単に匂いに敏感なのだ。勘違いされるような言い方をするなっ」
空海と田村麻呂はそう言いながら、北の廊下を通り、西の棟に入っていった。
西の棟に足を踏み入れた、その時である。
「和尚様、ようこそおいで下さいました。この日が来ることを待ちわびておりました」
どこからか女の声がした。
ヒタ ヒタ ヒタ
ヒタ ヒタ ヒタ
足音も聞こえてきた。何かが近づいてくる。
「早速お出ましのようだな、空海。用心しろよ」
「ああ、女のようだがな」
ぼーっとした白い人影が近づいて来る。その影は段々とはっきりしてきた。
「何と!」
「驚いたな、これは」
田村麻呂と空海は思わず声をあげた。
子どもが四人、静かな足音を立てながら近づいてくるのである。
四人は、空海と田村麻呂の前に来ると、ちょこんと正座し頭を下げた。
先頭に座る少女が顔をあげると、残りの三人も一斉に顔をあげた。
髪を肩のあたりで切りそろえた「禿(かむろ)」という髪型を全員がしている。髪型が同じだけではない。全員が真っ白に化粧した顔に目じりと唇は真っ赤な紅で塗っている。朱色の着物を黒い帯でとめている。男女に見分けは全くつかない。
「あなたが私を呼んだ方ですね。私はあなた方とお会いするのは初めてだと思いますが。あなたは、どなたですか?私にどの様な用があるのです?」
「私は弥生(やよい)と申します。和尚様とは、初めてお会いいたします。ですが、和尚様のお噂はかねがね耳にしておりました。どうかわが父・田主をお助け下さい」
「弥生」はそう言うと、周りの子どもたちと共に深々と頭を下げたのである。
「和尚様、田村麻呂様、ありがとうございます。本当に来て下さったのですね。このお礼は必ず致しますぞ」
安麻呂の顔は笑み崩れ、空海たちに近づいてきた。
「安麻呂殿、お待たせしましたな。こちらの方々は?」
「はい、昔、この屋敷におりました使用人や私の友人たちにございます。父と私を心配してきてくれたのです」
安麻呂がそう言うと、男たちは一斉に頭を下げた。
空海も軽く頭を下げる。
「和尚様、田村麻呂様よろしくお願いいたします。どうか物の怪からこの家を、父を取り戻してください。不仲だったとはいえ、私にとりましてはたった一人の父なのです。もう生きてはいないかもしれませぬが・・・。せめて、せめて亡骸だけでも・・・」
安麻呂の目に涙が浮かぶ。
「承知いたしました。私どもにどれ程のことができるかは分かりませぬが、妖物からの名ざしです。まずは行って参りましょう。安麻呂殿、どうすればお父上の部屋まで行けるのですか?」
安麻呂は、家のつくりについて細かく話し出した。
「では行くとするか」
「ああ」
話を聞き終わると、空海と田村麻呂は屋敷の中に進んでいった。
「よろしくお願いいたします!」
空海と田村麻呂の背後から、安麻呂の大きな声が聞こえてきた。
正門をそのままに進むと、この屋敷の入り口がある。この屋敷は「東」と「西」の二つの棟が北側と南側の二つの廊下で結ばれるという造りである。廊下の長さは、それぞれ10mほどであろうか。
田主の部屋に行くには、北側の廊下から西の棟に進むのだという。空海と田村麻呂は屋敷の入り口から入り、歩いている。これから北側の廊下を通り、西の棟に行くのである。
屋敷の中は昼間というのに暗い。単に陽の光が入らないというだけではない、異様な暗さである。
廊下にはホコリが積み重なり、二人の歩いた足跡がくっきりと白く残る。
「この屋敷には、しばらく人の手が入ってはおらんな。ホコリもすごいが、かなりカビ臭いぞ。クシャンッ、グシャッン」
田村麻呂が立て続けてくしゃみをした。
「そうだったな。お前は匂いに興奮するという性癖があったな。この屋敷、かなり前から人の生活している様子がない。解せぬ事だ」
「俺は、単に匂いに敏感なのだ。勘違いされるような言い方をするなっ」
空海と田村麻呂はそう言いながら、北の廊下を通り、西の棟に入っていった。
西の棟に足を踏み入れた、その時である。
「和尚様、ようこそおいで下さいました。この日が来ることを待ちわびておりました」
どこからか女の声がした。
ヒタ ヒタ ヒタ
ヒタ ヒタ ヒタ
足音も聞こえてきた。何かが近づいてくる。
「早速お出ましのようだな、空海。用心しろよ」
「ああ、女のようだがな」
ぼーっとした白い人影が近づいて来る。その影は段々とはっきりしてきた。
「何と!」
「驚いたな、これは」
田村麻呂と空海は思わず声をあげた。
子どもが四人、静かな足音を立てながら近づいてくるのである。
四人は、空海と田村麻呂の前に来ると、ちょこんと正座し頭を下げた。
先頭に座る少女が顔をあげると、残りの三人も一斉に顔をあげた。
髪を肩のあたりで切りそろえた「禿(かむろ)」という髪型を全員がしている。髪型が同じだけではない。全員が真っ白に化粧した顔に目じりと唇は真っ赤な紅で塗っている。朱色の着物を黒い帯でとめている。男女に見分けは全くつかない。
「あなたが私を呼んだ方ですね。私はあなた方とお会いするのは初めてだと思いますが。あなたは、どなたですか?私にどの様な用があるのです?」
「私は弥生(やよい)と申します。和尚様とは、初めてお会いいたします。ですが、和尚様のお噂はかねがね耳にしておりました。どうかわが父・田主をお助け下さい」
「弥生」はそう言うと、周りの子どもたちと共に深々と頭を下げたのである。
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