48 / 102
その三 ファースト・コンタクト
十七
しおりを挟む
「あなたならば、全てに合点がいく。毒を盛るのもたやすい事。夢見使いを使い、夫人様を夜中に起こし、あなたが作り出した化け物を見せ驚かせる。その後に化け物を消滅させ、夫人様のところに駆けつけ、夫人様には『悪い夢です』と言う。夫人様に夢だと信じ込ませる。そういうことだったのですね?道理で、あなたは私が夫人様の寝所に入る事をかたくなに拒んだわけです」
空海は知草を見つめながら、静かにそういった。
「何とも、手間暇をかけたものだな。全ては露見したのだ。悪あがきは止めて、俺と一緒に来てもらおうか」
田村麻呂の声も静かだ。それだけに重みがある。
「ふん、あたしも、もっと簡単にやりたかったさ。けどね、注文が『荒っぽい事はひかえろ』だったのさ。いつからあたしが術師だと気がついていたんだい?」
空海と田村麻呂に囲まれながら、知草は全く動じない。
「夫人様の寝所で化け物が空海殿に消された。そこから、強くあんたの匂いがした。たった今まで、あんたがいたかと思うほどにな」
「?」
「その話を田村麻呂殿から聞かされた時、あなたが術師だと分かりました。夢見使いを捕らえる時も、常のあなたらしくなく、動きが鈍かった。夢見使いが捕まったら困りますものね。男の中にはこの田村麻呂殿のように、女性(にょしょう)の匂いに敏感な性癖を持つ者がいるのです。気をつけられよ」
そう言いながら空海は知草に近づいていく。そのすぐ後ろから田村麻呂が続く。
「気持ち悪い・・・。空海、田村麻呂、あたしがこの紙になんて書いたか、聞いたよね。こう書いてあるのさ。『滅嘉智子 急急如律令』!」
それは陰陽道の呪。
それを知草が大声で唱えた。
「その蔀(しとみ、雨戸のこと)の向こうが嘉智子の寝所だったね。空海、田村麻呂、本当のあたしのやり方を見せてやるよ。『動!』」
知草の視線が空海と田村麻呂の後方の屋敷に注がれる。そこは嘉智子夫人の寝所である。
急に風が吹いてきた。
徐々に強くなっていく。
知草の美しい口が開いた。赤いなまめかしい口の中に蠢くものがある。口から黒く禍々しいものが這い出して来る。口から黒く太い蛇が這い出して来るようである。
知草の口から出た「黒い蛇」がもぞもぞと動く。そして徐々に「型」になっていく。太い両足、岩のような胴体。女性の胴回りはありそうな太い腕、太い牙を持つ口、真っ赤に燃え盛る二つの目、頭から二本の角が生えている。田村麻呂の二倍はありそうな黒鬼となった。
「この屋敷に入り、五年余り。毎日毎日、呪い続けたよ。あたしの血肉を糧に、丹精込めて作り上げた式神さ。この前のやつとはわけが違うよ」
知草が微笑む。が、あの美しく妖艶な知草ではない。体が二回りほど縮んだ。背中が曲がる。つややかな黒髪は硬く真っ白になっている。顔中に刻まれた深いしわ。老婆になっている。
「お前が・・・」
あの老婆である。
夢見使いを操っていた老婆。
ほほ笑む。
知草、魔女であった。
空海は知草を見つめながら、静かにそういった。
「何とも、手間暇をかけたものだな。全ては露見したのだ。悪あがきは止めて、俺と一緒に来てもらおうか」
田村麻呂の声も静かだ。それだけに重みがある。
「ふん、あたしも、もっと簡単にやりたかったさ。けどね、注文が『荒っぽい事はひかえろ』だったのさ。いつからあたしが術師だと気がついていたんだい?」
空海と田村麻呂に囲まれながら、知草は全く動じない。
「夫人様の寝所で化け物が空海殿に消された。そこから、強くあんたの匂いがした。たった今まで、あんたがいたかと思うほどにな」
「?」
「その話を田村麻呂殿から聞かされた時、あなたが術師だと分かりました。夢見使いを捕らえる時も、常のあなたらしくなく、動きが鈍かった。夢見使いが捕まったら困りますものね。男の中にはこの田村麻呂殿のように、女性(にょしょう)の匂いに敏感な性癖を持つ者がいるのです。気をつけられよ」
そう言いながら空海は知草に近づいていく。そのすぐ後ろから田村麻呂が続く。
「気持ち悪い・・・。空海、田村麻呂、あたしがこの紙になんて書いたか、聞いたよね。こう書いてあるのさ。『滅嘉智子 急急如律令』!」
それは陰陽道の呪。
それを知草が大声で唱えた。
「その蔀(しとみ、雨戸のこと)の向こうが嘉智子の寝所だったね。空海、田村麻呂、本当のあたしのやり方を見せてやるよ。『動!』」
知草の視線が空海と田村麻呂の後方の屋敷に注がれる。そこは嘉智子夫人の寝所である。
急に風が吹いてきた。
徐々に強くなっていく。
知草の美しい口が開いた。赤いなまめかしい口の中に蠢くものがある。口から黒く禍々しいものが這い出して来る。口から黒く太い蛇が這い出して来るようである。
知草の口から出た「黒い蛇」がもぞもぞと動く。そして徐々に「型」になっていく。太い両足、岩のような胴体。女性の胴回りはありそうな太い腕、太い牙を持つ口、真っ赤に燃え盛る二つの目、頭から二本の角が生えている。田村麻呂の二倍はありそうな黒鬼となった。
「この屋敷に入り、五年余り。毎日毎日、呪い続けたよ。あたしの血肉を糧に、丹精込めて作り上げた式神さ。この前のやつとはわけが違うよ」
知草が微笑む。が、あの美しく妖艶な知草ではない。体が二回りほど縮んだ。背中が曲がる。つややかな黒髪は硬く真っ白になっている。顔中に刻まれた深いしわ。老婆になっている。
「お前が・・・」
あの老婆である。
夢見使いを操っていた老婆。
ほほ笑む。
知草、魔女であった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
おめでとう。社会貢献指数が上がりました。
水井伸輔(Mizui Shinsuke)
SF
「正しく」生きれば、どこまでも優しいこの国。
17歳のシュウは、社会貢献指数を高め、平穏な未来を手に入れようとしていた。しかし、システムに疑問を抱く父のランクは最低の「D」。
国家機能維持条項が発令された夜、シュウの端末に現れたのは、父の全権利を支配するための「同意」ボタンだった。
支配か、追放か。指先ひとつで決まる、親子の、そして人間の尊厳の行方。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる